Final Fantasy W After Story

第四話 漆黒の竜

ドラゴン――
それは幻獣神バハムートの様に崇高な存在から、地底でまれに見かけることの出来るグリーンドラゴンのような種まで存在するが――
その全てに共通するのは、強烈で圧倒的な戦闘能力。
最下級のグリーンドラゴンですら、その爪は熟達した戦士の一撃に匹敵する。
戦うために生まれてきたといっても過言ではないのだ。
目の前の黒い竜は、節くれだった長身に禍々しいまでの邪悪さを発散させている。
明らかにこちらに敵対意思があり、しかも恐らくは並のドラゴンより格は上だろう。
……しかし――
(何故ドラゴンが……バロンに!?)
バロン周辺はモンスターの気質が比較的穏やかな上、大して強くもないものが殆どだ。
ラディも陸兵団として数回、凶暴化したモンスターの駆除を任務でこなしたことがあるものの、
その大半はゴブリンやソードラットであり、ドラゴンなどこの目で見たのはこれが初めてだ。
様々な推測と疑問がラディの脳裏に展開されるが――
――しゃあああああああッ!!
黒竜の鋭利極まる爪の一薙ぎは、その寸前でラディにかわされた。
「考えるのは……後回しか!!」
黒竜の戦闘能力を考慮すれば、考え事などしていてはこちらがやられる。
ラディはそう割り切り、一切の詮索をやめた。
ここで考えて黒竜が消えるわけでもない。
――現状を切り抜けるにはただ一つ。
この竜を倒して進むより他にない。
さらに頭部へと収束する爪の一撃を頭を下げて追いやった後、ラディは後ろへと跳んだ。
寸前、ラディのいたところに叩き込まれた尾の一撃は、砲弾が直撃したかのような穴を地に穿つ。
爪や尾は、振り回すだけで強烈な威力を秘めた必殺の一撃を生む。
受け止めることも拮抗することも無駄だ。
こんなものをまともに喰らえば鎧ごと肉体がばらばらに砕けてしまうだろう。
――しかしその猛攻を、何とかかわし続けていくうち――執拗な攻撃に、隙が生まれた。
それを逃すほどラディは甘くは無い。
「はっ!!」
裂帛の呼気短く、手にした短剣を鋭く投擲する。
空気すら切り裂かん勢いで迫るのは――喉の近くに存在する、小さな突起。
「逆鱗」と言い、竜にとっては数少ない共通の急所である。
バロン兵学校で知識として知っていただけだったが、これならば――
短剣の狙いは正確を極めていた。
寸分たがわず、その延長線上にある逆鱗を目指し、触れ――貫く。
――黒竜は相変わらず、殺気立った目でこちらを射抜いている。
「……!?」
短剣は確かに竜の逆鱗を貫いた。
――しかし、それだけであった。
貫きはしたが、竜には全く傷はなく、まるで幻を貫いたかのよう。
手元に再び収まった短剣にも、血は一滴もついていなかったのである。
――しゃああああああああッ!!
そこに襲い掛かる、爪の一撃。
なんとか寸前でそれをかわすものの、その残影はラディの金髪を数本裂いて通り過ぎていく。
「くっ……はああああっ!!」
疑問を追及している余裕は無い。
今度はテュルフングで斬りかかる。
黒竜とは違い、ある種清々しさすら感じさせる漆黒の刀身が弧を描き黒竜に迫った。
恐ろしい切れ味秘めるラディの暗黒剣も、だがしかし霞のごとく手ごたえが――無い。
(こいつ……普通のドラゴンじゃない!?)
暗黒剣は生きとし生けるものには恐ろしい高威力を発揮する。
剣に込められた力が、斬り裂いたところから生物の再生能力を奪い、消滅させてしまうためである。
しかも、このテュルフングにいたっては本来生命で無いもの――物理的な存在の一切に対して、力を持つのである。
――その魔剣ですら傷一つ付けられないということは、スピリットやソウルといったモンスターに共通する、霊的存在――
もしくはかつてこの洞窟の守護者だったミストドラゴンの様な、幻獣に近いモンスターか。
どちらにしろ、物理攻撃の一切を受け付けないタイプのモンスターらしい。
それでいて向こうの攻撃は確実にこちらに届くのだから――
「く……厄介な……!」
ラディは思わず舌打ちした。
攻撃魔法の一つでもあればいいが、あいにくそんな物は使えない。
赤い牙や青い牙、ボムの右腕の様な魔法に匹敵するような道具も手元にはない。
攻撃手段が無いのだ。
(せめて……オレが本当の暗黒騎士なら……!)
暗黒騎士は自らの命を衝撃波として撃つ「暗黒」がある。
それは対集団戦や建築物破壊においてたびたび用いられたが、本来それは真の闇の力で悪を断つための力――レオンはそう言っていた。
それはまさに、この黒竜のようなモンスターに多大なダメージを与えられるだろう。
だが――いくら負の力に耐性があるからといって、暗黒騎士でないラディに暗黒は使えない。
暗黒は、「負の試練」において合格した者だけが扱える、暗黒剣の奥義なのである。
その暗黒さえあれば、この黒竜に決定的な一撃を加えられるのに――
と、その時。
業を煮やしたか、黒竜は怒り狂うかのごとく天に咆哮を上げると、自らの力を誇るかのように牙を剥いてみせる。
……その時だった。
黒竜の長い牙に、何かが――言葉では言い表せぬ、背筋を凍らせるかのようなぞっとした気配が集まっていく。
それが臨界に達した時――思わずラディは身を投げ出して伏せた。
本能的な勘が、彼の体を支配した結果だ。
そして――黒竜の牙から「何か」が発射され、それは寸前ラディのいた空間を貫き――
その背後にあったつり橋の一つを、完全に粉砕してしまった。
――あれをかわせなければ、粉砕していたのは自分だった。
ラディの心にはっきりと恐怖が刻み込まれる。
自らの攻撃はまるで通用せず、反対に黒竜の力は圧倒的なまでのもの。
逃げようにも恐らく、背を見せた瞬間にあの黒い牙の一撃を受ければ終わりだ。
ならば、どうすれば――
その判断の迷いが致命的な隙を作ってしまう。
「!? しまっ……!」
気づくと黒竜が迫ってきていた。
こう間合いを詰められると、人である以上ラディは圧倒的に不利だ。
何とか短剣で防御を試みるが――黒竜の狙いは、攻撃ではなかった。
黒竜の猛々しいその口から、霜のような何かが放出される。
霜はラディの体を包み込み、次の瞬間、ラディの体はまるで自分のものでないかのように脱力し、その場にうずくまってしまった。
(う……動けない!?)
黒竜の狙いは、ラディの動きを封じるもの――ちょろちょろと動き回る、この脆弱な獲物を確実にしとめるためのものであったのだ。
体を動かそうにもまったく力が入らず、まるで鉛のよう。
唯一動く目と、皮肉なほどはっきりした意識の中で、黒竜は愉悦に目を細めその牙に「何か」を集中させていく。
(ここで……終わるのか!? オレは……!!)
――まだ、旅に出て間もなく。
父を超えるどころか、暗黒騎士にすらなれず、同じスタートラインにすら到達していないと言うのに。
こんな所で、何も成しえないまま――
だがラディの心とは裏腹に、体は全く動く気配を見せてはくれなかった。
そして、黒竜が黒い牙を放たんと牙を剥いた――まさに寸前。
「――バイオ」
冷徹さと硬質さを兼ねた鋼の呟きが響いた瞬間。
黒竜の全身に付着していた細菌が急速に成長し、その寄生主に襲い掛かった。
悶えながら身を捩り、苦悶の表情を浮かべる黒竜をよそに、その呟きはさらにこう続けた。
「地の底に眠る星の火よ……古の眠り覚まし、裁きの手をかざせ」
(魔法の……詠唱!?)
ラディがそう気づいた瞬間――
「――ファイガ」
爆炎が、ラディの視界を埋め尽くした――

【座談会】
ラディ:っておいおい!? ここで終わるか!? 終わりなのか!?
作者 :うむ。引きをつけるのは連載の常套手段だ。
ラディ:じゃあ、アニメ的に言うとここでCM?
作者 :いや、最近のアニメだとED→CM→次回予告だろうな。
ラディ:ご覧の番組は、「タ○ラ」の提供でお送りしました。
作者 :え? やっぱりここは食玩狙いで「○バヤ」だと思うが。
ラディ:というか、提供ネタは禁止。ヤバイ気配がするから。
作者 :うむ。
ラディ:で、改めて。……いきなり黒竜なのか。
作者 :うむ。苦戦しただろ?
ラディ:あれってやっぱり、ゴルベーザ戦で出てきた奴?
作者 :完全に同じかどうかはともかく……パラメータや技は同じだな。
ラディ:……? はい、一つ疑問。
作者 :うむ、どうぞラディ君。
ラディ:オレを脱力させたのって、『呪縛の冷気』だよな?
作者 :む……それが?
ラディ:呪縛の冷気って、黒竜じゃなくてゴルベーザの技じゃなかったっけ?
ガスッ!!
ラディ:あ……死んでる。前回もそうだったけど、結構作者って設定魔だからな……。
矛盾する設定って、かなり応えるんだなぁ。じゃ、また次回。
鋼の声:……ファイガを放った私は、話題にすら上らないのか……?



