V.A.  Another story  “Team bullet”

 

 

第十二話 『跡』 -wake up-

 

 

――俺は、死んだのだろうか。

 

――やはり、死んでしまったのだろうか。

 

――今まで、死んでみたことが無いから判らない……が――

 

――真っ暗で、何も見えない。

 

――投げ出されたような、束縛の無い感覚。

 

――眠っているようなイメージ。

 

――本当に、これが「死」なのだろうか。

 

――ならば今、思考している俺は……何なのだろうか。

 

――判らない。

 

――暗くて、何も、見えない――

 

――暗い?

 

――違う。

 

――今、俺が何も見えないのは……ここに俺以外の何も無いからというわけではない。

 

――ただ単に、目を閉じてしまっているからだ――

 

 

俺はゆっくりと目を開けた。

まるで何十時間も眠っていたあとのように、目の機能が働かず、乾いた目は何度も瞬きをさせる。

……それと同時に、自分の体に急に五感が戻ってくる。

この体制は……どうやら、俺は寝かされているようだ。

頭の後ろに、柔らかい感触。

そして額には、ひんやりとした感触――

……一分ほど瞬きを続け、ようやっと八割方の視界が回復した頃に。

俺の目に映ったのは、満天の夜空と、綺麗な円盤状をした白銀の満月。

……そしてそれを見上げる、紫色の髪をした――

「……セレナ……?」

「あ……」

やや、目を腫らしたセレナが――夜空から、視線を俺に向ける。

そしてセレナが、真上から俺を見下ろしている形であるということで――

俺はセレナに膝枕されているということを把握する。

ひんやりとしているのは、彼女の手。

しっとりと柔らかいこの感覚は……太もものようだ。

「……本当に、柔らかい?」

「だから人の心情を読むな、と言っているだろうが……で、何故そんなことを聞く?」

するとセレナは、少し不安そうな表情で、

「だって……一応、それなりに鍛えてるし……普通の女の子より、筋肉質かもしれないし」

……そうか?

「俺は丁度言いと思うが……。低反発枕とやらよりも、こっちのほうがずっと心地いい」

「こ、心地……そ、そう、良かった、あ、あはは……」

俺の言葉に――何故か赤面して顔を逸らすセレナ。

……俺は思ったとおりのことを言っただけなんだがな……。

と、セレナはまだ顔が赤いまま、それでも調子は取り戻したのか思いのほか真剣な表情で、

「それよりユーイチ……大丈夫? どこか体、おかしいところ……無い?」

「……ああ……」

聞かれるままに――返事をしたそのあとに。

……ここまでのやりとりの妙さに、俺は腹腔から笑いがこみ上げてくるのを感じていた。

「……? どうしたの、ユーイチ……?」

「……どうしたもこうしたもないだろう。大丈夫も何も……もう俺達は死んでるじゃないか」

生きている時と、まるで勝手が変わらないためにうっかり失念していたが――そうだ。

死んだはずのセレナが目の前にいて。触れて。会話が、出来る――

それは俺も、死んでいるからだ。

……すでに死んでいるのに、体を気遣ってしまうとは……まだ死んでそう、時間がたっていないせいか。

まあ、セレナのその感覚も、判らないわけではない。

死んだのは初めてだが……こうも生きている時と、大差が無いのだから。

視覚。聴覚。嗅覚――これら全てが備わり、まるで体があるかのように感覚がある。

……今もなお、本当に死んでしまったのかという疑問を抱いてしまいそうに――

「……死んでないよ?」

「………………何?」

セレナの、その一言に――俺はそれを理解するのに、数秒を要する必要があった。

「だから。……ユーイチ、生きてたんだよ?」

「…………俺が、生きている……?」

「奇跡って……あるもんだね。あの爆発で、コクピット部分だけ無事に済むなんて……」

セレナの表情は――嘘や冗談を言っているような雰囲気では無い。

それにこんなとき――セレナはつまらない冗談を言うような性格じゃない。

……ならば――

「何故お前が……俺の目の前にいるんだ……?」

仮に俺が生きていたとしても。

俺の目の前で。……赤い光に貫かれて。

……セレナは――

「ああ、あのときはね……丁度、識別信号を発信する機器部分を破壊されちゃって。体勢立て直そうにも、

ロジカルフィールド発生器も損傷しちゃったし、そのまま地面に不時着しちゃったってワケ☆

何とかフィールドを安定させて、クレイジーラピッドに戻った時にはユーイチがいなくてびっくりだし――」

「………………」

………………要するに、だ。

「……お前も、生きてるんだな?」

「ま、そゆコトになるかな☆ あはははは〜☆」

……。

…………。

…………………………………………。

「……ゴ、ゴメンね。ホントは通信、すぐに入れたかったんだけど……ジャミングがかかってたし――」

「……いや」

思ったより、真剣に反省しているセレナの様子に――俺は首を横に振る。

「今回はいい……生きていたんならな。ただ……二度とこんな真似はしないでくれ」

それだけ言って、俺は軽く、そして長く息を吐いた。

…………そうか…………生きていたか。

………………良かった。

俺はそのまま、身を起こそうとして――しかし瞬間、脇腹に突き刺さるような痛み。

「く……」

「あっ、ダメダメ! 無事って言っても、アバラの二・三本は折れちゃってるんだからさ」

そっと、痛みを感じた患部に触れてみる。……なるほど、確かに。

……あの爆発の中で、怪我がこの程度で済んでいるのならば儲けたものだ。

しかし今は、この痛みが少し……煩わしい。

「……お前のほうは、どうなんだ?」

「あたし? あたしは……あはははは☆」

「どうなんだ」

愛想笑いするセレナに、強く問いただすと――しぶしぶ、と言った感じで、

「…………ひ、左腕……ちょっと、折っちゃったんだけど……ああでも、大したことじゃないし――」

慌てて手を振るセレナ。しかしそこには――確かに左腕はついてきていない。垂れたままだ。

……まったく。

「……俺に触れていろ」

「へ?」

「いいから。……先刻のように、俺の額に手を乗せろ」

「こ……こう?」

セレナはぺたっと、俺の額にその手を乗せる。……相変わらず、ひんやりとした感触。

俺は瞑目し、痛みを焦点に意識を集中させて――

「……俺が治してやる」

『力』を全身に循環――それを一つは自分の脇腹に。

そしてもう一つ、触れた場所を介してセレナの左腕へと『力』を流し込む。

……程無くして、俺の脇腹の骨は完全に接合する。そして――

「うわ……凄い凄い☆ 治ってる……」

自分の左腕をまじまじと見つめるセレナ。ぶんぶんと振り回して見せるが、そこに無理をしている感じは無い。

「……ってことは……もうユーイチ、膝枕しなくてもいいの?」

「………………いや、まだ頼む」

……自分本来のものではない『力』を利用した、反動――脳圧の急激な上昇は、激しい頭痛を生む。

とてもじゃないが……いくら俺でも、この頭痛の中まともに座ってなどいられん。

「じゃ、痛みが引くまでた〜っぷり堪能してする? あははは☆」

「……そうだな。折角の機会だ……あますことなく堪能させてもらおう」

「ユ、ユーイチ……言ってることがエロオヤジっぽくない?」

「黙れ」

首だけを動かして――あたり一体を見渡して。

ここがクレイジーラピッドの医務室などではないということにようやく気がついた。

倒壊したビル。めくれ上がった舗装道路。

完全に街としての灯の無い中、妙に明るく感じたのは、近くに着地しているデッドリーダンサーのヘッドライトのおかげだ。

「……クレイジーラピッドは……どうした?」

「先に宇宙に上がったよ。ホラ、ユーイチってば出撃した時にハッチ吹っ飛ばしてったっしょ?

 ユーイチも私も、命に別状があるような重傷じゃなかったし……それを修理したらすぐ戻ってくるからって」

確かに、理由にはなっているが――だがそれなら俺達を回収して、地球上にある拠点に移送するのが普通だと思うが。

「あ、あと……スフィーが『後で何があったのか教えなさい』って……あははは☆」

……まったく……変な気を回さないでもらいたいんだがな……。

まあ、スフィーのそういう性格は今まで知らなかったわけでもない。そのことに肩をすくめはしたが――

とりあえず俺は、もう一つ確認すべきことをセレナに問う。

「…………あの白い奴は?」

「……逃げられちゃった」

残念そうに、肩をすくめる。

「あの後、あっちの戦艦を叩き落す一歩手前くらいまでいったんだけど……

オレンジ色したV.A.に上手く撒かれちゃって……ゴメンね☆」

ぺろっと舌を出して謝るセレナ――しかし、ふと見たデッドリーダンサーの左腕の無影が折れていた。

共有結合石英製のこのブレードを、まさかあいつらが叩き折れるはずが無い。……とすれば――

「……相当、ラフな戦い方をしたな?」

「ぐっ」

言葉に詰まったところを見ると――図星か。

まあ、この反応が無くても……相当に泣きはらした顔を見やれば、大体見当が付くが。

「……珍しいな、お前が我を忘れるなんて。……スフィーに何をされても知らんぞ?」

「うう……だ、だってさ〜、折角私生きてたっていうのに、ユーイチがあんなことになるんだもん。

 いくらあたしでも……ねぇ? ……そんなになったのにさ……なのに……あれ(・・)だよ?」

セレナが指で指し示す方向――そこへと俺は目を向け、そして驚いた。

そこにあったのは――なんと、パニッシメントノヴァだったからだ。

無論、無傷などではなく、相当に損傷は酷いが――それでも素体のフレーム自体にたいした損害は無い。

しっかりと、着地体制を取って鎮座しているそれは――きちんと修復すれば、まだまだ問題なく使えるだろう。

……そして――その異常なまでの機体の強度が、恐らく俺の命を――

「『全V.A.中最高の強度』……煽り文句だけじゃなかったのか」

「おかげで泣き損だよ〜、ぶーぶーぶー」

ぶすっと頬を膨らませるセレナに――俺はつい、笑ってしまう。

そして、むくれていたセレナもそれに釣られたか――ぷっと吹き出し、そのまま笑い出した。

しばらくは会話もなく、ただ朗らかに、互いに笑っていた。

……何故だろう。この空気……セレナといる時は大抵感じていたのだが、随分と久々のような気がする。

 

……そうか。

俺たちは……二人とも、生きていたのか――

 

ひとしきり、笑い――やがて、それを収めた時。

「ユーイチ……あのさ」

セレナはすっ……と表情を改める。その様子に、俺も無意識に表情を引き締めた。

「何だ?」

「……別に、答えたくなかったらいいんだけど……その、一つ聞いても……いいかな……?」

……珍しいな。妙にもったいぶった言い回しをするが……。

「質問にもよるな……まあ、言ってみろ」

するとセレナは、一瞬の躊躇の跡に――しっかりと俺を見て、言った。

「ユーイチって……『川澄 綾子』なの?」

………………!!

「あっ!? ゴ、ゴメン……」

「……いや、いい。気を使わなくても……事実、その通りだからな」

……今まで聞かれなかったから答えなかっただけで、別に隠していたことでもない。

第一、軍のデータベースにアクセスすればその程度の情報を引き出すことは簡単に出来るからな。

……それに。

セレナにならば……別に知られても、構わない。

「……ありがと」

「だから……人の心情説明の部分を読むな」

『川澄 綾子』

――それは俺や、それからあの白いV.A.のパイロットも持っていた『力』の名称だ。

同時に、『力』を保有するものを示すこともある。

パニッシメントノヴァのアームズフレーム主砲も同じ名称だが……まったく関係が無いわけではない。

あれは『川澄 綾子』を間接的に利用した兵器だからな。

『川澄 綾子』――それは『意思』に抗うための力。

この世界には、根源的な一つの『意思』が存在しており、物理法則という形を持って世界を添わせている。

……だが、己の強靭なまでのエゴを拡大させてその意思に抗い、物理法則を無視・超越した事象発現する――

それが『川澄 綾子』の力だ。俗に言うところのESP――『超能力』というものも、この『川澄 綾子』の一部らしい。

世界を意のままに操作する、誰しもが持っているわけではない未知なるチカラ。

……まるで二流ファンタジーの様な話だが――現に俺の様な奴がいる以上、認めざるを得まい。

無論この『川澄 綾子』は俺だけではない――ラウロード内でも約千人以上の『川澄 綾子』が確認されている。

元蓮輪の九軍師の一人、メルレイン元上級大将もまた、強力な『川澄 綾子』を保有していたらしい。

ただ、俺は生まれたそのときから『川澄 綾子』であったことを自覚していたわけではなかった。

それどころか――俺とは何の関係も無い話だと思ってさえいた。

『川澄 綾子』はすでに俺達の時代、研究が進められていたがためにその素質の条件さえも発覚していたのだ。

そして、その素質とは――『生来の持つ、ある種狂気的なまでの感情の激しさ、強さ』だったからだ。

「……確かに、それってユーイチと全然対極ってカンジだもんね〜……」

俺もそう思っていた。

……だが――四年前。

ラウロードがまだ王国軍だった頃に、軍主催のV.A.パイロット優秀さを競うトーナメント戦――

俺はそれに史上最年少のV.A.パイロットとして参加した。そしてトーナメント開始の式典代わりに行なわれる、

リリス陛下を前にした特別御前試合で俺は、全選手の代表として戦わされることになった。

そして相手は――蓮輪の九軍師のレオンハルト元帥(当時は中将だった)の駆るV.A.。

蓮輪の九軍師の中でも、V.A.を駆ることに特に長けた方のことだ。

誰もが、勝てるとは思っていない。無論、それはレオンハルト元帥も――何より、俺自身も。

これは戦って勝つことよりも――レオンハルト元帥と直接戦うことが出来るということを喜ぶべきものなのだ。

偉大な先輩の胸を借りて戦うつもりで――俺は自分のV.A.を駆った。

――だが。状況は、誰もが予想しない展開――互いに、全く互角の状態となってしまったのだ。

今思えば、無双のレオンハルト相手にここまで健闘した自分に十分、よくやったというべきだったろう。

……しかしあの時、俺は――とんでもなく場違いなことを、一人考えていた。

――勝ちたい。

正直、同世代の新兵で俺とまともに戦える奴はいなかった。

だから――嬉しかったんだろうな。

『皮一枚で危険と隣同士の相手』――それと戦えることが。

もはや、レオンハルト中将は尊敬すべき偉人ではなく―― 一人の好敵手になっていた。

血が沸き、心がどんどん高揚して、頭の回転が焼ききれそうなほどに早くなり。

勝ちたい。

勝ちたい。

……勝ちたい――

俺の中でその時、何かが弾ける音がして――

同時に、中将のV.A.も「弾けた」。

……何の前触れもなく――ばらばらにな。

爆炎も、爆発も何も無くて――中将自体には怪我一つ無かった。

その光景に、誰もが驚いていた。

だが一番驚いたのは俺自身だ。

……まさか、自分の中に『力』が――『川澄 綾子』があるなど微塵にも思わなかったからな。

そして……同時に思ったことがある。

俺が常時、感情を表に出すことに億劫なのは――『川澄 綾子』の発動を無意識に抑えているためじゃないかと。

……だから俺はそれ以後、意識無意識双方から勤めて感情を押さえ、冷静であることを自分に強いてきた。

「……じゃあ、ユーイチってば実は熱血系?」

「……いや……」

多分、今の性格がそのまま地なんだとは思うが。

……それはともかく、だ。

『川澄 綾子』であると自覚した俺が最初に調べたのは―― 一体『川澄 綾子』で何が出来るかということだった。

『川澄 綾子』は基本的に何でも出来る力ではあるのだが……大抵の場合において、

使用後には急激な脳圧の上昇による頭痛――酷ければ、脳内の血管が破裂し、一瞬で死に至る場合もある。

しかし『大抵』ということは、無論それ以外の『例外』もあり―― 一部の能力に関しては反動無く使用できるものがある。

そして、その反動の無い部分が個人によってまったく異なり――反動無しに使用できる能力を『得意分野』と呼んでいる。

この『得意分野』は、その人物の特性や精神的なエゴが非常に反映されるらしい。

例えば俺の場合、運動中の物質の保有エネルギーを飛躍的に増大させることによる加速化・破壊力の増大。

メルレイン元上級大将の場合、時間・空間を越えた転移行為。ただしそれは非生物に限定されるが。

白いV.A.のパイロットの場合は……自己弁護と肯定による、他者の絶対的否定――そして破壊といったところだろう。

そして個人によって、絶対的な『川澄 綾子』の力量差も存在する。

大質量の重V.A.『リヴォルケイン』を、空間どころか時間さえも超越して、

この時代に呼び出すなどということが出来たのははメルレイン元上級大将だからこそのことだ。

……そしてこの『川澄 綾子』の力を兵器化しようという動きも当然、現れていた。

有名なのは、イスズの技術提供とラーダ・インダストリィの資金力によって完成した次世代のV.A.

VAN−137「セレスティアル・ディスペア」だろうが――もっともイスズはそれ以外に独自にこの力の兵器化を進め、

すでに試作機であるリヴォルケインとパニッシメントノヴァに組み込まれているという次第だ。

リヴォルケインに関しては、『川澄 綾子』の力による、弾薬の精製・自動補充。

そしてパニッシメントノヴァの場合は、アームズフレームに搭載された主砲――情報因子消滅砲に技術が使われている。

対象の構造情報をゼロにすることで、逆説的に対象を消滅・二次的に対消滅クラスのエネルギーを放出するこの主砲。

……これの名称が『川澄 綾子』であることからも、弾薬精製に『川澄 綾子』を使用しているのは間違いないだろう。

しかし疑問なのは、ロジカルバリアに関してもそうだが、何故零細企業でしかないイスズがこんな技術を――

「ユーイチ……モノローグ長すぎ」

「……そ、そうか……すまない」

つい、謝ってしまってから――俺はふっとそこで、気が付いた。

「……セレナ。前々から気になっていたが……お前は何で俺の心が読めるんだ?」

……前々から、ずっと疑問だったが――聞きそびれていた。

冷静に考えれば――いや、考えなくともこれはかなり異常な事態である。

確かにあの白いV.A.のパイロットにやってみたように、『川澄 綾子』の力を使えば、

自分の心の内をダイレクトに相手に『見せる』事は可能だ。……しかし今はそんなことをやってなどいなかった。

もしセレナが『川澄 綾子』ならば判らなくも無いが――彼女がそうでないことは、はっきりと判っている。

……ならば何故――

「何故……って言われても……勝手に聞こえてくるしぃ〜」

………………。

「……本当か?」

「ここでウソついてもしょーがないっしょ?」

む……。

確か以前……似たような症例を聞いたことはある。

『川澄 綾子』は、人間的な波長がもっとも適合した人間に対しては――その心のチャンネルを開くと。

……仮に今の現象が、このことに当てはまるのだとすれば――

「じゃああたし達って……天下無敵の、お似合いカップル〜☆」

「……学説上、統計学的に見ればそんな推察が得られないわけでもなさそうだな。可能性の上の仮定だが」

「も〜……ホ〜ント、素直じゃないなぁ、ユーイチってば☆」

……頭の芯のほうから頭痛がしてきた。

しかし……ということは――

「あの時、奴に聞かせていたことも……まさか――」

「……うん。全部聞いた」

セレナは茶化そうともせずに、こくりと一つ頷いた。

「……そうか」

まあ、八歳から軍属……という過去の経歴から、大体は予想が付いていたのだろうが――

「……やっぱり……知られるのは、嫌?」

「……いや」

俺は首を横に振る。

『川澄 綾子』同様、俺が地球の出身であることは調べればすぐ判ることだ。

そして地球という星で『生きてきた』ことがどういうことなのかも――誰もが知っていることだ。

地球出身であることを否定する気は毛頭無い。

そのことで、この時代の人間を恨んでいるというわけでもない。

そんな理由で――俺は戦おうとしたわけじゃないからな。

……それに――

「セレナになら、別に知られても構わないと……言ったはずだがな」

「……ありがと、ユーイチ」

セレナは優しいまなざしで俺を見つめ――やがて、ゆっくりと腕を伸ばし、背を伸ばして――

「……じゃあさ、今度は……あたしが話すね」

「……何?」

意味が判らず――俺は馬鹿のようにただ問い返す。

セレナはふふっと笑うと――

「あたしの過去。……まあ、ユーイチにも大体想像ついてるんだと思うけどさ」

……確かに。セレナの紫色の髪を見れば――大体の想像がつく。

……しかし――

「……別に無理をしなくても構わんぞ」

想像がつくからこそ――本人の口からそれを言わせるのが酷だというのも、よく判る。

言いたくない過去を、俺は無理に知ろうなどとは思わない。

セレナは――セレナだ。

俺が言ったのは、あくまで自分の都合のためだ。……セレナがそれに合わせなくても――

「そうじゃない。そうじゃなくって……知って欲しいから」

「知って……欲しい?」

「そ。……ユーイチが話したから、とかじゃなくて。……知って欲しいから、もっと私のこと。

 ユーイチには……ユーイチにだけは、だからきちんと話して……知って欲しい。

 私が何で、こうやって生きてきたか……軍に入って、戦ってるのか……それをユーイチには知って欲しいから」

真っ直ぐな、セレナの紫の瞳――そこには、一時の気の迷いや、不安はどこにも無かった。

ただ、真剣な光が――意志が、そこにはあった。

だから俺は――これ以上何かを言うことの愚を悟った。

「……そうか。なら――」

背筋と腹筋の力を使い――俺は半身を起こす。

「ユ、ユーイチ!?」

「……頭痛などとうに引いている。問題ない」

俺は半分、自分に言い聞かせるようにして体を起こし――セレナと向き合った。

そして彼女の手を、そっと掴む。

「あっ……」

「……全部を口にしなくとも、これでお前の記憶は伝わって来る。

 だから直接口にしたい部分だけ……お前は言え。……あとはこっちで、俺が補完する」

俺は瞑目して、『川澄 綾子』を全開にする。

「……ありがと、ユーイチ」

セレナもまた、瞳を閉じて――その心を開いた。

それは情報の波となって、セレナの手を介して俺の瞼の裏に、しっかりとしたイメージとなって投影されて。

 

 

「……この髪と、瞳……判ってるとは思うけど……。あたしは月で、生まれたの――」

 

 

――そして俺は聞き、見た。

――セレナの長い長い、過去の話を――