Final Fantasy W
After story
第四十三話 〜作戦会議〜
宗教国家・ファブール――
まだ陽も登らぬ頃から、モンク僧たちの修行は始まる。
自分達の宿舎の清掃から始まり、そのままファブール城内の隅までを掃き清める。
それが終わった頃――今度は早朝の鍛錬へと移行。
そして普通に生活している他の民が目を覚ます時刻まで、ひたすらに己の肉体・技を磨き上げるのである。
……ただし、早朝ということもあり――流石に城の近くで掛け声を叫ぶわけにも行かない。
城内の稽古場は確かに防音も効いているが、モンク僧全員を収容できるほどの規模は無い。
したがって彼らは早朝の清掃の後、城から離れた森の中で修練を行うのが常である。
……そうであったために――二人は誰に遠慮することなく、思い切り刃を噛み合わせることが出来た。
「――V・シャイン」
凍えた赤銅の輝きを瞳に収めた男――オルステッドの一撃の鋭さは空気を砕き、清涼な朝陽の輝きすら寸断する。
照り返しを受け、輝く聖剣・ブライオンの刀身が、Vの残像を残す――だがそこに、相対するもう一人の姿はなかった。
瞬間オルステッドは、切り上げた刀身を滑らせるように一薙ぎ。
それは殆ど勘で放たれ――彼の戦士としての感覚は、的確に身を貫くはずだったその一撃と噛み合い、火花を散らした。
「フッ……それがお前の速さの限界か? 『魔王』」
「ただ『速い』だけで、私の剣に相対しようというのは無謀だな、『蒼い稲妻』」
横薙ぎの一閃――単純であるがゆえに、研ぎ澄まされた剃刀のように鋭く『速い』一撃で食い止めたのは、光の一閃。
ブライオンに込められた光の力と、その古の光の古槍の放つ光に照らされる中――オルステッドと相対する男・カイン。
オルステッドの挑発的な言葉に、ただ不敵と言わんばかりの笑みを浮かべて――
「無謀かどうか――その体に聞くがいい」
瞬間、カインの気配が『分裂』した――
無論、実際に分裂したわけではない。本体は一つ――残りは、実像を持たない気迫の欠片のようなものだ。
なまじ戦いにおける感覚が超一級に鋭敏化しているが故に、判別できないフェイント。
そして、この独特の欠点を知っているカインもまた――
気迫は左手!
音を置き去りにして――しかし一閃が切り裂いたのは虚空――フェイク。
そして、それに気づいたとき――今まで抑えられていたカインの気迫が膨れ上がったのは、彼の背後から――
「――いただく!」
瞬間、典雅とも言うべき軽やかさで――しかし切り裂いた空気を伴って一気に踏み込み、カインはその槍を突き出す!
まだ刃を振りぬききれていないオルステッドに――この攻撃を躱す術は無い。
勝利を確信していたカインは――しかし、気付いた。
オルステッドの表情にもまた――勝利の確信しか存在していないことを。
「甘い――ヘキサフランジ」
オルステッドは刃を自らの正面に掲げ――振り下ろしたのは全く見当違いの方向だ。
だと、いうのに。
カインの肌は、自らに迫る危機を、理解ではないところで捉え――刺突から体を裁く。
瞬間、先刻までカインがいたところを――不可視の刃の嵐がずたずたに引き裂いていったのをカインは見た。
そして――その一瞬の間に体を反転させ、一転して攻撃に転じるオルステッドの姿も。
その一撃は、刃ではなく峰――だが喰らいつけば瞬間、五体を微塵に粉砕する戦鎚のそれだ。
「――クッ!」
カインは舌打ちし――攻勢を素直にあきらめる。
槍を地面へ突き刺し――それを軸に、その長い脚を閃かせた。
竜騎士の鍛え上げられた脚部の一撃は、見事にオルステッドのその一撃を弾き――
カインが衝撃の反動を利用し、独楽のように回転しながら着地したときには、
押し戻されたオルステッドもまた、似たような姿で地面を滑り――二人、互いの武器の間合いから遠ざかっていた。
「……残念だったな……『蒼い稲妻』。私の剣……私の領域に、死角は無い」
「どうやら……そのようだな」
素直にそれを認めるカイン――それは、確かに否定しようの無い事実。
だがそこには感嘆はあれど、戦慄は無く――恐怖の代わりにあるものは戦意だ。
「ならば、話は単純……お前のその剣の領域を貫けば済むだけの話だからな」
「言う……ならば行動で示してみるがいい」
瞬間――停滞していた世界は一瞬で加速する。
オルステッドの剣が一閃した箇所から発生した、真空波――それはさながら疾駆する野獣の顎だ。
しかし、それを前にして――カインの笑みはさらに一層、深まって。
その姿が『消失』した。
「――!?」
一瞬遅れ、真空の刃はカインのいたはずの空間を破砕していくが――そんなことはどうでもよかった。
姿が『消失』した――それは肉体を不可視化したなどという生易しいものではないことは承知だ。
……その原因は――最早眼視出来ないほどに、凄まじい速度で動いているから――
衝撃は足元から、コンパクトに。
地面を舐めるようにして放たれた瞬速の脚払いは、オルステッドの脚を見事に払っている。
しかしこれは不覚を取ったわけではない――下手に反応し、抵抗していれば足首は粉々に破砕していただろう。
抗いたくても、抗うわけにはいかない一撃――その破壊力を転倒という形で裁いたのは流石。
しかしどちらにしろ、それは体制を崩し、隙を生むことには変わらなかった。
叩き込まれた掌底は見事に顎を叩き、そのまま頭から叩きつけられそうになる体を支えたのは膝だ。
否――それは支えたのではなかった。海老のように沿った背に叩き込まれた、強烈な一撃――
冗談のように体は重力に抗って宙に舞い、衝撃が背骨から内臓を貫通して外に吐き出された頃――
全身を凄まじい閃撃が蹂躙する。衝撃に甲冑は弾け、肌は咲けて血の華を咲かせる。
止めとばかりに叩き込まれた蹴りに再び地面に叩きつけられ――オルステッドが立ち上がったとき。
彼の視界に映るのは、重力の法則に己の精神力で抗い、宙に浮く一人の竜騎士の姿だ。
しかし、全身全てを超音速の閃撃で襲われたオルステッドに、カインが浮かべていたのは感嘆だった。
「……全て紙一重で逸らした、か……。なるほど、『魔王』は伊達ではないと言うことか……」
そうなのである。
宙――それもあれだけ不安定な体制でありながら。
僅かに体を逸らし、捻り――オルステッドはなんとか、あの閃撃の暴風の損害を最小限に食い止めていた。
甲冑は砕け、皮膚は裂け―― 一瞬重症のようだが、実質的な戦闘に何の支障も来しはしないことは見て取れる。
カインも、竜騎士となって大分経つ――数々の相手と刃を交えてきた。
その中には無論、『ジャンプ』――超音速からの全方位一斉連続攻撃を受け、立ち上がってきたものもいた。
だがまさか、これほど少ない損傷で切り抜けてくる人間がいるとは――
「だが――それも終わりだ」
その言葉を、尾に引きながら――カインの姿は再び、音の領域を破壊していく。
尋常ではない動体視力、そして戦闘の興奮による全身の感覚の鋭敏化が、擬似的に体感時間を引き延ばしていく中で。
今にも一撃を加えようとしたカインは――しかし、見た。
オルステッドが彼の姿を見やって――『笑った』のを。
それはどうかな――そう、雄弁に語っていたのを。
だが口に紡いだのは、実際にはこの言葉だった。
「――ジャンプ・ショット」
そしてその言葉がカインの鼓膜を震わせたとき――彼の槍の一撃が、地面を木っ端微塵に砕いていたとき。
そこにオルステッドの姿はすでに存在していなかった。
カインの動体視力はその直前の映像を覚えていた――オルステッドの姿もまた『消失』したのを。
まるで竜騎士のように。
――そこから先の判断は脳髄を介さない脊椎の反射だ。
圧倒的な戦闘経験が培った神経は、彼の体を理性とは別の場所で支配し、地面を蹴らせていた。
次の瞬間、火薬でも炸裂したかのように破裂する地面。
噴水のように伸び上がった土砂は、あまりに早すぎる体感速度の中では煙幕の代わりにはならないが、
それでも大分、視界は遮られて――そんな中、目があったのは偶然だろうか?
殆ど残影も残らぬ中に、一瞬だけはっきりと映った凍える赤銅――
槍を手にした左腕はまるで別の生き物のように独立して動き、そして――斬撃とぶつかりあう。
……時間は音を立てて元の流れに戻り――噴出す光を挟み、男二人は向き合う。
「……空を飛ぶのが……竜騎士の専売特許だと……思っていたのか……『蒼い稲妻』。
その驕りこそが、昨日のあの態の悪さをさらけ出した結果なのかも知れんな……」
「くっ……面白い……猿真似がどこまで通用するか……やってみるがいい!!」
光を放つ刃達は、反発するように離れ合い――引き合い、光の飛沫を散らす。
二つの輝きは直線・曲線・螺旋を描き――
まるでそれは、世界創世の時、神が天に星をばら撒いた挿話のように幻想的で――限りなく危険な輝き。
すでに音は、彼らにとって単なる行動の残滓でしかなく――時折思い出したかの用に激突音が響き渡った。
そして――やがてそれは、ひときわ強い激突の後――互い、示し合わせたかのように地面に激突するようにして着地した。
「……フッ……まさか……『ジャンプ』まで使いこなされるとはな……」
呟くカインの左大腿部から噴出すのは血潮――かなり深く、その一撃は彼の足を斬り裂いていた。
「『魔王』と言う名に、あぐらをかいていられるほど……私は楽観論者ではないのでな……」
一方――オルステッドの左肩は完全に破壊され、だらりと垂れてしまっている。
互い、大小合わせ50以上の裂傷を体に刻み――その息は砕いたように荒く、肩は震えていた。
今度は、それぞれの損傷も激しい――体力の低下も著しく、まともに戦える状態などではなかった。
……しかし――
「……何がおかしい? 『魔王』……」
カインはふと、オルステッドが小刻みに体を震わせていることに気付く。
それは、疲れているのではない。
……笑っているのだ。
「……『蒼い稲妻』……やはり……強い。この私と並べて称されていたのも、今のでよく、判った……」
オルステッドは、ゆっくりと立ち上がり――カインを、見返す。
そこに浮かべていたのは――微笑だった。
しかしそれは、人を安心させるものではない。
むしろ震え上がらせ、恐怖を抱かせる――獣の笑み。
「嬉しいぞ……これほど刃を交えて心踊ったことは無い」
「そうか……それは、良かったな」
一方、カインもまた――その笑みに応じるように笑みを浮かべ、立ち上がる。
くるくると、手の中でホーリーランスを回転させ――やがて体を沿わせるように、槍を構えて腰を落とす。
瞬間、吹き上がってきた『光』――それは今までのものとは比較にならない、圧倒的な力――
「思えば……昔、御前試合で時間切れの引き分けとなったときから……ずっとお前とは戦ってみたかった」
「私もだ……今まで散々、焦らされてきたからな」
オルステッドはゆっくり、手にした剣を頭の上に構える。
瞬間、その刀身から噴出した暗黒の黒は刀身を包み、カインの光と中空で激しく瞬いた。
「なら……ここで終われるわけが無いのは……判っているな?」
「勿論……元から、そのつもりだ」
その手にした武器に呼応するように吹き上がる気迫。
その熱さと荒々しさ、激しさは――とても満身創痍の人間が放っているとは思えないほど。
その影響に、気流は逆巻き――二人の頬を、清涼なファブールの空気が撫でていく。
凝固する世界。凝縮される瞬間はただ、爆発の刻を静かに待ち。
「……死んでも――」
「――互い、恨み無しだ」
二人の顔から笑みは消え――その姿が消えた。
パステルカラーの海が広がる。
空はほんわかとした緑に包まれ、月と太陽が笑っていた。
星の子たちは海で泳ぎ、ピンクの鯨は甘い光の潮を吹く。
そんな、光景の中――エルナは一人、立っていた。
無論――明晰な彼女はすでに、これが彼女自身の夢の中だということを自覚している。
……しかしまあ、それでもこの光景が自分自身の中から作り出されたと言うのはちょっと凄まじいものである。
(また……とんでもなく凄いわね、これは……)
こめかみを押さえるようにして、一人ごち――彼女は夢から現実へ意識を移行する。
自らの肉体を全て知識によって従えている彼女にとって、その程度のことは造作も無かった。
ゆっくりと、目を開けて――半身を起こす。
無論、眼鏡は無く、視力は非常に落ちているが――
それでも、ここがファブールで自分に当てられている部屋と言う認識は出来た。
……しかし、問題はそれより――先刻まで見ていた、夢の方である。
そして頭に感じる鈍痛。
……嫌な予感がするが、放置しておくわけにも行かず――エルナは昨日、何が起こったのかの記憶を漁る。
記憶の中、後半の一部分だけ――妙に霞がかかっていたが、エルナの知識の前にそれはゆっくりと晴れていき。
……先日の夜、やったことを思い出して――エルナは思わず顔を手で押さえていた。
まるで電熱器のように真っ赤になっていくのが自分で判る。
(……あんな夢見てたし、なんとなく想像はついたけど……)
最悪であることに違いは無いだろう。酔って、薬品をめちゃくちゃに投げつけて。
……しかもその上、クレセントに斬りかかって。
そして、あんなはしたない真似を――
「………………」
……クレセントの顔が近づいてきたその途中で、意識は途切れている。
一瞬ぶれた視界から、まず間違いなく――誰かが首に手刀を叩き込んだのだろう。
その判断は正しい。
あんな卑怯な手段で、こんな大事なことをしたくはない――
……でも。
そっと、唇に触れてみる。
軽く瞑目して、あの直前の情景をゆっくりと思い出して――
「……………………したかったな……」
ぽつりと呟いたそれは、誰もいない部屋に妙に響いて。
……やや気恥ずかしくなり――エルナはとりあえず、ベッドサイドにいつも置いてある眼鏡へと手を伸ばし――装用して。
「……気分はどうだ?」
その声に――びしりっと凍りつく自分の音を、どこかではっきりと耳にしていた。
一瞬で錆び付いた自分の首をなんとか傾けたとき――ベッドサイドに置かれた椅子に座っていた、一人の男。
全身を黒い甲冑で包み――その姿は兜の下、僅かに除く口元が見える程度。
だが――その格好が逆に、それが誰かを特定する最も判りやすい情報だった。
クレセント――
しかしエルナの口から、その言葉は出ない。
あまりのショックに、衝撃が一回りし――驚くタイミングを完全に逃してしまっていたからだ。
ぱくぱくと、口を開閉し――目は、見開いたままで。
完全に硬直してしまっているエルナをよそに、クレセントは手にしていた本をぱさりと閉じた。
「昨日は相当、参っていたようだったからな……………………一応、回復魔法はかけておいたが」
本から目を上げたクレセントだったが――さりげなく、エルナから視線を外す。
そしてそのまま立ち上がって背を向けると、しゃっという音とともに窓のカーテンを開けた。
……爽やかなファブールの朝日が、じんわりと部屋を照らしている。
それが、なんとかエルナに僅かながらの余裕を与え――
しかし質問に詰まった。
何故、クレセントがここにいるのか。
昨日のことを、どう思っているのか。
……今の言葉を、聞かれてしまったのか――
だが結局、それらが喉元に詰まっている間に。
エルナの喉の隙間を通って文章となったのは――こんな言葉だった。
「……クレセント……肩……大丈夫なの?」
そう――あの時、酔ったエルナが半分冗談のつもりで放った大鎌の一撃。
しかし、すぐに躱せるその一撃を――何故かクレセントは躱さなかった。
斬撃は、浅かったが――思い出すだけで、ぞっとなったのは言うまでもない。
「……問題無い。私の体は特別製なのでな……。それに、すでに回復魔法で治療済みだ」
「……なら何で、私から視線を逸らそうとするの?」
クレセントの言葉に、嘘の響きは無い――いつもながらの、冷静で頼りになる声色である。
しかし……何故、先刻から自分から目をそらすように視線を動かしているのだろうか。
なまじさりげなさを装った自然な動きであるために、一層エルナは気になっていた。
「……お前が構わんのなら、別にいいのだが……」
と――クレセントは、彼にしては珍しく歯切れの悪そうな様子で呟く。
そしてやはり、エルナを視界に入れないようにさりげなく視線を天井へと向け――告げた。
「……見えているぞ」
「……え?」
「前が」
前――?
その単語の示すことがわからず――エルナは、小首をかしげて。
ふと、ファブールの冷え込みが冷たくなって、体が震える。
自らをかき抱くようにして――目線を落としたのは、何も意識しないでの行為だった。
そして彼女は、ようやっと気付いた。
自らの、首の下――陽にあまり当たらない生活ゆえの白い肌に、細い腕。
一糸纏わぬ、その下にあるのは――『膨らみ』すら感じさせない、自分の――
「………………――!!」
瞬間――凄まじいまでの少女の悲鳴が、ファブールの霊妙な空気をびりびりと震わせた。
そのあまりの声の大きさに鳥達は慌てて飛び立ち、小動物はねぐらに飛び込み、何人かはそれでたたき起こされる。
……そして――カインとオルステッドの二人も、そのあまりの大きさと緊迫感のある叫びに一瞬――反応してしまっていた。
……カインのホーリーランスが、オルステッドの鼻先手前で止まり。
オルステッドのブライオンが、カインの首筋の手前で止まっていた。
そんな状況で、停滞した二人――天空の欠片が、絶対零度の赤銅の中に瞬いて。
「……続けるか……?」
「……いや。今ので興が冷めた……」
……互いに武器を、収め――同時に緊張の糸が切れたのか、示したようにその場に座り込む二人。
「まあ、今の今まで横槍が入らなかったことに感謝すべきなのかも知れんな……」
「……確かに」
急に思い出したように痛む五体に、ハイポーションを服用して――オルステッドはブライオンを鞘へと戻す。
ぱんぱんとひざの辺りを一度払って――カインは前髪をさっとかきあげた。
「……これからどうするんだ? 『魔王』」
「今日のところは非番……というより、昨日の賊についての説明があるからな。
そう時間は無いが……この汗ばんだ体で雇い主に会うわけにもいかん。風呂でも浴びようかと」
「そうか。……なら俺も同行させてもらおう」
「好きにするがいい」
……まどろみの中――その繊手はゆっくりと伸びて、気だるげに半身を起こす。
サイドテーブルに置かれた強い酒で頭を刺激して――ラディに心配されても、この習慣は止められなかった。
酒は命の水――自分の内のエンジンがだんだんと温まっていくのがよく判る。
ベッドから降り、完全に立ち上がれば―― 一糸纏わぬ自分の肌から、しゅるとシーツが滑り落ちていった。
カーテンを開け――少しまぶしいくらいの朝日に、さらにボトルに口に付けて。
眼鏡を装着し、赤い紐で自らの髪をくくって――ようやく、完全に彼女――ミレイユはスイッチが入った。
ゆっくりと、背を伸ばしながら――ふふっと、ミレイユは悪戯を仕掛けた子供の表情で微笑む。
(あの子は不器用だから……ま、可愛いのは保障するし……いくら幼児体系でも、裸を見ればクレセントだって――)
唯一の肉親兼保護者としては、彼女達が『一線』を越えてくれても別に構わなかった。
クレセントの人格の良さは旅をしてよく判っているし、なによりエルナが初めて好きになった相手だ。
姉としてはやはり、叶えてあげたいという、ちょっとお節介な親切心からだった。
「〜……っ…………さてと! じゃ、今日も一日……頑張って――」
「――殺ァ――!!」
しかしその時――凄まじい勢いで開け放たれた扉から。
容赦ない殺意を纏い現れた――亜麻色の死神の大鎌が、白く閃いて――
瞬間――凄まじいまでの女性の悲鳴が、ファブールの清閑な空気をびりびりと震わせた。
しかし先刻とは違い、何か大きなローラーでひき潰された蛙の断末魔のようにも聞こえないことも無い。
だからオルステッドもカインも、一瞬顔を見合わせるだけで――特に反応することは無かった。
「フッ……やはり風呂上りにはビールは基本か……美味い」
「……たまには酒を控えてはどうだ、『蒼い稲妻』……」
「そういうお前は、一体先刻から何を飲んでいるんだ?」
「牛乳だ。幾種類かのフルーツの味付けをされていて……なかなか美味だぞ」
「アルコール分は入っていないのか?」
「入っているわけなかろう。……ほら、私の奢りだ。それを飲んで、酒を洗い流せ」
「郷に入れば、か……仕方ないな……っと……これは紙で栓がしてあるのか……くっ……ふっ……と、取れん」
「やはり素人では綺麗に外す事は無理か……。なら、貸してみろ――スピンドル」
「む……指の回転で紙蓋を弾き飛ばす、か……なかなか、やるな」
「伊達で『魔王』は名乗れんということだ」
「…………さて、集まってもらったのは他でもない。……昨日の一件についてのことだ」
ファブール城・会議室――謁見の間ではなく、ヤンはそこに一同を集めていた。
この一件に関する限り、謁見の間よりさらに防音性に優れ、機密性の高いこの部屋で話した方がいいと判断したためだ。
部屋にいるのは、ファブール側からはヤン・シャオ・シユウ――そしてオルステッド。
そして、ラディ・クレセント・ミレイユ・エルナ・カインの五人が対に向かい合うようにして座っていた。
……と――
「……ミレイユ……大丈夫か? 何かすっごい顔色が白いけど……」
「は、ははは……」
妙にぐったりとして血の気の無いミレイユと――ふん、と軽く鼻を鳴らし、白衣の襟を立てるエルナである。
ただ一人、起きるのが遅かったためにこの中で詳しい状況を知らないラディは――心から心配そうに、
「もし、辛かったら……別に後でメモか何かとって渡すし。無理はしないほうがいいと思うぞ?」
「ん〜……大丈夫大丈夫、しばらくすれば……失った血液も元に戻ると思うし♪
にしても……やっぱりラディだけねぇ、私の心配してくれるの。……あ・り・が・とっ♪」
「ってうわぁぁっ!? ちょっ、抱きつくな……頬をすりよせるなぁぁぁぁ!!」
口では抵抗して見せるが――緊張に体が固まり、彼女を押し返せないラディ。
ただ、ミレイユのなすがままという、いつもどおりの状況だったのだが――
「………………?」
頬を摺り寄せていたミレイユは、ふとその動きを止め――訝しげに、小首をかしげて。
……そして――いきなり、ラディに顔を近づけるなり、その匂いをかぎ始めたのだった。
「って……なっ……!?」
吐息がかかるような、そんな距離で――動くミレイユはくすぐったく、
今までのものとは比べ物にならないこの行動に、ラディは危うく気を失いかねないところだったが――
「…………ラディ……ちょっと……におうわよ?」
「!?」
ミレイユはそのまま――さりげなくついと離れ、席に戻っていく。
そしてミレイユのその小さな一言に、完全に凍てついてしまっているラディ――
「……そろそろ、本題に入ってよろしいか……?」
「…………うむ」
「いつものことだ……あまりあの二人に関して気を回さんほうがいい」
「そうか……では、改めて」
軽く咳払いをして――意識を改めて、ヤンは一同を見渡した。
「……半年ほど、前のことになるか。……私のところに、一通の脅迫状が届いてな」
ヤンの口にした、穏やかならぬ単語に――息を呑むカイン達。
一方、ファブール側の人間には動揺は無かった。すでに知っていたことのようだ。
「内容はシンプル……『これ以上邪魔をするなら――大僧正を殺す。 〈深淵〉』……と。
……というより、これだけしか書かれていなかったのだがな……」
「……ちなみに『深淵』というのは、最近この辺り一体を荒らしまわっている大規模な盗賊集団だ。
数に物を言わせて、行商隊を奇襲すると言う手口で交易品を根こそぎ奪う……国としても被害は甚大だ。
もっとも、昔から存在してはいたそうだが……現在のような大規模な組織になったのは2年ほど前からだそうだ」
カイン達の疑問の声が上がる前に口を開いたのは――オルステッド。
そしてオルステッドの言葉を引きつぐようにして、ヤンは相槌を打ち――言葉を再開する。
「……しかし、この手の類の脅迫状なら、国を治めている以上いくらでも届く。
それにわが国は、対モンスター用とはいえ、手練れの傭兵を雇っているからな……さほど危険は感じられなかった。
それでも一応、『深淵』は黙殺できる規模の組織で無い……だからこの一件は、誰にも伝えてはいなかった。
知っているのはシャオと、私達の護衛として再契約したシユウ殿……そしてオルステッド殿ぐらいしか知らぬ」
その言葉に――クレセントはようやっと、引っかかっていた疑問の一つが解消された。
……あのクリスタルの幻影『ハジュン』が現れたとき――
ハジュンを撃退したオルステッドはヤンのことを、『護衛するべき相手』と口にしていた。
……しかしあの後の説明では、オルステッドはあくまでファブールを守るために雇われたのだと言われていたのだ。
それ以外にも、シユウ――そしてオルステッドは、他に雇われている傭兵とはどこか違う扱いであったのも疑問だった。
……しかし――護衛として雇われていたのならば、確かにそれも頷ける話である。
「……でも、正直護衛なんて必要ないと思ってたんだけどねぇ。
あたしは符術……この人は拳法の達人だよ? 並の相手なら、そうそう簡単に遅れは取らないよ。
実際、今までに何度か『深淵』の暗殺者が襲撃してきたことがあったけど……全部返り討ちにしてやったからね」
そう言って、胸を叩くシャオだったが――その表情は、どこか浮かない。
……それは――間違いなく、昨日の一件のことが起因しているのだろう。
並の相手に遅れを取らないはずの、ヤンが――ああも簡単に、人質に取られてしまったというのは――
「……? 確か……脅迫状を送りつけてきたのはその『深淵』とか言う奴なんだろう?
じゃあ昨日、ヤンを人質に取ったあいつらの名乗っていた……『ブラットバレット』というのは……一体何なんだ?」
カインの問いはもっともな話だった。
単純に、名前が違っていると言う話でもあるのだが――しかし、疑問はけっしてそこだけではない。
あの三人の、凄まじい戦闘能力――あれが果たして、盗賊程度に出せるものなのだろうか。
言ってみれば、盗賊は『盗む』ことが第一であり、戦闘を得意とする必要性はほとんど無い。
『深淵』は手口を聞く限りでは、強盗に近い雰囲気もあるが――しかし彼らは言ってみれば、
自分より弱い相手を集団でよってたかって襲う程度の能しかもってはいないと言うことだ。
……少なくとも、そんな相手に『蒼い稲妻』も『魔王』も遅れをとることは絶対にありえない。
負け惜しみではなく――それは真理、事実と言うものだ。
……あの男たちはどう考えても盗賊ではなかった。盗賊にしては、あまりに戦い慣れ過ぎている――
そしてその疑問に答えたのは、彼らと実際に剣を交えたもう一人――オルステッドだった。
「……『ブラットバレット』というのは……ある傭兵集団の名前だ」
「傭兵……集団?」
「傭兵と一概に言っても、その形は無数にある。……例えば、私やシユウのように一人で傭兵業に身をやつす者もいれば、
あの『銀鬼神』ゼルビノ、『蒼天駆ける稲妻』アルベルトの様にコンビを組んでいるものもいる。
それが3人以上なら、基本的に『集団』と呼称するんだが……『ブラッドバレット』の場合、構成員はあの3人。
規模としての『集団』は最小だが…………彼らは傭兵の中でNo.1の実力と実績を誇っている」
「ナンバーワン……」
暗黒騎士団に所属していた頃、最高の使い手として名を馳せ、傭兵としては『魔王』として有名なオルステッド。
その彼が口にする『ナンバーワン』に、違和感を感じてしまうのは仕方ないことだろう。
だが――当のオルステッドの言葉には、揶揄も皮肉も無かった。
「今はダムシアンに雇われている『銀鬼神』や『蒼天駆ける稲妻』。『鍛冶剣士』のロッド・オブ・ザ・ブレードスター。
……私の『魔王』もそうだが、今挙げていった傭兵は言ってみれば『超一級』の実力を持つ者達ばかりだ。
たった一人で、戦局をがらりと変えるだけの戦闘能力……『個人』で『組織』に勝つ実力を持つ。そういう者達だ」
その言葉に――ダムシアンで『暗黒』を習得するために二人に稽古をつけてもらったラディは深く頷く。
あの『スカタン号』のドライバーであったロッドも、相当の手練れだとは見抜いていたが――やはりかなりの実力者のようだ。
「……だがな。『ブラッドバレット』は……『別格』だ。
あいつらは戦局を『変える』んじゃない……『壊滅』させるだけの実力を持っている」
「なっ……い……いくらなんでも、そんな――」
「レオンの息子……お前は7年前の『グレイヴ・ダスター』の一件を覚えているか……?」
「『グレイヴ・ダスター』……ああ……あの世界的にネットワークを持っていた犯罪組織のことですか……?」
グレイヴ・ダスター――それはかつて、世界各地に地下茎のようにネットワークを張っていた巨大犯罪組織の名前だ。
この組織の前では、かつてバロン一帯に根城を張っていた『マレブランケ』も弱小組織に過ぎないほどの大規模な犯罪組織。
その構成員は数千人とも言われ、麻薬取引・人身売買といった行為を、その構成員の多さと規模によって大々的に実行。
壊滅を試みようとも――目に見えるものは所詮蜥蜴の尻尾に過ぎず、
これだけの規模に関わらず、その本部がどこにあったのかが不明だったため――世界各国が頭を悩ませていた悪辣な組織であった。
……しかしそれは、7年前――本部が謎の襲撃によって壊滅してしまったことによりネットワークが崩壊。
各国、総出を挙げて一斉に検挙を開始し――現在では完全に跡形無く消え去っている。
「……その本部を壊滅させたのが、当時集団を結成した――『ブラッドバレット』だ。
当時、本部にいた1000人以上の構成員を……たったの3人で、完膚なきまでに叩き潰した」
「な……!?」
その言葉に――カインは目を見開き、ラディにいたっては完全に言葉を失っていた。
……二人とも、かつてはバロン王国軍に所属していた身――盗賊団や犯罪組織の掃討に当たったことが何度かある。
その時は、多くても構成員の規模が100名を超えることは無かったが――それでも、頭目を電撃作戦で潰し、
統制の乱れたその隙に一気に殲滅をかけるということでさえ、それなりに骨の折れる作戦だったのだ。
だがこのグレイヴ・ダスターにいたってはまず桁が違う人員――千人いれば、ちょっとした軍隊と同じ規模だ。
そして、普通ならこれだけの大規模な組織は、末端における統制の乱れが生まれるものだが――
情報管理と整理・ネットワークがその特色だったグレイヴ・ダスターに限っては、それも見られなかった。
徹底した情報統制によって統率された構成員。
仮にトップが倒れても、次に指揮を執る人物が即座に指示し、統率を乱すことはほぼ不可能――
それをたった、3人で壊滅においやったと言われれば。
……我が耳を疑わずにはいられなかった。
そして――昨日の一件が、無情にもその言葉が真実であることを証明していた。
「『ブラッドシザー』『ブラッドニードル』……そしてリーダーの『ブラッドドリル』。
その姿を見た者がいないのは、単に彼らと相対して生き残った人間が殆どいないから。
依頼成功率97%、連続依頼成功回数127回。……彼らの前に立ち塞がった者は、
全てがその二つ名の『血』を濃くするだけだという話さえ、耳に聞く……名実ともにNO.1の傭兵集団。
それが――『ブラッドバレット』だ。……恐らく『深淵』は、自分達では大僧正の殺害が難しいと理解して、
何らかの手段で彼らとコンタクトを取り……雇い入れたんだろうが……」
その結果は、先日のとおり――『魔王』『蒼い稲妻』の二人がいながらヤンは人質に取られ、
『トム』相手には後れを取る。……そして挙句、誰一人仕留めることも出来ず、まんまと逃走されてしまった――
「……だが、そう気を落とすことばかりではないぞ、オルステッド殿」
「………………?」
「ブラッドバレットの面々が逃走したルートから、『サイトロ』で捕捉して……判ったんです、『深淵』のアジトが」
そう言ったのは、この場で唯一のパラディン――シユウ。
パラディンは数少ないながらも、白魔法を行使できる――一見、殆ど使用することの無いサイトロも、
こういった際における逃走者のの追跡には非常に便利な魔法だった。
「……あの時私は、大僧正のお側にいながら何も出来ずにいましたから……せめて、これくらいは役立たなくては」
「そうか……で、『深淵』のアジトは一体、どこにあるんだ?」
その言葉に――シユウはあらかじめ持参していた地図を、テーブルに広げた。
都合、16の視線が集中する中――彼の指は、赤で×印の付いた一点を指で指し示す。
「ここです。……ホブス山とこのファブールとの間にある、山岳地帯のうちの一つ……この山です。
一見すれば、他の山岳と何も代わらないんですが……どうやら中をくりぬいて、巨大な隠れ家にしているようです」
「今までは、襲撃者を返り討ちにするか……捉えても全て自害していたために、その所在が判らなかったが……。
これにより、ようやくこちらも場当たり的な反撃ではなく、効果的な反撃を加えることが出来るというわけだ。
……そこで……カイン殿達に一つ、頼みがあるのだが――」
「俺達に、『深淵』の襲撃を手伝って欲しい――か?」
カインの言葉に――ヤンは無言で頷いた。
「……以前のようなマザーボム襲撃の自体を考えれば、国の防衛のために戦力を残さねばならない。
……それにあの『ブラッドバレット』という傭兵を相手にして……私の配下では百人束になっても殺されるだけだろう。
襲撃をかけるとすれば、彼らに匹敵するほどの戦闘能力を持つ少数精鋭で奇襲をかけるしかない。
……だが、この国で彼らとまともに戦えるだけの実力を持つのは、オルステッド殿しかいない……本来なら私も加わりたいが――」
「駄目に決まっているだろう。……盗賊の掃討だけならまだしも……
『ブラッドバレット』を相手にして、大僧正を護衛していられるほどの余裕は……残念だが、私には無い」
「……元々これは国の問題……カイン殿達には関係の無い話というのは重々、承知の上だ。
本来ならば一刻も早く、ミシディアへと赴き、水のクリスタルの異変が無いかどうか確認しなければならないのも判っている。
だが……それでも、オルステッド殿に匹敵するだけの力を持つカイン殿達の協力が無ければ――」
「……それは別に構わん」
ヤンの言葉を遮るように響いたカインの了承に――ヤンは思わず顔を上げる。
「……いいのか!?」
「ああ。……というより、ここでむしろ、無関係だと言って自分達だけで解決しよとされるほうが逆に癪だ。
もう十分すぎるほど、この件には関わっているしな……。第一、目の前で知人が困っているのを放っておくと思うのか?」
「……カイン殿……」
だがそこで、カインは言葉を切ってラディたちを見回すと――
「……しかしまあ、これはあくまで俺の話だ……他の奴らが、どう言うかは別だが――」
「聞くまでもないですよ。オレも勿論、協力します!」
「……私も協力させてもらおう」
「ま、わざわざ首を突っ込む理由も無いけど……断っちゃうのも、アレだしね♪」
「……そうね…………私の痴態を見られた以上、生かしては……」
「……む? どうした、エルナ?」
「へっ!? い、いえ……何でもないわ。とにかく、私も協力させてもらうわよ」
「……と、いうことだな」
どこか苦笑して――カインは改めて、ヤンに向き直った。
ヤンはただ、瞑目して――静かに頭を下げると。
「…………かたじけない……そして、ありがとう」
「…………カイン」
『深淵』襲撃における、各々の行動の打ち合わせと説明を終えて――会議室の前の廊下で。
カインは壁にもたれかかったクレセントに呼び止められていた。
クレセントがさりげない動きで――辺りに人の気配が無いことを確認しているその仕草に、
カインの表情も自然、厳しいものとなる。
「……どうした?」
「お前には、私の正体と目的を教えている……だから、お前だけには話しておこうと思ってな」
やはり――他言無用の重要な話のようだ。
カインは自然、息を抑えて――クレセントの言葉に全身系を集中する。
そして、声のトーンを抑え――カインだけに伝わるように、クレセントはそっと囁いた。
「……先刻の、あの打ち合わせの中で……ほんの一瞬だが、ゼロムスの気配を感じた」
「なっ――!?」
その言葉に、思わずカインは大声を上げそうになり――慌ててその口をクレセントが抑え込む。
言葉はそのまま、ゆっくりカイン自身の中へと戻り――驚愕から平静へと戻ったカインは、それでも問わずにはいられなかった。
「……どういうことだ? この国のクリスタルの問題は、すでに解決したんじゃなかったのか……?」
「あの、クリスタルから出でた『ハジュン』は……言ってみれば『影』に過ぎん。
その実像というべき、ゼロムスの意思を色濃く持った『本体』は、恐らくすでにこのファブールのどこかに固着している」
「……なんでお前は、そんな重要なことを言わなかったんだ!」
「事態が複雑化すると思い、あえて口にしていなかった。……それに、この国に滞在している間に、出来れば私が何とかして――」
「判らなくは無いが……せめて俺にはもっと早く言え。言っただろう――俺を置いていくな、とな」
「…………すまん」
そのカインの言葉に――クレセントは素直に頭を下げる。
「……まあいい、今こうやって伝えただけましだからな。……それで、ゼロムスの気配、だと……?」
「うむ。……元々微弱ながら、闇のクリスタルはずっとゼロムスの意志に反応していたのだが……。
あの打ち合わせの際、その反応が明らかに強くなっていた……錯覚では、あるまい」
「それは……あのメンバーの中に、その『本体』とやらが紛れ込んでいるということか?」
「判らん。……ひょっとすれば、その『本体』が、私たちに気取られぬよう会議を盗み聞きしていたという可能性もある」
「……そうか」
確かに、おいそれと断定していいものではないのは確かな話だ。
「で……具体的に、どうするつもりだ?」
「……どうしようもないな……歯痒いが、留意しておくことぐらいしか現状では出来ん。
こういう事態になった以上、あまり協力者を疑ってかかるのも問題だからな……慎重に考えねばなるまい」
「……そうだな……ここで事態を引っ掻き回すのは、あまり得策ではないな」
少数精鋭による、電撃作戦――それは各々が各々の力と働きを信用していなければ成功しない。
ならばここで、そのような疑問を投げかけてその素地に亀裂を走らせてしまうのは得策ではなかった。
「……とにかく、カイン……お前も気をつけてくれ」
「ああ……気に留めておこう」
『深淵』への奇襲作戦の打ち合わせが終わった後――
ラディはたった一人、その足を商業区へと向けていた。
作戦は、今夜決行――それはこれ以上、あの『ブラッドバレット』が逆に城へと襲撃をかけてくるのを防ぐためだ。
……もし、彼らがここを再襲撃して――果たしてヤンを守ることが出来るか。
ファブール城の住民を誰も傷つけることなく、撃退することが出来るか――問われ、即答できないのが現状だ。
また、昔はともかく今の『深淵』の組織としての規模はかなり大きい。
……あの会議室は防音に加え、サイトロやライブラの類の魔法への結界を張ってはいたが、
万一あの部屋で話していたことがもれるかもしれない――そうなれば、奇襲の意味が無い。
そのために、これほど早い決行となったのだ。
……ラディ以外の面々はそれぞれ、作戦の時間の都合もあり仮眠を取ったりしているのだが――
雑踏と喧騒の中を、ただラディは言葉も無く歩いていく。
その頭の中で、響く台詞――
「…………ラディ……ちょっと……におうわよ?」
「……そういえば、ここしばらく着替えてなかったからな……仕方ない、か」
意識して、自分の匂いを嗅ぎ――苦笑するラディ。
彼にしては珍しいものぐささだろう。
……だが――果たして、誰か気付くことができたのだろうか?
彼の苦笑に、この状況に非常に不似合いな感情が零れていたのを。
……それは、自嘲の笑み。
何故、このようなことでそんな表情を――彼にこれほど似合わない、このような感情を漂わせたのか。
それは誰にも判らない――なぜならその笑みは一瞬で普段の彼に覆い隠され。
ある店の前でその足を止め――ガイドブックに書かれた店名とそれをなんども見比べ、確認して。
……足を踏み入れようとして――思い切り足を滑らせ、転倒した。
「だ……大丈夫ですか!?」
「え、ええ……なんとか。それより……この店に買い物に来たんですけど――」
作者 :さて――我々は今すぐ、この作品に不足している皆口裕子分を補充せねばなるまい。
ラディ :……あの……しょっぱなから何を言ってるのか意味が不明なんだが……。
作者 :いや、読者の一人からそういう要望……というか皆口裕子さんのファンがいてな。
オレはけっこう、声優に詳しい方なんだが……この手の話題を誰も振ってくれないし。
ちょっと嬉しくなったんで誰か皆口さんの声が似合いそうなキャラを一人考えようかと。
カイン :いいのか、それは……。
作者 :オレは作者だ、問題なし!!
クレセント :むう……久々に正規のメンバーでの座談会なのだがな……。
エルナ :作者の馬鹿さ加減ともう一度付き合わされるなんてね……。
ミレイユ :まあまあ♪ それよりも進行、はじめていきましょ♪
カイン :冒頭から戦闘シーン……しかも無駄に気合が入っているな……。
作者 :当事者のお前が言うなよ。まあ、確かに必然性は無いかもしれないが……。
「魔王」と「蒼い稲妻」どっちが強いのか? ってちょっと疑問に思ったんで、つい。
ラディ :凄い……オレなんかじゃ、とてもここまで追いつけない……。
クレセント :頂点を極めし者だけが到達しうる『高み』……か。
カイン :……頂点など存在しないさ。ただ、俺も『魔王』も――
オルステッド:他人より少し動ける……それだけのことだ。
ラディ :うわ、オルステッドさん!?
ミレイユ :これだけのためにわざわざ呼ぶって……ギャラとかは大丈夫なの?
作者 :まあ、オルステッドに比べればまるですねた子供程度のトラウマしか持っていない
某7作目のチョコボ頭に比べればかなり安上がりに済むかな。
ミレイユ :経費削減……にしても、その発言はFF創作家としては問題なんじゃない?
作者 :自分に嘘をつきたくないのがオレの生き方!
……第一、ラディにコスプレさせたとこから判ると思うけど、別に嫌いなキャラってワケじゃないし。
ただ「不幸」とか「可哀想」なんて言う奴はバハラグとライブアライブをやってからにしろ、と。
ラディ :オルステッドさん……。
オルステッド:過去は、過去……今の私は、今の私だ。
カイン :……しかし……その直後の展開がああいうものだとはな。
エルナ :……思い出した……くぅぅぅぅっ……あああああああああああああっ!!
作者 :うひいいいいいちょっとまてまてまて頼みますから解体だけはやめて――
―――しばらくお待ちください―――
クレセント :……解体……?
エルナ :……聞きたいの? クレセント。
クレセント :いや……それより、話を進めよう。……ふむ、作者の本来話すはずだった次の話題は……。
ミレイユ :『ブラッドバレット』につ