Final Fantasy W After Story



第六話 幽世の村



ミストの洞窟を抜ければ、ミストはもうすぐそばにある。
にもかかわらず――その道のりがやけに長かったように感じたのをラディは覚えていた。
その元凶は、唐突過ぎる黒い甲冑のこの男・クレセント。
「……迷惑か? 見たところお前は魔法が使えない……ならば私はお前にとって有益な存在だと思うが」
「いえ、そういうことではなく、迷惑かといえばとても有難い申し出なんですが、その……」
「おかしな奴だ。言葉が理解不能だぞ」
おかしいのはクレセントの方であると思う。
そもそも、どうしてこういうことになったのだろう?
……助けてもらい、こんなことを考えるのもあれなのだが……。
確かに、もし再びあの黒竜のようなモンスターに出くわした時、暗黒の使えない今のラディは戦力的に問題がある。
その点彼は白黒両方の、しかも高等な魔法を行使できるらしい。
魔法にはそれほど明るくないラディでも、あの黒竜を倒した手並みから彼がよほどの使い手だということは理解できる。
はっきり言って勿体無い申し出だ。
断る理由はどこにもないし、その気も無い。
だか何か……根本的に何か間違ってる気が……。
「あの……あなたは、何か別に目的が――」
「気にするな。私のすべき事は確かにあるが……。
 お前に付き合ってやるだけの時間はたっぷりある。それより……着いたぞ」
「……え?」
「ミストの村だ。……まさか、このままカイポまで強行軍をするのか?」
カイポというのはここよりさらに北東に位置する町で、ここの先にある砂漠の中心に存在する。
ただでさえ遠く、5年前とは違い「ミスト山」の存在する今、そんな強行軍を強いるのは自殺行為だ。
「いえ……今日はいろいろありましたし、宿をとって休みましょう」
「ふむ……それが賢明だな。無理は体に毒だ」

――ミストは5年前、一度「ボムの大火」で壊滅している。
現在はそれを復元した村であり、建物全てがまだ新しい姿を保っている。
この村唯一の宿を探しながら――ラディが話しかける。
「……ところでクレセントさん」
「……別に呼び捨てでも構わん。私もお前をラディと呼んでいるのだからな」
「っと、じゃあ……クレセント。確か……ファイガ……だったっけ?
 オレ、あんな高等な魔法見たのは初めてで……。
 それにあんな強力な威力なのに、あの黒竜以外には全然影響を与えないなんて……」
軍事国家バロンは兵力や剣術・機械部門において他の国の追随を許さないでいるが、
魔法の部門に関しては大きく遅れを取っている。
独自の文化を持つエブラーナを除けば、底辺と言っても過言では無い。
ミシディアが魔法の知識を提供し、またバロン国王妃であるローザが最高位クラスの白魔法の使い手とあって、
5年前に比べればそれでも大分進歩はしているが――いまだ魔道士団の隊長クラスのものでも。
ファイラ等の中級魔法、それ以上を扱えるのは数えるほどしかいないのである。
「……魔法自体は大したことではない。
 魔法の効果を知り、構成を知っていれば少々手を加えることで効果範囲は限定できるからな。
 ……それよりも、だ」
クレセントは声の大きさを加減して続ける。
「あの洞窟の黒竜の話……ミストではするな」
「え? ……それは何で?」
「……あれはモンスターではない。幻獣だからだ」
「なッ!? げ、幻じゅ――」
クレセントが慌ててラディの口を塞ぐ。
「馬鹿者! ……声が大きい!」
「ご……ごめん。でも、なんで幻獣だと……?」
幻獣。
それは地底の奥深くに存在する「幻界」に独自の国家と文明を形成して住まう、人外の存在達のことである。
その力は圧倒的にして尊大、その知識は深遠にして遠大、その存在は永劫にして不滅といわれている。
幻獣の話自体は有名で、多くの海の男を返らぬ身へと帰した幻獣王リヴァイアサンや、
その剣の一振りで鉄すら寸断する魔戦士オーディーンの話は子供心に鮮烈に残っている。
その幻獣は、俗に「召喚士」とよばれる一部の者だけが交信・その力を行使出来る。
そしてこの霧の村・ミストは幻界に最も近いとされ、力ある召喚士を生む数少ない村なのである。
「一つには、あの洞窟には従来いるべきモンスターがいた事だ。
もしあの黒竜がモンスターならば、あの巨体を維持するために大量の餌を必要とする。
……ならば食物連鎖の関係上、あの洞窟の他のモンスターは絶滅しているか、
それとも大きく生態系が変わっているはずだ。
それがないということは、あの竜が生命で無いという証拠だ」
「……でも、死霊系のモンスターなら――」
「死霊系のモンスターなら、あの強さになるためには大量の生命を吸う必要性がある。
 ――それならば交易隊や行商がかなり犠牲になっているはずだ。当然大問題にもなっているだろう。
 ラディ、お前はあの黒竜の話を聞いたことがあるか?」
確かに。
あれだけ強力なモンスターがいたのであればバロンに討伐申請が提出され、陸兵団あたりに話が届いているはずだ。
だがラディは当然、あの黒竜の話など聞いたことが無い。
「そして、生物として一番おかしいのが、あの苛烈すぎる殺気だ。
 野性の獣が、あんなに敵意をむき出しにして襲い掛かることは有り得ない。
 捕食すべき獲物に、先に感づかれては終わりだからな。
 ……あの黒竜は相手を食べるために襲うのではなく、殺すために襲おうとしていた。
 ――そんなことをするのは、人間かそれ以上の知能を持った存在、幻獣以外には存在しない」
……ラディの脳裏に、あの黒竜の姿が蘇る。
確かに黒竜はこちらを捕食するというより、粉砕しようとしていたように思える。
ならば――
「あの黒竜は、この村の誰かが放って……?」
「いや。……あれは野良だ」
「野良……?」
「幻獣は想いから生まれることがある。
 バハムートの様なものは別にしても、オーディーンは元は高潔な一剣士の魂が幻獣化したものだし、
 かつてあの洞窟を護っていたミストドラゴンもこの村の召喚士の魂と命運をともにしていた。
 ……そういった中から、たまに幻獣は幻獣界を介さずに自然発生することがある。
 あの黒竜は殺意や悪意・邪念が具現化し、幻獣化したのだろう」
(……かつての私のようにな。)
 と、心の中だけでクレセントは付け加える。
「だがもしミストでこんな話をしてみろ?
 ……野良であることに気づかずに、村の中で犯人狩りのようなことになる可能性がある」
「まさか、幾らなんでも――」
「かつて召喚を悪用した者は、この村で私刑で処断されたことがある。召喚という力の暴走を防ぐためにな。
 そこまでやるからこそ、この村は召喚士という力が集中していたにもかかわらずどの国も危険視することが無かったのだ」
確かに――熟達した召喚士が10人もいれば、その戦力は一個の国の戦力にも匹敵するという話を聞いたことがある。
この村は、その気になれば世界を滅ぼせるだけの力を秘めているのである。
「……もし野良ということを理解してもらえたとしても、どちらにしろこの村に不用意に気を使わせる必要もあるまい。
 野良幻獣が発生することなど、早々無いことだからな」
「……判りました」
「うむ。……ところで良いのか?」
「え……?」
「宿だ。……ここで取るのではないのか?」
「……あぁぁぁぁぁっ!!」
ミストの村――別名・召喚士の村。
小さいながら、その別名のお陰で観光客はかなり多く、さらにミスト山の存在もあってかここで一泊していく旅人はかなりの数に上る。
もしミストが小さい村でい続けるという現在の方針の元でなかったなら、カイポやトロイアに匹敵する大規模な観光都市になっていたかもしれない。
それはつまり、ここで泊まっていく旅人がラディ達以外にも沢山いるということで――
その事を思い出し、慌てて駆け出すラディだったが――
いかんせん出遅れたのが裏目に出たか、村唯一の宿はすでに仮客室のロビーまで人で埋まっていた。
「そ……そんな…」
「……野宿か。しかしそれも先約がいるようだな」
クレセントの指差す方角に目をやれば――
野宿に適した木の下などは、全てラディのような旅人で占領されていた。
……となれば。
「……強行軍でカイポまで行くしか無さそうだな」
「そう、だね……」
黒竜との戦いの疲れを思い出したのか、どっぷりと疲れた感でラディがその場を後にしようとした時――

「ちょっとアンタ達。アンタ達も旅人なのかい?」

その声に目をやれば、そこにいたのは中年に差し掛かった主婦。
声は大きく気は強そうだが、少し生活に疲れた感のする女性だった。
旅人とは思えない。
ミストの村の住人なのだろう。
「もう宿は満員、野宿もロクな場所が残っちゃいないよ?」
だからこのままカイポまで行くのだと、口を開きかけた時――
「悪いことは言わない。アンタ達ウチに泊まっていきな」

突然の申し出であった。

「え!? いいんですか!?」
「まあ、見て見ぬフリも残酷な感じがするからね」

今日一日で散々唐突とか突然とかに出くわしてきたラディだったが、諸手を挙げて喜べるものはこれが初めてだ。
当然断る理由も無く、ラディ達は主婦の家に厄介になることとした。




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