No.03-EX02 Alfail story Episode Penetrater

双隻眼のアトリ・イスカ


第十一話 アーティファクト



怨嗟の咆哮を放ち、結集した復讐の誓いが豪炎を纏う。
獰猛な怒号と共に、硝煙を纏わせた鋼の顎が牙を剥く。

オズワルドとアトリ――示し合わせたかのように同時に撃ち放ったその一撃が、真正面から激突した。
しかし発砲と同時に跳躍したその銀の残影を、半身を顎に千切られて尚衰えなかった炎が舐めた時には、
鋼の弾丸もまた、上空に飛翔した緋色の焔の揺らめきを空しく穿ったに過ぎない。

初撃は、互いに回避――そこから次の一撃へと向け、最速の行動に移る。
己の精神を世界に向けて張り巡らせ、複数の構成を同時に識り込んでいくオズワルド。
銃口を跳ね上げ、先刻の交錯で把握した相手の位置を頼り、見もせずに狙点するアトリ。
まだ、初撃の炎が散らず――空薬莢が床に転がる乾いた音も響かぬほどの刹那。
広がった銀髪の周囲で、波紋が広がる寸前。
奈落のように虚ろな銃口が、見上げる視線を沿うように焔を捉えていた。

「――遅い」

轟音。
響き渡るその音さえも噛み裂いて、弾丸は真っ直ぐにオズワルドへと突き進む。
触れただけで肉が爆ぜ、骨を貫き砕いて炸裂する鋼の顎――躱すには、既に時遅く。
弾丸達は餓えた牙で彼の肉体に喰らいつき、肉体の内側からその破壊力を存分に発揮しようとする――その寸前。
オズワルドの目前で、忽然と銃弾が『消え』る。
「――!?」
受け止めたわけでも、弾いたわけでもない。
まるで最初から存在しなかったかのように『消え』た弾丸に、さしものアトリも一瞬、呆気に取られ反応が遅れる。
その絶好の機会を、みずみす逃がすオズワルドでは無かった。
包囲するように立ち上った炎が、アトリを死へ誘わんと次々にその手を伸ばす。
「――くっ!」
体を旋回させるようにして、閃光が踊る。
素早く波紋を撃ち貫き、既に展開されて炎へと転じた魔術には、密集部へと弾丸を叩き込んで吹き散らす。
激しい抵抗を受け、微かに生まれた炎達の間隙――それに滑り込むようにして体を割り入れ、肩から一転すると同時に天井へと発砲。
破壊されて落ちてきた梁で迫る炎を食い止め、身を翻して残った弾丸全てをオズワルドへと叩き込んだ。
しかしそれもまた――彼に届く直前、霞の様に掻き消える。
「私にそんな無粋なものは効きはしない」
にやりと笑んだオズワルドの言葉だったが――アトリは銀色の瞳の奥で、あくまでも冷静に状況を分析していた。

(……奴はどうやって、こちらの銃撃を無効化している?)

彼がとっさに防御の構成を識らなかったのは、この現象が偶然などではなく、彼が意図して行っていることだからだろう。
今までのペネトレイターとしての経験を紐解けば――今のように銃撃を無効化した魔術師に前例が無いわけではない。
こちら側の獲物が『銃』であることは判っているのだから、彼らの方が対策を練りやすいはずである。
単に物理的な衝撃を緩和・ないし干渉する形式の魔術でないことは判っている。
彼は防御用の構成を識った様子は全く無かったし、それならば識込中の構成を貫けば一瞬で片が着く。
仮に魔術が成立してしまったとしても――彼の相棒なら、展開された障壁を強引に破って貫くことが可能なはずだ。
だが、現実にこうして銃撃は彼にそよ風ほどの脅威も与えるに至っていない。
憶測を立てようにも、判断の手がかりになるものがあまりにも不足している――

「――何に気をとられている!」
突如、横合いから発生した炎の矢。
威力を抑えることで、識込から展開までの速度を引き上げたのだろう。
波紋を認識する暇さえ与えず展開した魔術に、思案を巡らせていたアトリは一瞬、判断に遅延が生じ、炎が手を直撃する。
服に付与された魔術のおかげで致命的な一撃には為り得なかったが、衝撃に掌が痺れ、床へと銃を取り落としてしまう。
拾い上げようとしたところに、炸裂する火球――その衝撃に、からからと音を立てて床を滑る白銀の輝き。
アトリの表情に思わず苦いものが走り、オズワルドが唇を吊り上げた。
「これで――王手チェックだ!!」
感極まった声と共に――オズワルドが腕を跳ね上げる。
浮かび上がるのは、視界が撓むほど密集して識られた波紋――とても片方の銃だけでは凌げる量ではない。
退こうにも、波紋はまるで壁のように円柱状に彼を包囲し、その退路を断っている。

判断に要した刻は、刹那さえも追い抜いていた。

銃声が一つ繋ぎに聞こえるほどの連続射撃――目前の波紋が分散し、粉々に打ち砕かれる。
まだ崩された波紋の残滓が消えやらぬそのまま、アトリは両腕を目の前に交錯し、一気にオズワルドへ跳躍した。
その潔さと踏み込みの速さに追いつけず、彼を包囲していた魔術の殆どが空しく銀の残像を焦がすに留まる。
前方で撃ち損じた数発が体をかすめ、うち一つが防御用の構成を貫き、背中を一文字に薙いだが、その動きは止まらない。
奥歯を噛み締め、痛みさえ感じる前に、半ば転がり込むように波紋の包囲より抜け出し――
王手詰みチェックメイト、だな」
撃鉄の跳ね上がった音は、オズワルドの背後から。
アトリが彼を狙点した拳銃は、銃弾を撃ち尽くしてしまったいつもの相棒ではない。
起き上がり、背後へと回り込むのと同時、素早く拾い上げていた一丁――
先刻の襲撃の際、一発も撃つことなくアトリに頭を吹き飛ばされたペネトレイターの使っていたもの。
彼の常用している大型拳銃より、威力は著しく劣るとしても――人一人を葬るには、十分すぎる力を秘めている。

後ろを振り替える隙さえ、与えるつもりは無い。
雷鳴のような残響に、六つの閃光が重なる。

そして――アトリが叩き込んだ、銃弾達は。
後頭部に喰らいつく寸前、オズワルドを守る様に発生した薄い膜に吸い込まれ。
そのまま、何の抵抗も無く―― 一瞬にして蒸発・・した。
「なるほど……――!」
その様子に、アトリは納得がいったように呟きを洩らす。
そこから、口元に笑みを貼り付けてオズワルドが振り返り、識り込んだ魔術を展開するのと。
アトリがホルスターから榴弾投擲砲を引き抜き、素早く銃爪を引いたタイミングは全く同じだった。
真正面からぶつかり合った火力が弾け、爆風に押されるようにしてアトリは退き、身を翻して素早く柱の影に潜む。
直後、黒煙を切り裂かん勢いで撃ち込まれた炎の矢が、柱の隅を削るようにして掠めていく――
それを横目に、弾倉を素早く入れ替えるアトリの金瞳は、炯炯とした輝きを前髪の下に透かしていた。
「高熱を障壁の様に展開……しかも、銃弾で撃ち貫けないほど細微な構成の群によってそれを維持しているのか」
アトリの目に薄い膜のように映ったもの――あれはごくごく微細な構成が、彼の瞳に波紋として映った残滓だったらしい。
銃弾は障壁を維持する構成に接触する直前、その障壁で展開された熱の前に、一瞬で蒸発していたというわけである。
しかし――
「そんな芸当が、第四位の魔術師程度の実力で出来るはずがない」
「ほう……流石は双隻眼といったところか。よく判ったな」
どこか人の目を意識した、勿体ぶった動きで――オズワルドはゆっくりと掌を掲げる。
その手の甲で静かに輝く、しっかりと埋め込まれた金属のレリーフ。
「いくら私でも、“アルバァ”級の実力で貴様を倒せるとは思ってはいない――しかし」
レリーフが、彼に呼応するように――仄かな輝きを灯す。
するとそこから螺旋を描くように溢れ出した微細な波紋達が、ヴェールのように彼を包み込んでいく。
「私は手に入れた――貴様などでは決してたどり着くことの適わぬ、過去の叡智――至高の『力』を!」
「『至宝アーティファクト』か……!!」
硬く呟くアトリの声に、微量の苦い感情が混じっていた。
対象が製作された時代の技術力では――いや、現代の技術力をもってしても、その再現が不可能な存在。
どうやって作成されたのかが、皆目見当もつかないほどの過剰技術力オーバーテクノロジーの塊――そんな物達が、この世界には存在する。
そのうちの一つ。約二百年前から発見され始めた、付与魔術を施された道具達の事が――『至宝アーティファクト』と呼ばれているものである。
『付与魔術が施されている』という一点だけに観点を置けば、別段何も珍しくないと受け取ってしまいがちである至宝アーティファクト
だが、“イスナーン”や“ワーヒド”でなければ扱えぬような高次元の魔術が、半永久的に使用可能な状態で付与されていると言えば――
この道具の異質さ・秘めた技術力の高さが理解できるであろうか。
そして余りに内包する力が強いために、付与魔術でありながら――至宝アーティファクトは使い手を『選ぶ』。
扱うことが出来るのは魔術師の中でも実力を備え、かつ彼らを使うことの出来る『才覚』を持った、ほんの一握り。
その反面、至宝アーティファクトを扱う魔術師は、時に本来の階位を二つ以上凌駕する力を発揮するともされる切り札ジョーカーでもある――


「神は――運命は、私を見捨てたりはしなかった。つまりはそういうことだ、双隻眼!」
瞠目すると同時、アトリの周囲を包囲するようにして構成を識り込んでいく――咄嗟に柱の影から飛び出すアトリ。
そのまま滑るように身を落として地面を走り――弾かれた銃を掬い上げ、素早く波紋を撃ち貫くと同時に旋回。
再びオズワルドへ銃口を向け、銃爪を引き絞っていく――
「無駄だ――無駄! 貴様にはまだそれが判らないかァッ!!」
炎弾と銃弾が交錯し、破壊という名の嵐が吹き荒れた。
重厚な建築材が無数の牙に食い千切られ、無残に砕けたその破片を追い討つように炎が一瞬で薙ぎ払う。
爆風と衝撃、轟音と破砕が至る所で拳を打ち鳴らし、爆発した力は破滅の槌を振るって店内を蹂躙した。
壷一つ、水差し一つにさえ最高級の品質を求めた老舗ネフェル=テムが、瞬く間に瓦礫に溢れる廃墟と化していく。
「くっ……ちょろまかと!!」
銃弾を相殺し、魔術を展開した所で――何かが降りかかる感覚。
先刻、隣で爆ぜた炎に乗ってきたのだろう――粉塵の破片が緋色のローブにかかったのを、忌々しく払い落とす。
そのまま視線を滑らせ、仕切り直しにさらなる追撃を仕掛けんと構成を識るオズワルドだったが――
彼の視界の中で、アトリはその手にしっかりと榴弾投擲砲を構え、銃爪を絞っていた。
彼らが襲撃に使った火炎弾とほぼ同等の力を秘めた榴弾は、だが直前で至宝アーティファクトの熱障壁に遮られて爆発する。
爆炎も衝撃波も、この障壁の前ではあまりに無力――遮られ、散り散りに霧散する。
しかし、爆発と同時に濃密に広がった煙幕がオズワルドを包み、その視界を一瞬にして奪い取った。
この濃密な煙の中では、アトリの姿を捉えることもかなわない――だが。
オズワルドがその顔に浮かべたのは、勝利を確信したかのような余裕の笑み。
「……ハハッ……ハハハハ――底が見えたな、双隻眼!」
陳腐――あまりに陳腐極まるその行動に、笑いがこみ上げてくるのを止められなかった。
大方、視界を塞いだ事で裏を斯き、こちらの虚を突いて銃の一撃を叩き込むつもりなのだろう。
見え透いているが、確かにこの煙幕と爆音の余韻で、光と音の双方が遮断されているのは事実だ。
だが――例え視界を阻んだ所で、オズワルドがアトリの姿を見失うことは絶対にあり得ない。

熱。
アトリが体から発する熱――それを感知して辿れば、彼が何処にいるかなど正に『見ずとも』判る。
炎の結界に包まれ、熱が飛び交うこの場所で、彼だけの熱を捉えることは、本来なら至難の業だが――
至宝アーティファクトを持つオズワルドにとっては造作も無いことであった。
感覚を広げ、彼の熱を探す――察知した所は、先刻榴弾を撃った場所と同じ場所。
てっきりこの煙に乗じて背後を取るかと思っていたのだが、彼はその場から一歩も動いていなかったようだった。
(何をたくらんで……いや、何も仕掛けないというのも一つの手か)
視界が失われたことで動揺と疑心難儀を誘い、何処から来るか判らない銃撃に恐れを成した隙を狙い撃つ。
こちら側が熱によってその位置を何時でも察知することが出来なければ、あるいはその手も有効だったのかもしれない。
だが――今の自分自身には、決して届くことのない顎だ。
アトリに真正面から向かい合うようにして位置を変え、至宝アーティファクトへ意識を集中する。
破壊力と速度に優れ、圧倒的な射程を持つ『銃』――魔術を撃ち貫く、忌むべき武器。
しかしその軌道が直線的である限り、相手のとの位置関係を抑え、結ばれる直線軌道に防壁を張れば。
(銃など……恐るるに足りん!!)

銃声、響き渡る。
獰猛なまでに破壊を求める、鋼の獣の虚ろなる咆哮。
それは。

オズワルドの肉体を背後から貫く・・・・・・衝撃をも伴っていた。

「……な……ッ――!?」
漏れ出た驚愕の呻きを、血泡が遮る。
しかし、それに噎せ返るよりも早く、連続する銃声と衝撃がオズワルドの体を滅多撃ちに貫いた。
奇妙なステップを踏むように体が揺れ、海老反りに身を逸らし、緋色のローブに残酷な牡丹が咲き乱れる。
アトリの熱は、前面から微動だにしていない。
だというのに何故、背後から銃弾が喰らいついてくるのか――
びりびりと肌さえ粟立たせるほどの銃声の中で、聴覚の端に僅かに聞こえたのは。
硬質の何かが弾けて跳ね飛ぶ、甲高い金属音――
(……銃弾を……跳ねさせて、狙っているだと――!?)
その常識破りの技量に戦慄した時―― 一際大きな衝撃が体を貫き、背から腹へと風穴が開いた。

仕掛けることは、いつでも出来た。
伊達に「双隻眼」という名を背負って生きてきた自分ではない。
しかしそれでも、あの至宝アーティファクトを利用した障壁が厄介極まるものだったことは確かだ。
如何に命を奪うには十分すぎる力を持つ鋼の顎も、その牙が喰いつく前に堰き止められれば意味がない。
あの障壁に、どこか突くことの出来る盲点は無いか――それを探すことを最優先で、彼は銃弾をばら撒いていた。
そして、先刻のオズワルドとの応酬の中で、銃弾を消した傍ら、ローブにかかった粉塵を手で払った仕草。
あの熱障壁ならば、ローブに到達する前に粉塵を蒸発させることなど造作も無いこと――だとすると。
あの障壁は、常時全身に展開しているわけではない事。
少なくとも、銃弾を無効化するためには一方向に構成を集中させなければならない事。
その二つさえ、判ってしまえば。
視覚を封じ――虚を突いた跳弾射撃で死角から拳銃弾を叩き込む発想に至るまで、さほど時間はかからなかった。

濛々と立ち込める煙幕。
鼻腔を擽る硝煙の香り。
弾丸を撃ち尽くした弾倉が転がる音が、床に小さく響く。
残っていた弾丸は、左右あわせ六発――全て手応えはあった。
そしてゆっくりと視界が晴れ、鋼の顎の餌食となったオズワルドの姿が明らかになる。
緋色のローブは血と肉片に裂け、腹部には大きく風穴――宙に浮いたまま俯いたその顔には、暗い死の影。
最早戦うことはおろか、生きる力さえ見出すことは出来ないほどの惨状にも拘らず。
アトリは思わず、舌打ちを鳴らす。
「……ふ……流石に、背鰭尾鰭の誇張だけで、『双隻眼』は名乗っていない……ということか」
その声は――宙に浮かぶ、血の気を失ったオズワルドの唇から。
ゆっくりと上げたその顔は、青白さを通り越して土気色をしていたが。
その瞳に宿した、凍えるほどの憎悪の炎は―― 一向に衰える様子を見せていなかった。
「だが、私はこの程度では死なん――弟の無念を、貴様に晴らしてやるまではな」
「その耐久性……『精密化リファイン』か」

ただ炎を生み出し、あるいは物を一瞬で転移するだけが――魔術ではない。
例えば、『合成獣キメラ』と呼ばれる生物達――全く異なる『種』の動物を掛け合わせて作り出すこの人造生命体は、
生殖細胞以外での『掛け合わせ』――肉体の構築情報を魔術によって読み解き、掛け合わせて作られている。
そんな、単なる「不思議の力」だけでは済まされない意味を持つ魔術も、この世には存在する。
そして、過去――魔術の発展期において、その魔術を、如何に人の肉体に応用するかに没頭した時代があった。
それは結果として、魔術的な医学の発展に非常に貢献し、人体への知識の格段な進歩を生んだ。
だが同時に、人が人のクビキを解き放つ外法の術も無数に生み出すことになった。
人のそれより強靭な、他の生物の肉体部品を、相性や拒絶反応を抑えることで移植・接続する『接続コネクト』。
付与魔術や薬物を応用し、本来人間が備えている肉体の性能の限界までを引き出す『改良化チューンナップ』。
そして――被術者の肉体の情報を一度読み解き、分解―― 一から強靭な構造に造り替える『精密化リファイン』。
大本から構造を作り変えるため、『改良化チューンナップ』の様に肉体へ負担をかけることもなく、『接続コネクト』のような外見の異質さも解消される。
この暗黒時代における異質な魔術の発展の、その究極系とも言える『精密化リファイン』であるが――
肉体を根本から再構築した者を、果たして被術前と同じ『ヒト』と呼んで差し支えないのか。
ヒトがヒトの設計図を読み解き、手を加えることは知恵と賢識の体現者たる魔術師に赦されることなのか――
そういった点から疑問の声が上がり、現在では魔術師協会から厳重に禁止されている魔術――それが『精密化リファイン』である。

「そうとも。至宝アーティファクト一つ手に入れただけで、お前に対して勝機を見出したわけではない」
死人のような顔色のまま、風穴の開いた腹部にそっと手を翳す。
瞬間、波紋が生じ――酷い有様だった腹部がみるみる塞がり、失っていた顔色が元へと戻っていく。
その身に纏うローブも含め、オズワルドが弾丸の雨に晒される以前の姿に戻るまで、ものの数秒とかからなかった。

自分自身を癒す魔術というものは、難度としては比較的初歩の部類に入る。
即座に治癒を開始すれば、致命傷以外のあらゆる外傷――腕や足・内臓器官の欠損といったものまで癒すことが可能である。
そして程度の差こそあれ、『精密化リファイン』をその身に施した魔術師は信じられないほどに生命力が高く――『しぶとく』なる。
精密化リファイン』を施された魔術師を仕留めるためには、心臓か脳髄のどちらかを銃弾で貫き、即死させるより他にない。

「だが……まさか、この至宝アーティファクトの裏を突いて、本当に弾丸を当ててくるとは思わなかった」
調子を取り戻したオズワルドの手に握られていたのは――体に残留していた弾丸達。
体内を破壊エネルギーで弄んだその塊達を、まるで小銭のように放り投げては、宙で弄んでいたが――
「そろそろ――遊びは終わりだ」
その言葉と共に――弾丸が一瞬で蒸発する。
空になった掌を握り締め、オズワルドは至宝アーティファクトを埋め込んだ掌を翳して。


「さあ……今度は、この至宝アーティファクトの『攻め』の姿をお前に見せてやる」