Final Fantasy W
After story
〜第三十二話〜『光』なるもの、『闇』なるもの〜
「――なるほど……確かにこの証書、紛れなくギルバート殿のもの……」
チョコボを全力で駆けさせつつ――その手綱を片手で操りながら。
ヤンはラディから手渡されたダムシアン発効の証書を検分していたのだが――それをラディに返す。
双方、全力で駆けるチョコボに騎乗したまま――なかなかに離れ業の騎乗技術の賜物である。
「ならばファブールとしても、そなた達を無碍にするわけにも行くまい。
風のクリスタルルームへの入室許可を、大僧正として正式に許可しよう!」
「すまんな――本来なら、きちんとした手続きをとるところを!」
カインの言葉に――ヤンは軽く笑うと、
「かまわん! ……そもそも検分とて、一応体裁を取ったまでのこと。
そなたらが誠のことを口にしていることくらい――その眼を見れば判る!」
デッドペッパー――チョコボに食させることにより真価を発揮する香辛料で、脳内麻薬を大量に引き出させ
その身体能力を限界寸前まで引き出す一種の加速剤を投入され、血眼になってチョコボは走る。
疲れすら知覚できぬほどの走破をつつけた、そのおかげか――
「……見えてきたか……!!」
クレセントの言葉に――ラディも地平の先を見やって。
……やがてそれを突き破るようにして、ゆっくりと現れるその威容。
バロンのように戦闘に適した形でも、ダムシアンのように優美でもない。
しかし――石と木という限られた建築材で建てられながらも、決して無骨でも無粋でもないその姿。
むしろ教会や神殿のような、静かで澄み切った空気をかもし出す『雅』のその城こそ――
「……あれが――」
「宗教国家……ファブール……!!」
―― 一つ、区切りとなる重要な謁見を終えて――セシルは軽く息を吐いた。
……と――視線に気付いて横を見れば、ローザがそんな自分を見てくすくすと笑っている。
思わず、自分も笑みがこぼれて――両肩にのしかかった国王の重みが少し消えていった。
バロン城・王の間――今、ここにはセシルとローザ以外、誰もいない。
謁見中には必ず左右に控える近衛兵も、直前の謁見終了と共に下がらせていた。
謁見は、今終わったもので一端休止――しばしの休息をはさんで再開となっている。
大体、その時間には二人も一端王の間を退出し、一服ゆっくりと過ごすのが常なのだが――
しかし今日は、そうはならなかった。
セシルはそのまま、豪奢な王座のもたれにかかった、小さなベルを軽く鳴らす。
小さいが、非常に澄んで響く音が部屋一体に響いて――やがて王の間の重厚な扉が、ゆっくりと開く。
そして、常ならぬ謁見の時間を設けられて――招かれたのは――
「……お久しぶりです」
セシルは玉座を立ち――そのまま静かに頭を下げ、一礼する。その、相手は。
――シドに、似ている。きっと技師シドを知るものなら、そういうに違いない。
別段、容姿が彼に似ているというわけではないが――その身にまとう雰囲気、空気がそっくりなのだ。
自らの追い求める夢にただまっすぐに進み続けた、漢のかもし出す雰囲気が。
小柄ながら、がっしりとした体つき。ドワーフ特有の、浅黒い肌。
白いものが混じっているものの未だ健在の頭髪といい、実年齢より20は若く見えるその外見。
着ているものは、今までの謁見者のような礼服ではなく――火に強い石綿をたっぷりキルティングした作業着だ。
己の腕一つで、己の人生をも鍛え上げてきたであろうその男は――しかし朗らかに笑うと、
「国王様に頭下げてもらうほど、わしは偉い身分になった覚えはないわい。
この老骨をからかう気が無いのなら、一介の刀鍛冶なんぞに頭を上げるのは勘弁してくれ」
その言葉に――セシルはゆっくりと頭を上げ、しかし、
「いいえ……僕が頭を下げたのは、国王としてではありません……一介の、騎士としてです。
あなたも、そのつもりで今日は来てくださった……違いますか?」
「まあ、わしはあんましこういった場所には来ないからの。……まあ、それならわしの言うことはあるまい」
セシルと、男―― 一見、対照的な二人の漢は――しかし示し合わせたように、共通した笑みを浮かべて――
「……久方ぶりじゃな、セシル殿」
「お久しぶりです――ククロさん」
セシルの差し出した手を、男――ククロはがっしりと荒々しく、しかし力強く握り返した。
ククロ――彼の名を呼ぶ時には、必ずその頭こう、言葉を添えなくてはならない――『世界一の鍛冶屋』と。
刀匠ククロ。今年で数え、70に達するというこの老人こそが――まさにそのククロその人であった。
50年前、当時はまだ鍛冶屋としては青二才に入るような若輩の年齢のそのときから――地底での彼の名は有名だった。
地上と地底、二つの世界が繋がったのはつい五年前ゆえに、セシルたちにはそのことを伺うことは出来ないが――
地底に行って「クロロ」と聞いて知らないものはまず存在しない。それが戦士だけに限らぬというのだから凄まじい。
彼は基本的に、剣だけではなく武具の類ならば何でも作れるのだが――やはり、彼で有名なのは剣である。
彼の打った剣は、その全てがそれぞれ逸話を持った名剣となっており――特に名剣・ディフェンダーは、
金属的には普通の鉄を使っているにも拘らず、その切れ味は『魔剣』と称してもいいほど――
地底で少しでも剣をかじったことがあるならば、一度はディフェンダーをその手にすることに憧れるものである。
下手をすれば、あのドワーフ王国の偉大なる王ジオットよりも名の知れた人物――それが、ククロなのだ。
「お久しぶりです、ククロさん。……送らせた飛空艇の調子はどうでした?」
「おお、ローザ殿も久方ぶりじゃの……すまんの、わしにあんな豪華な出迎えを用意してくれて。
航行はとても静かじゃったよ。揺れも無かったしの……まるで地面に居るようじゃった」
ローザには、流石に力任せに握手することも無く――軽く一例を交わし、感謝を述べる。
「……ところで、ククロさん。今日、来ていただいたということは――」
「ああ、そうじゃ。……とうとう完成した。ここに持ってきておる」
ククロは、背に負った長大な布袋を地面に下ろした。
よほど長い間使用してきたのだろう、薄汚いその袋の口を開くと、そこから出てきたのは長大な黒塗りのケース。
そして、その中に入っているのは――
「……お前さんの依頼どおり……鍛え上げたぞ。わしの魂の炉に再び灯を灯した剣――エクスカリバーを」
「……ありがとうございます!」
――聖剣・エクスカリバー。
それはかつてセシルがパラディンになったとき、父クルーヤに授けられた一振りの聖剣だった。
はるかな昔には、ラグナロクさえも凌ぐ膨大なパワーを内包したその聖剣も――しかし時の流れには勝てず、
暗黒騎士レオナルトのデスブリンガー同様、殆ど残りかすが残留した程度の力しかその剣には残ってはいなかった。
しかし――その剣の業を見抜いたククロ。そして彼の求めていた刀剣最高の素材・アダマンタイトを目にした時。
彼のくすぶっていた鍛冶屋としての魂に火がついたのだった。
かくして、彼の手によりかの剣は鍛え上げられ――かつての力は取り戻せなかったものの、
それでもこの蒼き星最高の聖剣・エクスカリバーとして甦り――五年前の騒動では輝かしい働きを見せてくれた。
この剣は、父との確かな繋がりを得たセシルにとっても、再び鍛冶屋として甦ったククロにとっても重要な剣。
……それをセシルは一年前に、ククロにもう一度鍛えなおして欲しいと頼み――そして、今に至ったのである。
「それにしても、地上はすごいのう……まさかこれほどまでにアダマンタイトが取れるとはの。
それに魔法金属ミスリル……これもなかなか、鍛えがいのあるやつじゃ。人生、まだまだこれからじゃの」
ケースの封印を開けながら、ククロはうれしそうに呟く。
「ミスリル村での生活……どうです?」
「余生を送るには最高の土地じゃな。……海が青いというのが少し不気味じゃが」
現在、ククロはかつて地底にあった工房を弟子に任せ単身、ミスリル村で生活している。
地底とはまた異なった地上の刀剣技術は、彼の創作欲を刺激してやまなく、ますますその腕は上達しているという。
「……今回は、剣の刀身自体を全てアダマンタイトに変えておいた。……鍛冶屋としては最高の贅沢じゃな。
そしてそこに、わしの今までの全てを込めて打ち込んだ一振り……もはやあの『ラグナロク』とて目ではないわい」
史上最高の聖剣の名を口にして――なお、ククロの表情からは自信に満ちた笑みは消えない。
どうやら打った本人をして、確実な手ごたえを感じたのであろう。
幾重にも封じられていたケース――その最後の金属封を解除し、ククロはケースを押し開ける。
そしてそこに収められていた、布に巻かれた一振りの剣――それを黙って、セシルに渡す。
セシルはやはり言葉無く、一つ頷き――剣を受け取り、その布へ手をかけた。
しゃらり、という衣擦れの音と共に、布は地面へと落ち――そして。
「……その剣こそが、このわしの全て――そう、刀鍛冶としてのすべてを注ぎ込んだ、一振りじゃ」
「ヤン大僧正!? これは一体!?」
「この者達は私の既知だ――問題ない! それよりも衛兵! ……国民に非常体制・乙を通達!
私からの連絡があるまでそれを維持しておけ! それからシユウ! 私について参れ!!」
「ハッ!!」
「りょ――了解しました!!」
鋭く、命令を下しながら――ヤン達は一目散にクリスタルルームへの道を駆けていく。
ファブールは、その城内に全て住民が暮らしているという一風変わった建造になっており、
ゆえに城下町が存在しない分、国に入ればすぐ城の中というのが今回においては非常に助かった。
訓練されているのか――ヤンの指示に的確に従い、道を開けていくファブールのモンク僧たち。
そこを一気に駆け抜けながら――一向はひたすらにクリスタルルームへの道を辿っていった。
先頭を走るのは、やはりヤン。そのヤンに半歩ほど遅れる形でクレセントとカインが走り。
……そして先刻『シユウ』と呼ばれた男――ファブール特有の甲冑に身をつつんだ男が併走する。
「シユウはこの国縁のものではないが――腕のたつパラディンでな。
話を聞く限り――手練れのものが多いに越したことはあるまい!!」
「……パラディン、か……」
――カインたちから数歩遅れる形で走るラディは、そのシユウというパラディンの背を眺めながら呟いていた。
歳はカインと同じぐらいだろうか? 黒髪を短く切りそろえ、実直そうな面持ちをした武人である。
その身のこなしや、背に負った聖剣――カインやセシルほどではないが、確かに言われたとおり腕は相当たつようだ。
この男が加わった場合における、戦闘の運び方をシュミレートしながら――ラディはぴったりと距離を保って走る。
……そして、そのラディにさらに数歩、遅れて走るのが――
「ちょ――ちょっと、そんな全力で走られても困るんだけど!?」
流石に世界各国を渡り歩いて鍛えた健脚。息を切らすことも無く――しかしミレイユはそう口にせざるを得なかった。
急いでくれているのか、全力でクリスタルルームへと走り続けるヤンなのだが――
彼女からしてみれば、今まで一度も通ったことの無い場所を全力で走られても普通に追いつけないのである。
ラディのように、軍でそういった訓練をみっちりと体に叩き込まれたようなものならともかく――
「……けど、妙ね……」
ミレイユと同じぐらいのところで、なんとかラディの背を頼りに走り続けるエルナがポツリと呟く。
「妙って……何が?」
「……だってそうでしょう? 訓練を受けているラディでさえ、先頭のヤン大僧正とあれだけ距離が開いている。
なのに、クレセントもカイン・ハイウインドも――ラディと違って、大僧正とほぼ同じ速度で走っているじゃない。
……まるで、道がわかってるみたいに」
「そういえば……そうねぇ。……はぐれたり迷ったりしている素振りもないし。どういうことなのかしら……?」
――この問答、もし二人が聞いていたならば――思わず苦笑していたに違いない。
ミレイユ達の疑問は確かに正しく――そしてその回答も、彼女達の言う通りなのだから。
カインもクレセントも、クリスタルルームへの道順を知っている。どころか、クリスタルルームに行ったこともある。
――ただしそれは、そのクリスタルを強奪するためであったのだが。
……かつては侵略のために訪れた国、歩んだ道を――今は国を守るために全力で走る。
人生――何が起こるのか、本当に判らないものである。
しかしそんな述懐にかまけている暇も無く――階段を駆け上がり、廊下を走りぬけ、王の間を通り過ぎ――
やがて一目で手誰れと判る僧二人に囲まれた、重厚な扉が姿を現す。
見知らぬ者を引きつれ、王が全力で走ってきたという状況の異様さにも驚くことも無く、彼らは口を開く。
「……大僧正、どうなされました?」
「うむ。……ダムシアン国王ギルバート7世より連絡があってな。……クリスタルに少々、問題が発生したそうだ」
「ということは……封印を解かれるのですね?」
「その通りだ。……この者達は、ギルバート殿の言伝を申し付かっている使者。彼らにも今回、立ち会ってもらう。
そなた達は私たちがこの中に入った後、私の命があるまでここを押し破られぬよう、全力で封じてくれ」
「はっ」
短く一言、了解の意を発して――二人の黙礼を左右に、ラディ達はその重厚な扉を開き、奥へと進んでいく。
扉の向こう側は、クリスタルルーム――ではなく、細い通路となっていた。
「……昔は確か、この扉のすぐ先がクリスタルルームだったはずだが……改築したのか?」
さくさくとその通路を進みながら――先頭のヤンは振り向かずその言葉に頷くと、
「うむ。……五年前の襲撃の一件で……クリスタルルームの警備の甘さを露にしてしまったからな。
確かにファブールには手練れのものが多い……しかしそれだけでは、あのように簡単にクリスタルを奪われてしまう」
その言葉に――「ああ」とも「いや」とも言える立場ではなく、カインもクレセントも微妙な表情を浮かべる。
「……故に考えたのが、これだ」
ヤンの歩みが、止まる。
そして、ラディ達の目の前にあったのは――やはり堅牢で重厚そうな両開きの扉と――
「……何だ、この紙切れは……?」
カインの目に留まったのは――扉の中心を、まるで封じているかのように張られた一枚の紙。
短冊よりすこし大きいといったところか――白いその紙の表面にはびっしりと黒い紋様のようなものが描かれている。
「……符札か」
クレセントは顎をしゃくって、その正体をずばりと言い当てたことに――ヤンは軽く目を見開く。
「……知っているのか?」
「……聞いたことがある程度のものではあるがな。……確かファブールには古来の昔、
この様に特殊な紋様と紙を使うことで作った『符札』によって、
まるで魔法のような効果を表す魔道技術があったはずだと。
……もっともミシディアと交流を行なうようになってからは、利用しやすい魔法の方が発展し、失伝したはずだが――」
クレセントはその札に描かれた紋様や扉をしげしげと眺める。
「……これは……古来より、破魔の力のあるという桃の木の皮を利用して作った紙に、
符札の灰を溶かし込んだ水――符水で紋様を描いたものか。……いや、それだけではないな……。
この扉自体が、一件ただの扉に見えるが――塗装に符水を利用しているとは……徹底している」
「……随分と詳しいではないか」
すらすらと、地元の人間でも知らないようなことを述べあげていくクレセントに――ヤンはやや引きながらも、
「ともあれ――この呪術的封印によって、ファブールのクリスタルルームは封じられている。
もし入ろうとするならば、封印の効力が切れる時を待つか―― 一端封印を解除して入るより、他には無い」
ヤンはそこで、言葉を切って――クレセントに向き直る。
「……もう一度だけ、問う。……本当にクリスタルに異変が起こっているのだな?」
「うむ。……間違いない。この扉、一枚を隔てて……紛れなく増大しすぎたクリスタルの力を感じる」
クレセントのよどみの無い言葉、揺らがぬその瞳に――覚悟を決めたようにヤンは頷いた。
「……判った。ならば――解こう。クリスタルの――封印を」
そしてそのまま、彼は扉へと相対する。ラディ達はそんなヤンから一歩下がったところで、彼の行動をじっと見守る。
「……この封印は強力なものでな。力で破ることは不可能……封印者本人が認めた者、僅か数名だけが解除出来る。
そして、封印解除のために必要な道具もまた――封印と同時に、認められたものには手渡される……!」
そう言って――全身の『気』のようなものを高めながら。
ヤンが、取り出したものは――
「……へ?」
思わずラディは、そんな間の抜けた声をあげてしまったが――この場にいるものの大半が大体同じ様子であった。
何故ならば、ヤンが厳かに片手に握っていたもの、それは――
「ね……姉さん。あれって……私の見間違いじゃなければ……あれよね?」
「え、ええ……あの玉子焼き焼く時に使うフライパンでしょ?」
そう――あの四角く底のある独自の形をしたフライパンである。
主に玉子焼き以外に使用しようにも、その形からあまり役に立たないあれである。
どっちにしろ、卵アレルギーである作者にとって見れば役に立たないもの以外の何者でもない――あれである。
しかし、ヤンはそのままその玉子焼き用フライパンへと、全身の神経・意識を行き渡らせて――
「封印――解除! チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
――瞬間、
ごわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!
……という音が響き渡って。
扉に貼り付けられていた札はさらさらと灰になり、消滅した。
「――では行くぞ、皆の者!!」
「あ……ああ」
力強く扉を押し開け―― 一人意気込むヤンと対照的に、
直前の光景にすっかり気を抜き取られてしまったカインたちが後に続く。
(むう……あれは天然なのか……それとも、狙っているのか……?)
底知れぬファブールのパワーに改めて戦慄しながら、そしてクレセントもその後に続いていった。
「これが……」
手にした剣を、さらすようにして見つめながら――セシルは呆然と呟いた。
陽の目にさらされた、その刀身――それは淡く真珠にも似た輝きを返しながらも、瑠璃のように色を変えていく。
まるで朝露に跳ね返る光のように澄んだその輝き。
手に吸い付くような一体感を得た柄から伝わってくるのは、ラグナロクすら凌ぐ圧倒的な力の胎動――
「どうじゃ。……このククロ最高の一刀。名づけて『エクスカリバーU』の力は」
「すごい……凄い剣だっていうのが……握った手から、全身に……心に伝わってくる……!!」
剣を手にした感嘆に、思わず声の震えるセシル。
「そうじゃろうて。……なにせその剣は世界でただ一つ――お前のためだけに打ち込んだ剣。
手の形、剣戟の癖、聖剣の力の源になる魂の根源的な力との波長の共鳴……その全てがお前を元にしておる。
たといどれほど卓越した剣の腕前のものがそれを握ろうと、その剣の真価を発揮できるのは――そなただけじゃ。
まさに世界で一つ、そなただけのための剣であるが故……その剣のもう一つの銘は――」
ククロはそこで言葉を切って――その目でセシルの目を真っ直ぐに見返し、告げた。
「『セシルの為の剣』……」
「ソード・オブ・セシル……エクスカリバー……U……」
その響きが、何故かとても違和感無く心に響くのは――セシルもまた、手にとった瞬間に知ったからだろう。
この剣が、今自分と出会ったことで生まれ――そして自分のためだけに、この世に生を受けた剣だということが。
……そのまま、一分ほどだろうか。ただただその刀身を眺めていたセシルだったが――やがて剣を鞘に収めて、
「本当に……本当にありがとうございます!」
「……そこまで喜んでもらえたのなら、わしも精魂込めて打った価値があるわい」
クロロはニカッと笑い、セシルの腕をぱんぱんと叩いて――そのまま身を翻す。
「あっ――まだ、お金の方を――」
「んなもんはいらんよ。……おぬしがその剣を使いこなしてくれるのが最大の報酬じゃ」
王の間の、重厚な扉へ節くれ立った指をかけて――最後にもう一度振り返ってにやりと笑うと、
「それとついでに帰りはぶらりと陸路で帰るから、飛空艇の出迎えは遠慮させてもらうぞ。……では、達者でな」
そしてそのまま――世界一の鍛冶屋の背中は、再び閉じられた扉の向こうへと消え去っていく。
「剣が甦って……よかったわね、セシル」
ローザのうれしそうな言葉に――セシルもまた、これ以上無いほどの喜びに溢れた笑顔を向ける。
「ああ――この剣は……父さんの残してくれた、大事な一振りだったから……とてもうれしいよ」
セシルは再びエクスカリバーUを引き抜き――そして懐からは、澄んだ光を放つクリスタルを取り出す。
……今は遠くにいる兄が手渡してくれた、セシルの、セシルだけの光のクリスタル――その光に刀身を照らしながら、
「……父さん……兄さん。
二人とも、もう生きて会うことは出来ないんだろうけど……こうやって僕達は繋がっている。
どれだけの時間、空間を隔てても――この二つがある限り、消えないんだ。僕達の……家族の絆は……」
「……よかったわね……本当に、よかったわね……セシル……」
そう呟く、ローザの瞳はとても優しい。
孤児として、前バロン王に拾われて育てられたセシルをローザは昔から見てきた。
セシルは普段こそ、そんなことを微塵も感じさせずとても暖かい空気を放っていたが――それでも。
時折、とても寂しそうな目で月を見上げる彼を――ずっと見てきていた。
自分には、父がいる。母もいる。カインでさえ――幼い頃に失ったとはいえ、両親がいた。
けれどセシルには――血の繋がった肉親と呼べる人の記憶が何も無かったのだ。
それは、どれほどの孤独感を心に背負わせるのだろう。
その痛みに――けれど言葉にはせず、ただ一人でそれを背負うセシルを二人は放っておけなかった。
最初は、友として。……やがてそれは母性本能から、一人の男へと抱く感情へと変わり――
「……ありがとう」
はっと思考の淵から帰れば――そこにあったのは、自分よりさらに優しいセシルの眼差し。
「僕がこうやって、家族の絆……暖かさを知れたのはローザ……君のおかげだ。
君は僕にとって、初めての……妻という、家族になってくれた人だから。
僕がこうやって今、父さんや兄さんの絆を感じられるのは……君がこんな側で、僕と繋がっていてくれるからだ」
「セシル……」
「だから僕は……今ここにある君との絆を、大切にしていきたい。
……いつかはきっと、生まれてくる……僕達の子供達にも、その暖かさを伝えていけるように……」
誰もいない、王の間で二人。
優しく抱き合い――唇を重ねる。
結婚して、もう幾度も重ねてきた唇。
二人、互いの心の温かさが――そこからじんわりと伝わってくる――
「……ねえ、セシル」
やがて、顔を離して――その首には手を回したまま、ローザが頬を染めたまま微笑すると、
「……また、聞かせて? ……この剣に刻まれてる、あの詩を……」
「……いいよ」
セシルもまた、それに応えて――刀身へと、目を落とした。
見なくとも、すでに心に刻まれたこの詩は簡単に口には出来る。
けれど今は――この剣に刻まれた、この文字から伝えたかった。
……だから――
竜の口より生まれしもの
天高く舞い上がり
闇と光をかかげ
眠りの地に更なる約束を持たらさん
月は果てしなき光に包まれ
母なる大地に大いなる恵みと
慈悲を与えん
されど、束の間の休息なり。
その月は自らの光を求めて
更なる旅に導かれん。
同じ血を引く者の一人は月に
一人は母なる星に
時の流れがその者たちを引き離さん――
クリスタルルームに、全員が踏み入った時。
……一見すれば、平常と変わらないものであっただろう。
静謐なる空気。
静かに光を湛える、地上世界の光の一つ・風のクリスタル――
しかし――この場に踏み入った全員が、明らかにそれがまやかしであると知っていた。
静謐を装うのは、そこに秘められた狂気的な力の胎動。
そして――目を凝らせば、知れる。
風のクリスタルを包み込むようにして揺らぐ、何かの想念の存在を――
―――…………痴れ者が……来たか…………―――
「!?」
全員の、頭に響く。
空気を振るわせたわけではない、その声。
明らかに敵意に満ちたそれが、脳を強烈に揺さぶった瞬間――
まるで天を衝くかのように、光が――緑色の輝きが、風のクリスタルから迸る。
それは天井で一度弾けて――しかし収束するや否や、一目散にクレセントへ目掛けて襲い掛かる!!
「クレセント!!」
しかし、クレセントはただ静かに左腕を掲げる。
それだけで――光は見えぬ壁に弾かれたように散り、クレセントの甲冑に傷一つ負わせることは出来なかった。
「……不意打ちでもない限り……この程度の力で、私を圧倒できるとでも思っているのか?」
掲げた左腕を、ゆっくりと下ろして――クレセントの瞳が、クリスタルを捉える。
「私を『消し去り』たいのであれば――その姿を見せるがいい! その醜怪な本体を!!」
絶対零度に等しい蒼氷色の輝きは、一切の容赦なく透徹で強靭な光を湛え、今ここに光の象徴を貫く!
―――ほざくか……稚拙な力の『痴れ者』が!!―――
瞬間――緑の輝きが、全てを満たして。
思わず手で遮ったラディだったが――指の隙間から、彼は見た。
……クリスタルの中から、何かが。
まるで蛹の中から、蝶がゆっくりと羽化していくかのように
『それ』はゆっくりと姿を現す。
節くれだった腕。古樽の木枠のような肋骨の痛々しい胴部。
しかしそんな痩身にも拘らず――全身から放たれる圧倒的な気迫はなんなのだろうか。
爬虫類を思わせる、乾いた肌は――しかし同時に金属のような光沢も返している黒い肌。
背に負った蝙蝠の翼といい、鳥類と爬虫類を混ぜたような奇怪な顔はどこか『ガーゴイル』を連想させた。
しかし、明らかに違うことは――唯一つ。
ガーゴイルのような下級のモンスターと、目の前に今降り立った『それ』には圧倒的なまでの力の差がある。
まるでこの世の全てを憎悪しているかのような、暗い気迫を全身に纏い。
すっかり濁った赤い瞳は、血の霧を思わせるような輝きを暗く放って――クレセント達を見据えて。
―――ならばこの『ハジュン』が直々に……引き裂いてくれる―――
―――…………畏怖せよ……痴れ者どもよ…………―――
―――邪魔な要素は、このハジュンが……今ここで『修正』する!!―――
まるで悪意をそのまま形にしたような奇怪な咆哮が、クリスタルルームの清涼な空気を引き裂いた――
―――…………目覚めよ…………――
「!?」
突如、頭に響き渡った声に――セシルの表情が強張る。
「セシル……?」
―――…………目覚めよ、『修正者』…………―――
「く…………声、が……聞こえ、る……!?」
声は激痛を伴って頭に反響し――セシルは思わず頭を抱えて、数歩よろめいた。
苦悶の表情と共に片膝を付くセシルに、ローザは尋常ならざるものを感じてセシルへと歩み寄る。
―――…………今こそ、己の為すべき事を為す時…………―――
「セシル、どうしたの!?」
「ローザ……く……声が、僕の頭の中で……声が……ッ!!」
―――…………眠りの殻を解き放ち…………―――
―――…………今こそ己の為すべきを為し…………―――
―――覚醒せよ、星に選ばれし『修正者』よ!!―――
「ぐっ……が、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
頭の内を、掻き回されるようなその異様な感覚――
セシルの魂を揺るがすような絶叫が、今バロンの静閑な空気を引き裂いた――
ミレイユ :って、ここで終わり!?
エルナ :また引っ張るわね……今回は。
ラディ :……ついこの前のホブス山の時だったら、この続きも含めた一話を掲載してるだろうに……。
クレセント:……しかし本来、作者的にはこのペースでの連載を視野に入れていたのだから、
ボリューム的に少ないということもあるまい。……急展開のラストであるしな。
カイン :……で、その問題の作者の姿はどこにあるんだ……?
エルナ :そういえば見えないわね……。
ラディ :――あっ、あんなところに!
作者 :……おっ!? まさかSO3、主人公は保志 総一郎だったのか……。
しっかしはまり役というか、なんというか……もう少し意外性があっても――
五人 :連載遅らせて、お前は何をやっとるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
――アポカリプス、ホーリーランス、紅皇の煉獄、そして異界召喚が連続ヒット。
あまりにも激しい音量ゆえに効果音を書かず、あえてミュートでご想像下さい――
作者 :ぐっ……げふっ……ス、スフレ萌え……がくっ。
エルナ :死んだわね。
ミレイユ :連載遅らせたんだから当然でしょ?
ラディ :……どうせこの座談会が終わったら、またぞろゲームやりたさに蘇生するんだろうし。
クレセント:気にするだけ無駄ということだ。
カイン :なら、今回の話を振り返ってみるとするか。
ミレイユ :う〜ん……今回は同時間軸における、二箇所での話のクロスオーバーになってるのよね?
エルナ :ええ。……作者の稚拙な技術力で、果たしてどこまで再現されているかは謎だけど。
ミレイユ :私たちサイドの話で突っ込むべき点っていえば……やっぱり封印解除の「アレ」?
カイン :ヤンと、調理器具……どうしても思い出すのは「あの人」なんだが……。
クレセント:……あの封印解除の道具は、どうやら封印を施した本人が授けたもののようだな。
ラディ :ってことは……あの封印、やったのは「あの人」ってことなのか?
ミレイユ :ま、冷静に考えて封印解除にあんなものを使うなんて「あの人」以外には考えられないけど♪
エルナ :この小説における「あの人」もどうやら濃いキャラクターになりそうね……。
ミレイユ :そ・れ・と♪ バロンサイド、出たわね……『エクスカリバーU』!
ラディ :確か……ファイナルファンタジー9に登場した聖剣だったっけ?
クレセント:うむ。……作者にはどうしても、セシルにはラグナロクよりエクスカリバーという観念があってな。
しかし話の展開上では、どうしてもエクスカリバーでは攻撃力の面で役者不足。
そのために、今回の強化措置を取ったというわけだ。
カイン :そのためにククロの登場となった……。名前は非常に安易で安直だが、正当FFにおいて存在する剣だ。
実際あのククロなら、エクスカリバーをさらに鍛え上げることも不可能ではあるまい?
ラディ :まあ、オレもセシルさんにはラグナロクよりエクスカリバーかな。
だってラグナロクは、一番最初にFFで登場したとき、暗黒剣として登場したし……。
ミレイユ :ホントなの?
ラディ :ああ。FF3で登場した時にはきちんと暗黒剣として出てきてた。
……そもそもラグナロクの語源が「神々の黄昏」――終焉を意味する言葉なんだから、聖剣じゃおかしいだろう?
クレセント:無論、別にこの小説でラグナロクを聖剣扱いするわけではないが……。
恐らく弟は今後登場するとしても、ラグナロクを携えることはまずあるまい。
エルナ :ソード・オブ・セシルの名を冠してしまっているものね……。この言葉の語源は――
カイン :……FF9のランス・オブ・カインだろうな……。しかし……『俺の槍』か。
そんなものが存在するなら今すぐ手渡してほしいものだな……このホーリーランスの代わりに。
ミレイユ :……けど、それよりやっぱり一番気になるのは……次回じゃない?
ラディ :オレ達は、クリスタルから出てきた「ハジュン」との戦い……そしてバロンでは――
クレセント:……セシル……。一体何が起こっているのだ?
カイン :全ては次の話で明らかになる……か。
ラディ :……ちなみに『ハジュン』っていうのは、仏教世界における『魔王』だったり……。
で、やっぱりこの小説で『魔王』ときたら、暗黒騎士団一番隊隊長の――
ミレイユ :『彼』が登場するかどうかも、次回次第ね☆