竜の口より生まれしもの
天高く舞い上がり
闇と光をかかげ
眠りの地に更なる約束を持たらさん


月は果てしなき光に包まれ
母なる大地に大いなる恵みと
慈悲を与えん








バロン国国王であるセシルは、日の光に自らの剣をさらして眺めていた。
剣に刻まれたこの文字を見ていると、あの頃の自分に立ち返るようだ。
――ゼロムスとの死闘から5年が過ぎた。
セシルがバロン新国王になった当時はまだ「赤い翼」の傷跡が世界各地に残っていたものの、
さすがに今ではダムシアン・エブラーナも完全に復興し、またモンスターの数も減少したために世界は概ね平和に保たれている。
ダムシアン国王であるギルバートは城の再建の際にダムシアン王家の代々の才能であった「商才」を遺憾なく発揮。
費用のかかるクリスタルルームも含め全て再建して、今では各国家の最大の輸出入の相手先となっている。
また新しくトロイアから王妃を迎えて、今では自らの子供に「聖騎士の歌」を聞かせているとか。
手練れの僧兵の大半を失っていたファブールも、今では見習いが全て手練れとなり、
国王であるヤンを筆頭修行に明け暮れているらしい。
また問題となっていた海路のリヴァイアサン転覆騒動も、リディアのおかげで今ではまったく無くなっているそうだ。
ミシディアの双子・パロムとポロムはやはり遺憾なくその魔法の才を発揮しているそうだ。
パロムは今や冗談抜きで賢者テラを目指さんと修行に取り組み、
かの偉大なる月の民の長・フースーヤ以外に唯一「メテオ」を若干10歳で習得したらしい。
ポロムもまたそれに触発されたように真面目さに磨きをかけて修行している。
二人はいまや「偉大なるミンウ」の再来とまで言われ、各国から講義をしてくれと引っ張りだこであるという。
トロイア国はいまや黒チョコボの繁殖――「チョコボの森」にも成功。
嫁ぎ先のダムシアン国の世界に誇るネットワークを利用して今では全国各地にチョコボの交通手段が確立されつつある。
エブラーナ王のエッジは……今では王妃であるリディアの言葉を借りれば「まだまだ子供」ということらしい。
きちんと国政は済ませるものの、暇さえあればファルコンを駆って世界を飛び回っているために、
エブラーナの治世は実質リディアが取っているようなものである。
しかし実際、鎖国状態を解いたエブラーナは各国の文化や知識を染み込む様に習熟し、
バロン以外で初めて、独力で飛空艇を作成・整備可能なほどの科学技術を持つ大国となっている。
ドワーフの王国のジオットも、地底ゆえに直接会うことが出来ないものの、
まめに便りが届くところを見ると、今も概ね平和なようだ。
元々陽気なドワーフたちの国家でもあるし、特に心配するような出来事は起こらないだろう。
バロンも、セシルの代になって少し変わった。
建国時の理由から軍備を削減するわけにはいかなかったものの、飛空挺団は各国家間で共同で持つ軍隊となり、
またシドの希望もあって各国家間に飛空挺の交通機関を設置し、バロンはその監督役となった。
これによりエブラーナや地底との国交が盛んになったことは、各国家や都市にとって新しい文化を生み出す種となることだろう。
そして暗黒騎士団を廃止。
これは暗黒剣では真の悪には通じないという自らの体験が大きく関与していたかもしれない。
その代わりに、元暗黒騎士団と飛空挺団の一部、そしてベイガンを失った近衛兵団を統一して新しく「聖騎士団」を編成。
額面どおり全てが聖騎士……というほどには無理であったが、暗黒騎士や近衛兵の中から少しづつ聖騎士となるものが現れだしている。
これからはもっと増えることだろう。
「………」
……平和である。それはバロンという大国を背負う自分としては嬉しいことだ。
だが自分の「もう一つの役割」から見ても、それは大きな意味を持つ。
――蒼き星を、守護すべき存在。
かつて父クルーヤが、自分と、自分の兄――ゴルベーザに託した、たった一つの遺志。
セシルは目を細め、空を見上げる。輝く太陽ではなく、彼が見たのは月――
日中であっても、わずかにその存在感を主張するそれは、白い姿でただ、宙に存在する。
たった、一つだけで。
二つ目の、月――
はるかな昔、蒼き星のように命を生む母なる星が消滅した時、命を運ぶ船は旅を続けこの星にたどり着いた。
しかしまだ当時、蒼き星はその民達と同胞になるにはあまりにも未熟な存在でしかなかった。
だからこそ民たちは進化を促すクリスタルを蒼き星に送り、そして自らは月を作り出しその揺り篭の中で待ち続けたのだ。
互いに同胞として手を取り合う、その日を夢見て。
蒼き星――母なる星の母にして、そして蒼き星の同胞となることも出来た存在。
しかし――運命は二つの星の交錯を許さなかった。
強大な悪念が自分と兄の運命を引き剥がし、互いのことを理解せぬまま互いに憎み、争い、結果月は新たな同胞を求めて旅立っていった。
そして兄は、自分に蒼き星のことを託し、去っていった。
だから自分は命を賭けて守らねばならない。この星を。兄の、分まで――
「――兄さん……」
懐からセシルはあるものを取り出し、陽にすかす。ゼロムスとの戦いの際、兄に託されたクリスタル。
それは光を湛え、そして光を愛するクリスタル。自分の――クリスタル。
最近、思うことがある。
兄はゼムスの邪念に惑わされ、そして操られたと言っていた。
しかし彼は、本当は操られたのではなく、自分からその身をささげたのではないだろうか――と。
自分を、守るために――。
冷静に考えてみれば、あの時ゼムスが自らの駒に兄を選ぶわけが無いのだ。
あの当時、兄は12歳。自分はまだ2歳にも満たない幼児であった。
自分と兄は光と闇。自分には光に対する強い潜在能力があり、兄の場合は闇にそれがあった。
だが自分が2歳では流石にそういった力を制御できなかったのに対し、兄は、この時点で拙いながらも闇を操る術を習得していたのだ。
ゼムスの邪念がいかに強力だったとはいえ、月と蒼き星の距離は無視できないものがあり、
あの当時の兄の力なら邪念を弾き返すことなど容易なはずであった。
対し、自分にそれが出来たかといえば――言うまでもなく、不可能だ。
封印されていたゼムスには、無限の時間があった。ならば邪念を弾き返すことも出来、
また12歳までの記憶を持っているために洗脳してもそれが解ける可能性のある兄より、
どう考えても自分の方を手駒として手に入れ、じっくりと手駒に育てた方が確実性は高い。
それにも関わらず、現実にゼムスの手駒となったのは自分ではなく兄であった。
――兄はいつも、何も言わなかった。
言いたいことはいつも胸の奥にしまって、一人で背負い込む人だった。
すごした時間は殆ど無いのに、何故かそれは手に取るように判っていた。
それが――血の絆、というものなのだろうか。
――ならばなおのこと、今度は自分が頑張る番であった。
あの兄が、自分を信じて託していってくれたのだから――
「……セシル?」
と――その時。バロン国王妃――つまり自分の妻であるローザが自分を呼びに来た。
「どうしたの……?」
「……いや。何でもない。それより急ごう。今日の祭儀は、僕たち無しでは話にならないからね」
セシルは剣を納め、代わって儀礼用の剣とマントを羽織ると、ローザの手を引き歩き出した。
月は去っていった。蒼き星は、母と同胞の双方を失ったのである。
だが――それは新しい運命を切り開く、始まりだったのかもしれない。
もう蒼き星を導くものはいない。蒼き星は、その進むべき道を自らで選ぶ時を迎えたのだ。
ならば自分達は進んでみせる。それは微々たる歩みかもしれない。
少なくとも自分たちが生きている間はそれを成すことは不可能かもしれない。
だが――それでも、一歩一歩を踏みしめて、歩んでみせる。




いつか彼らともう一度、手を取り合えるその時へと。

兄の好きだった蒼き星で――歩んでいく。



Final Fantasy W

After Story