V.A.  Another story  “Team bullet”

 

 

第五話 『憩』 -intermission-

 

 

――チームブリッド配属になり、2ヶ月がそろそろ経過しようとしている。

この戦争、戦局はややこちら側が有利……というのは、贔屓目か?

物量的にいけば、やはり時代という壁を越えて攻めているこちらは遠くは及ばない。しかし――

カール元帥・レオンハルト元帥・マサシ元帥の、まさに芸術と言っても過言ではない戦略の巧みが、

数で圧倒しようとするラウンドフォースをじりじりと追い込んできているのだ。

俺達チーム・ブリッドも、ある程度は貢献しているはずだ。

現在、俺達は地球を飛び回りつつ、敵の補給部隊を片っ端から潰して回っている。

補給線の分断は、戦争の基本かつ定石。無論俺達だけでその全てを断てるわけではないが――

出撃回数30回。敵戦力の総合撃墜数は、現時点で500をカウントしている。

一個大隊に匹敵するだけの補給部隊の損失は決して小さなものではない――

現に地球上の基地の中には、全員が餓死してしまい壊滅したなどというものも出始めているらしい。

おかげで、俺達の相手側への認知度が上がってしまい――ラウンドフォースのデータバンクに俺の機体は『ボクサー』、

セレナは『フェアリー』、この船は『スワロー』――チームとして『ファントム』のコードネームで記録されている。

味方からは弾丸(ブリッド)、敵からは亡霊(ファントム)……つくづく、生き残っているのが不思議なものだ。

ちなみに今、俺のいる場所は――航行している、クレイジーラピッドの上部甲板。

見た目の刺々しいクレイジーラピッドだが、上部は意外に平たい面積が多くなっている。

何故なら本来この艦は、試作機第一号『リヴォルケイン』のためのホバーベース『アクロバッター』を、

そのリヴォルケイン自体が紛失してしまったために急遽、仕様を変更して快速艇に改造したためだからだ。

この艦の異様なまでの大推力も、火器が一切搭載されていないのも、実のところこれが一番の理由でもある。

……が、しかし。それにしてはこの艦にはホバーベースとしても快速艇としても用途不明なパーツがある。

なんでもスフィーの見解では――

「……これは面白いわ…………このパーツは……可変時に腕や足に相当するパーツみたいね……うふふふふふ」

「何……? 可変……この機体、まさか変形するのか……?」

「さあ……? でも…………これをウインドが知れば……どうなるでしょうね、うふふふふ」

……猛烈に嫌な予感を感じた俺は、未だウインドにこのことを話していない。

怖い考えはとりあえず置いておいて、だな……。こういう時は、何か別の事で気を紛らわせるに限る。

幸い昨日、やっと未来から『これ』が届いた。少し大きなハードケース。その中身が、俺の求めていたものだ。

俺にとっては、たった一つの私物になる『これ』――来るのを一日千秋の思いで待ちわびたからな。

幸い、この甲板上部には殆ど人の立ち入ることも無い。早速俺は、ケースの止め具を外して――

慌てて止め具を掛けなおしてケースを自分の後ろへと隠す。

何故なら重々しい大きな音を立てて、その時甲板への扉を開けた奴がいたからだ。

その開けた奴というのは……まあ、十中八九――

「あら、ユーイチさん。こんなところで、一体何をされていたんですか?」

中世ファンタジーの世界を思わせる、白いローブ

胸元に縫い取られた金の十字架は、彼女がある宗教――マーテル教という宗教の法術師だからだ。

しかし――彼女の被る帽子が妙にナースキャップを思わせて、どことなく看護士も連想させる。

長い金の髪の下にある美しい顔は、まるで怒ることを知らないような柔らかな微笑。

しかしその碧眼に湛えられた光は、おとなしいながらも内に秘めた強い意志を感じさせるものだ。

本当に……よく再現してある(・・・・・・・・)

「……? 私の顔に……何かついてますか?」

「いや。顔やその声、性格……どれをとっても本物そっくりだが……違うな」

「違う……? ユーイチさん、一体何のことを――」

俺はぴっと金の十字架の辺りを示して――ためらわず、一息に言った。

「胸の大きさだけが違う」

「うぐ……」

よほどショックだったのか―― 一瞬『素』に戻ったようだったが――すぐにその服を脱ぐ。

その下にあった格好は、一般的に『メイド服』と呼ばれるもので――

えっちなのはいけないと思います!

「このネタが理解できる人はいるのか? 特にこのサイトに来訪してる人で」

リユニオン……古代種。そうオレは……古代種だ

「正宗のような長い武器の類は確か会場ではNGなんだろう?」

10歳ですからー

「今時の学校で飛び級なんぞあるのか……?」

服を脱ぐたび、その下から次々と手を変え品を変えていく様は、ある意味芸術的なのかもしれない。

だが……いい加減、しつこいな。

「じゃ、次は――」

「せんでいい」

俺は服と髪を無造作に掴むと―― 一気にそれを力任せに剥ぐ。

「は、剥ぐって……ユーイチって、意外に大胆……」

「その表現だけを取り上げて誤解をまねくような発言は止めろ」

……第一、下にちゃんと自分の服を着込んでいるんだろうが。

「なによ〜。ちょっとしたジョークなのにぃ、ぶーぶーぶー」

そう言って、頬をふくらませて抗議してきたのは――紫色の髪と瞳。無論、セレナだ。

「せっかくユーイチに、新作のコスを見せてあげようと思って夜なべして作ったって言うのに……よよよ」

「用がそれだけならもう戻れ」

「ぶー……そんな無愛想なコには、光閣堂のあんぱんはあげないよ〜っだ☆」

「……………………なに?」

反射的に問いただそうとする心をぐっとこらえ、平静を装って聞き返す。

だが――少々、沈黙を長くしすぎたか? 光閣堂の名に反応してしまったことはばれてしまったらしい。

くすくすとセレナは笑いながら、後ろ手に隠し持っていた紙袋を取り出した。

「さっき見かけたから、いろいろ買ったんだけど……食べる?」

「ああ」

俺が二の句も無く頷くと、セレナは俺の隣にちょこんと座り、紙袋の口を開いた。

焼き立てなのか、ほかほかと湯気を立て、わずかに香ばしい香りがただよっている。

「なるほど……確かに色々と入っているな」

「ね? どれも美味しいよ?」

俺はその中から、(あん)ぱんを取り、口にした。

……その瞬間、口から全身にじんわりと広がっていくこの至幸至福の感覚を、どう表現したらいいものか――

光閣堂というのは、この時代に存在した、伝説の甘菓所の名前だ。そう、伝説――

千年以上の時を超えて、俺達の未来にも存在しているほどの人気ぶり――もっとも味の方はこの時代の方が上だが。

ただし、伝説となるからには、それなりの理由というものも存在する。一つにはこの光閣堂、店舗というものを持たず、

屋台と簡易組み立て売り場だけで商売するさすらいの店であったこと。

そしてもう一つが――その味だ。美味いのではない――『美味すぎる』のだ。

十人十色ということわざがある様に、人間は人それぞれでまったく感覚や価値観は異なる。

美味いという感覚もまた、当然ながら千差万別――同じ『甘い』という感覚でも、

後味の残る強い甘さが好きな者と、すっきりとした甘さが好きな者。

そこまで両極端ではなくとも――やはり味覚は人によって若干の違いが現れるのは当然だ。

にも、関わらず。

光閣堂のそれは、すべての人間に『美味い』と感じさせる――しかも、誇張抜きで失神するものが出るほどに美味いのだ。

光閣堂の商品は、どら焼きやお(はぎ)羊羹(ようかん)等々――(あん)を利用したものならば、無節操なほどに取り扱っている。が――

そのどれもがすべて感涙するほどに美味である。ただ餡が美味なだけではなく、皮やパンもまた異様に美味い。

誰もが。甘いもの嫌いの人間ですら感服させるその味――形容するならそう『最強』だろうか。

「そそ☆ 美味しすぎるから、ついつい食べ過ぎちゃうんだよね〜」

そう言いながらセレナのぱくついている餡まんはすでに三つ目だ。

光閣堂には、この時代に来てからすでに何度か世話になっているが――どれだけ満腹でも、一度に4・5個は軽くいける。

当然ながらカロリーも相当、高いのだが――何故か体重に一向に影響が出ないそうで、

それが世の女性客を中心に、圧倒的な信者を抱え込んでいることとなっている。

「……でも珍しいよね〜、ユーイチって」

「珍しい……何がだ?」

俺は五つ目のぱんを欲して紙袋を漁りながら、セレナのその言葉に問う。

「だって……女のコならともかく、男のコで光閣堂知ってるなんてさ〜☆」

「……男が甘いものを好きで何が悪い」

少々憮然としつつ――俺は餡まんを齧る。と、セレナは俺を見て何故か苦笑しつつ、

「スネないスネない☆ ……でもユーイチって、甘いものだけじゃなくて食べ物全般にうるさいよね〜。ホンット意外」

「……そうか?」

「そうそう。だってユーイチの性格から考えたら、『栄養分が摂取できれば味など意味は無い』とか言いそうだし〜」

……俺はそこまで機械じみていないんだが。

「……だがまあ、そう言われることは多いな……。自分でも少し、うるさいという自覚はある」

「あ☆ 自覚はあるんだ、一応」

セレナの茶々には構わず――俺は餡まんの最後の一口を放り込んで嚥下する。

「……それに美味い食事は、忘れさせてくれるからな……」

「……? 忘れる……って?」

つい口に出してしまった言葉に、セレナが食いついてくる。

放っておいてもよかったが――俺は一瞬ためらい、しかしもう一度口を開く。

「ああ……美味いものを口にした時だけ、忘れられる――口にこびりついた……味を」

昔――ずっと喰らい続けてきた、あの味を。

 

アノコロクチニシテイタヒトノアジヲ(・・・・・・)

 

「………………ごめん」

少し――顔に、出てしまっていたらしい。セレナが申し訳なさそうに、俺の顔を見つめていた。

「……不可抗力だ。気にするな」

……人には誰にだって、(くら)く、重い所がある。

俺もそうだし――セレナにも、それはあるはずだ。

月出身(・・・)であることから、大体の想像はつく。

だが――それを知りたいとは、俺は思わない。

知ったところで、セレナが変わるわけでもないし――

知らないから、セレナのことを理解出来ないわけでもない。

そんな事は――言う言わないは、本人の自由だ。

少なくとも――俺はそのことを、知られたくは無い。

セレナも知られたくは無い。

それだけのことだ。

簡単で、単純な――それだけのことだ。

と――この気まずい空気に耐えられなくなったか、セレナはことさら明るく振舞いながら口を開く。

「そ、そういえばさ、ココって風、吹かないよね〜☆」

「当然だろう。ロジカルバリアで外の空間と隔離されているからな」

でなければマッハ33で飛来しているのだから、こんな風に甲板にいれば風どころか発生したソニックブームで細切れだ。

「えっ……と、きょ、今日はホントにいい天気〜☆」

「……何故そんなことが判る」

前述の通り、対衝撃様に展開されたロジカルバリアのせいで、この場所は外とは完全に隔離され、空など見えない。

……確かに、セレナはマッハ5までの相対する物体を見極められるという驚異的な動体視力の持ち主であるが、

そもそもマッハ33であらゆる箇所を縦横無尽に疾駆するところに、天気などという概念あるのだろうか。

「う……う〜んと……えっと……その……ううぅ〜……」

それでもなお、話題を探そうと懊悩するセレナ。

たった二つあっさりと切り捨てられただけでネタ切れか……?

……本当に、仕方の無い奴だ。

だがこの空気を変えようという、その心遣いは嫌いじゃないがな。

……仕方ない。手伝ってやるか。

俺は背後に隠していたハードケースをそっと取り出し膝に乗せ、止め具を外した。

「え、何々? 何それ?」

案の定、乗ってくるセレナ。……だがこの中のものを見れば、たいてい誰でも一度はそう聞いて来るんだが。

それは丁度、三味線程度の大きさの琵琶といった形だ。しかしその弦は三本でも五本でもなく――たった一本。

しかも演奏のために付属しているのはばちではなく、オリエントな装飾のされた弓――

「……これって……楽器?」

「俺はそう使っているがな」

……データベースで調べたところ、日本に古来から伝わる雅楽楽器『胡弓』や、中国の『二弧』に似てなくも無い。

だがあの二つは、弦が二本存在している。一本弦の楽器といえば、ベトナムにダン・バウという琴があったが――

これは残念ながら、どう見ても琴でもない。一応『独弧』と俺は呼んでいるが――さて、本当はどうだろうな。

もしかすればもっと弦があったのかもしれないし、弓もそばにあったから一緒にしているものの――

本当は指でかき鳴らす楽器かもしれない。演奏法も何もかも、自分で勝手に考えたものだからな。

第一、   軍に拾われる(・・・・)まで、俺はこれのことを『楽器』という認識すらしなかったのだから――

ただ最初に見たとき、惹かれるものがあったのは確かだ。他の(ごみ)達同様ボロボロであったにも拘らず、

妙に気になったからこそ、俺は何も判らないまま拾って持っていったのだが――

ふと『昔』を思いやって……気付く。あれからもう……十年か。

もうこいつとも、十年の付き合いになるのか……。

俺は胡坐をかいて独弧を膝の上に乗せ、体に預けると、弓を弦へとそっと当てる。

そして――弾く。

殷々と響き渡る、独特の音色。

ロジカルバリアの副産物で、この甲板はちょっとしたコンサートホール並に音響がいい。

その中で俺の独弧は、単弦のために途切れることの無い音色で、時には速く、時には遅く。

さながら生糸を紡いでいくように、曲を奏でていく――

「……………………。どうだ?」

一曲終えて――俺はセレナへと聞いてみた。余韻に浸っていた彼女はやがて目を開くと――

「…………いい音だけど……ちょっと悲しい感じかな?」

「……ほう」

驚いた。

いい音だとは、誰もが言う。

……しかし、この曲を聴いた感想が――俺と、全く同じとはな。

「この楽器……嫌いか?」

「ん〜……別に? どっちかって言ったら……好きなほうかな☆」

そんなセレナの言葉に――俺は知らずの内に、口元に笑みを浮かべていた。

「そうか。……ならもう少し、聴いていけ」

再び弓を当てて、俺は演奏を再会する。

今度は先刻の曲とは違う、心が喜びに澄むような音色で、この空間を満たしていく。

激戦の合間の、束の間の休息――今日はそんな、いい一日だった。