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第二話 『舞』 -deadly dancer-
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世も、末だ。
最近、どうもこの言葉の使用率が高くなってきたな……。
座右の銘になるのも時間の問題か?
「座右の銘って……ずいぶん年寄りクサくない?」
「だから言葉にしていない部分の突っ込みはやめろ。と……風呂上りか?」
「そ☆ 湯上りの珠ハダってヤツ? 今が食・べ・ご・ろ?」
「何をだ」
「もう、判ってるクセにい〜☆」
――快速艇に、居住性を求めるほど俺は愚かではない。潜水艦もそうだが、
この手の類の特殊船舶というのは、その性能を向上させるために無駄な機能を一切排除してしまうものなのだから。
その『無駄』のもっとも最たるものが、快適な居空間――アメニティ、というものだ。
兵士など、それこそ無限に代わりの利く『消耗品』でしかないのだから。
現にこの船――『クレイジーラピッド』も例外なく、一部の通路が通風孔を兼ねていたり、
一部の壁からパイプがせり出してきていたりとしている。
ドライバーなど、睡眠時もシートで寝ていることを考えれば――
共用とはいえ、休む部屋が与えられているだけでも感謝せねばならないのだろう。
しかし。
何故……セレナと同室なんだ?」
「なに、あたしじゃ不満なの〜? しっつれい、ぶーぶー」
「そういう問題じゃないだろう」
頬を膨らませて反論するセレナは、よりによってひよこさん柄のパジャマを律儀に着込んでいた。
ああ、こめかみの辺りが重く、痛い。
「ユーイチ、それって偏見だよ〜。確かにあたしはショートヘアだし、キャラの方向性としては
きっとボーイッシュ系でいこうとしたんだろうけど……一応、16歳の美少女だし。
まあ、前の私の同僚とかもみんなタンクにショートパンツだったけどさ……」
さて、どこから突っ込むべきだ……?
「で……ユーイチは? ご飯にする? それともお風呂?」
「いや……寝る」
「――え?」
「素に恥ずかしがるな。……しばらく、仮眠を取るだけだ」
「な、なな、何だ、そだよね。あ、あははは〜☆」
そこまで動揺するのなら紛らわしいことを言わない方がいいと俺は思う。
「……まあ、ユーイチがどうしてもっていうなら、別にいいんだけど……さ……」
……わざと言っているのか?
俺はとりあえず気付かなかった態で、腰かけていたベッドに背中から倒れる。
「あ、でもでもユーイチ。さっきも寝てなかったっけ?」
「まあな。……俺は寝だめが出来る方だし、特に時間を潰せることも無いからな」
実はあるにはあるんだが……それはまだ、この船には届いていないからな。
「……じゃあさ、これからあたしと格ゲー大会〜☆ どんどんぱふぱふ」
そう言ってセレナが、ベッドの下からゲーム機を引っ張り出す。この時代のもののようだ。
「そうか……で、ゲームの方は?」
「ストーリー・ブレイカーで☆」
ストーリー・ブレイカー。……確か、ゲームバランスは並程度だが、この当時に開発された
「音声入力システム」のおかげで一世を風靡したゲームだったはずだ。
「じゃ、レッツ・プレイ♪ クレセント様の厚い胸板に萌え萌え〜☆ あははは☆」
「いいだろう……俺も本気で行く」
「うふ☆ 後で泣き見ても知らないかんね〜。このあたしのクレ様への熱い思いは本物よ〜?」
「やってみれば判ることだ」
俺達は互いに不敵に笑んでみせ――個室に備え付けの14インチTVにRGBケーブルを繋げる。
そしてスイッチを入れようとした――その時。
艦内に響き渡る、けたましい電子音――
備え付けてあったTVが自動的に電源が入り、そこに映ったのは一人の男だ。
ウインド・クーパー中尉。23歳で、チームブリッドでも最年長の人物だ。そしてチームリーダー兼、
快速艇「クレイジーラピッド」のドライバー(操舵主)でもある。
「ユウイチ! セレナ! 8時方向にメルキオール反応多数!」
メルキオール反応……つまり――敵か
「判った。3分で俺達の機体を出せるよう、言っておいてくれ」
「え? 折角お風呂は入ったのに〜。ぶーぶー」
「入りなおすんだな。……急ぐぞ」
パイロットスーツは、基本的に衣類の上からでも着用が可能なつくりになっている。
訓練の成果もあり、30秒と立たずに装備を整え、俺達は格納庫へと走った。
格納庫――このクレイジーラピッドの中でもっとも堆積を使っている空間であり、必要不可欠なもの。
俺達の機体――V.A.が二機、それでもなお狭そうに格納されている空間。
そして、そこに一人、ぽつねんと立っていた女性に、俺は話しかけた。
「俺達の機体……出せるか?」
その問いに――こくりと一つ頷いた彼女。すらりとした長身に、温室で育ったかのように白い肌。
緩やかに伸びた黒髪は腰までを覆い、その顔はまるで御伽噺の女神様のような美貌だ。
これで豪奢なドレスでも纏っていれば――社交界の花形ともてはやされているのだろうが、
残念ながら彼女の纏うのは丈夫さがとりえの整備服であり、手にはめているのはシルクの手袋ではなく軍手である。
そして――この艇に乗っているのだから――彼女は貴族でもお嬢様でもなく、軍属の人間だった。
スフィー・トゥインクル。この年19になる、この艇の整備兵だ。
……しかし。黙っていれば美しいであろう彼女の口が開き、漏れ出たのは――
「セレナさん……ユウイチ君……整備、出来てるわ……ふふふふふ……まあ……整備不良で撃墜されても、
それはそれでいいデータと整備のし甲斐があるけど……ふふふふふふふふ……」
……中身はこういう人間、というわけである。何故、俺の周りにはろくな女性がいないのか。
なまじ顔が美しい分、首をカタカタ震わせて陰気に笑う彼女は正直、怖い。
俺はなるべく彼女を視界に入れないようにしつつ、真っ直ぐに自分の機体へと向かって走る。
……彼女はああだが、実際には彼女の整備の腕前は凄まじく高い。俺達パイロットも整備を手伝うとはいえ、
最低人数5人は必要とされるV.A.の整備を、たった一人でこなしてしまうのはさすがとしか言いようが無い。
ただでさえ、俺達の機体は通常の機体とは訳が違うというのだから。
そう――俺とセレナのV.A.、そしてこの快速艇「クレイジーラピッド」を含め、これらは
V.A.市場最大規模を誇り、軍の正式採用機も多い超大手企業「ラーダ・インダストリィ」の量産型ではない。
V.A.市場の異端児との異名名高い「イスズ製作所」の試作機なのである。
イスズ製作所――零細ながら、近年その頭角を急に現してきた企業。栄えある処女作である試作機一号
SVA−001P『リヴォルケイン』。全身の武器を使い捨て兵器で構成するという常軌を逸したコンセプトと、
通常の機体の3倍もあるフォルムは、発表時には世間の非難と冷笑のタネとされていたが、
謎の時空転移により3002年、反逆したメルレイン元上級大将の手に渡り、単機でカール元帥の指揮した
先遣第三艦隊を壊滅させてみせたことがその扱いを一変・今もっとも注目を浴びる会社となった。
そして、その栄えある企業の最新型の試作機――カール元帥のおかげで、これが俺達の手元に回ってきた。
最新鋭の機能をもつ、超高性能機体ばかりが配属されているということになる。
十二分に、機体のテストを兼ねた配慮……ということが予想されるが。
俺達のような部隊はもっとも戦禍の中にいるために、機体の実戦戦闘データを収集しやすいこともあるし、
非常にクセのある機体のために俺達ぐらいでしか乗りこなせない……ということもあるしな。
まあ確かに、量産機のカスタム程度では追従性が間に合わず、すぐ間接周りが損耗するんだが――
コクピットに乗り込み、ハッチを閉じる。脇のスロットへとカード――フリー・カスタム・カードを差し込む。
それによる個人情報認識が第一ロックを解除して――俺は息をすっと吸い、短く一言。
「アンロック」
続いて声紋パターン――そして、オレの生命データが認識され、初めて思い唸りと共に炉に灯が燈る。
この3段構えのパイロット認識も、イスズだけの特注品だ。
起動と同時に、全身を包む軽い開放感――これは機体の動力H.C.S.によって、俺の体が活性化しているためである。
H.C.S.――全てのV.A.の動力源となっているこのシステムは、『メルキオール変換事象』と呼ばれる現象で
パイロットの体の中の、目に見えぬ流れ――言ってみれば生命力のようなものを、
コクピットを通じて増幅させて機体内部に循環・それをエネルギーとして起動するというものだ。
さながらパイロットのいるコクピットを、血液を送る心臓に見立てたかのようなところからこの名前は付けられている。
「循環」――すなわち生命力は一巡した後にきちんと肉体に戻ってくるために、疲労どころか肉体は活性化され、
パイロットが入っている限りほぼ永久機関という優れものの動力源だ。もっとも欠点もあり、
パイロットの意識が突如遮断――すなわち気絶などすると、機体の動力が停止してしまう。
強烈な閃光でパイロットの脳に過負荷をかけ、気絶させる「スタン・フラッシュ」は、この弱点を突いたものだ。
……そして、俺の乗る機体はこのH.C.S.の最新型が搭載されている。機体内部で螺旋を描くかのように動く生命力が、
通常の機体よりも遥かに高い循環率とエネルギー上昇を可能としたものだ。
H.C.S.の循環を、通常起動時の25%に設定。各関節のロックを解除。回線周波数はB〜D……と。
試作機のために、起動の手続きをすべてこちらから手動で行なう必要性がある。
正直……面倒この上ないが、これでも約8割の行程を、あらかじめスフィーに調整してもらっていることを考えれば、
文句を言うどころか感謝せねばならないだろう。
……正直、感謝するのは気が引けたりするのだが。
と――
「ベースTから、エコーT・U両機へ! ……敵は巡洋艦が5、快速艇が3、自走砲が3、
V.A.は空12、地上が9だ! 各機、各個に敵を撃破しつつ一箇所へ誘導……いいな!!」
ベースT――すなわちウインドが、オレ達へと通信回線を開くなり叫ぶ。
ちなみに通信上ではエコーTが俺、Uがセレナだ。
……しかし、チームリーダーである割に、ウインドはこういう簡単な指示しか出さない。
もっともウインドの才能は指揮よりも、そのドライビングテクニックにある。
足りないところは、俺達の判断力でフォローしていけばいいだけの話だ。
「エコーT、了解」
「エコーUもおっけー☆ じゃあユーイチ、おっ先〜☆」
セレナがウインクと共に宣言する。……まあ、機体射出用のカタパルトは一基しか無いからな。
それに……セレナが先に出た方が、後々都合がいい。
「じゃ、そーゆーことで……セレナ・シルバラ、『デッドリーダンサー』れっつごー☆」
心地よささえ感じさせる射出音と共に――セレナの機体が空へと踊りだす。
SVA−002P『デッドリーダンサー』。空戦仕様のこの機体は、白地に黒のライン鮮やかな塗装に、
背にある4対の突起、そして脚部の代わりに腰から突き出した2対の突起という、
非常にイスズらしい、独特の外見をしている。そして、この六つの突起こそ――イスズの試作機の目玉である
『ロジカル・システム』と、戦艦用の重力制御システムを融合させ誕生した『慣性相殺装置・バルタザール』。
文字通り、このバルタザールは機体を慣性の鎖から解放し――それにより、重力下においてさえ、
変幻自在な高機動ぶりを――急制動によるパイロットへの負担すらもゼロとなるため、無重力下さえ上回る
異様なまでの機動性を発揮することが出来る。
主武装は、両腕の単分子クリスタル・ブレード『無影』。これは固定武装のために、
他のV.A.が共有できるような武装を装備することが出来なくなってしまっているが、
ダイヤの数十倍の硬度と粘りを持った超物質である共有結合石英製、さらに無影の刀身自体が
刃渡り30mを突破している。この双剣の斬れ味は、要塞用の装甲版すらも容易に切断できる逸品だ。
さらに超振動を利用しているわけでもないために、その使用回数はほぼ無制限である。
「うふふ、しゃきんと一刀両断〜☆」
敵V.A.がたとえ、デットリーダンサーを射程圏内に捕らえていなくとも――彼女には全く関係ない。
凄まじい速度で横に薙いだ無影が、美しい切断面さえ作り上げてコクピットごと機体を真っ二つにする。
「我に、断てぬもの無し……! なんちゃって〜☆」
しかも、無影に使われているこの『共有結合石英』。非常に透度の高い無色のうえ、
反射率や屈折率が空気に酷似しているために『見えない』のだ。無論、時折陽光を反射することもあるため
目を凝らしていれば微かには見えるだろうが――その刃が変幻自在、亜音速で振り回されていては、俺にも見えない。
それで相手に視認してかわせというのは、ほぼ無理だろう。
対抗するには、屈折率の違うもの――水や油、もっと端的に塗料か何かを刀身にかければ見えるだろうが、
そのことと刃をかわすことはまた別の問題だ。第一、マッハ2で飛来する拡散式榴弾徹甲弾を
全弾紙一重でかわすセレナの反射神経と動体視力から、虚を突くなどというその時点で既に絶望的な賭けだろう。
逆に言えば、セレナほどのパイロットだからこそこのデッドリーダンサーの性能をフルに引き出せるのであり、
開発時のコードネームでもあった「ヒステリック・ティンカーベル」の名を想起させるほどの戦いぶりを
可能とさせているのであろう……。性格と実力の差が引っかかるが。
しかし……こちらも、負けていられないな。それにそろそろ――頃合だ。
「ユウイチ・オオカワ。『パニッシメントノヴァ』……出るぞ!」
カタパルト射出と同時に、H.C.S。出力を常時の230%にまで引き上げる。
セレナがあらかた、周りを飛んでいたV.A.を片付けてくれたものの――お世辞にも俺の機体は空戦不向きだ。
ダメージを最小限に抑え、即行で反撃を行なえるための準備でもあった。
カタパルトから出た外は眩しい。……どうやら、外は昼だったらしい。
快速艇は、世界を巡るために独特に時間を設けている。ちなみに今、艇の中は20時だった。
時差ボケ……とまではいかないが、少々面食らったのは事実だ。
……と――幸運にも、俺の機体は空中で敵機の攻撃を受けることは無かった。
そろそろ着地に取り掛からなければいけないか……。
「着地モーション誤差修正……着地」
微妙な誤差を手動で訂正し――轟音を上げ、俺の機体『パニッシメントノヴァ』は着地した。
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