Final Fantasy W After Story



第十一話 学者



「どうしたラディ。まだ体の調子が良くないのか?」
「いいえ。別に。クレセントのケアルガのおかげ様で」
――凄まじいサンダガの破壊力によって、山頂部の形が変形してしまったミスト山。
山道を下る中、ずっと上のそれを見上げながら、あくまで淡々とラディは答えた。
――淡々と、しすぎているのだが。
「あ〜もう、お詫びにカイポでおごるって言ってるでしょ〜?」
そんなラディの反応に、ミレイユは困ったように叫んだ――

ラディの機嫌が何とか直ったところで、改めて自己紹介ということになった。
女性の名はミレイユ・ワイアット。
ダムシアン出身の女性と言うことらしく、そして格好の通り学者ということらしい。
「……私の専攻はモンスターなのよ♪」
「モンスター……って、一体どんな事を調べているんだ?」
「う〜ん……何を食べるのかとか、どういう習性を持っているかとかね。
 そういったことを調べていく内に、モンスターとの不用意な干渉をしないようにしていければ、
 モンスターによる被害を軽減できるでしょ?」
「なるほどな……」
「で、世界を巡って生態の調査とか数を調べて回っているんだけど……。妙なのよね」
「妙……とは?」
「あなた達もさっき見たでしょ? 絶対に群れることの無いとされるダイブイーグルの、あの大群を。
 ……ああいう異常発生とか……後、他に幻獣の自然発生とかねぇ……。
 何だか最近、ぽつぽつとそういう現象が各地で確認されてるみたいなのよ。
 ……まあ、実際にこの目で見たのは今日が初めてだけど……ね」
そう言って、ため息を一つつく。
「………」
ラディとクレセントは互いに顔を見合わせた。
しかしミストの時とは違って、クレセントも口止めをしなかった。
 
「ふ〜ん……凄いわね。伊達に黒づくめって訳じゃあないのね」
野良幻獣のことを話した後、ミレイユの第一声がそれだった。
「黒いことは、関係ないと思うんだけど……」
顎に指を当てて妙なところに感心するミレイユに、ジト汗のラディ。
「――で、ところでラディ達って、これからカイポに行くのよね。……そこから、どうするの?」
「とりあえず、セシルさんたちの道を正確にたどるなら、その後はダムシアン城、だけど……」
「……常識的に考えて、ダムシアン王に会うのは無理だろうな」
現ダムシアン王であるギルバート七世は温厚で国民思いであるというのは有名で、
国政の合間でも暇さえあれば謁見を許可し、その言葉一つ一つに耳を傾けているという。
だが、それのために謁見を申請したとしても受理されるまでに時間がかかりすぎてしまう。
「謁見申請が無ければ、当然部外者がダムシアン城に入ることは出来ない。
 ……申請が受理されるのに恐らく半年以上はかたいだろうな……」
「……別に急ぎの旅じゃないけど……そんなにかかると、ちょっとね……」
ラディが残念そうに頭を振った。
「……そんなに、ギルバート王に会いたいの?」
「まあね……。彼は5年前、暗黒騎士だったセシルさんと一緒に旅をしていたそうだし。
 お会いして、一度話を聞いてみたかったんだけど……」
――それこそ、無理な話というものだ。
だが。それを聞いたミレイユはふふ、と笑って、とんでもないことを言ってのけた。
「ギルバート王と話、させてあげよっか?」
「え……!?」
「そんなことが……可能なのか?」
驚愕する二人に、ミレイユは思い切り踏ん反り返ってみせると、
「私、こう見えても結構有名な学者なのよ?
 私の権限を最っ大限に利用すればギルバート王への謁見申請を何とかするぐらい、別に問題ないわよ♪」
自信げに眼鏡のブリッジを上げてみせるミレイユは、確かにエリート学者といった雰囲気を纏っていた。
「ただ……私もダムシアン城にちょ〜っと用があるのよね。
 ……だから、代わりといっちゃなんだけど私をダムシアン城まで護衛して欲しいの。
 ま、護衛って言っても私もこう見えて強いし♪ 同行してくれればいいって程度だけど……。
 お願い、出来るかしら?」
そのまま手を合わせ、ウインクする。
「……ダメ?」
「い、いや。……こちらこそよろしく」
「旅は道連れ……ラディがいいのなら、私も別に構わん」
「じゃ、商談成立ね♪」
パンと手を叩いて、笑みを咲かせるミレイユ。開いた華を思わせるその美しい笑顔に、
ドキッとくるものをラディは感じたが――
「ん……?」
ふと――肌を刺すようだった寒気が消えたことに気付く。
霧を発生させる高山の冷気に変わって、この咽る様なまでの熱気は――
「ふむ……ミスト山は、ここで終わりか」
「じゃ、じゃあこれが――」
「そ。……これが世界最大の大砂漠。黄金の海・ダムシアン砂漠よ」
ラディの目前に雄大に、地平線まで広がる黄金の砂海が静かに横たわっていた――

ダムシアン砂漠。
植物が無いための日の照り返しによる日中の高熱、そして日が落ちた後の寒冷化。
そして巨大害虫サンドウォームを筆頭・凶悪なモンスターが横行しており、かつて横断には命がけでいかなければならなかった。
今ではダムシアンが砂漠に広大な警備隊を派遣し、そのために危険性は減少したものの、依然として旅の難所の一つであることには変わらない――
「……と、ここには書いてある。読めるな?」
「ええ。オレも目はいいですし……間違いなく」
「眼鏡の度は合わせてあるし、間違いなく書いてはあるわね」
クレセントの示すガイドブック――指で示した一文を確認するように、二人は頷いた。
そして、改めて当り一面を見回して――異口同音に、呟いた。

『どうしてモンスターが一匹も出ないんだ……?』

そう――ミスト山に続いて。このダムシアン砂漠でもまた、一匹もモンスターは姿を見せなかった。
「というか……この問答、前にも似たようなことがあったような……」
「ふむ……使い回しかもしれんな」
「ネタが尽きたのかもしれないわね」
全く持って意味不明の問答をする一同。
「けど……本当、変ね。こんなこと、今までの歴史で一度だってなかったわよ……?」
ミレイユは呟くと、両手を一閃させた。そこから飛び出した糸達が砂漠に突き刺さるが――
「……やっぱり。砂の中に潜ってるわけでもないし。神隠しにでもあったみたいにいなくなってるわ」
しゅるしゅると糸が手元に戻っていくさまを、ラディはまじまじと見つめていた。
「……? どうしたの、ラディ?」
「え、いや……その糸、一体どこにしまってるのかな、と思って……」
戦いで食べてきている人間は、えてして武具などに興味を持つものが多い。
暗黒騎士志願であるラディもまた、その手の類に興味を持っていたようだ。
「ああ、コレ?」
ミレイユはぱっとローブの袖をまくった。
眩しいほど白い手首には、美しい装飾を施された、薄蒼い金属製の腕輪がはめられている。
「この中から引き出すのよ。両手のスナップで引き出して、後は指で操るのよ。
 ミスリルで出来てるから軽くて丈夫だし、一度に30本くらいまでなら自在に動かせるわ。
 コレ一つで相手の捕縛も出来るし、魔法の媒介にもなるし……」
ミレイユはそういうなり、袖の奥をまさぐった。
そこから取り出し宙に投げたのは、何の変哲も無い金属製の肩当て――
「……はっ!」
そこに一閃、ミレイユの繊手が空を切った。
そして――その手から放たれた糸が強固に作られたはずの肩当てを、鮮やかなまでの切断面を残して斬り裂いていた。
「……こんなふうに、攻撃も自在ってワ・ケ♪ もう魔法使いが弱いなんて言わせないわね」
「……凄いことは凄いんだけど、なんでこの肩当てを袖に入れていたんだ……?」
「ん〜……。まあ、いろいろと使い道が――」
「無いだろ!? それに第一、これをその袖のどこに入れてたんだよっ!」
ラディが拾った肩当てのサイズは、成年男性用。
しかも巨大で重量も大きい。
いくら袖口が広い彼女のローブとはいえ、物理的にこれが入っているのは――
「無理が通れば道理は引っ込む……。世の、常ね」
「変な格言を捏造して自分の行動の妙を正当化しないでくれっ!!」
「も〜、連れないわねぇ」
と――ミレイユはこのノリの悪い若者を嘆くようにして頭を振ると、
「じゃ……何? そんなにお姉さんの服の中、知りたいのかしら……?」
何故か悩ましげな瞳で、ミレイユはいそいそとローブを脱いで――
「だああっ! 脱ぐな! 脱がないでくれっ!!」
「ちぇー」
「ちぇーじゃない! ああ……もう……!!」
「……いいように、手玉に取られてるな」
がっくりと脱力するラディの肩にぽん、と手を置くクレセント。
その様が妙におかしくて、ミレイユはローブを着込みながらくすくすと手で口元を押さえながら笑っていたが――
「……あれ?」
「ん? どしたの?」
「いえ、その指輪……」
口元を押さえていたミレイユの右手に紅く輝いていたのは、
ラディの瞳と同じ『鳩の血の色ピジョンブラッド』の色鮮やかなルビーの指輪。
「ん? ……別に、婚約も結婚もして無いし、当分予定も無いけど?」
「いや……そうじゃなくて。……クレセント、ちょっとパンフ貸してくれ」
ラディはクレセントの手からパンフレットを借りて、しばしその中に目を落としていたが――
「……やっぱり似てる……」
もう一度、パンフレット内部に描かれていた絵を見て――ラディは顔を上げた。
「……何に似ているのだ、ラディ?」
「ほら、これだよ……この指輪。
 代々ダムシアン王家でも王位継承権に関わるほどの高貴な身分には、
 その証としてルビーの指輪――『赫き契約』という指輪が渡されるって。
 ……で、その指輪の形と、ミレイユの指輪が――」
「そ、そ、そそそんな訳無いでしょ? み、土産物屋で買ったのよ、こんなの」
彼女にしては珍しく慌てたように手を後ろに回して口早にまくし立てるミレイユ。
「そ、それよりも……ラディ達、この砂漠の中、そんな重武装で暑くないの?」
まるで話題をそらすような口調だったが――確かに、ミレイユの言うとおりである。
ただでさえ茹だるような灼熱の中、すでに彼らは1時間以上ずっと歩き続けている。
しかも光を吸収する黒色の甲冑で身を包んでいるというのに、彼らは全く暑そうな素振りを見せていないのだ。
「……暗黒騎士は、水の中だろうと火の中だろうと甲冑を外すわけにいかないし。
 甲冑を着たまま、50kg以上の重さの装備を担いで砂漠を横断する訓練とかをさせられてたから……。
 そうだな……大体、摂氏70度ぐらいまでならたいして暑いとは」
「摂氏70度って……ラディ、本当に人間?」
「一応……。セシルさんだって、昔は兜まで被ってこの砂漠を歩き回ってたって話だし。
 クレセントも、訓練か何かを?」
しかしクレセントは静かに首を振って、
「いや……私の場合、体が特別製でな。単に我慢強いとも言うが……そうだな。
 昔体が粉微塵に消し飛んだことがあったが……片腕残っていたからな。
 なんとか、生き延びたことがあった」
そう言って、手甲に包まれた手を軽く叩いてみせる。
「……クレセントも……冗談、言うことがあるんだ……」
「冗談というか……それってあまりに突飛すぎて、冗談にもなって無いけどね」

冗談では、無いんだがな――その言葉を口の中に留めて、クレセントが口にしたのは別の事だった。

「ともあれ……このモンスターの減少が、二度目の異常発生に繋がらないことを祈るだけだな」
「ええ……。もう、あの大群はこりごりです……」
「ま、その時はその時ね。……それより、ついたわよ♪ ホラホラ♪」

心の底からげっそりしているラディの腕を抱えるようにして掴み、ミレイユが目前を指差した。

顔を上げたラディの目に飛び込む、美しい光景――
清水をたたえた湖に緑鮮やかなオアシスと、白いレンガが美しい町並みが美しいその町は――


「さ……ダムシアンの入り口・観光都市カイポにようこそ♪」




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