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第十三話 『隷』 -familiar-
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「……この髪と、瞳……判ってるとは思うけど……。あたしは月で、生まれたの――」
月――地球唯一の衛星にして、最も身近に存在する星。
それは距離的にも――精神的にもまた、そうだろう。
はるか昔から、月を題材にした文化や歴史、学問はそれこそ星の数ほど存在する。
人類の種としての成長を育んだのが地球なら、人類の人としての成長を促したのが月とも言える。
月――この星は人類にとって――地球にとって特別な価値を持つ星だった。
……この時代――3002年には、この星は観測衛星を束ねるホストの役割をしているらしい。
だがそれもまた、俺達の時代にはホワイトホールから迫ったゴミの洪水によってことごとく地表を砕かれ――壊滅した。
この辺りは、地球や火星とそう、変わらない。
……ただしこの星が、前の二つと違うのは――
――月は貴族達の奴隷を製造している『牧場』となっている。
『knt-11373 人類の遺伝子の操作による、環境変化への対応型『新人類』の製造計画』。
人間というのは、その全身のポテンシャルの10%も使いこなせていない種族である。
例えば筋力一つにとっても、本来備わっている筋肉を完全に使えば、一般的な成人男性なら、
重さ500kgのものを片手で軽々と頭上に持ちあげることが出来るほどの力を持っている。
それが出来ないのは――脳内に存在する器官がいわゆるリミッターとなってそれを抑制しているからだ。
他にも脳細胞――これを全体の10%でも使用できる人間を、人々は一般的に『天才的頭脳』と呼ぶ。
非常に高いポテンシャルを備えながら、その殆どを利用できない存在――それが人類。
そしてこの計画は、そんな人類の可能性を引き出すために――
その力を制御している脳のリミッターや遺伝子情報の一部を改定することで、本来持っている可能性を引き出す。
そしてこの時代に生きるべき新たな人類の進化を、人の手によって促す――そういう計画だった。
貴族達はこれに皆、賛同し――その研究は、月で行なわれて完成を見た。
それがセレナ達のような――紫色の髪と瞳をした人種だ。
100%とまではいかなかったものの――肉体的な強さは平常の人間とは比べ物にならない。
ナノマシンの影響で、髪と瞳は何があっても必ず紫色となってしまうという特徴があるものの、
それは明らかに『新しい人類』となって、新しい未来を切り開くための新たな同胞となるはずだった。
だが、現実は違う。
――俺達の時代、文明の完全に崩壊した地球とは異なり、火星は専制君主国家としての体制を整えていた。
貴族や王族といった、一部の特権階級が甘い汁を啜り、一般の民は爪に火を灯すようにして生きる社会。
だが一般の民にはその体制を覆す力は与えられず、力を持つ特権階級は当然それを変える気などない。
むしろ、自分達だけが恩恵にあずかれる今の社会体制を保守しようと躍起になっているのだった。
……その心理は――いちいち考えずとも、今までの専制君主国家の歴史を紐解けばすぐに判ることだ。
そんな彼らの大好きな、この社会体制が何によって保たれているのか――?
それはこの、崩壊しつつある未来であるということだろう。
一般階級にある人間たちにとって見れば――ゴミが降り続き、いつ棲家すらなくなるか判らない絶望的な状況。
そんな中において、今の社会体制を破壊すれば――指導者なくして、どうやって明日から生きていけばいい?
いくら横暴でも、貴族達の社会の歯車となっていれば――生きてさえは、いられるのだ。
明日、自分が死んでしまうかもしれない危うさを秘めた革命。
少なくとも明日、生きてさえはいることの出来る現状。
その、究極の二択を迫られて――果たして普通の人間が、前者を選択できるだろうか?
……その心理を利用して――貴族達は、自分達だけが特権にいられるという腐った社会体制を維持しているのだ。
つまり――豊かな明日のある未来が誕生すれば、この社会体制は簡単に崩れ去ってしまう。
選択肢が増えれば――それだけ、冷静に状況を判断させる心理的余裕を市民に与えてしまう。
それではいけないのだ。
だから貴族達は、専制体制の整った時から四百年――復興の手をあえて行なってはこなかった。
本当ならば、スペースコロニーを製作するなり、外宇宙への航行用船舶を開発するなりの技術力はあったのだ。
だがそれを――自分達の『今』が惜しいために、目をそむけて『破滅寸前』をあえて演出してきたのだ。
自分達と、そして支配している市民達が皮一枚、ぎりぎり生きてこれる――そんな、さじ加減で。
皮肉にも、世界を殆ど壊滅状態においやったこのゴミの降下でさえも。
それを喜び、歓迎する人間もいた――まさに、ゴキブリのようなしぶとさだろう。
別にこの3002年の人間だけが、傲慢なわけではない。
どの時代にも――それに適応して、寄生する人間は――どこにでもいるのだ。
ブラックホールで、太陽系が壊滅するということさえ、無かったなら。
どれだけ酷いゴミの災害だろうと――それなりに、腐敗するほどには安定した未来が続いていたのかもしれない。
――そんな彼らが。
新時代に適応した、新たな人類の創生――
この崩壊しかけた未来でも、健常に生きていける権利を人に与える計画。
そんな危うい計画を、額面どおりに実行すると思うだろうか?
――否。
だから貴族達は、計画プランknt-11373を進めていく傍らで、社会体制に新たな一手を加えた。
そしてその上で――やがて計画プランknt-11373は完成を見る。
今から数えて、100年ほど前になるだろうか。
従来の人間を上回る身体能力。
紫色の、髪と瞳。
しかし――彼らは決して『新人類』として求められることは無かった。
この世に生を受けた、彼らに与えられた――生命種としての、名前。
その名は――『道具』だった。
そう――手を加えたのは、たった一部分。
月で生まれた新人類――いや『ファミリア』たちは人間ではない。
だからこの世でもっとも身分の低い存在――『道具』であると、法律で定める。
それだけだった。本当に――それだけで、今の彼らの処遇は全て決められていったのだ。
他ならぬ、今まで蔑まれ、虐げられてきた――その他大勢の、一般市民たちによって。
彼ら『ファミリア』は月にある工場で製造される。
製造――そう。彼らは母胎を使った出産ではなく、人工授精による手段で生を受けるのだ。
これは母胎の状態で生殖細胞にナノマシンを投与すれば、逆に母胎の方に危険性があるために仕方ないことなのだが。
出産方法としての手段としては、すでに技術は確立しているために失敗は極めて少ない。
クローニングの最有力手段であるES細胞からの個体増殖ではなく、あくまで出産にこだわる理由は一つ。
「固体としてのバリエーションに欠ければ、商品としての価値が薄れる」。
クローニングではまったく同じといかなくとも、似通った造詣になることが多い。
だから出産を利用することで、外見的な多数のバリエーションを作り、顧客のニーズに合わせたのだ。
人としての誕生を尊ぼうという意志では決して無い。
それで構わないのだ。
『ファミリア』は人間ではなく――道具なのだから。
誕生した『ファミリア』はまず個体No.を入力され、そして同時に人間に逆らわないようにするための処理を施される。
いくら社会通念が彼らを『道具』として扱おうとも、彼らの身体能力は人間を凌駕するのだ。
そんな彼らなら――いつか自分達の不当な扱いに疑問を抱き、反旗を翻す可能性がある。
ならば―― 一体どうやって、その反逆の可能性を押さえ込んでいるのだろうか?
簡単な話である。
生まれたと同時に投与される、あるナノマシン――それは脳に達するなり、自分の仕事を開始する。
脳の内部から、感情を司る部分の神経の一部を除去してしまうのである。
これにより、『ファミリア』は人にとって、非常に都合のいい性格に強制的に改定される。
決して背かず、逆らわず――とても純朴で素直な性格に。
理想的な――道具としての人格に。
人が、人のその人なりすらも力ずくで変えてしまう――普通ならば人権擁護団体などから猛反発があるだろう。
しかし、誰一人としてこのことに異論を挟んだ人物はいない。
それで構わないのだ。
彼らは道具なのだから。
そして彼らは、工場内の教育施設――強制収用所も同然の設備のそこで7年間訓練を受け、市場に出される。
『ファミリア』を扱う市場は多数存在し――それこそ文字通り、貴族達の『奴隷』として買い取られるものもある。
しかし、それは恐らく――『ファミリア』としての購入先の中ではもっとも幸運な方であろう。
身体能力の高い『ファミリア』の顧客層はやはり――肉体労働を主とする場が多い。
例えば、ゴミの落下により壊滅した土地の復興作業用に。
もしくは、軍の戦力としての兵士として。
ただしそこにもやはり、道具としての扱いが待ち受けている。
……俺もチームブリットに配属になる前に、何度か『ファミリア』を戦局に投入しての戦闘を経験したことがある。
当時俺は新兵で、与えられたV.A.も二世代前の旧型、艦内の部屋は同期の兵士達との共用の狭いものだった。
しかし――『ファミリア』達には、同じ艦で輸送されながらも――部屋すら与えられることは無かった。
ならばどうやって、戦場まで運んでいたかといえば――彼らは金属製のコンテナに押し込められて運ばれたのである。
無論、コンテナの封印は溶接を使って行なわれているために彼らは外に出ることも、食事すらも出来ない。
しかし、ファミリア達の身体能力なら、その程度では死ぬことは無い。
それで構わないのだ。
――道具なのだから。
無論そんな彼らだから、たとえ宇宙での戦闘でもV.A.を手渡されることは無い。
簡易宇宙服に、肩に担いで使用するバズーカが2丁。
これが彼らに与えられた装備品の全てである。
たった、これだけで――彼らは宇宙へと放り出されて、迫り来るV.A.などと戦闘を行なうのだ。
それでも『ファミリア』たちは、その身体能力の高さを使って――戦力としての価値は、意外に高い。
しかし戦場で、いくら戦果を挙げたところで――彼らには何の意味もないのである。
何故なら戦闘が終わった後に、戦艦は決して積極的に『ファミリア』を回収しないのである。
無論、手の回る範囲くらいにいるものは「勿体無い」から拾うものの、全体の十分の一も回収できれば問題ない。
残りが戦場で敵に討たれて死のうと、簡易宇宙服にある残り少ない酸素を失って死のうとも――気にも留めない。
無人機動兵器と同じで――回収するだけの価値をそこに見出せないのである。
しかしやはり、それで構わない。
――道具なのだから。
……また、ファミリアたちには別の利用法もある。
それは――人の三大欲求である『性欲』を満たすための道具としての利用法。
これも別に、今までの歴史をかんがみれば珍しいことではなかった。
従軍慰安婦、慰問婦――軍隊とこういうものの関係はいくらでもある。
何でも「人間は生死の極限状態にあると、子孫を残そうとする本能が極肥大化する」らしい。
そういうもっともらしい名目をつけて――俺と同年代、時にはそれ以下の少女が必ず3人は船に積み込まれていた。
実際、俺の同期の少年兵達は――思春期だったこともあってか、鼻を膨らませて何をしたかを仔細に滔々と語っていた。
しかしまた――それも構わないらしい。
――道具なのだから。
それどころか――俗に言う「文化人」とやらや貴族たちは、そういう利用法を一つの「文化」に仕立て上げた。
市場に出た、幼い少年少女たち――その中でも見目の美しいそれを争って購入する。
そして首輪をつけて、殆ど裸同然の格好で連れ歩かせるのだ。
数が多ければそれは一つの自慢となり、その『ファミリア』達にどういったことを仕込ませたかを互い、競い合う。
ナノマシンの副産物的効果で――ファミリアたちは、内性器の二次的性徴が5歳の頃には完了する。
そのため――医者や弁護士ですら、この年端も行かない少年少女たちの人身売買行為に異論を挟まなかった。
生物学的に問題が無かったならば――別に彼らも、問題をあげつらう部分が見えなかったのだ。
――ファミリアは人間じゃない。
道具なのだから。
そして――酷使され、死亡したファミリアがどうなるのか。
彼らには、墓はない。
それは、遺体が残るような最後を迎えられない――そんな理由だと思われそうだが、違う。
確かに遺体が残るような市に方を出来るファミリアは少ないが――いるにはいるのだ。
他にも――『間引き』という言葉がある。
工場で作られたファミリア達は、商品基準に達する身体能力を保有するよう、徹底的に訓練を施される。
しかしその中でも、やはり水準を達せ無いものも出てくる――そういうファミリアは『間引き』されるのだ。
田に生えた、発育不良の稲が引き抜かれてしまうようにして。
そして、引き抜かれたファミリア達はどうなるのか。
パーツごとに『解体』して、『再利用』されるのである。
例えば臓器類は臓器バンクに収容。腕や足も、同様再生が不可能となった兵士達に移植される。
残りのパーツは溶かされた後、V.A.の精密機器を洗浄するための洗剤へと利用。
脳髄は取り出された後に、ホーミングミサイルの誘導装置に組み込まれることもあるという。
もっとも『解体』作業は、別に死んだファミリアに限定されたことではない。
軍隊などで、兵士が再生不可能な外傷を受けた時など、同じ部隊にいるファミリアのパーツを利用する。
麻酔も無く、ただ切り取られて後の処置すらもされない。
――ファミリアはこの程度では死なないからだ。
流石に心臓などを移植すれば死ぬが、腕の一・二本くらいならばまったく問題なく生きていられる。
片腕があれば、武器を扱ってまだ戦線に投入することが出来る。
両腕が無くなったら、全身に爆弾を巻きつかせて自爆させれば爆雷代わりになる。
ゴミで苦労してきた自分達。これからは、『再利用』の時代だ――という、謳い文句と共に。
――道具は、再利用すべきだと。
……今まで弾圧されてきた者達が、最も望むもの。
それは、その弾圧される社会体制の打破などでは――実は無い。
虐げられる彼らが望むもの。それは――
自分達が自由に弾圧し、虐げ、差別することの出来る存在が下に存在することである。
自分達より卑しい存在がいるのだから、まだ自分達はマシな方だ――そういう安堵感なのである。
それもまた、今までの封建社会の歴史を紐解けば自ずと知れることだ。
無論そのまま――西洋社会における奴隷階級の存在もさることながら、
東洋社会でも、特に日本――江戸時代における奴隷・非人制度を見れば一目瞭然だろう。
人間は誰しも――自分の力を、優位性を誇りたくて仕方のない存在だ。
だからこの制度に誰一人異をはさむものなどいなかった。
「上から言われたんじゃ、仕方ない」という自己正当化。
それで自分の正当性を確保してしまえば――人間はいくらでも残酷に、理不尽になることが出来るのだ。
そしてこの時、免罪符となるのが――『ファミリアは人ではない、道具に過ぎない』という言葉。
実際、法律上において――ファミリアは一般市民の下――いや、家畜類よりも下の地位につけられた存在なのである。
何故か?
――道具だから。
道具に命など無い。だから命を持つ動物の方が、ファミリアよりも偉いからだ。
『消耗品、使い捨てのファミリア』とは違って、牛や馬達の命でさえも――世界に一つしかない、尊ぶべきものだからだ。
――無論、誰もが知っている。
確かにファミリアは、その遺伝子情報の一部を書き換えてしまっているかもしれない。
しかし――だからといって、人間の定義に当てはまらない存在では決してないということを、知っている。
四肢があり、心臓があり――心も持っている。
それを誰もが知っている。
知っているからこそ――誰もが嬉しそうにファミリアを虐げるのだ。
自分の優位性を誇示したいのが人間だ。
しかし――例えば牛や馬に、自分が偉いということを誇らしげに語るような人間がいるだろうか。
蟻を踏みつけ、自分の雄大さを高らかに叫ぶ人間がいるだろうか。
飼っているペットに、躍起になって自分の偉さを叫びだすような人間が――いるだろうか。
無論、いるはずも無い。
判ってしまっているからだ。
いちいち言葉にせずとも――自分達がこの世界でもっとも頂点にいる種なのだと。
現実はともかく――その認識がある以上、いちいち言葉に出すのは馬鹿である。
そして――元々見下して当然の相手に対して、自分のそういった征服欲が満足させられることは滅多に無い。
そう――人は。
本来ならば自分と同等か、それ以上の存在――それを不当に屈服させてこそ、征服欲が満たされるのである。
自分達と、本来ならば同じである存在をまるでゴミのように扱い、虐げる。
人はそうやって初めて――満たされるのだ。
そして最初はいびつだったその関係も、時がたつにつれてやがて社会の『常識』となる。
ファミリアは人以下の存在、道具なのだから何も気に病むことは無い。
気に病んでいる人物の方が――逆に心配されてしまうという歪んだ社会構造。
いや、その『歪み』こそが正しい――社会構造。
それはたった100年のことに過ぎないが、人々の精神の奥底にまで浸透するには十分すぎた。
かの『蓮輪の九軍師』でさえも――リリス女王でさえも、あの社会腐敗を断ち切る戦いに掲げようとはしなかった。
――『ファミリアを、人間として平等に扱おう』という、その言葉が。
あの後、ファミリアであるグローバー・アレクサンドリア元帥が蓮輪の九軍師に入ったことがきっかけとなり、
結果としてファミリアは俺達の時代の現在では額面上、人と同等の存在であるとされている。
しかし、人々の精神の奥底に根付いた迫害の精神は、植えつけられたときとは違い遥かに深く。
その迫害は、今でもまた、続いている。
俺がファミリアと同じチームを組んでいると聞いた途端、正気かと尋ねてきた同僚。
それが一人や二人でなかったことは――言うまでも無い。
そう――たとえ過去でも、現在でも――そして未来でも。
結局、何一つ変わってなどいないのだ。
人の本質というのは。
自分の愉しみのためならば何かを犠牲にする努力を怠らず、自分だけが幸せならばそれでいい。
かつて、過去の人間のそういった感情によって――今の地球があるとするならば。
俺達の時代における、そういった感情――社会の歪み――。
他でもない、俺達自身の醜さの果てに生まれた星。
それが月だ。
「……けど……ユーイチ。ユーイチは……違う。そうじゃない?」
……違う?
「だってユーイチは……私がファミリアだからって、蔑んだりしなかったじゃない……最初に会った、あの時から」
……確かに、そうかもしれない。
だが、それは――たまたま俺が受けた人格精製プログラムがそういう性格を振り当てられたからだろう。
そう……地球で生まれがために、自我を持っていなかった俺の性格もまた――後から植えつけられたに過ぎない。
兵士として、理想的な性格――任務に忠実で、問題を起こさず、ただ戦力としてのみの彼我関係を確立する――
「……問題を起こさないんだったら、あたしにセクハラしてきた兵士を拳一つで死ぬ一歩前まで殴り続けたり、
あんなふうに快速艇のハッチふっ飛ばして出撃したりしないと思うけど〜?」
黙れ。
これ以上話を脱線させるようなら、いい加減この精神的接続を切るぞ。
「あああ、ゴメンゴメン! 判ったから……話すから、ね?」
まあ……判れば問題ない。続けろ。
「……ちぇー。結構、嬉しかったんだけどなぁ……そういうユーイチも」
………………黙れ。
「まあ……そういう感じで、私は生まれた……っていうか、『造られた』?
えっと……なんだったっけなぁ……製造の型番、昔は覚えてたんだけど……」
……FNN−110――白兵戦・近接戦闘用のファミリアだろう。
確か、軍で正式採用されている戦闘用ファミリアだったはずだ。
同じ型番の他のファミリアを何度か、戦場でも見たことがある。
「あ、そそそ☆ ま、あのころは名前もなかったし……どーも記憶薄くって……あはは☆」
――こうやって笑っていられるセレナだが。
本心ではそれほどにこの話題にこうやって笑いを挟めるような精神的余裕は無い。
それでも、空元気でもそうやって、俺に弱さを見せないように勤めておどけてみせる。
……俺は―― 一体それを、どういう表情で――心で聞いてやればいいのだろうか。
人を一撃で殺す手段はいくらでも見つかっても、こういうときの対処法は一つも見つからない。
そんな俺が、どうしようもなく悔しい。
「……でもあたしってさ。……なんというか……昔っからどーしても、納得できなかったんだよね。
こう……言葉で言えないんだけど……もやもやっと、これはおかしいんじゃないかな……って。
他の皆と同じで、あたしも頭の中を弄くられて、そういう感情を減らされてたはずなんだけど……」
――用途に応じて、ファミリアの脳内の感情神経のバランスはある程度最初に調整される。
一般家庭での奴隷として扱われるファミリアは、例えば怒りの感情を消し、自責などの感情を肥大させられる。
これにより、主人への絶対服従と後悔による自分の立場の低さを強烈に植えつけるためだ。
だから、ファミリアはどんなことがあっても、人間には牙を剥かない――それがキャッチコピーとなっていた。
……しかし、セレナは――
「うん。……まあ、これがいわゆる不穏な考えってヤツ? ま、それでもそれなりに戦闘能力高かったから、
間引きされることもなくって、市場に売り出されるはずだったんだけど……あはは」
頬を、ぽりぽりとかいて――しかし一瞬、不安げな光がその瞳によぎって。
言うべきか、言わざるべきか――その狭間で一瞬、揺れ動いて。
けれど最後には、俺の目をただ、じっと見つめて――やがて息をゆっくり吸って、彼女は口を開いた。
「……けど、そのちょっと前に……バレちゃったんだよね。あたしがそういう考えを持ってたのが。
だから廃棄されそうになって……6歳の頃だったかな」
そこで言葉を切って――さらりと、世間話でも切り出すかのようにしてセレナは続けた。
「あたし……そのまま力ずくで脱走しようとしたんだ」
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