あの日の私はどうしようもなく迂闊だった。

私の油断が、私の未熟さがあんな事態を招いたのだ。

『力が欲しい』あの時ほど強くそう願った事は無い。




仮面ライダー169(アルキュン)



EX-01 邂逅(三日月side)



月夜様、昼食の準備が整いました」
私はソファーに腰掛けて雑誌を読んでいる私の主――月夜様に声を掛けた。
呼び掛けに答えるように月夜様がぱたぱたと足音を立てて食事の用意されたテーブルまでやって来る。
「今日はマグロのビビンバにしてみました。勿論辛さは控えてあります」
「わあ、美味しそう。早く食べよう?」
月夜様がいそいそと席に着いた。
私と月夜様が手を合わせる。
「いただきます♪」
「頂きます」
月夜様が料理を口に運ぶ。
「うん、美味しい。三日月また料理の腕上げたね」
「ありがとうございます」
「料理だけじゃなくて家事全般をこなすもんね。これならいつでもお嫁さんに行けるよ?」
「私は雄なんですが。第一私がいなくなったら月夜様何も出来ないでしょうに」
「むう、ひどい言われようだね」
「たった半日の生活で廃墟のようになるまで部屋を散らかす事が出来るのは月夜様くらいです。あれはある意味才能――」
三日月
しまった、今の言い方は失礼だった。月夜様の顔色を窺うが、その表情に変化は見られない。
「冷蔵庫からお茶取ってきて」
「……お飲み物はそこに用意してあるのですが」
「取ってきて」
そう言われて私は立ち上がり、冷蔵庫に向けて歩を進め――
「ラナンシュート」
「ってぐわっ!!?」
「ちょっと言い過ぎ。とっても傷ついた」
「失礼しました……」
私は魔術で開いた穴の中で謝罪した。

「あ、大事な物忘れてる」
顔を出せるくらいまで穴から這い上がると月夜様が台所で何かを探している。何を探しているかは安易に予測できた。
「……砂糖は今切らしていますよ」
私は穴から完全に這い上がり、そう告げた。
「ええっ!!?」
「いつも月夜様が山盛りでお使いになるからです。第一なんで魚を甘くしたがりますか」
「お魚と砂糖は相性がいいんだよ?三日月も食べてみれば分かるのに」
「……一度試してみた所お世辞にも美味しいとは言えない味でしたが」
「むう、三日月が私の好みを理解してくれない……」
月夜様の味覚が特殊過ぎるんです」
月夜様は諦めたのか食卓に戻って行く。
「……そうだ、蜂蜜なら」
「止めて下さい」
再び台所に戻ろうとする月夜様を私は全力で阻止した。


「ねえねえ三日月
食事を終え、再び何かの雑誌を見ていた月夜様が声を掛けてきた。
「何でしょうか、月夜様」
「これ、美味しそうだと思わない?」
月夜様が指差したのは先ほどから読んでいた雑誌の写真――そこには今女性に人気の店のケーキが何種類か載っていた。
「ね、美味しそうでしょ?」
「そうですね。……ケーキなら私がお作りしましょうか?もちろんその店ほど上手くは出来ないでしょうが」
月夜様は大の甘い物好きなので、私はリクエストにお答えできるようにとお菓子作りの腕を磨いている。
「え、いいの?」
「ええ、勿論です。何をお作りしましょうか?」
「……う〜んと……ええっと……」
月夜様の頭の中では色々なケーキの種類が駆け巡っているのだろう。すぐに決まりそうな様子はなかった。
「……ショートケーキ、モンブラン、チーズケーキの中ではどれがお好みですか?」
「…………三日月、ひどい。そんなの選べない」
月夜様は心底悲しそうな顔をした。
「……とりあえず全部作るという事で」
「ありがと♪」
「では今から材料を買いに出かけてきます。何か他に頼む物は御座いますか?」
「じゃあ、今度は切らさないようにお砂糖をたくさん」
「……分かりました」
私は出かける準備を始めた。と言っても財布の用意だけだが。

「それでは行って参ります」
「あ、三日月
「何でしょう、月夜様」
「最近ちっちゃい子供が行方不明になりやすいから三日月も気を付けてね」
それは私も知っている。ニュースや新聞で話題になっている連続行方不明事件の事だ。
行方不明になっているのは15,6までの子供……つまり人の姿の私もその範疇に入っていることになる。
「……大丈夫ですよ。人通りの多い道を選びますし、いざとなったら魔術でなんとかします」
「でも三日月かわいいから誘拐魔にさらわれないかすごく心配」
「あ……ど、どうも……」
「あ、赤くなってる。かわいい」
「と、とにかく大丈夫ですので!」
私は素早くドアを開け、買い物に向かった。



「……必要な物は全部買い揃えましたね」
私はスーパーから出ると買い物袋の中身を確認する。
月夜様に頼まれた砂糖もきちんと買ってある。
1キロの砂糖袋が計4つ、このうち3つが月夜様の分だ。
そのおかげで買い物袋がやたらと重くなっている。
それにしても月夜様のあの味覚はやはり理解し難い。
月夜様が言うには使い魔である自分と主である月夜様の好みは同じ……はずなのだが。
「……普通の子供なら自分は拾われ子なのかと疑うのかも知れませんね……」
そのまま考えていると嫌な考えになりそうだったので私はその考えを振り払う。
昔、月夜様の主であった方――夜姫様と昔の月夜様の味覚や好みも微妙に、時には著しく異なる事があったそうだ。
きっと私と月夜様の場合もそうなのだろう、そう思う事にした。
「早く戻る事にしましょう。月夜様も待ち侘びていらっしゃるでしょうし」
そう思いながらも私は多少遠回りでも人通りの多い道を選んで帰る。
目撃者が出ていないという事実上、犯人達の手際が非常に良いという事が考えられる。
無論連続行方不明事件が誘拐事件であった場合の事だが。


帰路の半分ほどに差し掛かった頃だろうか、私は何か不穏な気配を感じた。
殺意とは違う、が何物かの視線が感じられる。
私はその時周りの人通りが途絶えている事に気が付いた。

――結界か――

どうやら私は何者かの術中に嵌まってしまったようだ。
相手は何者だろうか、また月夜様を狙っている輩が私を人質にでもしようと考えているのか……
突然頭上に気配を感じ、私はその場を飛び退いた。買い物袋は置いていったが、後で買い直せば良いだろう。
そこにいたのは石で出来たゴーレムのようなもの。

……魔法生物か!

このような物を作り出す技術を持つ者がわざわざ結界を張ってまでしようとしている事がろくな事であるはずが無い。

間違いなく月夜様を付け狙う連中の仕業だ!

私の悪い予感は当たったようだ。
先手必勝。私は魔術の構成を組み上げるとゴーレムの片足を小規模な爆発で吹き飛ばした。
鈍重なゴーレムの動きを動きを封じるにはこれで十分。更に残る手足の部分を吹き飛ばす。これでこのゴーレムは無力化した。
相手が魔法生物を操っていて、その数はまだ把握出来ていない。現在は魔力を極力温存しておく必要があった。

――次はどう出てくる?

すると次は物量作戦に出たのか、地面から影のような魔物が湧き出して来た。
さらに、宙に浮いた剣が4本、空から降りて来る。リビング・ソードだ。
この数を一度に相手するのは流石に厳しい。
転がっていたゴーレムの腕に物質影響系の魔術を掛けてリビング・ソード達に叩きつけると私は身を翻してその場から離れる。
「影」のスピードはさほど速くないようだ。
だが、体勢を立て直したリビング・ソード達が追いかけて来た。こちらのスピードはかなり速い。
私に追い付いたリビング・ソードが切り掛かってきた。その太刀筋は鋭い。
おそらく達人と呼ばれる者の動きをトレースしてあるのだろう。
魔術で迎撃するが、4本の剣による統制の取れた波状攻撃は私の技量では完全に防ぎ切れない。
3本の剣が同時に襲い掛かってくる。

――避け切れない……!!


その時、私に襲い掛かってきた3本の剣が何者かの攻撃を受け、砕け散る。
三日月、大丈夫?」
月夜様……」
そこには月夜様がこちらに顔を向けて立っていた。
おそらく敵の気配を察知してこちらに来たのだろう。
「うん、どこも怪我はしていないみたいだね。よかった」
「……月夜様! 後ろです!!」
月夜様の背後から残ったリビング・ソードが切り掛かってくる。
だが、月夜様はその斬撃を右の人差し指と中指で受け止め、左手で剣に手刀を叩き込む。
リビング・ソードは根元から折れて只の剣となり、澄んだ音を立てて地面に落ちた。
月夜様は更に、追い付いて来た「影」達に向かって魔術を放つ。
その一撃で全ての「影」が跡形も無く灰塵と化した。
魔術による爆発の余韻が消えた頃、どこからか手を叩くような音が響いた。
「いやはや、お見事。中々の力をお持ちのようですね」
声のする方向に目を向けると、そこに立っていたのは二十代ほどの男だった。
男はこう続けた。
「初めはその少年の力量を量ってみるだけのつもりだったのですがね。
 貴女の力量はその次元を遥かに超えて素晴らしい。嬉しい誤算です」
「……つまり、あの魔法生物達はあなたの差し金って事?」
「ええ、その通り。尤もその少年が戦う力を擁していたのも予想外でしたが」
どうやらこの男の元々の目的は月夜様ではなかったらしい……が、今ははっきりと月夜様に狙いを付けている。
「……三日月は下がってて」
私は大人しくその言葉に従う事にした。
おそらくこの男は私の歯の立つ相手では無い。だが、月夜様が負けるとは思えなかった。
「うちの子に手を出した報いは受けてもらうよ?」
「どうぞ、ご自由に」
月夜様は男との距離を一気にゼロまで縮めると、男に向けて手刀を一閃する。
相手が並の使い手ならその一撃で勝負は決していただろうが、男は危なげも無くそれを避ける。
……月夜様と対峙しても余裕を失わなかっただけの事はある。自分の力に自信を持っているようだ。
月夜様は更に連撃を叩き込むが、そのことごとくが避けられていた。
『成る程、この「見切り」こそがあの男の自身の源のようですね……』
月夜様の攻撃を見切る技量を持った者は記憶にも少ない。
月夜様は掌底を放つが、バックステップされてその攻撃は届いていない。
だがその時掌から気弾が男に打ち込まれる。月夜様が好んで使う零距離魔術の類の物だ。
男は咄嗟に抵抗レジストしたのか、大したダメージを受けていない様子だった。
「……私に遠慮なさらずとも結構です。全力で掛かって来て下さい」
「あ、やっぱりバレた?」
月夜様は悪戯がばれた子供のような表情で返答する。
私は溜息を吐いた。
またお楽しみ・・・・になろうとしていたのだろう。それで手加減をしていたという事だ。
『……まあ、男の外見は悪くありませんがこんな時でもそんな事を考えているのはどうかと思いますよ……』
しかしあれだけの余裕があるのなら月夜様が負ける事は無いだろう。
そう思って安心した次の瞬間――
「うっ!?」
何かが首筋に叩きつけられ、地面が目前に迫って来る。
そして地面に倒れ伏した私の首を何かが押さえ付けた。
三日月っ!?」
「動くんじゃねぇ!!……動けばこのガキの首が踏み折られるぜ?」
首に押し付けられているのは何者かの足だろう。
私はその者の顔を見ようと首を捻った。
……其処に居たのは褐色の肌をした赤髪の男だった。
男はその凶悪な眼を月夜様に向ける。
「テメェもちったあやるみたいだけどよ、コイツが弱点になってるみてぇだな。
 俺様がこの足にもう少しでも力を込めたら……」
「がっ……!」
漏れ出した空気が喉を震わせ、低く、鈍い声になって辺りに響く。
「やめ……っ!?」
突然月夜様が地面に倒れる。その体の翳から右の掌をかざした最初の男の姿が現れた。
「遊んでねぇでサッサとそうしてりゃ良かったんだよ」
「彼女の力量を確かめて置きたかった物でしてね……」
赤髪の男はその言葉をケッと吐き捨てた。
「何時も何時も……まだるっこしいんだよ、テメェのやり方は……」
「しかし、その御陰で分かった事もあります。
 彼女の力は我々の役に立つかも知れません」
「ほぉ……」
「彼女には我々に協力して頂く事にしましょう……」
そう言われ赤髪の男は私を見下ろした。
「で? このガキはどうすんだ? コイツも多少は力を持ってるみたいだぜ?
 このガキも連れて行くのか? それとも……ここで殺っちまうか?」
「……彼も力を擁しているようですが高が知れています。放っておいても良いでしょう。
 それより貴方も私を手伝って頂けませんか?彼女の力は抑えるのにも苦労していまして……」
フン、と赤髪の男は鼻を鳴らすと私の首から足を除け、月夜様に向かって歩いて行く。
月夜様に手を――がっ!?」
立ち上がろうとした私の顎を赤髪の男が足で蹴り上げた。
「コイツに手を……何だって?」
御託を並べる赤髪の男に向かって私は魔術を放つ。
赤髪の男は面白くも無さそうにそれを片手で掻き消した。
『……今です!!』
私は男の足元に転がっていた小石を物質影響系の魔術で弾いた。
この程度の質量の物ならライフル弾並みの速さで弾く事が出来る。
加えて相手は私を過小評価して油断していた。

――決まった……!――

そう思われたが、礫は突然割り込んだ最初の男の手に遮られてしまっていた。
「中々に面白い奇襲策でしたが……同じ戦法は続けて二度使うべきではありませんよ……」
小石を指で砕き、男がそう告げた。
奇襲失敗を悔やむ私に赤髪の男が先程の礼と言わんばかりに腹部に蹴撃を入れる。
「がはっ……」
「遊ぶのはそれ位にしておきましょう。彼女の連行が最優先です」
「ああ」
「くっ……」
二人と月夜様の体が宙に浮く。その途中で赤髪の男がこちらを振り向いた。
「じゃあな、ガキ。その命がある事を感謝しろよ?」
……そしてその姿が掻き消えた。
「……月夜様ぁぁぁ――!!!」


気が付くと結界は消え去り、辺りに人通りが戻る。
私は他人の奇異の視線も気にせずに地面に拳を叩きつけ、泣きながら自分の無力さを呪っていた。
「……間に合わなかったみたいだな……」
何時の間にか煙草を咥えた男が私の傍に立っていた。



自らをマスターと名乗るその男は様々な事を私に話してくれた。
クリーチャーと呼ばれる魔法生物の事、それが子供達を攫っている事……
そして、私にライダーシステムなる物を手渡した。
「お前にはそれを扱える適性がある。
 お前の大切な人を取り戻す為……そして人々を守る為に戦ってくれるか?」



――それから――
ライダーシステムの補助もあって、月夜様との魔力供給のリンクが途切れた今でも私は人の姿を保っている。
あの日、私は戦う事を承諾した。
この力で月夜様を救う為に……
392フォンが鳴り響く。どうやらクリーチャーが現れたようだ。
場所は……すぐ近く、ほんの1、2キロ先ほど。
周りに人目があったのでその場所まで走って向かう事にする。

辿り着いた先では何者かがクリーチャーと戦っていた。
格好から察するにマスターの言っていた「もう一人の仮面ライダー」だろう。
あの男達の姿は……見られない。
まあ、そう都合よく現れてくれるはずも無い。
そして一歩を踏み出すとクリーチャーがこちらに気付き、襲い掛かって来た。
その攻撃を避けて392フォンを操作する。

「call 392 …standing by…」


今回は当てが外れたようだが、戦う内にあの男達の情報も入ってくるだろう。
その為にも今はまず、このクリーチャーを倒さなければ!


「……変身」

「Complete!」


必ず、月夜様を助け出してみせる……
その為に……戦う!
その為に……私はこの力を手にしたのだから……



【あとがき】



    

    

    


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この作品は、下記サイトの創作物の設定・キャラクターを二次創作利用させて頂いてます。