Final Fantasy W
After story
〜第四十一話〜居酒屋にて〜
「……大丈夫か、レオンの息子……?」
「え、ええ……ちょっと昨日、呑みすぎ……いや、呑まされすぎて……」
オルステッドの声に応えるラディの呟きは――力なくカウンターに落ち、ぼそぼそと流れるだけだった――
宗教国家・ファブール。
宗教国家という存在である以上――ファブールには夜の娯楽というものが非常に少ない。
それは結果的に、治安維持にもつながっているし――元々観光を目的に設立された国ではないために構わないのであるが。
そんなファブールで、唯一といってもいい夜の娯楽施設――それがこのファブール唯一の酒場・居酒屋『あまき』だ。
すっかり日も落ちた今――店は観光客や修練を終えたモンク僧たちで賑わっていた。
それでも他の国に比べ、驚異的なまでに店の喧騒が少ないのは――単に利用客のモラルとマナーがいいためであり、
結果としてこれほど大人数が所狭しと利用していながらも――落ち着いて呑める、雰囲気ある店に仕上がっていた。
――『護羅無衷』騒動から、一日が過ぎ――改めてラディたち一同全員は、ここに酒を楽しみに来ていた。
また今日は、ヤン達もここを利用していたために――カウンターにはヤンとシャオ・そして護衛にシユウ。
そこからやや離れた場所にオルステッドと――彼に呼び止められたラディ。
さらにそこから少し離れて、カインとクレセントといった様である。
ミレイユとエルナは、カウンターではなくテーブルの方に座っていた。
そして――冒頭の会話に、繋がっていくというわけである――
「……バロン出身の人間が、まさか二日酔いとはな……珍しいものを見られたものだ」
「ううっ……そ、そんなこと言わないでくださいよ……」
顔面蒼白で、カウンタに突っ伏すラディに――その時。
こと……とおかれる、一つのグラス――
顔を上げれば、そこにははっとするほど美しい面持ちをした微笑。
「………………二日酔いには、迎え酒が効く……飲むといい。……お代は結構だ……」
「あ……ありがとうございます」
バーテンダーであり、この店の店主でもある黒人の美青年――
彼から手渡されたグラスを、ラディは一気に飲み干す。
「……ありがとうございます。ちょっと……気分がよくなりました」
「………………そうか……その酒の種類は『泡盛』……その中でも『花咲』と呼ばれる類のものだ……。
……20年以上、熟成されているから…………濃厚な味……かつ、アルコール度数も60と……高い」
「……くぅっ……ミレイユじゃないけど……やっぱりお酒って、いいなぁ……」
「……二日酔いのくせに、迎え酒がアルコール度数60の酒だと……?」
幾分か調子を取り戻したラディに――しかしバロン出身ではないオルステッドは呆れた様に呟く。
「オルステッドさんだって、お酒……嫌いじゃないでしょう?」
「嫌いではないが……お前達バロンの人間のように狂気的な飲み方はしないぞ」
「狂気的……?」
いぶかしむラディだが――二日酔いでぐったりとなっていたにもかかわらず、そのカウンター横にはすでに、
ピラミッドが出来るほど空の酒瓶が積んであるのは――確かにバロン以外の人間から見れば狂気としか言いようがない。
もっとも、ラディはバロン王国軍でも、最高の酒飲みにのみ与えられる称号『赤い徳利』の所有者――
こと飲酒という部分に関して言えば、今のバロンで彼の右に出るものはいないのである。
……ミレイユという『怪物』のおかげでその凄さがすっかり影に隠れてしまっているのではあるが。
「……にしても、店主さん……昨日はどうも、すみませんでした。
いきなり押しかけて、あれだけ店のお酒を飲み干してしまって……」
「………………気にするな。お客様は……神様だからな」
グラスを、慣れた手つきで拭き取りながら――静かに呟く青年。
清潔感を保つ以上に、彼の几帳面さがその動きからは感じられる。
それでいながら、潔癖症的な居心地の悪さが無いのは――彼の人徳の、為しえる業だろうか?
だが。
ラディとしては、それよりももっと気になることは――
「けど……この店……この規模なのに、一体どれだけお酒があるんですか……?
ミレイユが満足できるまで呑み続けたって言うのに、まだ店舗を経営できるほど在庫が残っているなんて……」
――そうなのである。
一度に樽単位で平然と呑むラディを軽く凌ぐミレイユの呑みっぷりはまさに天衣無縫。
彼女が入ったら最後、その店は次の酒の入荷が入るまで、店舗経営が出来なくなるほど呑みつくされてしまう。
実際――ダムシアンやカイポで、ラディはミレイユに付き合わされて酒場を梯子したのだったが――
別の酒場へと彼女が移動する理由はただ一つ、その酒場で酒が完全になくなってしまった時のみなのだから。
だというのに――この、決して大きくは無いこの居酒屋『あまき』は、
ラディが酔い潰され、ミレイユが満足するほど呑みつくしてなお、こうやって平常どおりに店を開いている――
「………………知り合いに一人、酒の入荷に関わっている人間がいて…………おかげで…………
この店は独自の流通ルートから…………酒を入荷している。…………この店に揃わない酒は…………無い」
穏やかな微笑の中にも――絶対的な確信を持って、青年は口元を吊り上げる。
その、一介の酒飲みとしてはこれ以上ないほど信頼できる微笑に、ラディもまた、ニヤリと無言で笑みを返して――
「まぁぁぁんぅあ、こぉのぅぅぅ『あまき』はぁぁんぅぁああうあ、
とってぃえぇぇもぉぉうおぅ酒ぇぇんぐぁ多いぃぃんだぁよぉうっくくぅんぅあっ、ヒャハハハハハハ!」
――突如横からかけられた声に、ぎょっとしてラディは振り返った。
無論、今の台詞はオルステッドではない。
つい、先刻まで空席だったはずのカウンター――そこにいつの間にやら腰掛けていた客の一人の、台詞だった。
……その男は、とにかく一度見たら忘れられないような強烈な印象を持っている男だった。
全身をぴっちりと覆う、黒のレザースーツ――
まともな羞恥心があればまず、ラインに現れる股関節部のふくらみもまるで気にせず、
それの上から全身を数々のベルトや鎖・拘束具を模したアクセサリーで装飾している。
装飾具に使われている金属は、銀一色――それが妙な刺々しさと艶かしさを醸し出していた。
ただし、これでその装着者が、ナイフのような鋭さを秘めるような美形ならばまだ良かったのだろうが――
その肩の上にあった男の顔は――贔屓目にも、『美形』とは言いがたいものであった。
しゃくれ、二つに割れた顎の上――歯をむきだしにし、手にしたナイフを蛇のように長い舌で舐め、笑う男。
その顔立ちはどこか貧相だが――しかし、かっと開かれた目は妙に澄んでいる――不自然なほど、澄んでいる。
……それは、非常に重度の薬物乱用者によく見られる特徴でもあった。
ぐりぐりとその瞳を零れんばかりに動かし、唾液に濡れたナイフの刃がぬらりと照明の光に不気味に反射するその様は、
まるで快楽形大量殺人鬼だと言わんばかりの不気味さで――現に、店の誰もが彼の姿を見て眉を顰めている。
良識――いや、一般常識があればまず、この男に近づこうとは思うまい。
が、バーテンダーの青年は彼の姿を見て――薄く、微笑したのだ。
「………………トムか……久しぶりだな。…………何にする?」
「ボゥクはビィィィィんぅゅうあルゥぃえがいいなぁ! ヒャハハハハハハ!!」
「………………ビールか……少し待っていろ」
青年はそのまま、カウンターの下に沈み――ややあってその長身が持ち上がった頃、
その手に握られていたのはよく冷えた大きなジョッキ。それに、壁のビール樽からなみなみとビールを注ぎ、
いまだにナイフをねっとりと舐め続ける男の前へと静かに置く。
「……知り合いなんですか……?」
見目麗しいこの若き店主と、明らかに犯罪者の部類に見えるこの男との接点が見えず、呆れたように呟くラディ。
「………………ああ……済まない、こいつはこういう奴でな……悪い人間ではないことは……保障する……」
軽く頭を下げるバーテンダーと、怪鳥の断末魔のような笑い声を上げてナイフを舐め回す男。
その取り合わせの妙に、ラディはただ、人の縁の不思議さを思い知らされるだけだった。
明度を落とした照明の中。
僅かな光に輝きを返すグラスの雫を指で拭えば――そこには済んだ、琥珀の輝き。
その際、傾けた顔に僅かに前髪が零れ、それをそっと指で払う。
主に氷で占められているウイスキーグラスには、実際にはそう多く、酒が入っているわけではない――
目の前に翳したグラスから漂うのは、例えるならば管弦楽団の演奏する音楽にも似た、香りのハーモニー。
軽く口に含むようにそれを飲み干せば、口に広がる芳醇さと、甘み。
「……たまには……こんな感じで、ゆっくりお酒を呑むのも……悪くないわね……」
からん、と心地よい音を立てる氷にうっとりと目を細め――余韻となって残る、香ばしさを堪能しながら――
「――それだけ呑んでおいて『ゆっくり』じゃないでしょ。第一そのウイスキーもストレートなんだし」
「……ああ〜もう、せっかく人が雰囲気を楽しんで立って言うのに……空気が読めないわねぇ、エルナは」
「姉さんこそ、その隣においてある自分の空けたボトルの山を見てから言ってくれるかしら?」
ソフトドリンクを片手に、冷静な言葉を返すエルナの指の先に目をやって――
そこに屹立していた酒瓶のバブイルの塔と、それを仰天した表情で見つめる他の客の視線にようやくミレイユは気付いた。
……そして――
「そう? 今日はこれでも、かなりペース落として呑んでるわよ♪」
「…………この、馬鹿姉……」
エルナはそんな姉の態度に、思わずこめかみを抑えずにはいられなかった。
「姉さんが酒場で呑んでる所、今日初めて見たけど……まさかここまで化物じみているとは思わなかったわ……」
「ま、美味しいものは別腹って言うでしょ?」
「その『別腹』で、国家の経営を破綻させる程呑まないで欲しいんだけど」
エルナの言うとおり――ミレイユの飲酒量は冗談ではなくダムシアンの国庫に影響を与えている。
いずれは、彼女の飲酒によって国家が破産しました――そんな冗談のような言葉も現実になってしまうかもしれない。
「あら、それじゃまるで私が何の分別も無くお酒、呑んでるみたいじゃない?」
「まるでじゃなくてその通りじゃない。……それとも、違うと証明できる事実が今までにあった?」
「あるわよ」
「――え?」
思いもよらぬほど早い、その返答に――エルナは面食らってしまう。
そしてミレイユはそんなエルナの態度にふふ、と笑うと――
「……五年前、ダムシアンが倒壊した時……ギルバートが帰ってきて、王位を継ぐまでの間。
悪いけど私、お酒なんて一滴も口にしてなかったわよ♪ も〜あのときは、ミレイユさん一巻の終わりかと思ったわね」
「あ……」
エルナは――それ以上何も口に出来なくなってしまった。
口調こそ、おどけて見せているものの――その奥に、例えようの無い寂寥感を垣間見せたから。
そう、五年前のあの時――ミレイユは完全に崩壊したダムシアンの国家としての体勢を再生した。
酒どころか食事もろくにとらず、睡眠時間すら惜しんで――ただ国家の存続に尽力を尽くしたミレイユ。
……それが、ダムシアン第二王位継承権所有者として――本当に国家のためを思っての行動の結果だったのか。
それとも……忙しさの中に埋没することでしか、自分を保つことが出来ないほど――
「……そんな顔、ここでするもんじゃないわよ」
……その言葉は、普段のミレイユからは考えられないほど優しい響きをもっていた。
「……心配しなくっても……あれくらいでへこたれる私じゃないわ。……それはエルナが一番知ってるでしょ?
それにあの時、さんっざん苦労かけられたんだから……異母兄さんもちょっとは苦労すればいいのよ」
「ちょっとって……このレベルはちょっとじゃないと思うんだけど?」
「ま、どうせ半分しか血が繋がってないしね♪」
楽しそうに笑うミレイユに、しかしいつものことであるため――半ば諦めたように嘆息するエルナ。
――彼女達二人とて、その血の繋がりは半分でしかない。
その証拠が、二人の髪の色や瞳の色であり――顔立ちもよく見れば、二人とも違っているのだが。
王位継承権や、五年前の確執などでいまだ、ギルバートとは一線をおいて付き合うミレイユだったが、
エルナに対してはそういったしがらみを感じさせない態度で付き合い――辛い時はいつもその背を支えてくれた。
エルナも、その点に関しては感謝している――両親亡き今、エルナにとってはたった一人の肉親なのだから。
互い、血が繋がっていても殺したいほどに憎みあう間柄もあるのだ。
それを考えれば――とても幸せなことなのだろうと、エルナは思っている。
……しかし――
「……姉さんがお酒にお金を費やして、一番その費用の補填に使われてるのは私の部署の研究費なのよ……」
「あら……それは初耳」
「だからやめて。もう一度。お願い」
「イ・ヤ♪」
「アルコールなんて摂取して、何が楽しいの? 脳細胞が破壊されるだけじゃない」
「何言ってるの♪ お酒は命の泉……これがあるからこそ、人類は生きていけるんじゃない♪」
「……太るわよ」
「太らないわよ♪ 私はきちんと、その分の脂肪が腰じゃなくて、胸に行き渡る仕組みになってるんだから♪」
「くっ……」
胸の、話題――これに話題が振られると、どうしてもエルナは圧倒的不利な立場だと言わざるを得ない。
「あ――そっかそっか♪ エルナがどうしてそんなにつつましい胸なのか……だいたい理由が判ったわ♪」
ぎり、と奥歯をかむエルナに――ミレイユは口元を手で隠し、意地悪く笑う。
それを見たくなく、顔を伏せたエルナ――だが、それで代わりに眼に入ったのは、平らと表現してもいい自分の胸元。
無論、自分の胸は何も語らない。
しかし、その無言の言葉が――エルナの心に、さらなる追撃を加える――
「でもま、仕方ないかもね♪ ……エルナは昔っから、お酒だけは――」
「な――何よ……何よ胸くらい!!」
連続して畳み掛けられ、半ば錯乱した様子でエルナは叫んでいた。
そしてそのまま、ミレイユが手にしていたグラスを――酒のなみなみ注がれたそれを、奪うようにして掴む――
「私の知能に不可能なんて概念はない――ア、アルコール如きに屈する私じゃないのよ!!」
「ちょっ……エルナ!?」
ミレイユは慌てて制止しようと立ち上がるが――遅かった。
エルナは潔く、平らな胸を張って―― 一気にグラスの中身を流し込んでいく。
……ミレイユの呑んでいた、ウイスキー――無論何かで割ることなどしていない、ストレートのそれを。
ごん、と音を立てて――グラスをテーブルに叩きつけて。
「……エ……エルナ?」
「ふ……たかが、アルコール如き……」
ゆっくりと顔を上げた、その眼鏡の奥で――深いブラウンの瞳が、確信した勝利にきらりと輝いた。
「……私の知能に勝てると思っているの……か、しら――」
そしてそのまま――糸が切れた人形のようにテーブルへと突っ伏す。
……やがてそこから聞こえてきたのは、規則正しい寝息の音――
確かに、よほど酒に強い人間でなければまずやらないオンザロックを一気に飲み干せば、
酒になれていない人間には相当きついものだろうが――
「あ……あはは。……これは……かなりまっずいわね……」
そう言って、乾いた笑いを零すミレイユの表情は、彼女に似つかわしくないほどにひきつったものだった。
「まあ、でも……もうエルナも18だし……だ、大丈夫よね?」
一体、何が『まずく』何が『大丈夫』なのか――
この時、ミレイユ以外の誰も想像することが出来なかった。
「……聞きたいことがあるんだが……いいか?」
手の中で、グラスを弄びながら――カインは隣に座るクレセントへと話しかける。
こんな場所でも、全身黒い甲冑――だが、カインの空にしたボトルの山があまりに奇妙な光景で、
その奇異さもいつもよりどこか薄れ、完全にこの『あまき』の空気に溶け込んでしまっていた。
カインもまた、かつてはバロンで『天駆ける酒瓶』の異名をとっていた男――それも歴代最高の酒豪と言われた男。
クレセントは酒が呑めないというわけでは決してないのだが――
どうしてもこの異常なまでの呑みっぷりと比較すると、まるで殆ど酒が呑めていないような印象を与えてしまう。
もっともそれは、クレセントがどちらかといえば酒よりも紅茶などの上品な嗜好品が似合う雰囲気だからというのもあるのだが。
(……バロンの人間には、急性アルコール中毒という単語は存在しないのだろうか……?)
そんな素朴な疑問を胸の奥で呟いて――クレセントはしかしそれを表情には出さず、静かに頷く。
「……何だ?」
「確かお前は、『闇を統べる者』……そんな肩書きを持っていたな?
なら、元々海の様に深い知識を持っているお前だ……『闇』の事にも詳しいと思うんだが……」
……少し離れたラディには、聞こえない程度の声で――カインは続ける。
「ならば、お前は『闇』の剣……『暗黒剣』についても、他人より知識はあるのか?」
「……多少、他の者よりも詳しいという自負ならば……だが、聞きたいのは暗黒剣についてのことなのか?」
頷くカイン。だが、それならば――
「……お前の言いたいことは判る。餅は餅屋――暗黒剣のことならば、オルステッドに聞けといいたいんだろう?
だがなクレセント。……あの男の性格もそうだが――暗黒騎士はそもそも、暗黒剣に関して問いただしても何も答えん。
俺が竜騎士のことを聞かれても、答えられん様にな……どこから、門外不出の情報が漏洩するか判らない以上、仕方ない。
……それに、俺はラディのように『負の試練』の場所を聞きたいわけではないからな……お前で十分だ」
「……そうか」
と――そこでカインは新しく酒を注文し、舌を一度、潤してから。
「……五年前……セシルが暗黒騎士だったことは知っているだろう?
あいつは『負の試練』を受けて、負の力への耐性を手にいれ……暗黒騎士になった。
……だが、あいつは――他の暗黒騎士と、少し違う部分があったんだ」
「……違う……?」
「本来、暗黒騎士は共通の『暗黒』である、剣から放つ衝撃波以外に、それぞれ個別の『暗黒』の技を持っている。
オルステッドの『デストレイル』……ラディの『アポカリプス』の様にな。だがセシルには、それが無かった」
確かに――その通りである。
バロンに残っている公式戦闘記録全てを探しても、セシルが衝撃波以外に『暗黒』を使用したというケースは一度もない。
また、結果として彼の最期の任務となった、ミスト村の召喚士殲滅から向こう――彼がパラディンになるその時まで、
彼は数々の仲間と旅を共にしていたが――その時共にいた誰も、彼が独自の『暗黒』を使用したところを見たことは無かった。
「それだけじゃない――セシルは『暗黒』を使うたび、疲労困憊していた……連続で使用すると、意識を失うことさえあった。
だがそんなことを起こす暗黒騎士など、俺はバロンで見たことも、聞いたこともない」
「………………」
「『自分は、負の試練を乗り越えられなかった』。『僕は本当の意味で、暗黒騎士となったわけじゃない』……。
あいつは酒が入ると度々、そう漏らしていた。
……俺はそれが、単なる自分への不甲斐なさを言っているのかと思っていた。
……だが……どうもそれだけではないらしいな……」
カインは、ちらと目線を走らせる。
その先にいたのは、オルステッドと話にふけっている、自分の自慢の弟分――
自分達の話がラディに聞こえていないのと同様、ラディ達の話している内容もまた、ここまで届いては来ない。
……尊敬する、バロンの暗黒騎士――それも歴代最高の腕前を持つと言われた男と話をしているのが嬉しいのか、
きらきらとした瞳で少ないオルステッドの言葉に熱心に耳を傾け、相槌を打ち、言葉を返している――
「……ラディは暗黒剣を使え、『暗黒』を使えるが……暗黒騎士じゃない。
負の力を秘めた防具を装着することは出来なかったようにな。
だが……そのラディですら、衝撃波以外の、自分独自の『暗黒』――アポカリプスを使うことが出来る。
そしてあれだけ連続で行使しても、セシルのように疲労困憊している様子はまるで無い……。
……何故セシルが――セシルだけが、『負の試練』を受けてなお、暗黒剣を使いこなせなかったか。
クレセント……お前なら、その理由を知っているんじゃないのか……?」
「…………ふむ……」
その言葉を吟味するように、クレセントは軽く顎をしゃくっていたが――
「……判らないわけではない……恐らくそれは、セシルの『光』の構成部分があまりに高いためだろうな」
「『光』の……構成部分……?」
聴きなれぬ言葉に――思わずカインは眉根を寄せる。
「『光が無ければ闇は生まれず、闇が無ければ光は輝きを失う。
クリスタルに光と闇があるように、世界は光と闇の調和で成り立つ』……。
赤い月に伝わる、古くからの伝承だ……だが、文明が発達した後世においても、
これがあながちただの伝承ではなく……世界の根源的な真実の一側面を示していることがわかった」
「……つまり……この地上が光の世界……地底が闇の世界……そういうことか?」
「いや。……確かにそういう解釈もあるが……もっと壮大なスケールで考えれば、この世界そのものが一つの『光』だろう。
そして、かつてあの白き根源竜・白妙が語っていたように……私達の世界に相対する存在、それが彼女達であり、
そういう点から見れば彼女達こそが調和をとるべき『闇の世界』そのものとも言えるだ。
もっと極小に考えてみてもいい。海、山、木々……動物、草花の一本に至るまで、二側面の調和で構成されている。
人間もそうだ。……どちらかと言えば人間の場合は、光と闇の間で揺れ動く振り子のような不安定な存在だがな。
無論、この世界が『光』としての側面を持っている以上、それがやや光に傾倒しつつあるのは否めないが……。
だが、揺れる振り子のように不安定な存在だからこそ、自分自身でその方向性を操作することも不可能ではない」
と――途端話が難しくなった事に眉を顰めているカインに気付き、クレセントはもっと判りやすく言葉を選ぶ。
「簡単に言えば、『光』の剣である聖剣を操るパラディンに焦がれれば光に傾倒し、
逆に『闇』の剣を扱う暗黒騎士に憧れれば自然、闇へと傾いていく。
従って人間でも、あのオルステッドという男やラディなどは極めて闇への傾倒が激しいだろう。
だが……それでも、仮に暗黒剣を捨て、パラディンになる事が不可能ではないように……いかに傾倒しようとも、
相対する側面へと戻れないほどに極端にそのバランスが崩れることは無い……普通ならば、な」
「……それはどういう――」
「私達兄弟は、二人で一つの使命……『蒼き星を護る者』として、父クルーヤからこの光と闇のクリスタルを託された。
……つまり私達兄弟は、その光と闇のバランスが極端に一点に傾倒しているのだ。私が闇、弟が光というようにな。
……光のクリスタルの力を使いこなし、パラディンとして強大な力を保有できるその代償として――
弟は先天的に、『闇』を完全には理解できない。従って暗黒剣を習得することは『不可能』なのだ」
「……なるほどな」
その言葉を全て理解できたわけではないが――ようするにセシルには先天的に『暗黒騎士』になる素質がなかったのだろう。
それは十分、奇異なことではあるが――あの五年前の、ゼロムスとの戦いの中――セシルの掲げた、クリスタルの輝き。
もっとも近いところで、あの輝きを見れば――きっと、判るだろう。
理屈ではなく、そのクレセントの言葉には説得力が備わっていた。
「……しかし、片方に極端な傾倒――そんなことが人為的に出来るものなのか?」
「不可能ではない。赤き月の技術だけではなく――この蒼き星の技術でもな。
例えば、薬物投与による肉体改造・洗脳などによる『刷り込み』など……。
他にも外科的手術も有効かもしれんが……人の肉体だと、やはり肉体的に限界や制約もある。
この星の技術で出来る最良の手段は、高度な魔物などとの魔道的な融合による肉体改造などが――」
「なんだと!? なら……セシルは――!?」
クレセントの並べ立てる、おぞましい言葉に――カインは思わず席を立ち上がっていた。
「ああ……済まん、驚かせたか……安心しろ。弟にはそのようなことは一切、されていない。
父クルーヤと、この蒼き星の人間の女性との間の混血という点で言えば、特異とも見えるかもしれんがな」
「……そうか……」
心からほっと、ため息をつき――級に感じた精神的な疲れと安堵に、思わず軽く笑うカイン。
その笑みに、クレセントも笑みを返し――
――そう。紛れなく人間だ。
……少なくとも、弟は。
……その言葉は彼の心の内から外に出ることは無く――従って、カインの耳に届くことは無かった。
「……しかし……ということはクレセント。
それでいくとお前はパラディンになれない代わりに、暗黒騎士なら頂点を極められるということになるのか?」
「理屈の上ではな。……だが、私にはどうも、お前やラディに備わっている先天的な戦闘センスは無い様だ。
せいぜい、槌を振り回すのが関の山……私はどうあっても、戦士より魔道士に向いている様なのでな」
「そういうものか…………マスター、酒の追加だ。そこにある酒瓶、全部こっちにまわしてくれ」
「ふむ、ついでにつまみも頼む。そちらは……せいぜい3人前で構わん」
「……そういえば……なんですけど」
――カインとクレセントが、セシルの暗黒騎士としての不調について話していた頃――
ラディとオルステッドが話していたこともまた、暗黒騎士のことについてであった。
ただ、ラディの性格上――どう考えても、話の方向性がそちらに進むのは仕方ないことなのだが。
「オルステッドさんは、父を……レオン・オルティニアを知っているんですよね?」
ラディを『レオンの息子』と呼ぶ辺り――知っていることは間違いない。
案の定、黙って頷くオルステッドに――
「もし良かったら……差し障りの無い程度に、父のことを教えてくれませんか?」
「……なに?」
その質問に――少なからずオルステッドは驚きをその淡々とした言葉の中に表わしたが――無理も無い。
ラディは、『レオンの息子』――暗黒騎士レオン・オルティニアの実の息子なのである。
……もっとも彼に近く、彼と共に過ごしてきたラディが、その彼のことを他人に伺おうとするなど――
それがよほど表情に出てしまっていたのか――何か言おうとする前にラディは慌てて手を振ると、
「あ――もしよかったら、でいいんです。
その……父は家にいるとき、よくオレに暗黒騎士団のメンバーの話をしてくれたんですけど……。
それは父が見た暗黒騎士団の中である以上、父自身が暗黒騎士団で、どういう人だったかは聞けなくて。
……オルステッドさんは確か……父が剣を教わるために頭を下げて、剣を教わっていたとよく言ってました。
だから……オルステッドさんなら、『暗黒騎士団の中の父』を知っているんじゃないかと思うんですが……」
「……私が見る限り、あの男はいちいち自分を使い分けられるほど器用ではなかったと思うがな……。
ずっと年下の私に頭を下げて剣を教えてくれ、というプライドにこだわらん点といい、
何も考えていないような大らかな雰囲気といい……子煩悩な点といい、お前の知るレオンとそう変わらんと思うが」
「そ……そうですか……」
子煩悩――それは知らなかったが、そうだったのだろうか。
それは暗に自分も指されている話であるがゆえに、ラディとしては苦笑するより他に無い。
「……ただ……」
「……?」
「ひとたび、剣を握れば……戦場に立てば。……戦闘ということに関して……あの男は間違いなく『化け物』だった」
そう呟く、オルステッドの言葉の奥にあるのは――言いようのない、小さな震え。
それは一体、何なのだろうか――ラディには想像することが出来なかった。
「父が、一度見た相手の技をすぐに使いこなすのは知ってますけど……そ、そこまで言わなくてもいいんじゃ――」
「……レオンの息子。お前は何故、レオンが自分独自の『暗黒』を持たなかったか……疑問に思わなかったことは無いのか?」
「――え……?」
問われてみて――ラディはそこで、初めて気がついた。
確かに――レオンはこと『暗黒』に関して、衝撃波以外の技を使ったという話を聞いていない。
そんなラディの反応を見て――オルステッドは瞑目し、過去の情景を瞼の奥で見返しながら――呟いた。
「……あの男が、まだ暗黒騎士になって間もない私に頭を下げて剣を教わりに来たこと、お前は知っているようだな。
確かにあの時、レオンは自分の剣の腕が私に及ばないことを素直に認め、私に頭を下げたのだ。
私のほうも興味があった……一度見た技をすぐに習得し、本人以上の技として完成させるレオンの力をな。
だから、私はレオンに稽古をつけることとした……だが、それはたった一日で終わることとなった」
「……どういう意味で――」
「……あの男の風評は本当だったということだ。
最初の一・二本は、レオンから奪うのはそう難しいことではなかった。
だが……レオンは一度見た私の技の欠点や隙を見抜き、すぐに的確な攻撃をしてくるようになった。
『てこずった』と言ってもいい……あれほど本気で戦って、やりづらい相手は見たことが無かった。
だから私は、決して稽古では使おうとは思わなかった『デストレイル』で……一撃で勝負をつけようとした。
だが――結果として、私は敗れた
あの男の使った『デストレイル』に打ち負けてな」
「…………!?」
その言葉は――ラディを少なからず驚かせた。
無理も無い話だった。
オルステッドが、敗れた――それだけでも十分、驚嘆に値する事実だというのに――
「デストレイル……な、何で父が、オルステッドさんの『暗黒』を――!?」
「……簡単なことだ。レオンは、一度見た技を完全に見切る……だがそれは、普通の技だけではない。
『暗黒』すらも例外ではなかった……一度見た『暗黒』を全て、あの男は自在に操って見せた。
『幻魔相破』『闇の剣』『シャドーウォール』……私の『デストレイル』も含めて。
……使用者本人以外、誰も真似など出来ないと言われた『暗黒』を……本人以上の威力で、扱ってみせた……」
オルステッドの言葉の奥にある、震え――その正体が何なのか、ラディはようやく理解した。
それは……『恐怖』だ。
無理も無い話だろう。
ラディでも、そんな相手と剣を交えれば――自らの全てを吸収し、自らを上回る力で『返してくる』相手と戦えば。
……全く同じ感情を、心の底から抱いてしまうに違いない――
「……レオンが、自分自身の『暗黒』を使わなかったのか、使えなかったのか……それは判らん。
だが――私は『使う必要が無かった』のではないかと思っている。あれほどの力を持っているのならな。
とにかく……あの男は強すぎた。私とてあの頃、自分の力に決して奢っていなかったわけではない。
だが、あそこまで簡単に圧倒されてしまうとは……思っても見なかった……」
「………………」
初めて聞かされる、レオンの真の実力――
暗黒騎士団でも最高の使い手と謳われたオルステッドをして、震撼させるほどの圧倒的な戦闘センス。
まさか――それほどまでとは、思ってもいなかった。
「……だがレオンは、その力に溺れることは決してなかった」
「……えっ?」
「自分の力に慢心せず、萎縮せず……ただ真っ直ぐに強くなろうとする素直さと強さがあった。
暗黒騎士団でもあまり馴れ合いを好まない私に、あの男は積極的に話しかけてきたが……。
正直、悪い気分はしなかった。……無知だからではない。
全てを知ってなお、そうあろうとするあの男の強さが……嫌いではなかった」
そして――ラディは思わず、自分の目を疑った。
オルステッドが――笑ったのだ。
口元を僅かにほころばせる程度――声も上げなかったが。
……だが、その赤銅の瞳の冷たさは今、確かに消え――オルステッドは過ぎ去った過去に、笑っていた。
「……そして、レオンの息子……私はレオンから、お前のことをよろしく頼む、と頼まれた」
……笑みを収め、そう呟いた時。
オルステッドの瞳に、すでに暖かいものは無かった。
だがそれは、拒絶の冷たさではない――虚偽は許さないという、鋭さを秘めた真摯さ。
それを湛えたまま――今、暗黒騎士に憧れる若者の瞳を、オルステッドは射抜く――
「だから私は、聞いておかねばならない。……暗黒騎士団の一番隊隊長として。
一人の暗黒騎士として。……レオンから、頼まれた者として」
喧騒さえも――どこか別の世界の出来事のように、二人の間から消え去っていく。
今、確かに――二人の意識は二人以外の何者も、その存在を認めていなかった。
限りない、静寂――その中で。
……オルステッドは静かに、口を開く――
「レオンの息子……お前は何故、暗黒騎士になりたいのだ?」
一瞬の――空白。
「……え?」
「お前が暗黒騎士になりたい……暗黒剣を捨てる気は無い。それは昨日、聞かせてもらった。
だが何故……お前はそこまで暗黒騎士になりたいと願う?
偉大な父に、憧れるからか――それとも」
言葉が、切れる。
次の言葉に、意識が全て集中する中――
オルステッドは告げた。
「罪滅ぼしをしたいからなのか?」
「………………!!」
――何度も、問われた言葉。
『何故、暗黒騎士になりたいのか――』
それへの明確な答えを、ラディは持っていた。
持っていたというのに。
応えられない。
反論することが――出来ない。
全てが――フラッシュバックする。
燃え盛る炎。
焼け落ちる街並み。
命が次々と、炎に奪われていく――その中で。
……守ると誓った、少女は――
ぶるぶると震えだした右腕。
罪は消えぬと、訴えるように。
ただラディは力一杯押さえるしかなかった。
噛んだ唇から――古鉄の味が滲んでいた。
「お前は暗黒騎士になりたいのか。……それとも……ならなくてはいけないのか――どちらなのだ?」
その言葉に、弾劾の響きはない。
それは――オルステッドが覚えているからだろう。
五年前――力無き一人の少年の向えた、歪んだ結末を。
自らを焼き尽くす痛みに耐え切れず――そして、世界の真理をそうしてでしか悟れなかった少年の姿を。
……そしてかつては、自らも同じ痛みに苛まれ――壊れてしまったことがあるために。
だから、彼は待った。
かつての少年――ラディが迎えた、結論を。
沈黙は、長かった――
だが、永遠ではなかった。
「……………………オレは……」
小さな物音にも、かき消されそうなほど――その声は小さく、掠れていて。
しかし、全ての意識をそのラディの言葉に傾けているオルステッドには届いていた。
「…………オレが、暗黒騎士を…………暗黒騎士を、目指すのは……――」
だが。
次の瞬間――ラディとオルステッドは、全力でカウンターから身を投げ出していた。
あまりに熱心に聞き入っていたために――完全に、オルステッドは気付くことが出来ないでいた。
気付けたのは、直前――自分へと飛来する、切っ先鋭いナイフが視界に入った瞬間だ。
身を投げ出すようにして床に伏せる、その一瞬前の空間を――鮮やかと言うべき見事な軌道で、ナイフは貫いていく。
片手で床を叩き、反射的に身を起こし――まず目に入ったのは、自分と同じようにしてナイフをかわしたラディの姿だ。
「大丈夫ですか!?」
反射的に、そう尋ねていたのだろう――実際にオルステッドがその言葉に反応する前に、
ラディは一瞬でオルステッドの体を見通し――その体に目立つ外傷がないと知るや否や、その視線を跳ね上げた。
辺りを見渡し――店の状況を確認する。
……ナイフが狙っていたのは、自分たちだけではなかった。
いや、というよりも――店にいた客全員に対して、等しくナイフが襲い掛かっていたという方が正しい。
ただ、不幸中の幸いだったのは――今日訪れていた客が、比較的修練を積んだモンク僧が多かったということだろう。
近くにいた観光客を押し倒し、庇ったおかげで――その全てが額を狙っていた致命の一撃だったというのにも拘らず、
死亡ないし重傷を負ったものが誰もいなかったということは奇跡的だ。
無論、カインとクレセントもそれぞれ飛来した一撃を無力化し――
ミレイユもエルナを抱え、とっさに倒したテーブルの影でナイフの一撃を凌いでいた。
誰もが、その突然の凶撃に驚き、身を伏せ、沈黙する中――響いたのは、しわがれた鳥の鳴き声のような哄笑だ。
「ヒャハハハハハハ! だぁぁんゅうれぇぇいも死ななぁぁかったんだねぇ!? つまぁあんんあいなああ!?」
呂律の回っていない口調で、自らをかき抱くようにして哄笑するのは――先刻の、全身レザースーツの男。
そしてその手には、どこから取り出したのだというのだろう――数々の形をしたナイフが握られている。
だが、それを聞かなくとも、見なくとも――ラディ達にはこの男がやったことだという確信があった。
何故なら、投げられたナイフの軌道――その直線を線で結べば――全ての中心が、この男に収束するからである。
何のために、いきなりこのような凶行に及んだかは判らない。
だが――確かにナイフは、かわさなければ確実に、死者を生み出していた――
「くっ……お前ッ!!」
なにがおかしいのか――ナイフを持ったままずっと笑い続ける男を、ラディは取り押さえようとして。
「………………動くな」
静かな声が――沈黙の支配する店内に響き渡った。
全員の視線が、今度はその声のした方へと集中する。
……声を放ったのは、この店の若き店主だった。
彼もどうにか、あのナイフの攻撃から身を防ぐことが出来たらしい。
先刻と代わらず、まるで非礼さを感じさせない挙動で彼はそこに立っていた。
――ヤンの座っていた、カウンターの前に。
だが今、彼が先刻までと違っていたのは。
その手に握られた――長さ15cm程度の、無数の細長い針だろう。
そしてそれは、まるで客にグラスを手渡しているかのような素っ気無さで。
……ヤンの頚動脈へと、寸分たがわず押し当てられていたのだった。
「………………ファブール大僧正……ヤン・ファン・ライデンの命は…………私達が掌握した。
…………だから動かないでもらおう。…………彼を殺したくないと思うのであれば…………な」
作者 :……と、言うところで……座談会です。
オルステッド:いいのか……こんな緊迫した場面で終了して。
作者 :いいんだよ、こっちの方が話が盛り上がるし――ってオルステッド!? 何故に!?
しかも他のメンバー一人もいないし!?
オルステッド:……前回の五話で、一対一のあの座談会が好評だったことと……そして読者から、
私の一対一バージョンを是非に頼むというリクエストがあったのでな……この運びとなった。
作者 :おおっ!? 本当か!? ……そんなマニアックなリクエストが……。
オルステッド:何か言ったか?
作者 :い、いえいえ!? ……で、そんなリクエストをしてきたのは一体誰だ?
オルステッド:……大阪府在住の……男。年齢は19歳だな。
プロの小説家を目指して邁進する、背の高い眼鏡をかけた男――
作者 :あ、それオレだ。
オルステッド:領域侵す剣――デストレイル。
ぎゅばぁっ!!
作者 :げああああ……こ、殺す気か……。
オルステッド:自分の自己満足で私を使おうとは……十年早い。
作者 :う、うう……だって、仕方ないじゃん……ライブアライブ、好きなんだから。
オルステッド:この小説の基盤はFF4だ。
作者 :ライブアライブは時田版FF4だっ!!
オルステッド:強引な理屈だな……ならばもう一度、お前の領域を――
作者 :そそそそそ、それよりも本編の見返し、いってみよう!
オルステッド:ふむ……そうだな。これ以上このようなことをしても……不毛だ。
作者 :今回は設定のネタバレって感じで、あんまり作者的には面白いストーリーとは言いがたかったな。
オルステッド:それはお前が設定の全てを掌握しているからだろう。
見せていない設定の一部を覗ければ、読者側にはそれなりの収穫というものがあると思うが?
作者 :そうかな……まあ、オレも設定読むのは好きだけど。
それにまあ、あくまでまだこの五話の導入部分だし……このくらいでいいかな?
オルステッド:私としては……やはりセシルとレオンの『暗黒騎士』としての設定の公開が目立つが。
作者 :まあ、オルステッドもナイトハルトもアセルスもそれぞれ、『暗黒』の技持ってるのに、
何でセシルとレオンだけがこの独自の技を持ってないのかっていうのの説明、してなかったし。
オルステッド:……本編中での言葉の意味が今ひとつ不明だったが……ようはセシルは、
属性が『光』である以上、『闇』の剣である暗黒剣は習得不可能ということだろう?
作者 :すっげぇ簡単に言えばな。普通は多少光寄り、闇寄りっていうものはあっても、
基本的に人間は中立的な場所にポジションがあるんだけどなぁ。
……しかし、まだ正式な暗黒騎士ですらないラディにすら、
暗黒騎士時代のセシルが劣ってるっていうのは……いろいろと問題だろ?
オルステッド:しかし……ならば何故、セシルは暗黒騎士になったのだ?
理屈は判らなくとも……自分に向いていないと本能的に悟っていたはずだろう?
作者 :ま、ここの辺りはオリジナル設定が入るんだが……ようするにクルーヤは、
『光』と『闇』のエキスパート二人一組で、『蒼き星を護る者』として組んだわけだ。
けど、クレセント――ゴルベーザがゼムスにつかまったせいで、
『闇』を失って、『蒼き星を護る者』としてのバランスが取れなくなった。
だからセシルは暗黒剣を習得することで、自分ひとりで『光』と『闇』のバランスを取ろうとしたんだ。
もちろん無意識の内での行動だし、もしバロン王に引き取られなかったらどうなるっていう話もあるが……。
あくまで巻き込まれに巻き込まれて、その結果『偶然』パラディンになっただけのはずのセシルなのに、
何で試練の山でクルーヤの意識はまるでここにセシルが来ることをあらかじめ知っていたのか?
……っていう不自然さに比べたら、まだマシな方だろう?
オルステッド:ある程度、運命を自らの手で変革させた……そう見ても構わんということか。
作者 :その言い回し、もらった! ……で、次はレオンだが……。
オルステッド:……凄まじい戦闘センスだな……一度見た相手の技を完全に見切るとは。
作者 :ま、ラディが純粋に憧れる父親だしな。……要するにレオンは『ものまね』の達人だったわけだ。
オルステッド:『ものまね』……。
作者 :これはFF5での設定だが……あらゆる武術に長けた格闘家が、
ある日瞬時に相手の技を真似るという奥義を編み出し、以来無敗を誇ったが……その強さのあまり、
彼はその技『ものまね』を一子相伝の技として封印した。……ようは『ものまね』って言うのは、
相手の技の性質を瞬時に見切る判断力・それを再現する肉体のバランスに戦闘能力。
どれをとっても超一流の人間にしか出来ない、格闘術の奥義ってヤツだしな。
オルステッド:ということは……レオンは事実上、武芸百般だったということになるな?
作者 :ま、相手から技術を奪っていって武芸百般になったって所だろうけどな。
それにレオン