「はぁっ……はぁっ……」

どれ位戦っていたのだろうか。スラッシュの息が既に上がっていた。
身に纏っている装甲も所々破損し、肉体にもダメージが通っている。

「どうした? もう終わりと言う訳でもあるまいな?
 ……まあ、我の体に傷を付けた、と言うだけでも賞賛すべき事ではあるが」




魔法少女まじかる☆へぷーVS仮面ライダー169(アルキュン)

〜CROSSED TALES〜



第六話



エネルギーチャージしたスラッシュの二刀はその殆どが紙一重で避けられていた。
それでも時折常時展開されているフィールドを破り、多少の手傷を負わせる事は出来たが、
それすらも月夜(黒)が秘めている妖力によって一瞬にして治癒される。
『……今までに戦って来た誰よりも、強い……!
 あの身のこなしと治癒力に加えて高い魔力っていうのは反則だよ……』
「もう終いか?」
「……まだまだ!!」
スラッシュが二枚のカードを取り出す。
「コール!」

「Boost」

「Venom」


光がそれぞれフライト・ユニット、双剣に宿る。
切り離しパージ!!」
フライト・ユニットが切り離されて変形し、宙を飛ぶ。
そして月夜(黒)に集中砲火を浴びせた。
「この程度では我に傷を付ける事すらできぬぞ?」
月夜(黒)は詠唱を始め、空中のフライト・ユニットに魔術を放つ。
鋼雷破弾アンセム
「コール!」

「Mirror」


月夜(黒)の放った光の矢の周辺の空間が歪み、方向転換された光の矢が月夜(黒)に撃ち返された。
「!」
これをまともに受ける訳にはいかない。月夜(黒)が慌てて魔術で障壁を張る。
「ブレード・オン!!」
闇が月夜(黒)を飲み込み、その体を拘束し、視界を奪う。
飛び上がり、『闇』の拘束から抜け出た月夜(黒)をフライト・ユニットが光線で狙い撃った。
「……イオラ!」
月夜(黒)が引き起こした爆発がフライト・ユニットを撃墜する。

「Exceed charge!」


背後から迫る風切り音に反応した月夜(黒)が振り向き、刃を片手で受け止めた。
「……?」
そこにあったのは峰が波打った漆黒の剣のみ。
「破ァッ!!」
側面から斬り付けて来たスラッシュの一撃を月夜(黒)は蹴撃で迎え撃つ。
「がっ!?」
スラッシュの体が地面に叩き付けられた。
「今の一撃は中々に面白かったぞ……」
地面に降り立った月夜(黒)が余裕の笑みを浮かべた。
先程の一撃で付けられた僅かな傷も修復されている。
『あのタイミングで反撃できるなんてね……』
大抵の相手ならばあの一撃をまともに受けていただろう。月夜(黒)の反射能力は驚異的だった。
「……多少本気を出させて貰うぞ?」
その言葉と同時に月夜(黒)の力が膨れ上がる。
強大な力に大気がびりびりと震えた。
スラッシュは下腹に力を込めて圧倒的なプレッシャーに耐える。
『手加減してくれている内に仕留めきれなかったのは痛いな……』
「暗黒よ 闇よ 負界の混沌より禁断の黒炎を呼び覚ませ」
月夜(黒)が詠唱を始める。
「ソード・チェック!!」

「Exceed charge!」


それを聞いたスラッシュも剣に力を集め、神経を研ぎ澄ませて構えを取る。
「パーラ・ノードイ・フォーモー・ブルール・ネーイ・ヴァセ……!?」
突然月夜(黒)の魔力が暴発し、月夜(黒)自らの力が自らを蝕んだ。
「覇アアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
スラッシュが一気に月夜(黒)との距離を詰めていく。
「斬ッ!!!」
横一文字に振るった刃が月夜(黒)を襲う。
「……くっ!!」
月夜(黒)は暴発中の魔力に捕らわれながらもバックステップし、間一髪で刃から逃れた。
だが完全には避けきれなかったのだろう。腹部が裂け、血が溢れ出す。
しかし、その傷すらも妖力が傷跡一つすら残さないまでに完治させた。
『仕留められなかったとは言え、手応えはあったはずなのに……!!』
スラッシュの顔が青ざめた。
月夜(黒)は流れ出た血を手で掬い、妖艶な仕草で舐める。
「……毒……か。おそらくは魔力に反応して暴走させる類の物であろう?
顔に似合わぬえげつない手を使うものだ……」
それこそが『Venom』の効果。刃に宿した毒は詠唱前に付けられた僅かな傷から月夜(黒)に入り込んでいた。
「だが……」
一瞬にして月夜(黒)の体が掻き消え、スラッシュの眼前に現れる。
そして放たれた強烈な掌打がスラッシュの体を吹き飛ばした。
「あああああぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁ……」
スラッシュの体が弾丸のように撃ち出され、辺りの瓦礫を巻き込みながら吹き飛んだ。
「……ぅぁ……」
「……要は魔力を使わねば良いだけの話だ。仕掛けが分かれば別にどうと言う事は無い。
元々、我本来の戦い方に魔力は不要であるが故に」
月夜(黒)がゆっくりと歩を進めながら淡々と述べる。
『「Venom」を使ったのは……逆効果だった、って訳だね……』
妖力を用いた身体能力の強化。そして其処から生み出される単純で、只々圧倒的なまでの――力。
本来の戦闘スタイルに戻った月夜(黒)に今のスラッシュは何一つ及ばない。
パワーも、スピードも、何もかも。
それを戦術で覆す事は……出来ない。
額から血を流しながらスラッシュが立ち上がった。
体中が悲鳴を上げている。あちこちの骨が折れ、砕け、流血していた。
しかし、安全装置を外してあるスラッシュライダーシステムの変身は解除されない。
『まだ……死ぬわけには……いかない!!』
スラッシュは執念で体を支える。
『こうなったら……使う・・しか……!!』

スラッシュは覚悟を決め、月夜(黒)を睨む。
そして腰のパンドラ・ボックスに手を伸ばした。
「……今宵はこれで終いにするとしよう」
「……!?」
その言葉にスラッシュの手が止まる。
「見逃そう、と言っておるのだ。
 ……どうした? 早くせねば我の気が変わりかねぬぞ?」
「では……その言葉に甘えさせ……て……貰います……」
スラッシュはパンドラ・ボックスから『Void』のカードを取り出した。
月夜(黒)が口を開く。
「今は見逃そう。
 ……但し、今後我の周りの者に危害を加えるのなら……」
月夜(黒)の目が更に紅く染まる。
「今度こそ、我が、お前を滅ぼす」
その瞳は見る者全てを恐怖に陥れんばかりの光を放っていた。
その瞳に圧されながらもスラッシュは口を開いた。
「貴女からもこちらの要求を呑むように皆を説得して貰えれば……危害を加えずに済みますよ……」
「……それは、出来ぬ相談だな。……説得の場に立ち会う事すら出来ぬのだ、我は……」
「そう……ですか……」
スラッシュはカードをゆっくりと364フォンの前に通した。

「Void」


転移が発動し、スラッシュの姿が消えた。


『治癒のカードは……あの時しるぴんに使ってしまったからストックが無くなってる。
 これからはストックは多めに作っておこう……』
拠点に戻ったスラッシュは怪我の応急手当を始めた。
グラ様は……今いないみたいだね……
 怪我を治すのとカードの補充、……合わせて三、四日って所かな?』
痛みに顔をしかめながらも怪我を癒していく。

『でも、「アレ」を使わずに済んで良かった……』


「……行ったか」
スラッシュの姿が消えたのを確認し、月夜(黒)は嘆息する。
「彼奴が最後に使おうとしていた『力』……
 あれが使われ、尚且つ彼奴が本気で我を討とうとしたならば我とて只では済まなかったであろうな……」
月夜(黒)は空を見上げた。雲は無く、そこには無数の星が瞬いている。

「それでも我は勝ったであろう。しかし今の我はあまり危険を侵す気にはなれぬ。
 ……さて、何故であろうな……」




……数日後……
スラッシュは目の前の虚像――仕えている主に跪いていた。

――あの力を放置して置く訳にはいかん――

「分かっています」

――最早手段を選んでいる場合では無い。例え巻き添えになる者が出てこようとも……――

「……不本意、ではありますが……」

――それは我とて同じ事。だが、それ以上にあの力は……――

「……ええ。それは僕が一番良く知っています」

――我も、少々力を行使しよう――

「申し訳ありません。……残念ながら僕だけでは力不足のようです」

――我とお前の求める物は同じだ――

「その通りです。だからこそ僕は貴方に従い、行動しています」


――全ての世界に――

「恒久の……と、……を――」


そして、虚像が掻き消える。
スラッシュは立ち上がり、身を翻して扉に向かって歩き出した。
『……そう、僕には目的がある。絶対に譲れない物がある!』
そして拳を見つめ、強く握り締めた。
『……例え、この手を血で汚す事になろうとも……!!』
スラッシュの瞳に決意の光が宿る。
しかし、其処には同時に狂気じみた『何か』も感じられた……




「ここ数日、あいつら現れないよな……」
マスターの家で寛ぎながら月夜(小)が言った。
「諦めた……訳がありませんよね」
三日月が口を開く。
「でも、このまま何も起こらなければいいんだがな……」
二階からドタドタと元気な足音が響いて来る。

――あはは、わ〜い♪
――にゃ〜ん♪ うにゃ、ぅな〜ぉ♪
――二人とも静かにしろ。下には月夜ちゃん達がいるんだぞ?

「二人ともすっかり仲良しだよな。しるぴんミゥを紹介して良かった……」
アルが暖かい表情で天井を見上げる。
マスターはブラスターの解析中であまりしるぴんさんに構ってあげられませんからね」
そういう理由で喫茶店の方も今は休業中なので、集合場所は喫茶店からマスターの家に移っていた。
「本当に……このまま何も起こらなければいいな……」
皆、同じ気持ちだった。しかし、不安の原因はまだ解決されていない。
いつかは行動を起こして来るはずだ。
その時、169フォンが軽快な音を鳴らした。
「……ガ○ガイガー?」
「何で三日月が知ってるんだ?」
「……それよりもアルの選曲センスの方が問題じゃないのか?」
「いや、あれは良いアニメだぞ? 一見の価値あり、だ」
「……ボクには分からないな」
「しかし誰からだろうな。夜姫さんか月夜さん、それともミストさんか? ……みさきさんって可能性もあるな」
169フォンの番号を知っているのはあの事件の関係者とみさきのみ。
そしてそれは『事件』関係の話をする時に使用されていた。
アルはポケットから169フォンを取り出し、着信先を確認した。

――非通知設定――

「……?」
怪しみながらもアルは電話に出る。
「はい、どなたですか?」
アル君だね。……僕だよ、スラッシュだ』
その言葉にガバリ、とアルが跳ね起きる。
「何!? ……いや、それよりも何でお前がこの番号を知ってるんだよ!?」
『そんな事はどうでもいいよ。それより今から言う場所に仮面ライダーの三人で来てくれないかな?
 勿論全てのライダーシステムを持ってね』
「……どうせ罠でも仕掛けてるんだろう? 馬鹿正直に行くかよ」
『来ないならそれでもいいよ。その時はここで魔物を勝手に暴れさせるから。
 もしそうなったら沢山の被害が出るだろうね……』
「!? ……汚い手を使うんだな……」
『……何とでも言ってよ。
 ああ、それから「黒の魔女」やあの妖猫のお姉さん、THATの分身にはこの事を知らせちゃ駄目だよ。
 その時は別の場所で待機させてる魔物が人々を襲うようになっているからね』
「どこまでも卑怯な奴だな……!」
『……とりあえず場所を伝えておくよ。今から一時間以内に来ない場合は逃げたと見なすからね』
スラッシュは場所を指定すると電話を切った。
「……アルさん」
「ああ、分かってる。
 ……行こう。もうこれでお終いにしてやるんだ」
しるぴんさんには……この事は黙っていた方が良いでしょうね……」
「あいつ……結構スラッシュの事を庇ってたからな」
「でもこうなった以上あいつを放ってはおけない。
 ……オレ達との戦いの中で『最悪の事態』が起きたとしても止めなきゃいけない……」
「……なるべく気が付かれないように出掛けましょう」
三人は足音を殺しながら玄関に向かう。
階段を通り過ぎようとした時、そこにラクが立っていた。
「!? いやラク、これはだな……」
「……行って来い。ミゥ達には俺から上手く言っておく」
どうやらラクには階下の喧騒が聞こえていたようだ。
ラク……」
「友人であるあいつが――しるぴんが悲しめばミゥも悲しむ。只それだけだ。
 だから、お前達も……」
「……ああ、善処する」

――ちっちゃいにいちゃん、どうしたの〜?

「ああ、どうやら茶菓子が切れたらしくてな。月夜ちゃん達が今から買いに行くそうだ。
何かリクエストがあれば今の内に言っておけ。買って来て貰えるかも知れんぞ?」

――じゃあおさかな〜♪
――ボクはケーキ! 苺がのったやつ!

「……だそうだ。頼んだぞ? ……俺の分も含めて、な」
三人はその言葉にコクリ、と頷いた。




高い建物に囲まれた広いスペース。其処がスラッシュの指定した場所だった。
「……来たね」
ここに来る途中で既に『音の無い世界』に入っている。辺りに他の人の気配はしなかった。
スラッシュ……随分と乱暴な手に出たものだな……」
アルの言葉をスラッシュは無視した。
「……これは最後通告だよ。
 今からでも遅くない、ライダーシステムを僕に渡して欲しい」
「断る!!」
スラッシュは手で目を覆い、溜息を吐いた。
「……仕方が無いね。こうなったら……」
一度言葉を切って目の覆いを外す。そこには雰囲気が一変したスラッシュの瞳があった。

「……力ずくでも奪い取る!!」

その言葉を合図に全員がドライバーを準備する。

「call 169 …standing by…」

「call 392 …standing by…」


「変身!!」

「Standing by…」


「call 364 …standing by…」


「「変身!!」」
「……変身」

「「「「Complete!」」」」


「……行くよ」
スラッシュが徒手空拳で突撃する。
三人はそれを取り囲むように動いた。
「オオオオッ!!」
「はあああっ!!」
「ハアアアッ!!」
スラッシュは矢継ぎ早に撃ち込まれてくる拳と蹴撃を巧みに捌きながら正面の月夜に向かって掌底を放つ。
「轟ッ!!」
更に右側方にいるアルに肘打ちを、三日月は裏拳で叩きのめした。
「くそっ!!」
アルはスピアにミッションメモリーを挿し込み、即座にエネルギーをチャージする。

「Ready!」

「Exceed charge!」


「オオオオアアアアァァァァァ!!!」
そして冷気の狼をスラッシュに向けて解き放った。
「甘いよ!」
スラッシュはフライト・ユニットを起動し、宙に飛んでそれを躱す。
そしてその出力を利用して勢いを付けた拳をアルに撃ち込んだ。
「ぐぁ……!?」
その一撃を受けたアルの体が街路樹にぶつかり、止まる。

「「Ready!」」


スラッシュの背後から三日月ミッションメモリーを挿し込んだダガーで斬り掛かった。
背後からの一撃をスラッシュはブースターを噴かし、前進して逃れる。
次の瞬間、慣性を無視したかのような動きで逆方向に加速したスラッシュ三日月の胸に蹴りを入れた。
「ガハッ……!」
「やああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
月夜が斧を構え、突進する。
「インパクト・チェック!!」

「Exceed charge!」


スラッシュは両拳に光を集め、月夜に突撃した。
「はぁっ!!!」
風切り音を立てて月夜の斧が勢い良く横に薙がれる。
その刃をスラッシュは左の手で上方に力を受け流し、残った右手で月夜の顎を打ち上げた。
「うっ!?」

「Accelerate!」


「!?」
加速したアルスラッシュに迫る。そしてスピアで連続突きを浴びせた。
「ソード・オン!!」
スラッシュは空に逃げながら白い剣を抜いた。
「させるかぁぁぁぁ!!」
アルも高く跳躍し、スラッシュを踵落としで撃ち落した。
落下しながら更に追撃を掛けようとすると、スラッシュの剣の峰を装飾している純白の羽根が分離し、辺りに撒き散らされる。
『何だ、これは!?』
その羽根が体に触れ、僅かに傷が付いたが、別に大したダメージがある訳でも無い。
アルはそれらを気にせずにスピアをスラッシュに向けて薙ぎ払った。
しかし、その一撃はスラッシュの剣に阻まれる。
続けて放ったスピアを回転させて打ち付けた柄の一撃もスラッシュは手甲で首の急所を守り、ダメージを最小限に抑えていた。
アクセルフォーム程じゃ無いが、速いっ……!?』

異変は、何の前触れも無く始まる。

「321Time out……」


異常な速さでカウントが進み、アクセルフォームが解除された。
スラッシュが驚愕で動きが止まったアルを蹴り飛ばし、無事着地する。
その周りを漂う羽根の色が白から赤に変化していた。
「呼ォォォォォォォォ……」
スラッシュの息に合わせて羽根が剣に戻って行く。剣が赤の光を纏った。
「鋭ッ!!!」
半回転しながらスラッシュが剣を振るい、衝撃波を飛ばす。
三人は慌てて地面に伏せた。
顔を上げると、衝撃波を受けたビルが倒壊している。
三日月はその剣の力に気が付いたようだ。
アクセルフォームのエネルギーを……吸収したと言うのですか……」
「そう、それがこの光の刃『ヘヴンズ・ソード』の力だよ。
 ……折角の切り札も無駄になっちゃったね?」

「愛を忘れた悲しいものよ、愛の力で癒されなさい……そして可愛くなーあれぇっ!!」

その時何処からか朗々と声が響く。

「ファンシーマグナム・ソウルバレットぉっ!!」

特大級のピンクの光弾がスラッシュに直撃した。
「うああぁぁぁぁ……!!」
スラッシュはその力に抵抗しながらカードを取り出す。

「Resist」


「……喝ッ!!」
カードの光を吸い込んだスラッシュの一喝に光弾が弾け、光の粒が辺りにばら撒かれる。
特大級の一撃が効いていたのか、スラッシュの息が多少乱れていた。
「この世に愛とファンシーを振り撒く為に!
 魔法少女、まじかる☆へぷー! 只今参上!!」
三階建ての建物の上でステッキを構えたへぷーが誇らしげに立っていた。
「これで四対一、もうあなたの好きにはさせなわきゃぁ!?」
口上の途中でスラッシュがフライト・ユニットの銃でへぷーに連続射撃を放っていた。
へぷーは慌てて建物から転がるように降りる。
「台詞の途中で攻撃してくるなんて……」
「いや、先に不意打ちをしたのはみさきさんの方でしょう……」
「お願いそれは言わないで」
三日月。如何なる時でも突っ込みを忘れない根性は大した物だが、今は漫才をしている場合では無いぞ?』
そのやり取りの間に多少回復したのだろう。
息を整えたスラッシュが嘆息した。
「四対一、か……それでも君達は僕には勝てないよ」
スラッシュが何かを取り出した。
黒い本体に金のライン、赤の宝石……461フォンだ。
スラッシュはそれを腰のムーバーに挿し込んだ。

「Absorption」


461フォンが放った光が364フォンに吸い込まれ、青のラインが強く輝く。
外見の変化は無い。しかし、スラッシュから感じられる力は確実に強くなっていた。
予告無しにスラッシュが地面を蹴り、今まで以上に素早い動きで迫り、掌底を放つ。
まずはアル、次に月夜。そしてへぷーに向かい、地を蹴った。

「Exceed charge!」


「はああああぁぁぁぁぁ!!!」
そうはさせないと言わんばかりに、三日月スラッシュに突撃した。

「心に巣食う欲望のかけらたちよ……」

その行為に応える為、へぷーも全身全霊で必殺の刃を創り出す。
そして、三日月が逆手に持ったダガーで斬り上げる。
そのまま斬り払って袈裟懸けに二太刀目を浴びせる、いつも通りならばその動き。
だが、切断能力に優れているはずのダガーはスラッシュの腹部で止まり、振り上げる事が出来なかった。
『防御フィールドを……一点集中した!?』
それは他の部分を無防備にすると言う諸刃の刃。
だがその結果、スラッシュは鋭利な三日月のダガーを傷一つすら付けられずに受け止めている。

「今ここに安息の光をもたらそう……」

剣の柄を振り下ろして三日月を打ち、その体を蹴飛ばしたスラッシュは再びへぷーに顔を向けた。
しかし、既にへぷーの技は完成している。

「愛の力を、見せてあげるっ!!」

ピンクの波動を身に纏ったへぷーはステッキで出来た剣を横に振り抜いた。

「ハートブレイド・ヘヴンスラァァァァァァァァッシュっ!!」

身を屈めてそれを避けたスラッシュにへぷーが駆ける。
『あんな無茶な体勢なら避けられないはず!』
地面に両足が噛んでいない体勢では足の力を十分に発揮出来ず、刃を受け止められない。
片膝をつき、もう片方の足は広く開脚してあるのですぐに立ち上がる事も、横に転がる事も不可能。
勿論腰のケースからカードを取り出している暇など無い。
そして、例えフライト・ユニットで上空に逃げようが、前進して体当たりをしてこようが、へぷーは先に刃を届かせる自信があった。
狙うは胸の装甲、そしてその下にあるライダーシステムの中核である364フォン。
へぷーは渾身の一撃を袈裟懸けに振り下ろした。
それに対してスラッシュは右手の剣でガードをする。
『無駄よっ!』
スラッシュの剣が圧され、傾いていく。
残された左手で地面を叩き、スラッシュがその反動で体を浮かす。
そして左手の手甲で傾いていく剣を支えた。
反動の勢いとへぷーの剣圧で体勢が崩れ、スラッシュの体が右に傾く。
体勢が崩れたその間もスラッシュは巧みにへぷーの刃を自分の剣に走らせていた。
フライト・ユニットが火を噴き、強烈な加速度でスラッシュの体が前進する。
へぷーの『ハートブレイド』は瞬時に受け流され、空しく地面に叩き付けられる。
『そんなっ!?』
「ソード・オン!!」
スラッシュは動きのベクトルを真逆に変えて体を180度捻り、その勢いのまま剣の峰で打ち付けた。
絶叫を上げながらへぷーが吹き飛び、地面を転がる。
峰で打った一撃は切断能力こそ無かったが、へぷーの左腕の骨を砕いていた。
「う……うぅ……」
『へぷー、しっかりしろ!!』
みさきさん!! ……くそっ!」
アルに続いて月夜三日月も同時に飛び掛かる。
スラッシュはその攻撃を躱し、剣の峰で、左の拳で、回し蹴りで。
流れるような動きで次々と仮面ライダー達を屠っていく。
へぷーに続き、アル達も地面に倒れ伏した。
「これがこのライダーシステムの本当の力だよ。
 461フォンは元々僕のライダーシステムの力を試作品に移して作った物なんだ。
 その力を取り戻して本来の力に戻ったこれ相手に、今の君達じゃ勝ち目は無い」
その力は月夜(黒)には及ばなかったものの、四人にとっては十分脅威的だった。
「……ブレード・オン」
スラッシュが左に剣を持ち替えて呟くと、宙から黒い剣が現れた。
峰が波打ったそのシルエットは蝙蝠の……いや、その禍々しい力は悪魔の翼を思わせた。
その漆黒の剣を右手に持ち、スラッシュが364フォンからの入力でエネルギーチャージを始める。

「Exceed charge!」


双剣に力が収束して行く。
「まずは変身を解かないとね。……これは、かなり痛いよ?」
漆黒の剣から闇が生じる。その闇から紫色の雷撃が発生していた。
スラッシュは上段に振り上げた剣を頂点で一度止め、そして月夜に目を向ける。
「まずは……生命力が一番強い君からだ!!」
スラッシュが剣を更に振り被って反動をつけ、一気に振り下ろす。
「破アアアアアアァァァァァァァァッ!!!」


「バルキリージャベリン!!」


槍状のエネルギーが振り下ろされる寸前の漆黒の刀身を撃ち砕いた。
スラッシュが衝撃に剣の柄を取り落とす。
「予想より……早かったね!」
柄を素早く拾ってスラッシュが再び戦闘体勢を取った。
その視線の先にいるのは、月夜(白)夜姫
先程の魔術は夜姫が放ったものだろう。
「皆さん、今癒します!」
そして、スラッシュの背後ではミストが皆の傷を順番に癒し始めていた。
月夜(白)が転移で移動し、スラッシュと対峙する。
「随分とやってくれたね。……もうおしおき程度じゃ済まさない」
「悪いのですが……貴女達とまともに戦う気はありません!」
スラッシュはカードを取り出し、364フォンの前に通した。
「……ッ!!」
月夜(白)が駆ける。
夜姫とのリンクで彼女の魔力を享受している今の月夜(白)の身体能力は、自前の妖力との相乗効果で格段に上昇していた。
そのスピードは信じられない程速い。
スラッシュのカードの効果が発動した頃には既に月夜(白)スラッシュの眼前まで迫っていた。
しなやかな指先がその外見とは裏腹に、凶暴な獣の爪のように襲い掛かる。

「Self-destruction」


その指がスラッシュに届く寸前で止まった。
月夜(白)から湧き上がる力によって阻まれている。
「!?」
「縛!!」
『力』が月夜(白)を縛り、その動きを封じる。
月夜(白)は必死に抵抗するが、逃れる事が出来ない。
「暫く大人しくしてて貰いますよ!」
スラッシュは次のカードを使用しながら夜姫に向かって疾走した。

「Venom」


夜姫は即座に魔術を発動させた。
爆炎障壁ガンズン・ロウ!!」
「ヴォイド!!」
その一声と共にスラッシュの姿が掻き消えた。
『転移の……魔術!?』
「ソード・オン!!」
背後から聞こえてきた掛け声に反応し、夜姫も即座に転移の構成を組む。
構成に魔力を通す瞬間に感じられる僅かな違和感。
スラッシュが散らした羽根が付けた小さなかすり傷から『Venom』が侵食していたのだ。
その違和感が魔力を暴発させた。
「きゃ……!」
構成に使用したのが僅かな魔力であった事が幸いし、夜姫に怪我は無かった。軽い痺れが走った程度だ。
「貴女の魔術は封じました。これで貴女は脅威たりえない!」
スラッシュがフライト・ユニットでその場から離れ、ミストに向かって飛んだ。
「させないっ!」
「ここは通しません!」
治療を終えたへぷーと三日月スラッシュの行く手を阻んだ。
スラッシュはそれを強行突破するかと思われたが、素直に止まる。
月夜(白)がなおも呪縛から逃れようともがいていた。
「……無駄ですよ。その力は貴女自身の力、いわば貴女自身が全力で貴女を押さえ込んでいるような物。
 その呪縛を自分自身で解く事は不可能です。
 グラ様が直々に魔力を込めた『切り札』が一つ……僕が貴女に対して何の対策も立てていないと思いましたか?」
月夜(白)スラッシュを睨む。
皮肉な事に、月夜(白)の力の強さが仇となっているのだ。
スラッシュが全員を見渡して言う。

「……僕とグラ様はこの街の至る所に『結界』と共に魔物を配置してる。今は沈黙を保っているけどね。
 だけど偶にいるんだよ。偶然『結界』と波長が合って引きずり込まれてしまう人が。
 ……もしそんな人が入り込んで来たら容赦無くその人を襲うように命令している」

「「「「「「「『!!!???』」」」」」」」

「僕の相手なんかしてないで早くそっちを何とかした方がいいと思うな……」

スラッシュ夜姫月夜(白)ミストの順に視線を向ける。
アル三日月がそれぞれのフォンのクリーチャーサーチ機能を使ってその言葉の真偽を確かめていた。
「な、何だこの数は……!?」
「反応があまりにも多すぎて大きな光の点が点在しているようにしか見えません!」
「は、早く行かなきゃ……」
「待った」
走りだそうとするへぷーをスラッシュが制止した。
「君達四人には残っていて貰うよ。
 其処に行っていいのは『黒の魔女』、妖猫のお姉さん、そしてTHATの分身の三人だけだ。
 ……もし、君達が行けば即座に『結界』を解いて現実世界に魔物を解き放つ」
その光景を思い浮かべたのであろう。全員の顔が青ざめた。
スラッシュの言葉の途中で月夜(白)の呪縛が解ける。
「……効力が切れたみたいだね。『Venom』の効果も解除しておくよ」
スラッシュの言葉と同時に、夜姫の体から光が抜け出して行った。
「それからここで僕を倒そうなんて思わない方がいいよ。
 僕が貴女達にやられたらグラ様が『結界』を解くからね」
「お前……こんな事をして何とも思わないのか!?」
激昂したアルが叫ぶ。
「……何とでも言ってよ。
 今は、少しでも時間が惜しいんだ……!」
スラッシュが唇を噛みしめる。
「……そして、時間が惜しいのは君達も同じだろう?
 今は休日の午後……人通りが多くなる時間帯だ。
 『結界』に入り込んでしまう人の数も……」
月夜、行きましょう!!」
「はい、お姉さま! ……三日月、後は頼んだよ?」
「クリーチャー達は私達が必ず何とかします!」
そして夜姫の転移が発動し、三人の姿がその場から消え去った。


「……再び四対一、と言う訳ですか……」
三日月の言葉にスラッシュが首を振る。
アル君に、みさきさん……だったよね。
 君達の相手はグラ様が用意しているよ」
その言葉と同時にアルとへぷーの姿が消える。
「「!?」」
スラッシュが何かをしていたような様子は無かった。
おそらく『グラ』が力を使ったのだろう。
残された三日月月夜スラッシュを睨む。


「そして、君達の相手は、この僕だ」





    

    

    


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