Final Fantasy W After Story



第九話 雷神の槌



三人へ、ダイブイーグル達はさながら巨大な手のように迫り、襲い掛かった。
ラディにまず肉薄してきたのは、3匹。それぞれが巧みな時間差で同時に迫る。
まず、ラディは左右二匹から来る爪をバックステップでかわし、正面から迫った一匹へと鋭く短剣を投擲する。
その刃に胴体を貫かれ、もがき倒れたその時には旋回したテュルフングが数匹をまとめて薙ぎ払っていった。
それが黒い粒子と解ける時には、空からは新たな一群が落ちかかってくる。
その内の眼前の一匹を素手で掴み、剣を捻るようにして突き込めば、その背後の数匹ごとまとめて一瞬に屠られた。
そしてその時にはすでに、新たな獲物を求め、短剣が宙を舞う――
この大群相手に、ラディはある種余裕すら感じさせる見事な戦いぶりだった。
元々暗黒騎士志願であったラディにとって見れば、集団戦は得意中の得意。
テュルフングも、以前の黒竜のような特殊な相手にはその真価を発揮し切れなかったがここにきてその本領をフルに発揮していた。
軽快なフットワークと確実な斬撃で、瞬く間に数十匹が、死骸を残すことすらなく屠られていく――

一方、ラディが「動」とするなら、クレセントは「静」――彼は最初の立ち位置から殆ど動いていなかった。
時折思い出したように首を傾け、または一歩引いて攻撃をかわすぐらいである。
何故なら彼に向かってくる殆どのダイブイーグルが、攻撃する前に彼に叩き落されてしまっているためだ。
無造作に突き出されている、拳や脚――しかしそれは砲弾の破壊力を秘め、
ダイブイーグル達を原型すら残さぬまでの圧倒的な破壊力で粉砕してしまっている。
しかもクレセントは、ダイブイーグルに対して殆ど意識を傾けていなかった。
その瞳が見つめていたのは――ミレイユの姿である。
彼にはどうしても気になることがあった。
(この数相手に……いままでどうやって戦っていたのだ……?)
8合目からここまで、走って約10分程度を労した。
少なくともそれ以上の時間、彼女はダイブイーグル相手に一人で戦っていたということになる。
確かに、ダイブイーグルはモンスターの中でもかなり弱い部類に入る。
だが、これだけの数を相手に一人で戦い抜くというのはかなり厳しい。
しかも、彼女は手に武器を持っている様子がまるで無い。
恐らく魔法で戦ったということなのだろうが――それでは、尚いっそうのこと説明が付かなくなるのだ。
当たり前のことだが、魔法には詠唱時間というものが存在する。
発動までに、若干のタイムラグが生じるのだ。
それが普通の戦闘などではさほど問題にはならないが、
これだけの超大群となると、その若干のタイムラグが確実な命取りとなることは間違いない。
もしこんな局面で有用な魔法があるとするなら――極端に詠唱の短いファイア・ブリザド・サンダーなどの初級の魔法。
もしくは、バイオ・フレアといった、無詠唱で唱えられる「完成された」魔法のどちらかだ。
しかしバイオは若干消費が激しい魔法だし、フレアはそもそも唱えられる人間自体がそうそういない。
恐らく、ラディの頭上の一匹をしとめた時のように、初級魔法で片をつけているのだろう。
しかし――あの時に見たサンダーの威力はあまりに強い。
強すぎるのだ。
ラディに襲い掛かった一匹は、黒焦げどころか殆ど消し炭になっていた。
いくら魔法が個人の知性の冴えに左右されるとはいえ、あの威力は雷系最大魔法「サンダガ」クラスだ。
そんなことは不可能――「自分以外」には不可能なはずだ。
それは自慢でも過信でもなく、ただ一つの事実として――まず不可能なのである。
「っとと。モンスターにまでもてるってどういうことなのかしらね?」
そしてもう一つ気になることがある。
彼女は現在も軽い身のこなしで攻撃の応酬をかわしているが、
時折、ダイブイーグルが突然動きを何かに阻まれているように見える時がある。
そういえばラディに襲い掛かった一体も、何かに首を引っ張られているように見えた。
最初はホールド系の魔法かと思ったが、しかし彼女が詠唱を唱えた様子は全く無い。
ならば、一体――?
クレセントのその疑問は、しかし次の瞬間解決することとなる。
「でも……あんまり執拗なアプローチって、正直好きじゃないのよね……それっ!!」
後方に跳んだミレイユが、宙で手を一閃する。
すると彼女の前にいたダイブイーグルが、まるで宙に縫いとめられたかのように
唐突にその軽快な動きを封じ込まれた。
――よく見れば、彼女の手とダイブイーグルの間に、きらきらと光る何かが見えた。
「ほう……そういうことか……成る程」
それを見てクレセントは、彼女の闘い方のからくりを一瞬で理解した。
彼女が投擲し、紡いでいるもの――それは超極細のストリング
巧みな指さばきでそれはダイブイーグルを生き物のように絡め取り、締め上げ――

「まばゆき光彩を刃となして……地を引き裂かん! サンダー!!」

その糸を通じ、放たれたサンダーは凄まじい威力でダイブイーグルを消し炭にする。
彼女はあの糸を媒介にして、魔法を標的へと直接に発動したのである。
通常、魔法は空間を媒介とする以上、その効力は拡散してしまう。
だが糸を――固体を媒介とすることで、その威力は拡散されることも無く、
その糸に触れたものにしか効果を発揮しない代わり、威力は爆発的に膨れ上がる――
(なかなか考えたものだ……。ならば私も一つ、応用させてもらおう)
クレセントは右手を掲げ、静謐な声で詠唱を開始する。

「眩き光彩……我が手の内で収斂し、具現せよ……神の槌……!」

闇を切り裂く一条の光――それがクレセントの右手に落ち、その姿を変化させた。
と――その時、クレセントに飛来する、ダイブイーグルの大群――

「クレセント!?」
「……はああああぁぁぁぁッ!!」

しかし――クレセントが裂帛と共に、両手で『それ』を竜巻の様に旋回させる。
するとダイブイーグル達の大群は、『それ』に触れた瞬間、一切全てが一瞬で塵と化して消滅した。
そして――クレセントはそこでようやっと『それ』を地面に突き立てる。

それは槌だった。
ただしその槌は、雷によって形作られていた。

触れたもの一切を、凄まじい超高圧電流によって粉々に打ち砕き、灰燼へと帰す雷の槌――


「す……凄い……」
「ふむ……そうだな。さながら全てを砕く雷神の槌……トール・ハンマーといったところか?」


改めて槌を構えると、クレセントは不敵に笑んでみせた――




【座談会】