Final Fantasy W After Story



第八話 禽<とり>



ミスト山。
大地の幻獣・タイタンの力によって出来た岩山で、ホブス山の様な寒波こそ無いもののその道のりは長く険しく、
さらに間断なく襲い掛かるモンスターの前に、通行は想像を絶する苦労を伴うであろう。
金銭に余裕があるなら、バロンからカイポ行きの飛空挺へ乗ることをお勧めする――
「……と、これには記してある。読めるな?」
「ええ。オレも目はいいんですが……間違いなく」
クレセントが示すガイドブック――ミストの村で売っていたそれを確認するようにラディはうなずく。
「……ならばなおの事、妙だな」
「ええ……妙ですね……」
二人は異口同音に呟いた。

『どうしてモンスターが一匹も出ないんだ……?』

召喚士の村・ミスト。
夜が明けてから、ラディとクレセントは来るミスト山制覇に向けての準備を整えていた。
体力の緊急回復用にポーションを多めに買っておくことは勿論、テントや毒消し・万能薬に携帯の食料。
ミスト名物『りでぃあまんじゅう』の存在に思わず苦笑してしまったのはお約束である。
そして準備万端、日も高いうちにラディたちは早速ミスト山へと向かったのだが――
「……なんでモンスターが出ないんだろう?」
8合目に到達した今現在、襲われるどころかモンスターの影すら目にかかることは無かった。
「このミスト山にはソードラットやダイブイーグル・ガーゴイルやコカトリス……。
 確か昔、訓練で来た時は沢山いたはずなんだけどな……」
「ふむ……。ミスト山はモンスター以外にも山自体が結構厄介だ。
 モンスターに遭遇しないのは幸運……と見るべきか。
 ……だが、こういった時は大概良からぬ事の前兆でもある」
「じゃあ……どうする?」
「まあ、警戒を怠らないように山を登るしかあるまい」
「結局はそれか……」
「まあそう腐るな。……そうだな。ここらで少し休んでいこう」
そこは少し開けたところで、中心には魔方陣の結界が張られている。
モンスターを退ける退魔の結界で、今では失われた古代ミシディアの超魔法の遺産らしい。
この山をタイタンで切り開いた時、リディアは幻獣王妃「アスラ」に頼んでこの結界を張ってもらったとガイドブックには記載されていた。
「しかし……本当に妙だ。いきなり一体もモンスターがいなくなるなんて……。
 今までモンスター討伐の任務も何回かこなして来たけど、一向に減るようなことは無かったのに」
腰掛けるには丁度いい岩に腰を下ろし、ラディは道具袋の中から携帯食料を取り出して口に放る。
この手の食料品にありがちな濃い味と、水なしでは咀嚼しにくい食感が口いっぱいに広がっていく。
「ふむ……ミストの洞窟でのあの黒い竜の一件といい、何かの前兆なのかも知れんな」
「何か……って?」
「それが判れば苦労はしない。ただ野生の生物は環境の変化に敏感だからな。
 ……杞憂に終わってくれればいいが――」
クレセントが水筒を袋から取り出したその時。
「……!!」
二人の耳に確かに届いた。
地を蹴る音と何かのぶつかる音、誰かの声と、そして――モンスターの鳴き声を。
「山頂から……? 誰かが襲われている!?」
「見過ごすわけには……いかんな」
困った時はお互い様。
旅人は、同じような旅人が困っていたら、そしてその問題を解決できる力があるのなら助ける。
それは旅をするものにとっての心のマナーのようなものである。
そしてこと戦闘のことならば、二人にとっては最も得意な分野である。
すぐに身支度を整え、一気に山頂まで駆け抜ける。
そして到着した山頂で――二人は完全に絶句した。
「な……!?」
山頂は、夜だった。つい先刻までいた8合目では真昼であったのに。
――否。
天高くある陽の光を完全に遮るほどのものが、山頂の空に存在して夜のような空間を形成していたのだ。
まるでそれは雲か、天井のように。
しかしそれは雲ではなかった。
無論壁でも、飛空艇の影でもなかった。
光をさえぎる分厚い壁を形成していたのは。
とり……?」
数万、いや数十万はあろうかという数の、ダイブイーグルの大群であった。




<ダイブイーグル>

全長は約120cmと、通常の鷹よりもかなり大きい。
その性質はかなり凶暴で、自分よりも大きい獲物――人間に対してすらも全く物怖じせずにその爪と嘴で襲い掛かる。
また消化効率が非常によく、結果常に飢えているために事あるごとに襲い掛かってくる非常に厄介な鷹である。
――ただ、その戦闘能力は戦闘訓練を積んだものから見ればそう高くなく、
バロン陸兵団の新米などが、初任務などでこのモンスターの討伐に当たることも多い。




……ラディの頭の中で、そんな言葉がつらつらと浮かんでは消えていく。
バロン兵学校時代、結構学業成績がよかったので頭に残っているのだ。
そしてその情報を、陸兵団で現実のものとして体に叩き込まされたのだが――
現在、彼の目の前の光景は、どうやらその認識を吹っ飛ばすだけの威力をもっていたようだ。
「……壮観だな」
半ば呆れた風に、クレセントが呻いた。
現在は真昼――にもかかわらず、辺りは暗い。
それは日の光を遮断するほどの、ダイブイーグルの超大群のためだ。
空を見やれば、さながら生きている壁のように蠕動しつつ、
さながら雨のように降り注ぎ、襲い掛かり――
「!!」
ラディがはっとなった時、すでに一匹のダイブイーグルが肉薄していた。
速さといい角度といい、もはやかわせるものではない。
懐から短剣を引き抜くなり構えて、防御を試みるが、間に合うか――
が。
そのダイブイーグルはラディに突撃する寸前で、その動きを止めた。
まるで後ろ髪を惹かれるかのように、頭部を何かに引っ張られて――

「まばゆき光彩、刃となして地を引き裂かん! サンダーッ!!」

光条が迸った瞬間、超高圧の稲妻がダイブイーグルを襲った。
黒焦げどころか、殆ど灰のようになりさらさらと消えていく。
「……大丈夫? あんまりぼぉっとしてると、死んじゃうわよ?」
この状況下にあって、どことなくそれを楽しんでいるかのような声がかけられる。
それは女性だった。
歳はラディより少し上ぐらいだろうか。
学者の多用する赤いローブに眼鏡と非常に彩りに欠けた格好でありながら、神秘的なサファイアの瞳と最高級の磁器を思わせる白い肌。
ポニーテールに結われたのは、先端が緩やかに巻いた蜂蜜色の長い金髪――そういった一切が、彼女を強烈に印象付けるのに一役買っている。
しかも、豪奢に作られたドレスより、今の彼女の格好の方が逆に彼女にとって一番輝きを放つ格好であるとすら感じさせていた。
要するに――掛け値なしの美女。
いちいち形容していると永遠に止まらないほどの美女であった。
「……こらこら。私に見とれてる暇があったら山を降りなさいって」
女性は苦笑し、髪を掻き揚げる。
「私がこいつらの相手をしている今のうちに山を降りて。
 で、バロンあたりに付いたら何でもいいから軍隊を動員してもらってきてくれないかしら?
 ……流石に、この大群じゃあ、個人レベルの戦いで何とかなる相手じゃ――」
女性がやたら丁寧に説明していたその時――彼女の背後に、ダイブイーグルが2匹襲来する。
最も女性も気づいていたのか、すぐ振り向こうとして――その目が驚愕に見開かれる。
凄まじいスピードで踏み込んでいたラディが、すでにそのダイブイーグルを一刀両断にしていたからだ。
雷光を思わせる速度で放たれた黒い斬撃は、全く勢いを落とさずにもう一頭を真っ二つにした。
テュルフングの力に、その死骸は地に落ちる前に闇の微粒子となって風に解けていく。

「……これで、先刻の借りを返しましたよ」

ラディは剣を収め、不敵とさえ思える笑みを見せる。

「……我々は貴女を手助けしに来たのだ。だから山を降りるわけには……いかんな」

クレセントがゆっくり女性に歩み寄る。と、大群のうち一匹がクレセントを背後から襲う。
しかし彼は振り向くことすらせず、ただ無造作に拳を挙げただけだった。
それがダイブイーグルに当たり、そして木っ端微塵に破砕し、血と肉と羽を撒き散らした。
――大砲すら想起させる、凄まじい膂力である。

目前で繰り広げられた光景に、女性はジト汗を一筋流しながら、

「……これは……私が犠牲精神で闘ったり、心配する必要が無いみたい……ね」
「そういう事だ」
「あなたの名前は?」
「ミレイユ。……『み〜ちゃん』って呼んでもいいわよ♪」
「えっ……と……ミレイユさんですね」
「……ちょっとノリが悪いみたいだけど……ま、いっか。
 じゃ、この出会いが今生にならないように……せいぜい、頑張りましょっか☆」
「……ええ!!」


と――その時を待っていたかのように、ダイブイーグル達が豪雨のように飛来してきた。
そしてそれを迎え撃つべく、ラディは力強く地を蹴った――




【座談会】