V.A.  Another story  “Team bullet”

 

 

第三話 『檄』 -punishment nova-

 

 

「着地モーション誤差修正――着地」

手動でモーションの微調整をして――轟音と共に、地面へと降り立ったのは。

SVA−003P−S『パニッシメントノヴァ・ストライクフレーム』。

俺の機体だ。この機体は、『フレーム』と呼ばれる外装パーツを換装することで、

近距離戦闘用の『ストライク』、そして砲撃戦用の『アームズ』の2パターンに戦える。

現在装備しているのが、前者の『ストライクフレーム』ということになる。

デッドリーダンサーが軽量な見た目なのに対して――こいつは『堅牢』『重厚』を体現したような

重量級のフォルムになっている。事実、装甲の厚さは他のV.A.の比ではない。重量もだが。

「さて、と……やるか」

今の俺の左腕を覆う、コクピット直結の機器。

仮に今、俺が左腕を動かしたなら、機体の左腕部もその動きを忠実に再現してしてみせる。

操縦者の動きをそのままに、機体にフィードバックさせるイスズの新技術『パペット・システム』。

それがこの機体には、試験的に左腕部にのみ導入されているのである。

そのために、この機体のコクピットは他のV.A.よりも遥かに広い。

擬似的に肉体を再現するために使われた素材・強化カーボネイトマッスルで作られた特注マニュピレーター。

この腕が人間のどんな微細な動きも残さず再現し、今までではモーションパターンを入力しなければ

実現できなかったような多彩な動きは、V.A.の戦闘を一変させる――

売り文句がそういうことらしいが、実際に扱ってみた俺からすれば、

非常にクセのある操作性といい、その他の全ての操縦法は今までどおりの操縦法のため、

結果として片腕だけでV.A.を操縦しなければいけない点といい、まだ改善の余地は山ほどあるな。

また、左腕が自由に動くゆえ、各装備の互換性が効き、結果としてどんな状況にも投入できる――

この売り文句もまた、実のところ信じるに値しないと思う。

……何故なら――

「その隙……いただくぞ!」

俺の機体から丁度直線状に立っていた一機のV.A.――

俺は機体背部に積まれた大型ラピッドスラスターを一気に吹かす。

初速からほぼ最高速度をたたき出すそれで、一気に二機間の差を詰め――

そのまま俺は――左手を固く握り締める!

「…………逝け!」

加速した左腕は、ものの見事に相手のコクピットごとV.A.を貫き――転瞬、広がる紅蓮の炎。

速攻だ。だが別に、俺は何か特別なことをしたわけでもない。

ただ加速して――相手の機体を殴りつけた。それだけのことだ。

無論、強度的に脆弱なマニュピレーターでこんなことを続けたならば、ものの数発で

間接周りが破損・使い物にならなくなってしまっているだろう。しかし。

『ロジカル・システム』を応用した一種の保護フィールド発生器が左腕に組み込まれているがために、

この無謀ともいえる行為に対しての左腕への負担は著しく抑えられている。

ロジカル・システム――それはメルキオール変換の応用から生まれたシステム。

X、Y、Z軸――すなわち三次元世界に存在するベクトル達。

それら全てをある一定の方向へと強制的に向けさせる――これがロジカル・システムの全容だ。

それはつまり――敵の攻撃をすべて跳ね返すバリアにも、敵を永久的に追跡・捕捉する

ホーミングにも転用が可能な究極のシステム。

デッドリーダンサーも、対外からのベクトルを殺すためにこのシステムが組み込まれている。

試作第一号機であるリヴォルケインにも組み込んではあるらしいが――未完成のため、使えないらしい。

とはいえ――この二機に組み込まれた目的は、あくまで姿勢制御用のもの。

純粋に、攻撃用にシステムを導入したのは俺の機体が初めての試みらしい。

左腕のフィールドは、干渉しようとする全てのベクトルを前方に向け、敵を貫く。

そして恐ろしいことに――全てのベクトルとは、反作用もまた含まれるいるのだ。

反作用――水上のボートの上で、他のボートをを押せば、相手同様自らも離れていくように、

一方に力を加えた瞬間に、力を加えたものにもその逆の方向へ力を加えられるという現象のことだ。

とはいえこの力、遠心力と同様、現実には存在しない見せ掛けの力のことなのだが――

このフィールドは、その反作用の力すらもベクトルとして感知し、前へと向けてしまうのである。

しかし前方へと力が加算すれば――またも反作用が発生し、それがまた前へと加算されていき――

相手を貫ききってしまうまで、永久にエネルギーが加算され続けていくのだ。

事実上、この左腕――名称『ピアレス』に、貫けないものは存在しないこととなる。

……もっとも、このピアレスは機体操作のマニュアルによると、

『防御用シールドの代用・火器の反動の軽減、または弾薬が費えた時の非常用兵装』となっている。

しかし――説明文をスクロールさせていけば――

『念動集中! T−LINKナッコオォォォォォッ!! 鉄拳……制裁ッ!!』

とかいう『掛け声サンプル』なんぞがある辺り……どうも最初から打突メインで戦うもののようだ。

……と――その時。V.A.の爆発を引き裂いて――銃撃があられと降り注ぐ。

「……クッ!」

火焔を貫く、劣化ウランの弾牙達。補助スラスターをフルに開いて回避するが……。

重い。何て……機動力の低さだ。

パニッシメントノヴァは、直線の動きならば背部の大型ラピッドスラスターのおかげで、

デッドリーダンサーにも劣らない速度を保てる。しかし、それが横の動きとなると――

全身に申し訳程度についた、補助用のスラスターしかないのである。非常に小回りの利きづらい機体だ。

それを考慮しての、この重装甲――確かにこいつの硬さは、並のV.A.とは別格かもしれない。

しかし、だからといって艦隊を沈める要塞砲の一撃に耐えられるほどに強固というわけではない。

関節部なども構造上、装甲を薄くせざるを得ないし、背部股関節第三スリット――

すべてのV.A.に共通するこの絶対の弱点もまた、克服しているわけでも無い。

そして機体重量からくる、装甲の金属疲労も考慮すれば――

『全V.A.最高強度』の謳い文句も、慰めにすらなってくれはしない。

機体の回避プログラムに任せていては、確実に被弾する。俺は操縦補佐システムをカットして、

コクピット右側面にびっしりと並んだ操作盤へと指を躍らせ、手動で機体を操縦する。

しかし……片手でV.A.を操縦しながら、数十あるスラスターの出力調整をしてみせるのは……

これでなかなか、人間の限界を試させてくれる。凄まじくパイロットのことを考えていない設計具合だ。

もう3度目の出撃だというのに、未だスペックの84%しか能力を引き出していない理由が、そこにある。

こんなピーキーな機体……量産しても、誰も乗りこなせんぞ?

そろそろ、回避にも辛くなり始めた――その時だった。

「それっ、援護援護〜☆」

そんな通信と共に――V.A.の一機が突如押しつぶされ、爆発四散する。

相手側に明確な動揺が広がるが――その現象の正体を、俺ははっきりと自覚していた。

何故ならV.A.の爆発の中、その中心の空間だけが爆発に彩られていなかったためだ。

いや――それは、空間ではない。共有結合石英で出来た、透明な刀身――

「あたしの援護☆ タイミングぴったりだったでしょ〜?」

「タイミング的にはな。……だが、必要なかったことだ。セレナ、お前はお前の敵に集中しろ」

通信画面の先で――セレナはぷくっと頬を膨らませた。

「ぶーぶー、そんな事言うんだ。ユーイチ、まだ機体に振り回されてるから折角来たのに〜」

「振り回されてる……だと?」

「だって〜、今のユーイチのスペック、基本の84%だしぃ〜」

「お前だって117%……褒められたものじゃないだろう」

「で・も・〜、あたしは三ケタだしぃ〜」

「俺も今回で三桁まで引き上げるさ。……300%程度まで引き出せないと、折角新型をもらった意味も無いからな」

「ふふふふふふ……聞いたわよ、ユウイチ君……」

と――通信回線に、いきなり陰気な笑い声を響かせたのはスフィーだった。

内心の動揺を外に漏らさぬようにしている俺を差し置き、スフィーはにぃっ、と擬音が立つような笑みを浮かべて、

「ふふふ……ユウイチ君。確かに、三桁以上の性能を引き出してもらいたかったけど……自分から宣言なんて。

 当然、自分で言ったからにはその責任を取ってもらうわよ。ふふ、ふふふふふ……もし三桁に行かなかったら」

「…………行かなかったら……どうなる?」

俺は確信に近い、嫌な予感に心臓を舐められるような考えに――それでも、先を促した。

「行かなかったら……その時は………………」

と――スフィーはそこで両手で頬を挟むように、そっと瞳を閉じた。

紅潮しているその頬は薄い桜色に染まり、薄く閉じた瞳の長い睫毛が、わずかに震えていた。

……スフィーの本性を知らないなら、否、知っていたとしても――今までの言動を全て忘れて、

心をすべて奪われ、もしくは自ら捧げてしまうほどに、その姿は美しかった。

しかし――その唇が。開いた瞬間漏れ出たのは――

「ユウイチ君を分解して機体の生体パーツに改造して組み込」

俺は即行で通信回線を切る。

「あ……あはは、そ、そそ、そんじゃ、また後で☆」

どこからどう見てもひきつった笑みで――セレナが通信を切ったのが判った。

静寂が支配するコクピットの中――奇妙な孤独の中で、俺は自覚した。

急がねばならない。即急に。迅速に。

俺は即座に前方のスクリーンとレーダーに目を走らせ、状況を分析する。

……先刻の俺への銃撃で弾倉の残弾を撃ち尽くしたのか、V.A.は先刻までの攻撃を中止した。

再装填の間をつなぐように、自走砲の砲撃が開始されようとしている。

しかし――二つの間に生じる僅かな隙を、今逃しているほど俺に余裕はなかった。

狙うは――最前列で再装填しているV.A.二機。

即座に仕留めねばならない。俺は遠慮なく、大型ラピッドスラスターの出力を最大に跳ね上げる。

まるで爆風に吹き飛ばされたように加速した機体は、相手が何らかのリアクションを取る前に間を詰め――

一機を爆炎へと変えた後、俺はラピッドスラスターの出力をカットする。

そのまま機体重量と補助スラスターを利用し方向を転換しつつブレーキ。そして再び、

大型ラピッドスラスターの出力を最大限へと変える。急激に全身にかかる荷重()

しかし俺は、息を詰めている瞬間すら惜しい。そのまま突撃し――

「貫く〈ピアレス〉と銘打つのなら……文字通り、貫いて見せろ!!」

さらに踏み込む!

同僚と仲良く炎に包まれるその機体――だが、休んでいる時間は無い。

まだ相手の戦力はV.A.が6、自走砲が3だ。

アームズフレームの時は全身火器でも、ストライクフレームには射撃武器の類が一切無い。

……こんな事なら、格納庫から携帯火器の一つでも持ちだして来るべきだったか?

と――愚痴をこぼしている暇すら、今の俺には無いのだしな……。

……ならば……!!

「図体の大きい方から……勝負!」

スラスターを吹かし、迫るのは――発射直前の自走砲。左手を、鉄拳の形から手刀へと変えて……もらった!

――甲高い、澄んだ音が響き――自走砲の、長大な砲身が根本から切断される。

どうやらこの砲身は実弾ではなく、光学――荷電粒子タイプだったらしく、

行き場を失ったエネルギーが見事に丸い火球へと転じるのには、瞬刻の時間すら必要ない。

左腕のロジカルフィールドは、手の形によってその用途を変える。

拳の時が、そのベクトルを前に変えるものならば、この手刀の場合はそう――

軌道上を境に、その反対方向へと裂くような――すなわち、文字通り手「刀」と化す。

だから砲身の切断面はこれ以上無いほどに滑らかだ。

超高熱で機体を焼ききる『ヒートブレード』でも、ここまでの滑らかさはそう出せはしない。

まさか、手刀で自走砲の砲身を切り裂かれるとは思っていなかったのだろう――呆気に取られている敵達。

しかしそいつらへ説明してやる時間も無いし、義務も無い。俺は掴んだ砲身をそのままに横に薙ぐ。

発射の衝撃に耐えるため、非常に強固な造りとなっている砲身は、そのまま2機のV.A.を叩き潰した。

そして、槍投げの要領で砲身を投擲――面白いほどあっさりと、それは2台目の自走砲へ喰らいつく。爆発。

――しかし。その時には、最後の一台がすでに発射体勢を整え、俺へと標準を固定していた。

今度は……実弾、か。あの短時間に光学から切り替えたというのなら、

たいした判断力だと賞賛してやりたいが……残念ながら、俺はその攻撃を喰らってやるわけにもいかない。

砲身の角度、狙われている箇所から……弾道予測、開始。

左手を、手刀から、掌底へと変化させて――そこか!

轟音、鳴り響き――砲弾が空気抵抗を食い破り、俺へと疾駆する。

だが――俺は、左手を突き出して――その手が、宙で砲弾を受け止めていた。

……否。それだけでは――無い。

砲弾の発射時の勢いが、受け止められたことにより減殺・吸収され――それがゼロになった、転瞬。

左手の前方にあった、砲弾が――逆戻りした(・・・・・)

まるで映像ファイルの逆戻し再生のように。砲弾が、それを先刻吐き出した砲口へと吸い込まれ――

灼熱の業火が、モニターを瞬間席巻した。

……マニュアルに、『防御用シールドの代用』とあるように。手の形を掌底に変えた場合、

そのフィールドは対象のベクトルを180度逆転させてしまう。V.A.が高速で動きながら、

マシンガンのようなばら撒き形の射撃でも行なえば、それは単なるシールドでしかないが――

発射の際に機体を固定せねばならないような大型の火器の場合ならば、

このフィールドであべこべに相手に砲撃を返し、沈めることも可能だ。

別名『ロジカル・バリア』。リヴォルケインに搭載する予定だった装置でもある。

自走砲の爆発が、上手い具合に一機のV.A.を爆風に巻き込み、誘爆させる。

残るV.A.は、ただ一機のみ。……しかし、この機体は他のものとは、微妙に細部が異なっていた。

何より、背に抱えた長大なハードケースが印象的だ。……指揮官機、か。

悪運の強い……いや、持ち前の技量で、窮地を脱してきたというのか?

ともあれ――この機体は、すでに撤退する様子は微塵もなかった。賢明な判断だろう。

撤退すれば後ろから追いかけて叩き潰すだけだからな。

指揮官機は、徹底抗戦といわんばかりの仁王立ちで、背の長大なハードケースを外す。

地面に落ちた衝撃で、ハードケースを留めていたボルトの中の火薬が爆発し、封印が解かれる。

拾い上げ、正眼に構えたその中身は――中世のバスタード・ソードにも似た長大な実体剣。

機体の外の音を、必要なものとそうでないものに自動的に取捨選択するシステムが拾った、

数十万もの羽虫が一斉に羽ばたいたようなざわつくこの音からするに――恐らく、超振動のものだろう。

超振動ブレード――それは、科学の力で現代に蘇った魔剣の代名詞。

あらゆる物質を分子レベルで分解し切断する科学の妖刀。

……しかし、そのエネルギー供給はH.C.S.ではなく、電力。柄のバッテリーで稼動するのだが、

稼動を持続させるにはかなりの電力の浪費を強いられ、そのうえブレード自体、超振動の力にそう長くは耐えられない。

殆ど、使い捨ての兵器といっても良いのだが――その威力は、そのマイナス面を補って余るほど。

相応の熟練者が、使用を限定して振るえば――充分に、一撃必殺の脅威となる……ということだ。

刀身を下に、片腕で構えなおして――そのまま、一気に突貫してくる。

意外と、その速度は速い。どうやら相手は、この獲物を使い慣れているようだ。隙も無い。

……補助スラスターでは、流石に振り切ることは出来ないようだ。

ならば――

間合いに入った瞬間、指揮官機はブレードを振り上げる。前触れが無いために、奇襲としては申し分ない。

寸前、胸部に装着された補助スラスターを噴射しそのブレードを追いやれたのは、実戦で培った勘のおかげだ。

だが――そこから指揮官機は、振り上げた手を翻し、反動で面打ちとばかりにブレードを振り下ろす。

同時に踏み込み、射程が若干、伸びるように落ちかかり――

これでは、超振動ブレードの喚起する刃から逃れるのは無理だな。

だがブレードに触れでもすれば――この魔剣は、自称「V.A.史上最高強度」のこの機体を斬り下ろすだろう。

何の抵抗も無く、俺ごと……な。

――無論、そういうわけにはいかない。

ブレードが雷光の如き勢いで落ちかかる。そして、その刀身が俺の機体の装甲を易々と斬――

「…………!?」

見えないはずの、指揮官機のパイロット――その驚愕が、何故か手に取るように感じられた。

――斬り裂く、寸前。俺の左腕は、超振動ブレードの刀身をしっかと掴んでいたからだ。

超振動のような複雑なベクトルの集合体すらも――ロジカルフィールドの前では、無力だった。

「……残念だったな。必殺の一太刀……だったんだろう?」

名も顔も知らぬ相手パイロットの驚愕ぶりに、同情の余地が無いわけでもない。……だが。

「『必殺』で殺せなかった以上……もうお前にニ太刀目は無い」

左手の形を、掌底へ――

瞬間、超振動のベクトルがすべて、刀身へと反射された。

刀身を伝わり、その振動は増幅されて指揮官機へと照射され――

腕が。胴が。脚が。頭部が。――微塵に、崩れていく。

そしてブレードの刀身も、幾分かの耐性があるとはいえ、完全に耐えうるわけが無い。

左手の中で、名残とばかりに刀身が分解され――指揮官機は跡形も残さず、完全に消滅した。

それは無論、中に乗っていたであろうパイロットも含めて。

だが――それだけのことだ。そこに俺の心は、僅かな感情の機微さえも自分で見出せなかった。

それよりも俺は、超振動を受け止めた後のこの左腕のえもいえぬ痒みのほうがずっと気になる。

伝家の宝刀・超振動ブレードさえも防ぐ究極の盾。……たしかにここは売り文句の通りだが、

この正座した後の足のあの痺れにも似た痒みを併発させるのだけは勘弁して欲しい。

出来るだけ、かわすようにしろということなのだろうか……?

と――指揮官機を最後に、地上に残っている残存戦力はゼロになった。戦域制圧だ。

だが……まだ地上を押さえたに過ぎない。上空ではさらにV.A.や快速艇・戦艦も残っている。

俺はセレナ達の戦闘状況を確認すべく、上を見上げた。