Final Fantasy W After Story



第一話 旅立ち



「……さて、と」
バロン郊外にある、小さな家。そこに一人の青年がいた。
短い金髪に、まるでルビーの様に赤い瞳――剽悍な顔つき。
引き締まった体は、子供の頃から父の元基礎訓練を絶えず行なってきた賜物であろう。
名はラディ=オルティニア。今年で数え19になる。
バロンではもう成人として認識される彼は、先ほどからいそいそと旅支度を整えていた。
小さいながらも整理された部屋から、少しづつ生活感が失われていく――
別に旅をすること自体は大して珍しくも無い。
モンスターが減り、飛空挺の移動手段の確立した昨今では旅人の数も年々増加の方向性にある。
しかし彼の旅はそんな趣味の範囲ではない。
かなり長期――下手をすれば一生旅を続ける可能性さえあるものだ。
そしてこの行為が特異であるもう一つに、彼の職業がある。
バロン王国陸兵団小隊長。
現バロン国王であるセシルが暗黒騎士団に入隊するまでにいたポストである。
決して高い地位ではないが、実力次第では他の軍への引き抜きもある。
……そしてラディは最近頭角を現しだし、各軍も注目を始めたところであったのだ。
このままバロンにいれば将来が約束されているのである。
しかし彼はつい先刻その足で辞表を提出してきた。将来を蹴り、そこまでして旅に出ようとするには理由があった。

レオン=オルティニア。彼の父であり、暗黒騎士であった男。
ラディにとって父は昔からの憧れであった。
――いや。
バロンの少年にとって、暗黒騎士は竜騎士と人気を分ける憧れの存在であったのだ。
知っての通り、暗黒剣は凄まじい負の力を扱う。そのために騎士には自然と自らを律することが要求されていく。
従って暗黒騎士には人格者が多く、実際文化人として名を馳せたものもいるくらいだ。
レオンは騎士団長となるほどには器は持っていなかったが、
実力は当時の竜騎士団団長と互角とも、それ以上といわれるほどの剣の腕を持っていた。
そんな父が、ラディには自慢であり憧れであり、そして超えるべき存在でもあった。
ラディが暗黒騎士になりたいと言った時、レオンは笑っていったものだった。
「ならまず、私の朝と夜の訓練に付き合えるほどの基礎体力が無いといけないな」と。
それからラディは毎日父の走りこみや基礎練に付き合った。
最初はすぐ根をあげるだろうと踏んでいたレオンも、息子が意外と頑張るその姿をみて嬉しくなったのだろう。
剣を教え、そしてラディは父から教わることを少しづつ、確実にものにしていった。
しかしある任務の際、レオンは厄介な毒を受け、何とかバロンには戻るものの――その一ヶ月後に世を去ることとなる。
ラティの母は彼を産んですぐ他界したため、彼にとっては最初で最後の肉親との別れとなった。
その間際にレオンは言ったのだ。
「お前の暗黒騎士姿を見れなくて……残念だ」
と。父を手厚く葬り、さらに当分の生活費の捻出のために、
それまで住んでいた屋敷を売り払い、使用人を解雇して彼は軍へと志願した。
彼の望みはただ一つ。暗黒騎士になることであった。
彼は軍に入り、どんな任務も文句一つ言わずにこなしていった。
認めてもらいたいなら、まず自分に課せられた事は黙ってやってみろ――
レオンが根をあげるラディに、耳にたこが出来るほど繰り返していた言葉だった。
そうしているうちに少しづつ、彼は出世していった。
元々レオン仕込みの剣術に幼少からの訓練と、彼の実力は同世代の新兵と比べ明らかに突出していたからだ。
バロンでは家系より実力を重んじる国の性格上、その結果は必然的であった。
しかし。彼が出世し、いずれ暗黒騎士になろうかという時。彼にとって人生最大のショックな出来事が起こる。
元暗黒騎士団団長兼飛空挺団「赤い翼」隊長にして、
現在は聖騎士でありバロン国王となったセシル=ハーヴィの暗黒騎士団廃止の勅令である。
セシルと彼とは面識があった。レオンが見込みのある新米だと一度家に連れてきたことがあるからだ。
暗黒の武具に身を包んだ彼に、自分は憧れの眼差しを向け、質問の嵐を浴びせた。
それに対して彼はその一つ一つに丁寧に答えてくれたのを覚えている。
やがて軍に入り、彼が「赤い翼」隊長となった後も、時々彼はラディを見かけては声をかけてくれた。
彼の部下達の話も耳にし、彼がいい人物であることは知っている。
王となったあとも、その治世は本物の前バロン王に匹敵する良政であるとは思う。
しかし暗黒騎士団の廃止は納得の出来るものではなかった。
暗黒の力は確かに危険であり、その力に溺れればモンスター以上の危険な存在となる。
暗黒剣を習得するための「負の試練」においてそうやって力に負けたもの、溺れたものは数知れないと言う。
しかし、それに打ち勝った者、力を律せるものだけが暗黒騎士になれるのである。
そしてラディは見てきた。数々の暗黒騎士を。皆、尊敬に値するほどの人物だったのだ――
かといっていまや国王となったセシルに対し、暗黒騎士の存在意義を論議できるわけもないし、
元暗黒騎士であるセシル自身、旅の中で暗黒剣が廃止に値するものという結論に達したに違いない。
バロンしか知らない、ましてや暗黒騎士でもない自分が何を言ったところで、
その言葉には何の重みも説得力も無いだろう。
――と、頭では理解していた。だがそれで全てを納得できるほど、ラディは歳を食っていなかった。
だから確かめるのだ。自身も旅に出て。セシルのように世界を巡り、何が暗黒騎士の存在を否定していたのか確かめるのだ。
幸いにも彼の旅の行程は「聖騎士の歌」のおかげで子供でも知っているし、観光のツアーすら組まれている。
親兄弟もいなく身軽だったことも彼の背を押す助力となった。

「………」

身支度は整った。
ラディは戸を押し、鍵を閉めた。
そしてゆっくりとバロンの町並みを見渡す――
トロイアとはまた違うが、バロンの町並みは美しい。
白いレンガの家々が並び、水の流れがきれいな自らの故郷――

それを目に焼きつけ、彼は歩き出した。


そしてそれきり、彼は振り返ることは無かった――




【座談会】