結界で閉ざされたこの世界には、私しかいないはずなのに。


確かに聞こえる。

―― 子供の、すすり泣く声――




黄金の海を掻き分けて、その声へと近づいていく。




泣いていたのは、一人の少女。

妖怪の気配は感じないけど、集落の中でも見た覚えが無い。

事情は判らないものの。

零れる涙を手で拭う姿に、芝居をしている様子は見えなかった。


『外』の世界の人間が、神隠しにでもあったのだろうか。

瞼の裏に浮かんだのは、厄介事を押し付ける――すきま妖怪の胡散臭い笑顔。


その辺りは後で追求するとして。

ひとまずなだめ、落ち着かせようと――少女の頭をそっと撫でる。




手のひらに感じた、硬い突起の存在。




驚き、眼を見開いた私は。

顔を上げた少女の瞳と、真っ直ぐに向かい合う。




大粒の涙を溜めたまま、見開かれた瞳。

涙の跡を真っ赤に残した、雪の様に白い肌。

夕陽に透き通るように輝く、月の光を束ねた銀髪。

驚いた様子で、きょとんと私を見つめ返す――その、顔立ちは。




知っている。

初めてであったにも拘らず。

きっと私は、誰よりも――この子のことを、知っている――






輪廻転生。
死を迎え、そして新しく生まれ変わる『輪』。

誰も彼もが、等しく死を迎えるように。
魂を持つものに、等しく『輪』は与えられているのなら。



嗚呼。

まるで、冗談みたいだけれど。



『輪』は。

『彼女』にも、与えられて――






「……ここ……どこ…………?」






「……此処の名は――幻想郷」


あの頃と、変わったもの。


「妖怪と人間……少女達の飛び交う」


あの頃から、変わらないもの。


「幻想と、弾幕の世界」


織り成す者達は変わっても。


変わらない、不思議な調和。






――そんな、不思議な調和の中で――






「――おかえりなさい」







私達は、今日も――生きている。