Final Fantasy W After Story



第十話 ふっとよぎった素朴な不安



ラディのテュルフング。
クレセントのトール・ハンマー。
そして、ミレイユの糸を媒体にした魔法。
個々の戦闘能力は、ダイブイーグルを蹴散らすのには十分すぎただろう。
……だが――
「……くそ! 多すぎる!」
圧倒的な物量と言う点が、明らかなまでの戦力差となっていた。
しかもこのダイブイーグルたちは異様に統制されており、
群自体がまるで一個の生物かのように執拗に、かつ狡猾に攻めてくる。
「クレセント! 何とかならないか!?」
「……少々厳しいな。出来んこともないが――」
クレセントが何かを提案しようとした時のことだ。
「ちょっとちょっとお二人さん。悪いけど今から五分間ほど時間、稼いでくれない?」
提案はミレイユからだった。
「時間を? ……一体何を――」
「悪いけど、ちょっと説明する時間が無いのよね〜。じゃ、よろしく〜♪」
言うなりミレイユは両手を思い切り天にかざす。
すると袖の下から無数に放たれた糸が魔力を帯びて薄く発光しながら宙空で交差し、結ばれ、非常に複雑な幾何学文様を生み出していく――
「球状の立体魔方陣……なるほど。そういう事か」
その姿を見て思い当たったのか、一人納得するクレセント。
「だから、何をしようとしているんだ!?」
「ふむ……説明したいところだが、残念ながらそれどころでもなさそうだな。……見てみろ」
そのミレイユへとダイブイーグルたちは攻撃しようとするが、
彼女の周りには糸で構成された結界のようなものがあるらしく、
そのこと如くが弾き飛ばされ、または受け止められる。
すると攻撃の無意味さを悟ったらしく、ダイブイーグルたちは女性への攻撃を止めた。
そしてそのまま、その爪と嘴を真っ直ぐにこちらへ――
「……って、ええええっ!?」
これが普通のモンスター集団ならまだいい。
だが空を埋め尽くすほどの超大群。
しかもその戦力を割くのを1/3から1/2にすれば、その割り当ても尋常ではない。
「どうやら5分間、耐え抜かなければ活路はないようだな」
あくまで淡々とクレセントは状況を判断すると、右手を掲げ――

「堅牢なる鎧、揺らぎ無き光、明鏡への一滴……幾多の英知の恩恵、今その全てを、ここに」

その魔法は瞬間的に発動した。手から紡がれた幾色もの光がラディとクレセント自身を包み込む。
「これは……体が軽い、それに力が湧き上がってくる……!!」
「魔法には筋力や反射神経を鋭敏にするものもある。
 それをあらかた使ってみたが……思った以上だったな。
 効果はそれほど長くは無いが、5分間よりは持つことは保障しよう。
 ……さながら、『マイティガード』とでも呼べばいいかな?」
「よし……これならっ!」
ラディは改めて剣を構え、突撃する。
いまや剣だけではなく、鎧までもが自らの体の一部のように違和感が無い。
足に羽でも生えたかのように一蹴りでモンスターの群れに突っ込むと、
二人は当たるを幸い、片っ端からなぎ払っていった――

その間にも、ミレイユの準備は着々と進んでいた。
たっぷりと時間をかけて練るのは空中の立体魔方陣だけではない。
魔力をその用途に合わせるため、丹念にかつ迅速に編むように作り、立体魔方陣へと注いでいく――
(……もっとも、「迅速」で5分もかかってちゃあ、こんな時以外には実践では役に立ちそうも無いけど……ね。)
心の中で苦笑をしたのを最後に、改めて気分を引き締める。
チャンスは一回。
これを逃せば、後は無い――

「……天空を満たす光、一条に集いて――」


その詠唱を聞いた時。ラディはふっ……と、妙な気分になった。
「ん……?」
「……どうした? ラディ。この状況で茫とするのは得策では無いぞ」
今しもラディの側面から引き裂かんとしたダイブイーグルを片手でふっ飛ばし、クレセント。
「いや……ごめん。集中するよ」
「……そうか」
ラディのその返答に、一瞬何か言おうとして――しかしクレセントは無言で戦闘に復帰する。
そしてラディは戦いに戻りながらも――頭の片隅で、その感じが続いていた。
(……何だろう、この感じは)
詠唱の言葉というのは、普段に日常で使う言語とは体系が全く違う。
したがって、詠唱の言葉のその意味はわかるはずも無いし、原因もそれではなかった。
ただ――何かしらの、ヘンな予感……みたいなものが漂ったのだ。
そう、例えば夜。
柱の影に何かの気配を感じ、おそるおそるのぞいたところにいきなりモンスターが現れた時のような。
もしくは道で。
あからさまに判る落とし穴を掘ってあって、でももしかしたら隣に本命が――
と思ってあえてその上を進んだみたら、やっぱり最初のが本命だった時のような。
(これって……まさか――)

「――神の裁きとなれ!!」

……そう。
……それは絶対的な、イヤぁな予感――
「……! いかん、これは……ラディ――」

「サ・ン・ダ・ガ・アアアァァァァッ!!」

その瞬間。
天を引き裂き稲妻が轟き。
立体魔方陣を撃った。
するとその稲妻を魔方陣は増幅し、周囲360度一切をその魔手で薙ぎ払っていったのだ。
魔手に触れたダイブイーグルは当然ながら炭化、塵化していくが――それだけではなかった。
「周囲360度一切」。
すなわち――ラディもまた、その神の怒りの直撃を浴びる羽目になった。

「うっぎゃあああああああああ!!」

先刻感じたイヤぁな予感のためか、ラディはあらかじめ歯を食いしばり、闘気を体に満たしていた。
それは戦士に出来る魔法の防御方法としては唯一の、そしてもっとも有効な手段であった。

――が。
所詮は気休めでしかない気がする。

体を貫く超電流の激痛の中、ラディはどこか冷静にそう考えていた。
それはあきらめの感情だったのかもしれないが。


ともかく、鼻腔の奥に血の味を濃く感じながら。
ラディの意識は深く深く、落ちていった――