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第四話 『滅』 -vanishing stamp-
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俺はセレナ達の戦況を確かめるため、上を見上げた。
「それそれ、板野サーカス〜☆」
するとセレナが、敵の快速艇の放った、百基以上の多弾頭ミサイル群を、鼻歌混じりにかわしていた。
正直……異常なまでの機動性だが、それ故にデッドリーダンサーのコクピットもまた特別製で、
パイロットシートが無く立ち乗りで操縦するタイプになっている。当然、操作性は劣悪だ。
俺のパニッシメント・ノヴァもそうだが、イスズの開発者は機体にパイロットが乗ることを、
もしかして想定していなかったのではないだろうか。
「でも、いーかげんうっとーしーなぁ。それじゃ……スネーク・ブレイドッ!」
デッドリーダンサーが両肘を突き出す。ガパッと開いた関節部から勢いよく放出されたもの。
殆ど目視できないそれは、無影と同じ素材で出来た、刃の鞭だ。
刀身の中軸に硬線を仕込むことで、鞭の特性を持たせた剣――『刃の蛇』の異名の示すとおり、
それらは空を我が物顔で走り狂っていたミサイルたちを瞬刻にも満たぬ間に絡めとり――
「俺は面倒が嫌いなんだよ……なんちゃって〜☆」
瞬間、勢いよく引き戻された刃がミサイルを引き裂き、空に無数の爆発を生む。
スネーク・ブレイドはその構成が複雑ゆえ、無影ほどには不可視化に成功してはいないものの――
その変幻自在のトリッキーな動きと、鞭ゆえの射程の長さ。
そしてデッドリーダンサー自身の異常なまでの運動性能を鑑みたときに――無影よりも厄介な武装となる。
「よっ……と。これで弾切れ? じゃ……そろそろ、決めちゃおうかなっと☆」
言うなりセレナは、腰の辺りから金髪のカツラ、そして赤いバンダナを取り出し、巻きつけた。
……どうやら、『キャラ』に入ったようだ。
「……いくぞぉぉぉぉっ! 負ける……ものかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
口調すらガラリと変わり――スネークブレイドを仕舞うなり、無影を構え―― 一気に間を詰める!
「アルベイン流・最終奥義! 冥・空・斬・翔・剣ッッッッッッッッ!!」
快速艇と接触し――その間を、駆け抜けるまでに、無影で斬りつけること横薙ぎ数閃。
さらに、とどめとばかりに上空への大きな斬り上げ――確かに、最終奥義の名も伊達ではあるまい。
「……僕らの勝ちだッ! な〜んちゃって☆」
セレナがぺろっと舌を出した瞬間――快速艇は、大きな火球へと変じた――
三隻を、一度に撃墜……か。並みの技量では、あのような戦い方は出来ない。
この辺り、やはりセレナもまた相当のV.A.操縦技術を持っていると、心から関心する。
……あの『コスプレ』の悪ノリも、きちんと働くならまあ……許容しよう。
しかし……一つ難を言わせてもらうなら、デッドリーダンサーのブレードは『無影』だ。
けっして『エターナルソード』などという名前ではない。
だがセレナは一度たりとも無影と呼んだことはないようで……今までの履歴をざっと上げてみたところ、
『剣狼』、『計都羅睺剣』『断空光牙剣』『天上天下念動爆砕剣』『殺劇舞荒剣』『極光剣』『斬鉄剣』
『斬魔剣・弐の太刀』『成田 剣』……よくここまで思いつくものだ。
……だが、冗談を抜きにしてつくづく恐ろしいな。
その斬撃が『見えない』ことが無影の売りだ。
だがしかし、その不可視化があまりに単純な方法ゆえに、それへの対抗手段が存在しないというのだから。
しかもそれでいて、あの斬れ味だ。セレナの腕と無影本来の斬れ味の融合した結果なのだろうが、
そもそも無影の原料である共有結合石英自体、原子配列では本来存在し得ない物質なのだ。
存在している以上は、ダイヤをも凌ぐ最硬度の物質だが――
こんな物質を精製したイスズの技術力には、皮肉も何も無くただ脱帽するしかない。
……もっとも、その技術力を少しでも利用して、この劣悪極まる操縦性を改善して欲しいところだが……。
試作機に対して、その台詞は禁句か。
「もうV.A.は全機墜としたし……後はデカブツだけ?」
「撤退しはじめているがな」
その巨躯を恥じるかのように、慌てて転進し、この空域を去ろうとしている戦艦達。
賢明な、判断だ。
俺達のようなこんな小さな戦力では、とうてい戦艦などは墜とせない――
そう考えていたのだろうが、俺達の戦いぶりを見て、その偏見を捨てたか?
単に臆病風に吹かれたという可能性もあるが――まあ、どちらでも構わない。
それにもし、これ以上ここで戦力を失えば、奴等――ラウンドフォースにも痛手になるに違いあるまい。
……ならば――
俺は快速艇『クレイジーラピッド』へと通信回線を開く。
「……ウインド。ここで奴等を撃墜する」
「何でだ? そうがっつくこともねぇだろうに」
「そう言いたいところだが……ここで奴等を逃すことは、
戦力的な問題以前に、俺達の情報――俺達の機体の戦闘データを少なからず提供することになる。
そうなれば最悪の場合、敵側のV.A.に革命的な技術を提供する可能性にも繋がる。……違うか?」
俺の言葉に――ウインドはしかし、不敵に笑うと、
「ま、ようするに腹が立つからぶっ潰してぇんだろ? だったら、止める理由もねぇな。
じゃ……オレとセレナで前の二つを叩っ墜とすから、お前は奥の3つをよろしくな」
「了解した。……スラスター・フルバースト!」
最大戦速で離脱しようとする敵の戦艦に、俺の機体が追いつくまでの時間。
そこから上昇し、直接に接触するまでの時間。
そして俺達の本来の任務である、陸軍第七方面第一補給部隊との合流時間。
それらすべてを考慮すれば――俺が見舞えるのは、せいぜい一撃が限界だ。
左腕――ピアレスならば、戦艦の装甲など無きも同然。
一点集中で、戦艦にとってのアキレス腱でもあるクランクシャフトを破壊してしまえば――撃墜は容易だろう。
しかし三艦を一撃で……となると、左腕では正直なところ、難しい。
となると……右腕を使うしかないか。
と――
「ふふ☆ 逃げちゃダメだよ。スネーク・ブレイド!」
姿無き二頭の蛇が、雁字搦めに戦艦の巨躯を縛り上げ――
「奥の手奥の手☆ スラッシュ・シート!」
デッドリーダンサーの胸部が開き、そこから勢いよく射出されたもの――
それは、まるで闇を切り抜いたように黒い、短冊状の無数のシート。
超展性ニッケル鋼製、厚さ0,82×10−2μm。
内蔵されたファイバーセンサーが周囲のデータを瞬時に収集・空気抵抗の最も少ないルートを選択し、
黒色塗料に含まれた特殊な薬品が空気と急激に反応・それにより生まれる大推力で音速以上の速度で飛来する。
それは無影すら上回る、抜群の斬れ味を誇る『奥の手』だ。射撃武器としても十分な性能だが、
その真価を発揮する密着状態――超々至近距離からの一斉射撃の威力は――
「あははは、轟沈轟沈〜☆」
……ということだ。一方、ウインドの方を見やれば――
「甘い、甘い! そんなチンケな対空砲火が当たるかよってんだ!」
SSS−001P『クレイジーラピッド』。ウインドの快速艇で、やはりイスズの試作機なのだが――
こいつは俺達の機体以上に異常だ。何せ開発時のコードネームの時点で、
『エクストラオーディナリー』――『異常』と呼ばれているのだから。
黒地に白のアクセント。滑空状態の鳥を思わせる痩軀のボディ。快速艇らしい――
そしてイスズらしいデザイン。まあ、これは別にいい。
しかし、ロジカルシステムを応用した推力システムは、通常速度でマッハ33――
この速度は、普通に飛行して地球の重力を振り切ってしまう速度と同じだ。
そして最高速度はマッハ89,000――光速度の十分の一に達する。
こんな速度で航行すれば、大気中では空気圧で発生するソニックブームで地表は深く抉り取られ、
機体は瞬時に圧力に耐え切れず空中分解――それか星の引力圏を離れ、遥か宇宙へと飛んでいく。
宇宙でも、星雲ガスや塵芥――質量にすればほんの数グラム、数十グラムの宇宙の漂流物も、
光の速度の十分の一などという狂った速度で相対すれば、船体にぶつかった時の破壊力は機雷も同然だ。
そのためにソニックブーム防止のため、デッドリーダンサーのように船体をロジカルバリアで包み、
引力を振り切るような速度の場合はさらに前方にチューブ状のバリアを張り、
それに沿うようにして直進する――という、前代未聞の無茶苦茶な方法で航行している。
……しかし――高感度ホーミングミサイルや速射砲の弾丸の嵐を掻い潜り、
全弾回避していられるのは一重にウインドの操船技術が抜きん出ているからだ。
直線に強い快速艇ゆえ、小回りの効きづらいそれでまるで曲芸のような動きを再現するウインドは――
軍属になるまで『スパーク・ゼロ』のパイロットだった。
『スパーク・ゼロ』――それは未来における、いわゆるレース娯楽の一つだ。
ロケットにコクピットを無理やり取り付けただけの危険きわまる機体で宇宙空間をレースさせ、
競い合わせてその順位を賭ける。未来では熱狂的なまでの支持を誇る賭けレースだが――
カーブを一つでも曲がりきれなければ、即死。
順位が3位以内に入らなければ、即死。
機体がロケットだから、爆発する前にゴールして脱出せねば無論――死。
そして途中で逃げ出したり、脱出しようとすれば撃ち殺され――死。
その中でウインドは、18歳まで8年間を行き続けてきたらしい。
非常に死亡率が高い分、莫大な富をもまた手中に収められる『スパーク・ゼロ』のパイロット――
だがウインドはその栄光の座を蹴って軍属となった。異常なまでのスピード狂の彼からすれば、
『遊びではない』本当の命がけのスピードに身を置きたかったから――とのこと。
それさえかなえばどこであろうと関係ないらしい。とはいえその技量は『本物』だ。
操作系は違えど、コンセプト的には似ているパニッシメントノヴァの操縦のいい参考にさせてもらっている。
……ただ――
「へっ! 風の魔装機神の名はダテじゃねえんだよ!!」
……ウインドにも、セレナに似た趣味がある。
ただ彼の場合、この『風の魔装機神』で固定されているが。
「今度はこっちの番だ……釣りはいらねぇ、とっときな!!」
意気込むウインドだが――この快速艇、実は武装が一切搭載されていない。
まあ、もともと快速艇の武装など貧弱な機銃くらいしか搭載されていないものなのだが――
それでも『武装がない』というのはまた極端、異常である。
したがって、その攻撃方法も常軌を逸していた。
「出力上昇・フルスロットル! ロジカルバリア全開ッ!!」
クレイジーラピッドが加速し――同時に、下方尾翼をチューブ状のバリアへと擦り付ける。
船体が炎に包まれ、その速度が一気に跳ね上がる――
『クリムゾン・フレアー』――船体のバリアとチューブ状のバリアを干渉させることで加速度を得、
副産物的に船体が炎に包まれるというドライビングテクニックの一つだ。
ただしこの干渉の度合いは非常にシビアで、あと少し浅かったならこの現象は発動せず、
深ければ船体は木っ端微塵に吹き飛ぶ。常人を遥かに上回る操船技術の求められるものだが――
ウインドからすれば、朝飯前の技術でしかない。
そして、その加速が臨界点に到達し――終着点にある六芒星陣へと到達した時!
「いっけぇぇぇぇっ! アァァァカシック・バスタァァァァッ!!」
クレイジーラピッドが『消える』。
同時に――敵艦の側面に、まるでマスドライバー事故でも遭遇したかのような巨大な風穴が開き――
……轟沈、か。
マッハ89,000による、一点突貫――
ロジカルバリアによってソニックブームや船体への反動は抑えられ、目標のみにダメージは行き渡る。
だが……母艦の攻撃がこれたった一つしかないとは……まさに『弾丸』というわけか。
……もっとも、そういう俺もあまり他人の事は言えんが……な。
フリーカスタムカードを引き抜き、上のスロットルへ。
そして、誤作動を防ぐためにつけられていたアクリルカバーを外し、中のスイッチを指で押し込む――
……………………。
パニッシメントノヴァの右腕は、特殊固定武装となっている。
ようするに、デッドリーダンサー同様、普通の手の形をしていないということだ。
マニュピレーターが無く、肘から先が二回りほど肥大しているその外見は――
丁度、腕を骨折した時にはめるギプスを装着しているような感じだろうか。
武器名称は『バニシング・スタンプ』。使用回数は3回。マニュアルに添付してあった資料によれば――
『衝撃の……ファァァァァスト・ブリッドォォォォォォォォッ!!』
『撃滅のセカンド・ブリッドォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
『抹殺のォ、ラァァァスト・ブリッドォォォォォォォォォォッ!!』
と、保志総一郎声で叫べ……と書いてあるが……そんなことはどうでもいい。
「………………とった!」
敵艦の対地砲火をすり抜け――踏み込む。
大型ラピッド・スラスターが、重量級の外見からは想像不可な速度で機体を持ち上げ――
「『バニシング』と銘打つなら……消し去ってみせろ!」
その巨体へと、右腕を――
「バニシング・スタンプ……一撃目! 逝けぇっ!!」
撃ち込む!!
――転瞬、凄まじい振動と衝撃。
白光がコクピットを染め、殆ど落下に近い形で着地する。
「花火師は男の仕事、命がけってヤツ?」
「……さあな」
見上げたそこにあるのは、白い火球。
戦艦三隻を飲み込み、なおも貪欲に獲物を欲する破滅の輝き・対消滅――
反物質。それは文字通り、物質と反する存在。
物質を陽とするなら、それは陰の存在であり―― 一対の関係である。
反物質は、物質と接触をすることでその質量すべてを全てエネルギーに変換する『対消滅』を引き起こす。
その威力は核をも凌駕する、究極にして最凶のエネルギー。
バニシング・スタンプはH.C.S.で循環する生命エネルギーを、
メルキオール変換で反物質に変換・右腕部前方の空間に精製する。つまり――
標的の内部で精製・対消滅を叩き込むのだ。
いかに強固な装甲だろうと、その内部は所詮、精密機器。
対消滅を止められず――そもそも、対消滅のエネルギーに耐えうる物質など存在しないが――
内部から、標的を滅砕する。そして今、俺の頭上での光景と相成るわけだ。
無論ながら、問題点も多い。
同じく反物質の砲弾を発射するリヴォルケインの『ブリューナグ』は弾数制だったのに対し、
このバニシング・スタンプは連発することを前提に、エネルギー精製式となった訳だが――
この世には『質量・エネルギー保存則』というものが存在する。
たった1gで、周囲数十kmを消し飛ばすエネルギーを生む反物質ではあるが、
裏を返せばたった1g精製するのに周囲数十kmを消すエネルギーを必要とするわけである。
そしてエネルギーを転換する以上、そのエネルギーは決して戻っては来ない。
使うたび――俺の命は削られていくわけだ。
……とはいえ、パニッシメントノヴァに積まれた新型のH.C.S.は、
生命エネルギーの増幅率が非常に高く、おかげで実際に寿命が縮んだりするわけではない。
せいぜい、心身ともに疲労するだけだ。その疲労が操縦のキレに現れ始めるのが、四発目以降。
だからこのバニシング・スタンプは使用回数を3に指定しているのである。
「さて……時間も無いな。ウインド、カタパルトを開けてくれ。帰投タイミングはこちらから合わせる」
「へいへい、了解っと。ミスって船に傷つけんなよ?」
「安心しろ。失敗すれば、速度的に考えて傷どころか轟沈だ」
「おお、こわ」
苦笑しつつもウインドはカタパルトを開ける。俺の技量を信頼しているからこそだ。
と――
「ああ……ウインドとユーイチ……愛し合う二人の非業の死。
それでも、この世界では結ばれることの無い二人の魂は、この死によって永久に結ばれたのだった……☆
やっぱりBLは、泣けて萌えるのが一番、一番☆ あはははは☆」
なにやらほざくセレナに、俺は自分でも明らかに冷淡だと思う口調で、
「そうかそうか。もうデッドリーダンサーの整備、手伝う必要がないんだな?」
「ちょ、ちょちょユーイチ!?」
狼狽するセレナに――俺はさらに、追撃をかける。
「手伝わなくても自分ひとりで何とかなるそうだぞ、スフィー」
「あら…………お手並み拝見ね……ふふふふふふふふふふ」
「ああ〜もう冗談冗談、冗談だからさぁ、だからユーイチ、怒んないでよ〜!」
『チームブリッド』――限りなく、死に近い突撃部隊。
……しかし、何故だろう。恐怖や緊張とは程遠い、この雰囲気は。
ウインド。スフィー。そして――セレナ。
そろいもそろって、馬鹿ばかりだ。
……だが――
「ん? どしたの、ユーイチ?」
「…………いや、何でもない」
「……そ? でも、ユーイチ……嬉しそうだね☆」
「嬉しい……?」
「だって……ユーイチ、笑ってるじゃない☆」
俺は知らずのうちに、口の端に笑みを浮かべていた。
「…………そうか」
「うん、そうそう☆」
いつもなら、慌て表情を消すところだが――今日は何故か、このままでいい気がした。
そんなことを思いながら――俺はスラスターの出力を上げ、帰投するために大きく踏み込んだ――
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