アルみさきが転移した先――そこは広い空き地だった。
数年前に、建てられていた建物が撤去され、未だ次の買い手が決まっていない土地。
その中心に二人は降り立っていた。

辺りを見渡しても誰もいない。
だが何処からか……いや、直接頭に響いて来るような声が二人に届く。

――来たか、高きHEPUの力を持つ者達よ――

「誰だっ、姿を見せろ!!」

――姿、か……残念ながら我は今此処にはいない――

「こそこそと隠れてないでここに来たらどうなの!?」

――それは出来ぬ。……出来ぬ理由が……有る――


――故に汝等の相手は別の者達がする――




魔法少女まじかる☆へぷーVS仮面ライダー169(アルキュン)

〜CROSSED TALES〜



第七話



その言葉と同時に、数体の魔物が現れる。
三つ首の巨大な犬――『ケルベロス』。
虎の如き形相をし、蛇のように長い胴を宙に浮かせているケツアルクァトル――東洋で言う『龍』。
獅子の頭と前足に山羊の頭と体、蛇の尻尾を持つ魔物――『キメラ』。
「モンスターの有名どころだな」
「街の中にもこんなのがうじゃうじゃしてるのかな……」
――この街に配置してある魔物の大半は取るに足りない力の者ばかり――
――しかし、その中に我の眷属も一体配置してある。並みの者が敵う相手では無い――
みさきの不安を感じ取ったアルが自分にも言い聞かせるように語り掛けた。
「……大丈夫です、夜姫さん達が負ける筈が無い。
 オレ達は目の前の相手に集中しましょう」




スラッシュは再生した漆黒の剣と白の剣の二刀流で三日月月夜を打ちのめす。
それをもう何度繰り返した事だろうか。
それでも二人は立ち上がり、再び武器を構えてスラッシュと対峙した。
「……いい加減に諦めたらどうかな?
 四対一でも負けていたのに君達二人じゃ勝ち目は無いよ」
「……うるさいっ! いくぞ、三日月!!」
「承知しています!」
爪に武器を持ち替えた月夜とダガーを逆手に持った三日月が再度攻撃を仕掛けた。
「無駄だって言ってるのに……分からない人だね、君達は!!」
スラッシュが目を見開いた。
そして襲い来る月夜の爪を交差させた双剣で受け止め、そのまま圧し切ってX状に斬撃を浴びせる。
「ソード・オン!!」
悲鳴を上げる月夜から三日月に視線を移したスラッシュが『ヘヴンズ・ソード』の羽根を分離した。
その羽根が吸い寄せられるかのように三日月の振るったダガーの刃に集まって行く。
振るった刃が細くなり、スラッシュの常時展開フィールドにいとも簡単に受け止められる。
光を吸収して緑色になった羽根が今度は三日月に纏わり付いて来る。
『いけません! これは……』
三日月は下腹に力を込め、レジストの準備をする。
予想通り、羽根が放ったエネルギーが三日月を襲った。
「ぐううぅぅぅぅぅ……!」
三日月は集中して必死に耐える。
スラッシュはそんな三日月に近づき、首を掴んで体を持ち上げた。
「がっ……ぁぁ……」
三日月の集中が途切れ、緑のエネルギーが全身を蝕む。
それに触れているスラッシュも同じダメージを受けていたが、意に介していないようだった。
三日月っ! ……くそっ!!」
ムーバーを抜いた月夜スラッシュに連続で射撃を放つ。
しかし、フィールドを後方に集中しているスラッシュは然程ダメージを受けていない。
「……ッ!!」
月夜はムーバーを腰に収め、294フォンのみを改めて取り出した。
「ワイルド・オン!!」

「Check!」


「Error…」


ムーバーに294フォンを挿したが、その音声が空しく響くだけだった。
「発動すらしない力に頼るのは愚かしい事だけど……今はその力に頼るしか無い、か……」
スラッシュ月夜の方を向こうともしない。
力が徐々に抜けて行く三日月の手からダガーが落ちた。
『くそっ、何でだよっ! 何で発動しないんだ!』
月夜はムーバーをがしがしと叩く。……その顔は悲痛なものだった。
『あいつを助けてやりたい……大切な仲間を守りたいんだ……
 そんな時に出なくて何の為の力だよ!』
今の月夜にとって大切な人なのだ。三日月も、アルも、マスターも、皆。
……そんな、大切な人を誰一人失いたくない……
月夜の目に涙が滲む。

「頼むよ……動いてくれよ……
 ……動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

悲痛な叫びに、胸の双玉が光を放つ。
月夜の願いを表しているかのように暖かく……それでいて、力強く!

――まばゆい橙色の光が瞬間的に辺りに広がる――


「WILD」



「その手を……離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
紅の眼がスラッシュを睨み、月夜の一撃がガードごと相手の体を突き飛ばした。
その拍子に三日月を掴み上げていた手が離れ、三日月が解放される。
むせる三日月月夜が抱き起こす。
三日月、大丈夫か!?」
「ええ、何とか……ご迷惑をお掛けしました」
三日月は地面に落としたダガーを拾い直した。
突き飛ばされた体勢のままスラッシュは今の月夜の戦力を改めて確認している。
「……腕力はあるみたいだね。でもそれだけで勝てるとは思わないで欲しいな!」




極零列凍波ビス・カヤー!!」
天地爆裂メガデス!!」
「貫け、橙の閃光!!」
月夜(白)が発生させた猛吹雪が周辺のクリーチャーを纏めて凍り付かせ、
夜姫の引き起こした爆発がそれらを砕き、ミストの放った光線が一直線に撃ち貫いた。
勿論『結界』に引き込まれている人がいない事は確認してある。
区域毎にクリーチャー達が固まっている事は、むしろ三人にとって好都合だ。
何しろ初撃で大半を撃破する事が可能なのだから。
三人はそれぞれ個別に残ったクリーチャーを蹴散らして行く。
「お姉さま、こっちは終わりました!」
「うん。……どうやらこの辺にはもういないみたいね」
「これで三ヶ所目です。次に移りましょう」
「じゃあ、転移するわよ」
ミスト月夜(白)夜姫の元に集まった。
夜姫は次の区域を探す為に意識を広げた。
『……この近くにもう二ヶ所。距離から言うとこっちの方が近いわね。全体的には……』
更に広げた意識が「何か」を感じ取る。
『何これ……何かが私達に向かって一直線に近付いて……それにすごく速い!』
「二人とも気を付けて!」
月夜(白)ミストも尋常ならざる夜姫の様子に気付き、夜姫の指す方向に注目する。
黒い点がその位置を変えずに大きくなっていく。
何かが……突進して来ている!!
「守れ、銀幕の障壁!!」
猛スピードで何かが通り過ぎて行き、衝撃波に一瞬遅れて炎が巻き起こる。
それをミストの張った半球状の防御障壁が防いだ。
衝撃波の来た逆方向でそれが重い物体が地に降り立つ音が響いた。
三人は振り返り、相手の姿を確認した。
「……ドラゴン!? そんな……何でこんな所に!?」
月夜(白)は驚愕していたが、夜姫は冷静に相手の力を分析していた。
「……月夜、落ち着いて。
 あのドラゴンからは龍の魔力を感じない。龍魔術は使われる心配は無いわ。
 三人なら勝てない相手じゃ無いはずよ」
『ドラゴン』が低く唸りを上げる。
「あまり時間はかけられないわ。一気に決めるわよ」
月夜(白)ミストはコクリと頷き、力を練り始めた。
「「カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク 灰塵と化せ、冥界の賢者 七つの鍵もて開け、地獄の門」」
夜姫月夜(白)の朗々とした詠唱が流れる。
ミストも最大限まで力を練り上げ、手にした杖で更にそれを増幅する。
「クオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!」
それに対し、『ドラゴン』は首を高く持ち上げ、甲高く吠えた。
その咆哮に発動寸前の三人の術が打ち消される。
「! これって……」
「どうやらあの咆哮はスラッシュさんの使っていた術と同じ効力を持つようです……」
「魔術じゃない、あの生物自身が持つ能力って訳ね。これは厄介な相手だわ……」




「たあああぁぁぁぁっ!!」
「!!」
月夜の爪とスラッシュの二刀が激しくぶつかり合う。
荒れ狂う嵐の如く、矢継ぎ早に繰り出される爪の連撃をスラッシュは捌いていた。
計測・・していた時より……強いようだね!』

「Exceed charge!」


「……くっ!!」
スラッシュは素早くステップを踏み、迫り来る弾丸を躱した。
その弾丸を放ったのは――三日月
今の三日月の運動能力ではワイルドモードになっている月夜の足を引っ張りかねない。
しかし、持ち前の高い集中力から来る三日月の狙撃のスキルは決して低くはなかった。
弾丸を躱し、僅かに体勢が崩れたスラッシュ月夜が飛び掛かる。
スラッシュはフライト・ユニットで空中にその身を躍らせる。
なおも三日月が狙撃するが、相手の機動性は高く、一発も当たらない。
「クロー・オン!!」
三日月とは違う方向からタイミングをずらして光の爪が飛ぶ。
身を捻りそれを避けたスラッシュはフライト・ユニットの銃で爪を飛ばした月夜に射撃を浴びせた。
だが、威力を犠牲にして速射性を高めた射撃はワイルドモードの瞬発能力、防御能力の前に躱され、受け止められている。
無論月夜がダメージを受けていない訳では無い。
速射したエネルギーの弾丸は確実に月夜の体力を削っていたが、高い回復能力がそれをカバーしていた。
スラッシュは直接入力でエネルギーをチャージする。

「Exceed charge!」


放たれた二条の光線に反応した月夜が大きな動きでそれから逃れる。
スラッシュはその隙に三日月に向けて加速し、突進していた。
『読めています!』

「Exceed charge!」


一直線に向かって来るスラッシュに向けて三日月が狙い澄ました弾丸を撃つ。
だが、空中での動きをバレルロールのそれに変えたスラッシュは、いとも簡単に弾丸を避けた。
『しまっ……』
タスラム・リボルバー』の特性上、必殺技『バーストストリーム』を放った後、弾丸を生成するエネルギーが溜まるまでに隙が出来る。
そこを見事に付かれてしまった。
「そう来ると思ってた!」
素早く月夜スラッシュの前に立ち塞がり、爪を構える。
「食らえぇぇぇぇ!!」
その構えから月夜は拳を繰り出す。
相手との相対速度により、爪の刺突による攻撃力、その後に続く拳の攻撃力を破壊的なまでに高められるはずだ。
スラッシュは瞬時の判断で螺旋の動きを再開して直撃を何とか免れた。
掠めた月夜の爪がスラッシュの胸の装甲を削る。
スラッシュは地面に追突する前に両手をついて叩き、宙返りをして地面に着地した。
「……どうやら君の戦力に対しての認識を改めないといけないみたいだね……」
そしてパンドラ・ボックスから一枚のカードを取り出す。

「多少過大評価だけど今から君をあちらの月夜・・・・・・さんと同等クラスと認識する。
 だから……『切り札』を使わせて貰うよ」

只事ではない様子を感じ取ったのだろう。月夜が地を蹴り、スラッシュに駆ける。
しかし、それよりも早くスラッシュのカードの効果は発動していた。


「Contract」



突然、何らかの力に月夜の体が弾かれた。
あの突進の速度ベクトルを瞬時に真逆に捻じ曲げるほどの衝撃……
三日月は見た。スラッシュの周りを漂う紫色の光の帯・・・を――
「あれは……!!」
「そう、これはTAHA……僕を護るこの星の力さ」
スラッシュ紫紺に染まった瞳・・・・・・・・を二人に向ける。
その奥から感じられる力は強大だった。
「この力だけは……使いたくなかった……
 でもこうなった以上、もう退く訳にはいかない!!
 ライダーシステムがどんな物であるかも理解出来ていない君達には絶対に負けられないんだ!!」




『ドラゴン』との戦闘は思いの外長引いていた。
強力な魔術は阻害され、半端な魔術は鱗に弾かれ通用しない。
更に繰り出してくる攻撃は当たれば必殺の威力を持っていた。
防御障壁があるとは言え、生身の人間である夜姫がこれを受けたら問答無用でジ・エンド。
ミストも二年前のアル達との戦いで防御服『イージス・アーマー』を失っていたので、打撃防御力は高くない。
二人は後方に下がり、建物の上を移動しながら『ドラゴン』を牽制していた。
その身に妖力を秘めた月夜(白)はそのスピードで『ドラゴン』の攻撃を回避する事に専念している。
そもそも守備力がどうこう言う以前に、種族的な肉体強度の限界がある。加えて10mはあろうかという相手との体重差。
いくらなんでもその攻撃をまともに受ける気は無かった。
「やあああぁぁぁぁっ!!」
鉤爪に見立てた月夜(白)の指が『ドラゴン』の鱗を引き裂かんとするが、威力の大半がその鱗に阻まれ、身には僅かに傷を付けたのみ。
『ドラゴン』は圧縮した炎弾を月夜(白)に向けて撃つ。
「遮れ、漆黒の魔鏡!!」
炎を吐く瞬間だけは咆哮で魔術阻害をされる事は無いはずだと判断したミストが術を行使した。
月夜(白)の前に現れた黒の障壁が炎弾を受け止める。
障壁と炎弾、二つのせめぎ合いは『ドラゴン』の咆哮によって均衡が崩された。
黒の障壁が霧散し、炎弾が地面を灼く。
アスファルトの熔ける匂いが辺りに広がる。
「……! 月夜、喉を狙って!!」
その言葉に一同が気付く。
月夜(白)は全力で地を蹴った。それを夜姫の魔術が後押しする。物質影響系の魔術だ。
本来ならば夜姫ほどの……いや、普通の魔術師ならばこのような効率の悪いやり方はしないのだが、
現在の状況に於いて最も重要な事――発動時間の圧倒的なまでの短さがその欠点を補って余りある物にしていた。
『あの子――三日月も面白い発想をしたものね』
月夜(白)の体が更に加速され、白の弾丸が『ドラゴン』の喉に突き刺さった。
その隙にミストが建物から飛び降りる。
「撃ち砕け、虹の烈光!!」
虹色の光が杖から発生し、ミストの体を包む。
全身是威力。ある程度の杖術を嗜んでいるとは言え本来は遠距離型であるミストが懐に入って来た敵を討つ為の『切り札』だった。
月夜(白)夜姫の傍に転移し、揃って詠唱を始める。
「「暗黒よ 闇よ 負界の混沌より禁断の黒炎を呼び覚ませ」」
ミストは術の維持に努め、『ドラゴン』を抑え続ける。
威力が高く攻防一体のこの術にも、消費が激しいという欠点があった。

「「パーラ・ノードイ・フォーモー・ブルール・ネーイ・ヴァセ・イーダー・イー
エイター・ナール・アイドール・ヘーブン・ンヘイル・イアイアンンマ・ダイオミ・ギーザ・オージ」」

夜姫月夜(白)、二人の口から紡がれる聞き惚れる程に美しい響き――しかし、その魔術は凶悪無比。
魔術が完成したのを確認するとミストはその場を飛び退き、虹の光の残滓が残る杖を『ドラゴン』の口腔に向かって投げる。
吠える為に喉を震わせた『ドラゴン』が苦悶する。
――そして、最大限まで練り上げられた魔力と共に言葉が解き放たれた。

「「死黒核爆烈地獄ブラゴザハース!!!」」

あらゆる物体を焼き尽くし、全てを無に還す禁断の力。
狭域結界の内部で起こった地獄と言う言葉すら生温い黒の業火。

『破壊』が――そして『終焉』が訪れる。

何故気付かなかったのだろう。
結局あの『ドラゴン』も一『生物』に過ぎない。
平静を保っているつもりだったが、やはりドラゴンの姿に惑わされていたのかも知れない。
『……要は叫ばせなきゃいいだけの話だったのに』
随分間の抜けた話のように思われたが、それを実行出来、尚且つ欠片も残さぬ程に焼き尽くす実力があっての事だった。
「……随分と時間を取られたわ。急ぎましょう」




『ケルベロス』が炎を吹きかけ、『キメラ』が突進し、『龍』が空中から鉤爪で引き裂かんとする。
その連携の前にアルとへぷーは苦戦していた。
「これならっ……!!」

「Exceed charge!」


アルのスピアの穂先に光が収束する。
「行けえええええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
そして眼前の『キメラ』に向かって突進する。
だがその間に『龍』が割り込み、その強靭な鱗で攻撃を弾き、受け流した。
受け流されたスピアが地面に突き刺さり、アルの動きが止まった所に『キメラ』が突撃する。
成す術も無くその直撃を受けたアルの体がまるでボールのように吹き飛んだ。
「がはっ……」
間髪入れずに『ケルベロス』が炎を吹く。
へぷーはアルの体を抱え、跳躍した。
炎からは逃れる事が出来たが、今度は『龍』が体当たりをしてくる。
『避けろ、へぷー!!』
そうは言ってもそこは空中。ステッキから響いた絶叫に応える事は不可能だ。
二人に『龍』が迫る。衝突の寸前、アルはスピアを突き出した。
それは寸分違わず『龍』の右目に突き刺さった。
勢いが僅かに削がれ、二人は何とか突進に耐えて着地した。
「……流石に……眼球まで鱗で覆う訳にはいかないからな……」
『龍』は尚も苦しんでいる。
しかし、一矢報いた代償として突き刺したスピアが持っていかれていた。
スピアを抜いた『龍』は怒りに任せてそれを噛み砕き、真っ二つに折る。
「ああっ……」
「大丈夫です。ミッションメモリー部分は無傷ですからそれを回収すればまだ戦える」
「でもその怪我じゃ……」
「はい。だからその役目、みさきさんに任せます」
「……え? ……ってちょっと待って!!」
アルみさきから離れるようにして駆け出していた。
逆鱗に触れたかの如く怒る『龍』の攻撃を潜り、そして『キメラ』の鼻先を殴りつける。
「さあ、こっちだ! 捕まえられるものなら捕まえてみやがれ!!」
怒り狂った『龍』と『キメラ』を挑発しながらアルは更に逃げ回る。
へぷーも折れたスピアの元に急ぐ。
アルはへぷーを信頼して危険に身を晒しているのだ。
『絶対に……無駄にはしない!!』
立ち塞がってきた『ケルベロス』を跳び越して、空中で技を放つ。

「ファンシーマグナム・ソウルバレット!!」

『ケルベロス』がそれを受けて苦しんでいる間にスピアを回収する。
「アル君、これを!!」
宙に投げられたそれをアルはキャッチし、ミッションメモリーをセイバーに付け替えた。

「Ready!」


「オオオオォォオオオオオォォォォォォ!!!」
セイバーを構えたアルが『キメラ』に向かって斬り掛かる。
『キメラ』はそれを獅子の牙で受け止めた。
「アァッ!!」

「Exceed charge!」


セイバーにエネルギーが集まって行く。それを受け止めている『キメラ』の口内から煙が立ち昇った。
アルはセイバーを持つ手に渾身の力を込める。
「オオオアアアアァァァァァァァ!!!」
叫びと共に『キメラ』の牙が折れ、横薙ぎの斬撃が獅子の頭を切断面から血を溢れさせる事無く両断した。
『キメラ』の体が地響きと共に地に倒れ伏す。
その時点で既にアルの息が乱れていた。
『後……二匹!!』
自らを鼓舞するかの如く勢い良く振り返る。
振り向いた瞬間背後から迫る『龍』と目が合った。
『ちいっ!』
アルは転がりながら『龍』の突撃を躱すが、その後ターンして来た『龍』のぶちかましをまともに背中から受けた。
「ぐあああああぁぁぁぁ!」
「アル君!!」
駆け寄るへぷーに『龍』が襲い掛かる。
へぷーはそれを踏み台にして跳んだが、その落下予定地点に『ケルベロス』が炎の照準を合わせていた。
『ケルベロス』の三つの頭がへぷーに向けて火を噴きかける。
生きる者の身を焼き尽くす業火。
それからへぷーを救ったのは突如吹き荒れた一陣の褐色の疾風だった。
風はへぷーを運び、優しくその体を地面に降ろす。
野生の輝きを感じさせる黄水晶トパーズの瞳がへぷーの瞳と交差する――

ラク……君?」

――腕利きの魔術師でさえ知覚が困難なこの『結界』に……入り込んだだと?!――

「知覚さえ出来ればこんな結界に入り込むのは容易い事だ」
ラクはあっさりと言ってのけ、そして倒れているアルを向く。
マスターから修理が完了したブラスターを預かっている。これを使え!!」

――させぬっ!!――

響く言葉と同時にラクが結界から締め出され、その姿が歪んで映る。
だが、消え去る一瞬前にラクはブラスターをアルに向けて投げていた。

――それを使わせるな!!――

グラの指示に『龍』がブラスターに翔ける。

「ハートブレイド・ヘヴンスラァァァァァァァァッシュっ!!」

へぷーが放ったピンクのソニックブームが『龍』の動きを一瞬止めた。
「よっしゃぁ!」
空中でブラスターを受け止めたアルはそのままコードを入力する。

「call 169 …standing by…」


地面に降り立ち、169フォンを取り外す。
「形勢……逆転だ!!」
169フォンをブラスターにセットした。

――胸の宝石が放った赤の光が辺りを染める――


「Awakening」



アルのその身を纏う、穢れ無き純白の衣。
それを装飾するかのように巻き付いていた赤い光の帯が広がり、アルを守護するかのように漂う。
そして、変化が訪れたのはアルにだけでは無かった。
アルの赤の光に呼応するかのようにへぷーのステッキも輝きを増す。
アルが放つ、その赤。その熱き魂を表しているかのような、情熱の――赤。
へぷーが放つ、その光。全てを癒し、包み込むかのような、慈悲の――光。

咆哮を上げながら『龍』がアルに襲い掛かる。
しかし、アルの周りを漂うTAHAが壁を作り、それを阻んだ。

「code 143 ……Breaker mode!」


ブラスターから刃が出現し、剣の形態を取った。

「Exceed charge!」


集められたエネルギーが巨大な赤の光刃となる。
「オオオオオォォォアアアアァァァァァ!!!」
その刃は、スピアでさえ歯が立たなかった『龍』の鱗ごといとも簡単に『龍』を両断した。


へぷーがステッキを回しながら両手で大きくハートマークの軌跡を描く。

「愛を忘れた悲しいものよ……」

交差した腕を開き、両手でステッキを支える形を取る。

「愛の力で癒されなさい……」

天空高くステッキを掲げるとへぷーは叫んだ。

「そして 可愛くなーあれぇっ!!」

宙に描いたハートの軌跡がピンクの光を放つ。

「ファンシーマグナム・ソウルバレットぉっ!!」

その光がステッキに収束し、一際強い輝きを見せる。
そして放たれたエネルギーを凝縮した巨大なピンクの光弾が『ケルベロス』に直撃した。
『ケルベロス』の苦悶の叫びが小さくなって行き、その巨体が一つの可愛いぬいぐるみへと変化する。
「すごい……体の中から力が溢れてくるみたい……」
アルの変化に呼応し、へぷーの中に生まれた力は今までとは比較にならなかった。
「さあ、手下は片付けた。次はお前の番だ!!」
アルが宙を指差す。

――我が理想を阻むこの力……最早放ってはおけぬ!!――


――移し身なれど、我自身が相手をしよう!!――





    

    

    


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