オレは今まで状況に流されて戦って来た。

「オレがやらなきゃいけない」そんな義務感で戦っていた気がする。

だけど、今はハッキリとこう言える。

オレの、戦う理由は……




仮面ライダー169(アルキュン)



第六話 彼の戦う理由



アルマスターの喫茶店に向かっていた。
先日改めて共に戦う事になった月夜から敵の事を教えて貰う為だ。
その途中で三日月と合流する。
現地集合だったが折角なので一緒に行く事にした。
マスターの喫茶店に到着し、ドアを開ける。
「こんちわ、マス……」
アルは一旦ドアを閉めて眼鏡を外し、目を擦った。
『何か信じ難い物が見えた気がするが気のせいだろう、うん』
そして深呼吸を一回して再びドアを開ける。
「おい、何だ? ドアを開けたり閉めたりして……一体何がしたいんだ?」
「…………」
そこに見えた光景は先程と変わっていない。
どうやら見間違えや幻、白昼夢の類では無いようだ。
「マ、マ、マ……」
「マ?」
そこに見えたのは、いつも通りにカウンターで煙草を燻らせているマスターの姿。
……そして、カウンターに座ってコーヒーを飲んでいる人物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・……
マスターの店に客が来てるぅぅぅぅっっ!!」
「開口一番で言う台詞がそれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
マスターが大声を張り上げた。
……どうやら大変御立腹のようだ。
「此処は喫茶店なんだ! 喫茶店なら客も来る! ならば此処に客が居るのも当然だろう!?」
「いや、でも今までオレ達以外の客なんて見た事が無かったし……なあ?」
アルの視線を受けた三日月もその言葉に頷く。
「ええい、お前等! 今までこの店の事を何だと思ってたんだ!!?」
「閑古鳥の安住地になっている万年赤字喫茶店」
「まあ、マスターの趣味でやっている事なのでしょうから部外者の私達が文句を付ける筋合いはありませんがね」
二人は即座に答えた。
その遠慮の欠片も無い言葉にマスターが鬼神の如き憤怒の表情を浮かべる。
「お・ま・え・らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
カウンターに座っていた女性がクスクスと笑う。
「随分と仲が宜しいんですね」
「あ……いや、お騒がせしてすみませんね」
マスターはその女性に笑顔を向ける。先刻までの形相が嘘のようだった。
「いえ、本音で語り合える関係ってとっても素晴らしいものだと思います。
そんな友人を持っているマスターが羨ましいです」
その女性は柔らかな笑顔をマスターに向けた。
マスターが照れたように頭を掻く。
『いい年こいたおっさんが何をデレデレしてんだか……』
アルは呆れたような表情でマスターを見る。
と、その女性が振り返り、今度はアル達にその笑顔を向けた。
「貴方達も折角ですから少し私と一緒にお話をしませんか?」
「あ……は、ハイ! 喜んで!!」
三日月はそんなアルを見て額に手を当て、溜息を吐いた。


「申し遅れました。私、ミストって言います」
長い銀髪をモノテールに括り、楕円型の眼鏡を顔に掛けているその女性はそう名乗った。
「あ、オレはアルって言います」
三日月です」
興奮しているようなアルと興味が薄そうな三日月
二人の態度は対照的だった。
アルさんに三日月さんですか。マスターのお名前は……」
ミストの言葉をマスターが手で遮る。
「いえ、俺の本名は秘密です。何故なら……」
「何故なら?」
ミストが聞き返す。
「その方が格好良いからです!」
『…………』
アル三日月がジト目でマスターを見る。
対して、ミストは口に手を当てて上品に笑う。
マスターってとても面白い方なんですね」
「いやあ、そう言って貰えますか? はっはっは」
『いや、無茶苦茶下らんし』
アルは心の中で突っ込みを入れる。
「皆さんはどれ位のお付き合いなのですか?」
「えーと、確か……」
「この店に初めて来たのはおおよそ一ヶ月半ほど前ですね」
考えるアル三日月が助け舟を出した。
その言葉にミストは驚いたようだ。
「まあ、てっきり旧知の間柄だと思っていたのですけど……
よほど皆さんの気が合っていらっしゃるのでしょうね」
『いえ、全く』
マスターアルの声が見事なまでに重なった。
「やっぱり。とても一ヶ月位の付き合いには見えません」


「それでは私はそろそろ……」
半刻ほど話した後、ミストは席を立った。
「私、本当は紅茶の方が好みなんですけどこの店のコーヒーも気に入りました。
これから通わせて頂きますね。」
「光栄です」
マスターの顔は嬉しそうだった。
前半と後半のどちらに反応したのかは不明だが……
「お代の方はどれ位ですか?」
「いえ、今回はコーヒー一杯だけですし。サービスしますよ」
『どんな客からでも金はきっちり取るんじゃ無かったのかよ……』
流石にマスターも美人には弱かったようだ。
「そんな……悪いです」
「俺の自慢のコーヒーの味が分かってくれた客ですしね。
それにこれからはちょくちょく来てくれるんでしょう?」
「……それでは今回はマスターのお言葉に甘えさせて頂きます」
ミストはぺこり、と頭を下げた。
「それではアルさんも三日月さんもお元気で。
この店によく来るのでしたら近い内にまたお会いするかも知れませんね。
それでは、ご機嫌よう……」
ミストはドアを開けて店から出て行った。
途端にアルマスターの顔が緩む。
「美人だったなぁ……」
「ああ、眼鏡が良く似合う人だった……」
「……お二人とも鼻の下が伸びてますよ」
三日月のその言葉は二人に届いていないようだった。
「笑顔が似合う人だったなぁ……」
「ああ、眼鏡のレンズ越しに見えるあの瞳が綺麗だった……」
「……アルさん、何か眼鏡に思い入れでもあるのですか?」
『はぁ…………』
「…………」
三日月はもう何も言わない事にした。

それから五分ほど後に月夜が店のドアを乱暴に開いた。
「……まったく! 三日月、お前も迎えに位来てもいいだろ?」
「……現地集合で良いと仰ったのは確か月夜様だったはずでは……」
「そ、そんな事はどうでもいいんだ! 迷ったのは仕方無いだろう?
 この辺の土地カンが無いんだ! それにこの地図が読み難いんだよ!」
「地図のせいにするのは検討違いだと思うのですが……」
月夜が言葉に詰まる。
「……分かった、遅れた事は謝るよ。
 ……で、そっちの二人は何であんなだらしない顔をしてるんだ?」


「……まったく!男って奴はどいつもこいつも……」
月夜はこれでもかと言う位シロップを加えたアイスコーヒーをスプーンで乱暴にかき回した。
月夜様、そんなに甘味を加えて大丈夫なのですか?……虫歯になりますよ?」
「……三日月、その月夜『様』って呼ぶのは止めてくれないか?」
「いえ、貴女は私の主である『月夜』様と言わば同一人物のような方ですし……」
「でも、ボクはお前と契約しているわけじゃ無いんだ。
 普通に呼び捨てでも『さん』付けでも好きな方で呼んでくれよ。
その方がボクも気楽で良いからさ」
「……そ、それでは……
 つ……つつつ……月夜……」
「いや、そんなにどもらなくても……」
「…………様」
「ってオイ! 散々どもっておいてそれかよ!?」
即座に月夜が突っ込みを入れる。
「……やはり私には無理です」
「……いや、分かった。もう月夜様で良いからさ……」
「申し訳ありません……」
「まあそれはともかく、そろそろ本題に入った方がいいんじゃないか?」
マスターの指摘に、全員の目が真剣になる。


月夜は、自分の知り得る限りの事を話した。
HEPUの力で『王』を目覚めさせると云う奴ら――MIghty SAvors King's Ideal――の目的。
夜姫が――自分の主が人質に取られ、彼女を解放してもらう為にアル達に戦いを挑んだ事。
奴らが『王』を目覚めさせる為に彼女の魔力を利用している事。
そして、奴らがライダーシステムを狙っている理由……

HEPUを増幅させるライダーシステムがあれば『王』の目覚めは格段に早くなるらしい。
奴らはその為にライダーシステムを狙っているんだ」
月夜様のライダーシステムがあったのでは?」
三日月が疑問を口にする。
月夜はポケットから294フォンを取り出した。
「奴らはこれの事を『出来損ない』って呼んでた。
 これは奴らの『王』の役には立たなかったらしいんだ。
 原因は不明だけど増幅の過程でHEPUの力が変質して『王』が吸収出来ないエネルギーになる……って言ってたな」
そこまで言うと月夜は全員を見回した。
「でも、この力は強力だ。基本性能もお前達の物より遥かに上になってる。
 その力は……ボクが言えた事じゃないけど、お前達の知っての通りだ」
確かにあの戦いは二対一だったから勝てたのだ。
巨大な斧を軽々と振り回す腕力や、あの『バーサーカーモード』の力は凄まじい物だった。
「しかしそれだけの力があって何で奴らから夜姫さんを奪い返さなかったんだ?
 チャンス位幾らでもあったと思うんだが……」
今度はアルが問う。
「……最初にライダーシステムを手にした時にそうしたけど……
 それでもあいつには――ゲディヒトには敵わなかったんだ……」
『……』
沈黙が流れる。
マスター以外の三人はゲディヒトと対峙している。
その力の一端でも驚異的なものだった。
「ゲディヒトが言うにはあいつと同じ格の奴が後三人いるらしい。
 その名前も顔も知らないけど……」
「一人は私が知っています。
 名前は分かりませんでしたが……一言で言えば邪悪な男でした……」
三日月はその時の事を思い出し、悔しさに歯軋りをした。
「その中にボクのライダーシステムを作った奴もいるらしい。
 もう一人については……何も知らない」
ライダーシステムを作った奴……か……」
『そう言えば元々のライダーシステムを作ったのはマスターの友人だって言ってたよな……』
アルは遠い目をしているマスターを見た。
「……少し、俺の昔話をしよう……
 ライダーシステムを作った俺の友――Y’sの話だ……」





「いつも言ってることなんですが……研究室ラボで煙草を吸うのは止めて下さいよ」
「ああ、すまん」
Y’sの言葉に俺はいつも通りに隠しておいた灰皿で煙草を処理する。
「灰皿をここに常備する位なら最初から吸わないで下さいよ、おやっさん」
『おやっさん』と呼ばれるのにも、もう慣れてしまった。
大学時代にY’sに付けられたあだ名だ。
「雰囲気がそれっぽいから」と言う理由でそう呼ばれて以来周りにも定着してしまった。
俺はまだまだ若いっての……つーか同い年だろお前。
「で?今度は何の研究をしてるんだ?」
 確かこの前はUFOの製造、更にその前は巨大ロボットの製作だったな。
 予算の関係であっさりと挫折したが。
 相も変わらず変な研究が好きな奴だよ、まったく……
「よくぞ聞いてくれましたね、おやっさん……」
Y’sは不敵な笑みを浮かべる。
こいつがこんな表情をするという事はまたとんでもない研究テーマなのだろう。
「今回のテーマはズバリ! 『正義の味方』を創る事です!!」
……俺の想像以上に馬鹿らしい事だったようだ。
俺はわざとらしく大きな溜息を吐く。
「まあ、実際にはそれを支える為のエネルギーの研究ですがね」
駄目だ、最初の馬鹿げた答えの印象が強すぎて新エネルギー開発というまともなテーマまで馬鹿らしく思えて来た。
「あ、馬鹿にしてますね。今回はいつもとは違うんですよ」
「……まあ、正義の味方云々はともかく新エネルギー開発ってのはいつもと違ってまともだな」
「いえ、正義の味方云々は大マジです」
……前言撤回。こいつはやっぱり変な奴だ。
「おやっさんは一昔前に流れた噂、覚えていますか?」
「それってアレか? クリーチャー……何とかって変な奴らと戦う子供の話。お前そんな話を信じてんのか?」
「……これを見て下さい」
Y’sは机の引出しから何かを取り出した。
「……所々ひび割れているが……何かの宝石の欠片か? 色からすると、ルビーみたいだな」
Y’sは俺の言葉に首を横に振る。
「おれ自身も色々調べてみたんですがね……これは今確認されているどの宝石にも属してない」
その言葉にぎょっとする。Y’sは更に続けた。
「この欠片からは何か不思議な力が発せられています。これを解析出来れば……」
「正義の味方が創れるってか?」
「おやっさんの言う通りです。あの噂が流れ始めた頃、この欠片が発するエネルギーと同じ物が観測されました。
 偶然にしては出来過ぎている」
「……」
「もし、あの都市伝説が真実だったならば……そして同じ事件がまた起こったら……」
俺はごくり、と唾を飲み込んだ。
「……と言う事は無いかも知れませんがね」
「オイ!」
……ったく、珍しく真面目になったかと思えば……
「でもね、おやっさん。おれは正義の味方なんて要らない方が良いと思うんですよ」
「どう言う意味だ?」
「正義の味方がいるって事はそこには悪がいるって事でしょう?
 悪がいれば皆の幸せが壊される。
 勿論、『正義の味方』の開発に成功しても使われないに越した事はありません」
「……まあ、そうだな。武器なんてそんな物だ」
「おれはね、只皆に幸せでいて欲しいだけなんですよ……」
「……Y’s
「何ですか?おやっさん」
「頑張れよ」
簡単な一言だが、俺はこの言葉に色々な意味を込めて言った。
「勿論です」

俺は時々自慢のコーヒーを差し入れに持ってY’sに会いに行っていた。
Y’sは変な奴だが頭は良い。天才と言っても良い位だ。
研究は順調に進んでいた。

「……さて、今日は新しいブレンドを味見して貰うか」
無論自分で納得のいく物に仕上げている。
俺はY’sの研究室に向かった。
電車に乗って、駅からバスに乗り、更に歩くこと十分ほど。
目的地を間近にして、俺は何かに気が付く。
……人がいない。
何か嫌な予感を感じた俺はY’sの元へと急いだ。

辿り着いたその先には壁のあちこちにひびが入った研究所の姿があった。
「――Y’s!!」
俺は危険も顧みず、崩壊寸前の建物の中に飛び込んで友の姿を探す。
Y’s!! いるなら返事をしろ!Y’s!!」
「……おやっ……さん……」
声のする方向を見るとそこには血に塗れたY’sがいた。
「おい、しっかりしろ!!」
「これ……を……おれの……研究の……成果です……」
「喋るな! 今すぐ病院に連れて行ってやる!」
「間に合いませんよ……それより……これをお願い……します……」
Y’sは手に持っていた何かを俺に渡した。
「……携帯電話?」
「それから……このバッグも……この中に……おれの研究の……全てが入ってます……奴らに……渡しては……」
「だから、もう良い! 喋るな!!」
肩を担ごうとする俺の手をY’sが振り払う。
「駄目……です……! それを……奴らに渡したら……」
Y’sの表情は真剣だった。
「おやっさん……おれの夢……おやっさんに託します……
 皆が……しあ……わ……せ……に……」
Y’sの体が重く俺の腕に圧し掛かる。
Y’s……? おい、返事をしろ!!」
その時に奥から何者かの足音が聞こえて来た。
おそらくY’sの言っていた『奴ら』だろう。
Y’s……すまない! 直ぐに助けを呼んで来てやるから……』
俺はY’sをこんな目にあわせたそいつらをぶちのめしてやりたい気持ちを抑え、バッグを担いでその場を全力で離れた。


その後に119番と110番をしたが、瓦礫となった研究所の跡からはY’sは見つからなかった。
研究所の周りの連中も「何時の間にか壊れていた」の一点張りだ。
俺は自分の家の地下にある研究所でY’sの遺品を見ていた。
あの時手渡された携帯電話がY’sの研究の成果らしい。
渡された時、その表面には何かの模様が描かれていたが、今は消えてしまっている。
マニュアルによれば最初の空白ブランク状態に戻ったのだろう。
その状態に戻るのは、複雑な手続きを経て適性者の情報を解除した時。
――――若しくは適性者が死んだ時……
Y’s……何であんないい奴が死ななきゃならないんだよ……
 あいつは……只皆に幸せになって欲しかっただけなのに……」





「……それから半年位経って急にブランクフォンが鳴り響いた。
 奴らが――クリーチャーがまた現れたんだ。それが三,四ヶ月前の話だ。
 俺はそれを阻止する為にY’sが残した武器を手に奔走した。
 そしてそれに限界を感じ始めた時やっと適性者に……お前達に出会えたんだ」
マスターはカウンターの向こうの棚に伏せてあった写真立てをカウンターに立てた。
そこにはマスターともう一人の男が写っている。その男がY’sなのだろう。
「本当に……良い奴って早死にするもんだな……」
『…………』
普段はおどけた感じのマスターが話してくれた過去。
その重さに押し黙っているだけでは何も進まない、そう思った三日月が新しい話を切り出す。
月夜様。『王』が目覚めるには後どの位の時間が必要なのですか?」
「……大体あと二ヶ月位だって言ってた。
 それまでにライダーシステムを持ってこないとお姉さまが死ぬ事になるぞって……」
「私の主である『月夜』様も奴らに捕まっている事から考えると猶予はもっと短くなりますね……」
「未来のボクもあいつらに捕まっているのか!?」
「ええ、その為に私は戦っているのですから……」
「……」
三日月月夜も自分の主を助ける為に戦っている。……じゃあ、オレの戦う理由ってなんだ?』
二人の手助けをしたいという気持ちに嘘は無い。
だが、それだけなのか……?
アルが自問していると月夜が立ち上がった。
「とにかく時間が少ないんだ。とりあえず奴らの根城の周辺まで案内するよ」
「分かりました。行きましょう、アルさん」
アルも立ち上がろうとしたがマスターに引き止められる。
「ああ、アル。お前はちょっと残っててくれ」
そう言うとマスターは店の奥に引っ込んだ。
「? アル、先に行ってるからな。ほら三日月、お前も」
月夜三日月は先に外に出た。



歩いてしばらくしてから月夜が疑問を口にする。
「なあ、さっきのマスターの用事って何だったんだ?」
「……試作型の新装備だって言ってたな。Y’sさんの残した資料を元にマスターが作ったらしい。
 これから何が起こるか分からないから用心しておけ……だとさ」
「それはどのような物なのか見せて頂けませんか?」
「いや、最初は一度変身してからでないと呼び出せないみたいだ。
 一度呼び出せばそれ以降はデフォルトの装備に追加されるらしいけどな。その登録をしただけだ……と」
「どうかしましたか?」
三日月、あそこを歩いてる人って……」
「……ああ、先程の……」
アルの指差す先で、ミストが何かの袋を持って歩いていた。
「あの人、この辺に住んでるのでしょうか……」
「良し! ここで見かけたのも何かの縁だ、早速声を掛けに行こう!」
アルミストに駆け寄っていった。
月夜はそんなアルの後ろ姿を睨み、それを見た三日月が心の中で溜息を吐いた。
ミストさん!」
その声にミストが振り返る。
「……あら、アルさん。奇遇ですね」
「ええ、姿を見かけたので声を掛けたんですが……迷惑でしたか?」
「いえ、そんな事はありません。……三日月さんはいらっしゃらないのですか?」
「あいつならもうすぐ追い付いて来ると……おっ、来た来た」
三日月月夜がこちらに向かって歩いてくる。
気のせいか月夜の顔が険悪になっているような……
三日月さん、またお会いしましたね」
「ええ、そうですね」
ミスト三日月の隣でアルを睨んでいる月夜に目を向けた。
「あら、貴女は……」
「ああ……こいつは……」
ミストアルの口を人差し指で塞いだ。
アルの顔が真っ赤に染まり、月夜の険悪な雰囲気が更に上がる。
「知っています。月夜さん、でしょう?」
「……お二人は知り合いだったのですか?」
三日月の言葉に月夜が首を横に振る。
「いや、全然知らない人だけど……」
「……そう言えば直接の面識はありませんでしたね」
ミストが更に言葉を続けた。
月夜さん、貴女に聞きたい事があるんです。
 ……何故私達を裏切ったのですか? ゲディヒトさんも失望なさっていましたよ?」
『!!!!!』
ゲディヒト、という言葉に三人が反応し、ミストから距離を取った。
「でも、そうなった以上貴女を放ってはおけません。
不本意なのですが……実力行使に移らせて貰います」
ミストがそう告げると辺りに「音の無い世界」が展開され、ミストの体が銀色のボディースーツに包まれる。

「call 169 …standing by…」

「call 392 …standing by…」


『変身!!!』

「Standing by……」


『Complete!』


アルさん、三日月さん……貴方達とは戦いたくありませんでしたけど……
私達の『王』の為にそのライダーシステムを使わせて頂きます……」
宙から杖が出現し、ミストの手に握られる。
「クロー・オン!!」
「ダガー・オン!!」
月夜の『ファフニール・クロー』と三日月の『カリバーン・ダガー』がミストの体を切り裂かんとする。
……だが、二人の攻撃はミストのスーツの表面で止められた。
『!!??』
「このスーツは私達の中でも随一の防御力を持っています。
 そんな攻撃では傷一つ付きませんよ」
ミストは手にしている杖で二人を打ちのめした。

「Ready!」


「オオオオオオオオォォォォォォォ!!」
アルはスピアを使い、渾身の力を込めて突きを放つ。
ミストは体の軸をずらしてそれを躱すと杖でカウンターの突きを当てる。
「がはっ……」
ミストの振り上げた杖に光が集まる。
「――薙ぎ払え、銀の衝撃!!」
杖が地面に突き立てられるとミストを中心にエネルギーの波が広がり、その衝撃波で辺りの建物が一瞬にして瓦礫と化した。

土埃が薄れ、倒れ伏した三人の姿が現れた。
先程の攻撃を受け、全員の変身が解除されている。
「く……」
「うあ……」
「……」
「……まだ息があるようですね。
 このまま生き延びても『王』が目覚めれば他の全てと共に滅ぼされてしまう運命なんです。
 ……介錯、要りますか?」
その言葉にアルが反応する。
「……どう言う……意味だ……?」
『王』の目的の為には一度そうする必要があるからです。
 ……私としてはあまり本意では無いのですが、『王』の為ですから」
「……じゃあ、ボクがライダーシステムをお前達に渡したら……」
「『彼女』はとりあえず助かりますが、結局滅びの運命を受け入れざるを得なくなりますね」
「最初からボクを騙すつもりだったのか!?」
「ゲディヒトさんは嘘は付いていませんよ?ただ真実を完全には話していないだけです」
「…………」
アルは無言で近くに転がっていた169フォンを手に取った。
「……やっと見付けた……オレの……戦う理由!」
立ち上がり、169フォンを握り締める。


――私にとって最も大切な人をあいつ等から取り戻したいんです――

――本当に……良い奴って早死にするもんだな……――


三日月月夜マスターの日常をお前達が壊したんだ……」

「call 169 …standing by…」


「そして、これからも……皆の生活を壊して行く……」


――何か悩み事でもあるのか?俺で良ければ相談に乗るぞ?――


「オレの家族や友人も……お節介なあいつも……死なせたりしない……」


――おれはね、只皆に幸せでいて欲しいだけなんですよ――


「皆の幸せを守る為にこのライダーシステムは作られたんだ!!
 皆の幸せを、オレが守ってやる!! その為に戦う!
 それがこれを作った人の……そして、オレ自身が望んだ事だからだ!
 ……オレは……仮面ライダーだ!!」


アルは空高く169フォンを掲げた。


「変身!!!」

「Complete!」


「とても立派な思想だと思いますけど……貴方が私に勝てない事に変わりはありませんよ?」
「……そうかな?」

「call 194 …Attachment…」


『頼むぜ、マスター……』
アルはコードに答えて首に出現したチョーカーからメモリーを抜き、ベルトに挿し込んだ。

「Complete!」


胸の装甲が展開し、ベルトから放たれた赤い光を受けて胸の宝石が強く輝く。
鈍い銀色に染まったボディに力が漲った。
アルが首のスイッチを起動させる。

「Accelerate!」


――瞬間、アルの感覚が研ぎ澄まされる。
僅かな風の流れ、大気のゆらぎまでもがはっきりと感じられる。

『これを起動すれば反射、運動能力が格段に上がる。
 お前から見ると周りの動きが緩やかに感じられるだろうな』

アルは手首にミッションメモリーを挿し込んだ。
そして拳に力を集める。

『エネルギー消費の問題も含めて一度の活動限界には10秒のリミットを付けている』

アルが地を蹴り、ミストに向かって駆ける。
地面が抉れ、舞い上がった土が跳ね上がる様子がゆっくりに感じられた。
そして、ミストに拳を叩き込む。
連続してあらゆる場所に拳を叩きつけ、装甲の弱い場所を探る。
……そして途中、他と違う手応えを感じた。
――背面の鳩尾辺りの高さ……此処か!
その場所に集中して拳を撃ち込む。

『強力な反動に耐えられるように身体能力が強化されるが……まだ調整が上手くいっていなくてな……
 普段以上の反動がお前に降りかかってくるだろう』

腕が軋む。拳に痛みが走る。
それでも、アルは更に拳を叩き込んだ。

「3」


度重なる衝撃に耐え切れなくなったミストのスーツに亀裂が入る。
アルは手首からミッションメモリーを引き抜き、レガースにセットした。
加速中は力が全身を巡っているのでパワーチャージの時間も取らない。
距離を取り、亀裂に向かってポインタ弾を飛ばす。

「2」


地面と平行に飛んで『トゥールハンマー』をミストに突き刺す。
足に返ってくる激痛に耐え、更に力を込める。

「1」


……そしてミストの装甲が砕け、『トゥールハンマー』が直撃した。

「Time out…」


展開されていた装甲とアルの感覚が元に戻り、ミストの体が地面に倒れて行く速さが加速されたように感じられた。


「……アルさん、三日月さん……それに……月夜さん……」

仰向けに転がったミストが口を開いた。

「……私、本当は戦いなんてしたく無かったんです。
 ……おかしいですよね? 私達は『王』の分身として生を受けたのに……私だけ、こんな性格なんです。
 だから、私を止めてくれて……ありがとうございます」

ミストの顔には最初に会った時のような柔らかな笑顔が浮かんでいた。

「私、この世界が結構気に入っていました。
 美味しい紅茶も、マスターの淹れてくれたコーヒーも。
 賑やかな町並みも、そして貴方達も……
 もし生まれ変わり、という物があるのなら今度こそは仲の良い友人として貴方達に出会いたいですね……」

ミストの体が徐々に光の粒になって何処かに吸い込まれて行く。
アル達はそれを黙って見守っていた。

「……彼女もまた、奴らの犠牲者だったのかも知れませんね……」
「……そうかもな……」
「……早く終わらせよう、こんな戦いは……」

アルは空を見上げ、そう呟いた。


『これ以上、奴らのせいで不幸になる人が増えないように……』



【次回予告】

【あとがき】



    

    

    


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