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第十六話 『愛』 -love-
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「ん〜……後はそんな、取り立てて話すコトも無いかな?
先生と一緒にいたのは三年間くらいだけど……。その間に言葉と、刃物の使い方と……。
あと、頭の中の再調整? 脳から取り払われちゃった感情を司る部分の神経系を修復してもらったの。
もっとも、もう脳が成長してるから、どこまで効果があったかは判んないんだけどね☆」
そう言って――笑顔を見せるセレナ。
今の彼女の性格や喋り方、そして――戦い方。
それは彼女の言うとおり、あの『先生』と名乗った男が彼女に享受したことなのだろう。
先刻見た、過去の情景――あの男の戦い方に、彼女特有の戦闘スタイルや型の一部を見出すことが出来たからだ。
セレナの、どんな危機に直面しても常に楽天的であるスタンスも、あの男の雰囲気によく似通っていた。
「で……その『先生』は、今はどうしているんだ?」
「さあ……? それが全っ然判らなかったりするんだよね〜☆
ま、あの先生のコトだし、殺しても死なないと思うケド☆」
『先生』の話をする、セレナの瞳は――表情は、とても活き活きとしていて。
今まで共にいた、俺でさえ、一度も見たことの無いほどに嬉しそうで。
……その笑顔を前に、何故か俺は少しだけ――心に刺すような、痛みを感じた。
「ん〜……それって、妬いてくれてるの〜?
んっふふふ〜……ユーイチも案外、あたしにこんなメロメロな一面が――」
俺は迷うことなく硬い拳をセレナに叩き込む。
「ううっ……て、照れなくてもいいのに〜……ぶーぶー」
「……黙れ」
ひりひりと痛む手を振りつつ――俺は明後日の方を向く。
痛みに涙を浮かべつつも、口元で笑っているセレナに喰らわせる次の攻撃を何にするか、考えあぐね――
ふと、気がついた。
「……セレナ」
「んにゃ?」
「……今まで話してくれた話で、お前の過去については大体の部分を理解した。
だが――まだ一つ、聞いていないことがある」
「え? ……なんか、話忘れたコト……あった?」
きょとんと視線を返すセレナに――俺は真っ直ぐに言葉を返す。
今までの話を聞いていて――今のセレナの姿に繋がらない、明らかにおかしいと感じたその一点を。
「……お前は何でラウロードに――軍に入ったんだ?」
ファミリアとして区分しても、セレナの戦闘能力が何故ここまで突出していたかは判った。
FNN−110だったセレナが、どうしてこんなに感情豊かなのかは判った。
だが。
……そこだけが、判らない。
そこだけが――今までの話の中、必然性が見つからない。
セレナが軍に入る、その理由が――一つも、見出せない――
「……お前は脱走に成功したんだろう?
いくらなんでも、脱走に成功しきったファミリアをいつまでも探し続けるほど工場も暇じゃない。
そんなことをするくらいなら、代わりにその『脱走』の事実の隠蔽――工場内のセレナのデータを抹消し、
『最初から脱走者など存在しなかった』と改竄はするだろうがな。
……なら――お前は他のファミリアと違って、その先に沢山の選択肢を選択出来たはずだ。
軍に入らなくても――命のやりとりをすることもない、安全で平和な道の選択を。
……いや……あの『先生』なら、それこそ――『別の世界』にでも行って、
そこから全てをやり直すことだって……不可能では、無かったはずだ」
別の、世界――
そんなおおよそ現実味を欠いた選択肢も、だが、あの男なら――造作も無いこと。
それを、理屈よりも根源的な部分で俺は感じていた。
全ての常識と概念を超越したところに泰然と佇む、あの男――『最強』ならば。
「……ファミリアが、道具と思われない―― 一人の人として見てくれる、そんな世界もあったはずだ。
……少なくとも、ファミリアの偏見が最も強い場所である軍隊に来るより、他の道を歩む方がずっとましだろう。
そうだと言うのに……何故……お前はあえて、軍隊に入ろうと……思ったんだ?」
俺は、セレナを見る。
俺の言葉を聴き終えて――セレナがとった、反応は。
……口元に浮かべる、穏やかな微笑――
「……先生と同じコト言うんだね、ユーイチも」
軽く、目を閉じ――指先を組むようにして、セレナが瞼の裏で想いを馳せるのは何なのだろう。
「先生も、同じコトを言ってくれた。……あたしが軍隊に入るって言った時……さ。
これだけ沢山ある選択肢の中で、何でお前は軍隊を選んだのか――って。
……でもさ」
彼女の瞳の中、真剣な表情で彼女を伺う俺が見えた。
「あたしにも……よく判んないんだよね☆」
「……判らない?」
セレナは頷く。
「うん。……よくは判らないんだけど……最初っから、他の選択肢を選ぶ気も無かったみたい。
いくら考えても、他の仕事場で働く自分の姿が見えなかったっていうか……さ☆」
その言葉に――俺ははっと気がついた。
……セレナの、その行動。
それは――
「……うん。多分その感情ってさ……あたしが戦闘用ファミリアなんだからだと思う。
工場の職員に、いろいろと弄られてるから……どの要素が、あたしに影響与えたかは知んないけど」
ファミリアに関して専門外の俺も、詳しいことは知らないが――噂には聞いたことがある。
曰く、戦闘用ファミリアは深層的心理において、戦場にいなければ心身の安定が保てない。
曰く、戦闘用ファミリアは遺伝子的レベルの嗜好において、戦場の気配を欲する――
だが、セレナは俺の表情に――安心させるように笑って、手を振る。
「あ、大丈夫大丈夫☆ ……だってあたし、後悔してないし。自分で決めたことだから……ね?」
「……しかし――」
口を開こうとした、俺の唇に――セレナは人差し指を当てると、静かに首を振る。
「……確かにさ。この選択を強いられたのは……あたしの意思とは、無関係かもしれない。
でも……これっていくら喚いてもどうしようもないことだし、それを否定したって……何も変わらない。でしょ?
きっと普通の生活を望んでも、あたし……いつかは耐えられなくなって、きっと軍に入ってたと思うんだ」
紫紺の輝き――その奥にあるのは後悔ではない。無理でもない。
ただ、状況を状況として淡々と捉える冷静さと――誰にも屈しない、強い輝き――
「だからあたしは……この、自分ではどうしようもない確定事項に自分から飛び込んだの。
いやいやさせられることだったら、それは服従だから。
あたしは服従されたくなかったから、脱走したのに――それじゃ、本末転倒だし。
だったらさ……自分から潔く飛び込んで、その中で何かを探した方が……ずいぶん進歩的じゃない?
そっちのほうに、あたしは活路を見出せると思った……だから、そうしたの」
「……そうか」
そこまで判っているのなら――俺はもう、何も言えない。
きっと俺でも、そういう選択肢を選んでいただろうから。
「……先生もさ。そこまで言ったら……もう、あたしを止めようとはしなかった。
その代わり……これだけは絶対、忘れるなって言う言葉を……最後に二つ、くれたの」
「……忘れてはいけない言葉……?」
こくんと頷き――セレナはぴっと指を立てた。
「……一つ目はね。軍に……変な幻想を抱かないこと。……どれだけ大義名分を掲げたって、やるのは人殺しだから。
戦場には、奇跡もドラマも何も無い……ただの一発で人が死ぬ。ただ一発で、人を殺す。
そこにいる人々の人生の重み、存在意義、人生――それら全てを不当に奪っていくのが戦争だし、軍隊だから。
……自分が、殺してきたように――自分もまた、一瞬で命を不当に奪われることは絶対に覚えておくように……って」
……その言葉は真理を射抜いている。
俺達が、軍隊に入ってやっているのは人を殺して生きることだ。
それ自体は――そうしなければ生きていけない場所で生きてきた俺達に、何の感慨も起こさせないが。
それでも、その事だけは――自覚している。
少なくとも俺は、自覚して出撃してきた。
……『先生』も、軍隊に所属していたことがあるのだろうか。
この感覚は――実際に戦場に立たなければ。
そして、幾重の戦場を切り抜けて――生き抜いてきた人間にしか、口に出来ない言葉だ。
口にしても、重みを感じさせない言葉だ。
「しかし、もう一つの言葉……それは何だったんだ?」
その言葉を、口に出来た『先生』だからこそ――俺は興味が湧いて、そう尋ねていた。
セレナは一端、瞑目し――吟味するようにしてから、ゆっくりと口を開く。
「……心を、渇かすな……って」
「……心を……?」
「……あたしも、聞いたときには意味はよく判らなかったし……。多分先生も、それは判ってたんだと思う。
だから……もしこの言葉が理解できないなら、とりあえず……自分がとても大事に想う事のできる何かを見つけろって。
それは趣味でも、人でも何でもいいから……自分が胸を張って大事だって言える何かを、軍の中で見つけろって。
そうすれば、きっと生きていける。オレが与えた力とそれさえあれば……誰もお前を死なせることは出来ない、って」
セレナは何気なく、空を見上げる。
壊滅し、灯りの殆ど無いこの街だからだろうか――夜空はまるで、落ちてくるように思えるほど澄んでいた。
「その言葉を残して、先生はあたしの前から消えたの。
……で、あたしはそのまま、先生の作ってくれた偽造の身分証明書を片手に、王国軍の門を叩いたってワケ☆」
そして――セレナの過去は、今へと繋がっていく。
いつ命を落としてもおかしくない、この軍隊という世界へ――足を踏み入れたのだ。
「……でもさ。今だから言えるけど……ホントはちょっと、ホントにちょびっとだけだけどね……後悔、してたんだ」
セレナは、頬をぽりぽりと指でかきながら苦笑する。
「先生の作ってくれた身分証明書は本物よりも本物だったから、怪しいと思っても表立って指は差されない。
軍は出自なんて関係なく、実力だけがモノを言う世界……それは確かに、そうだったけど……。
でもやっぱり、この髪と瞳で……いろいろなコト言われたり、蔑まれたり……そんなのばっかりだったし」
その指が、垂れかかった前髪を摘む。
色鮮やかな、紫紺の髪は――だが、どんな染料を使っても決して染まらないという特性を持っている。
瞳の色はカラーコンタクトでも使えば何とかなるだろうが、こればかりは――どうしようも、無い。
「……女の子の尊厳を傷つけるようなコト、してこようっていうのも沢山いてて……。
そういうのは、きっちり全員病院送りにしたけど……でも、あんまりにもそればっかりだと……さ。
明るく振舞ってれば、あんましそういうのに巻き込まれなくなる……って知ってからは、それも減ったけど。
『心が渇いていく』って言う感覚も……この時よく判っちゃったかな。
嬉しくも無いのに笑って、言葉が出ないときに馬鹿なこと言って、笑われて――哂われる。
……自分の心と体が、ばらばらになってく……その摩擦で、だんだんと心がからからになってって……。
あたしはここに、活路があると思ってたけど……それはやっぱり、気のせいだったのかなって。
先生の言ったとおり、どこか別の世界に行ってやり直したほうが、あたしの活路はあったんじゃないかって……」
寂しげに目を伏せ、それをぽつりと呟くセレナ。
その表情は、普段のセレナからはとても想像できないほど、弱々しくて。
俺は、かけてやれる言葉を見つけ出せなくて――ただ、見てるだけしか出来ない――
「……けど、ね。今は後悔……してないんだ」
……何故?
俺が、そう思った時。
セレナは、ゆっくりと顔を上げて――
「だって……ユーイチと出会うことが出来たから」
そこに浮かんでいた、とても穏やかな微笑に――俺は見入ってしまう。
「……ユーイチは、出会った最初から……ファミリアだからってあたしを蔑むような考えは持ってなかった。
ぶっきらぼうで、愛想が無くて、なかなか心を許してくれなかったけど……でも、紫の髪と瞳を蔑みはしなかった。
あたし……最初に会ったときから、何となく思ってたんだ。……この人、とっても優しい人なんだな……って」
「……俺が……優しい?」
「うん。……それは目に見えてすぐ、判るって感じじゃないけど……。
でも気がつくとさ。結構……癒されてるんだよね。本当に目を凝らしてないと、その瞬間には気付かないけど。
それが気になって……ずっと、ユーイチばっかり見てて……一緒にいると、楽しくなって。
……その時、思ったの。私がこの世界に生まれた理由……こんな心が擦り減ってく世界に、あたしが生まれた理由」
セレナは、俺の瞳をじっと見て。
「それって……きっと、ユーイチに出会うためだったんだね」
そしてその顔に、笑顔が咲く。
「……昨日さ、ユーイチが言ったじゃない? この時代にあたし達が生まれてたら……っていう話で。
そういう考えは、まるで今まで歩いてきた自分を否定しているだけみたいで好きじゃない――って。
あの時は、何であんなこと言うのかなって思ったけど……今ならなんとなく、その理由が判るかも」
……あまりに多くのことがありすぎて、遥か昔の事のような――あの街での、昨日のやりとり。
俺の言葉が足りず、あらぬ誤解を産むこととなった――俺の、言葉。
その続きを告げようとして――今の今まで、告げられなかった言葉があった。
「ユーイチがああ言った理由ってさ……。この時代でなかったら、絶対にあたしと出会えなかったから……でしょ?」
俺は、セレナの言葉に――たっぷりと時間を要してだが、小さく頷いた。
そうだ。
もし、俺達が別の世界に生まれていれば――もっと簡単に、この時代に生まれていたなら。
……きっともう少し、まともな生活と選択肢が俺達の前にはあっただろう。
俺は学校というところに通って、級友と流行りの服装やスポーツの話に興じて。
セレナもまた、同じように――暖かい両親の手に毎日、送り出されていたのかもしれない。
それは――幸せなのだろう。
……だが――その人生で、その世界で――俺達はきっと出会うことは無い。
接点の無い俺達は、きっと互いの存在すら知らぬまま生きて――そして穏やかに死ねたのだろう。
それもまた――幸せなのかもしれない。
しかし。
……俺は、この時代に生まれなかったことを後悔したことは無い。
あの、未来の無い滅びの中で生まれたことを――悔やみはしない。
それは、セレナと出会えたから。
幾多、幾千、幾億の可能性の中から――彼女との出会いに、俺はたどり着くことが出来たから――
「……良かった。実はそれって……あたしもなの」
頬を、ほんの少し――セレナは、赤らめて。
「好きだよ。……ユーイチのことが。……世界の誰よりも、あたしはユーイチのことが好き」
その時に見せた、笑顔は。
……今まで見た中で、最高の笑顔。
そして、その笑顔のままで――セレナは、告げた。
「だから……あたし、ユーイチのためだったら死んでも別に怖くないんだ」
その笑顔に、翳りも曇りも、何も無い。
それは恐らく、セレナの本心だから――
「あたしが生まれた、理由……きっと、こういうことなんだなぁって思うの。
工場で作られて……いくらでも、代わりのいるあたしなのに……ユーイチはあたしを、とっても大事に想ってくれてる。
それであたしは、満たされたから。その気持ちに、応えたいから……。
だから、ユーイチは絶対……戦場で、殺させない。あたしの命を、盾にして――ユーイチを守りたいって。そう思う。
その力が――あたしにはあるから。ユーイチの想いを、不当に奪われたくないから……あたし、ユーイチは守る。
それが出来るんだったら、あたしの命……別に惜しくないもの」
笑顔を、咲かせて。
……そんな事を言う、セレナ。
それを聞く、俺は。
……俺は――
「だから☆ ……あはは、安心していいよ? ユーイチは、あたしが全力で――」
俺は。
……俺は気付けば、その腕の中にセレナを抱き締めていた。
「ユーイチ……?」
突然の事に、目を見開いたセレナに――
「……それ以上、言うな」
俺は、それだけを告げて――少し力を入れてセレナを抱き寄せ、想う。
何故、俺達はこんな風にしか出来ないのだろう。
セレナが一体、他の誰かと――この時代の少女達と、一体何処が違うというのだろう。
この、力を入れれば脆く崩れてしまいそうに細い肩の。
か細く、吐息を漏らす唇の。
涙の跡に、うっすら腫れた頬の。
少し、揺れている瞳の。
……一体何処が、この時代の少女達と違うのだろうか。
この世に神とやらが、もしいるのなら。
今――すぐに、教えて欲しい。
この時代の子供たちが、親の暖かい手に包まれていた頃。
セレナは培養層の中、ただナンバーを与えられ、栄養を摂らされていた。
この時代の子供たちが流行の服に身を包み、雑談に興じていた頃――
セレナは砲火飛び交う戦場を一人、血に汚れたナイフを片手に駆けていた。
何故、こんなにも変わらないセレナが――こうも、違う境遇を味わねばならないのだろう?
何か罪を犯したと言うのか。
一体、セレナが何の罪を犯したというんだ?
未来を変えようと、戦場に立ったことか?
人を、殺したことか?
――『人』になろうと――したことか?
それすら、セレナには許されないのか。
セレナの前から、それさえも奪い去ろうと――言うのだろうか――
セレナが笑顔で、こんな事を告げる。
それが世界の、在るべき姿というのならば。
……この世界にはただ、絶望しかない。
……なら。
「……セレナ。俺も、お前も……簡単に殺されるほど、弱くない」
悲嘆に暮れても――何も変わりはしない。
誰も助けてくれないのだから。
「だが、それでも……絶対に殺されないわけじゃない。背後から、不意打ちを喰らえば……危ないかもしれない。
目に見えるところからのものは全て捌けても――見えないところからの攻撃に、斃れるかもしれない」
きっと、神すらも、見捨ててしまったのだから――
「だから、セレナ……お前はその背中を、俺に預けろ」
神すら、見放してしまうのなら――
「俺がお前を……守ってやる」
その言葉に、軽く目を見開くセレナ。
……そんな、セレナを。
守ってやりたいと思う。
そう思った。
強く――思った。
「……俺とお前で、背中を合わせていればいい。そうすれば、俺達に死角は無い。だから――二人とも死なない。
ずっと背中を合わせて……俺と生きろ。ずっと……ずっと。一生……俺から離れるな」
「…………うん……」
小さく、とても小さく――そう頷いたセレナを抱く力を緩める。
彼女の紫の髪が、俺の胸元から離れて――俺の顔の前で、止まる。
目の前にある、潤んだその瞳――俺ははっきりと、告げた。
言葉が足りなくて誤解されないよう、一番ストレートな言葉で。
「愛している……お前を一生、失いたくない」
瞳を閉じたセレナの瞳から、つうっと零れた珠の涙。
それが月の光に、澄んだ宝石のように輝いた。
そして俺は、そんなセレナにゆっくりと顔を近づけて――瞳を、閉じた。
終わらない夜。
二人だけの、夜。
静寂と、二人の吐息だけが全ての――夜。
そんな、夜に。
俺の口に残っていた、人の味が消えた。
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