走れ!
走るんだ私ッッ!!
心臓が破けるまで!!
全てを風に変えて!
光のごとく駆け抜けろ!
走れ!!
Tales of Phantasia
走レめろす ーアルヴァニスタ大疾走物語ー

神羅

1年にたった1度の思いを伝える聖なる日。
2月14日、バレンタインにて事は起こった――
この日に、誰よりも先に想いを伝えたい。
そのためにたくさんの愛と心のつまった、
超特別なチョコレートを作っちゃいま〜〜〜〜〜っす☆
と、乙女が浮かれてチョコ作りを始めている頃、研究所の机に頬杖をついて溜め息をつく少女がいた。
名は・。
一見15歳に見えるが実は19歳という童顔の人間の少女。
このアルヴァニスタ城の魔法研究所で働いている。
「はぁ……」
これで本日何度目かの溜め息。
これが恋の悩みならまだいいが……。
「ったく……何が楽しいのよー……私は大変だっつのに……」
なんつったって明日はバレンタイン……。
どうやって奴の手から逃げようか……。
私はまた溜め息をついた。
大体なんでバレンタインなんてものがあるわけよ?
毎年毎年付きまとってくる変態から逃げ切る方法を思案しなきゃなんない私にとっては悪魔の日でしかないわ。
「あらあらあら〜?悩み事?」
話し掛けてきたのは私の先輩にあたる魔女マリーア・ノーチェス。
褐色の肌にウェーブのかかった長い黒髪、オマケに美人だ。
相変わらず上半身の露出度が凄い。
お前どこの国の人だ?っていいたくなるわ……。
ちなみに外見は20代前半だが、中身は100歳のババア。
「まだ99よ!!」
いや、99も100も同じだと思うんですけど……。
「2桁と3桁の違いよ!」
いいじゃん。見掛けは若いお姉さんなんだから……。
それ考えるとつくづく人間でよかったと思えるわ……。
下手に長生きして奴に付きまとわれるよりとっとと老けてとっとと死んだほうがよっぽどマシってもんよ!
「ねぇ……マリーア……ルーングロムから逃げ切るためにはどうすればいいと思う?」
一応頼りになる先輩で一番信頼している。
「一応……明日の運勢占ってくれる?」
マリーアは占術が得意中の得意。
これで明日いい運勢が出れば私の勝利よ!!(←運に頼ることにしたらしい)
マリーアは「神の記述」といわれるカードで占いを始める。
「あらあらあら……『宮廷魔術師』が出てるわ……」
やっぱり占いは当てにならないわ!
こうなったら私の脚力と頭と攻撃力で解決するしかないわ!!
こうしての闘いは始まった。
2月14日、バレンタイン当日朝。
「……グロム、なんか機嫌よくないか?何かいいことでも……」
その問いにルーングロムはいかにも楽しそうな笑顔で答えた。
「そう見えるか?」
意外そうに、エドワード・D・モリスンを見返す。
「ああ……何故にさっきから、スキップで廊下を歩いているんだ?」
ちなみに鼻歌まで歌っている。
鼻歌を歌いながらスキップで廊下を渡る宮廷魔術師。
……見なかったことにしておこう。
「違うよ、エドワード。これから起こるんだ。今日はバレンタインだろう?」
「…………か……」
エドワードは溜め息をついた。
「そういうことだ。」
自慢気に胸を張るルーングロム。
「しかし……彼女が君にチョコを作るとは……」
「もちろん、私もそうは思えないよ。だから代わりに……」
いやな汗がエドワードの頬を伝った。
「彼女自身をいただくことにするよv」
「…………逃げろ……逃げてくれ、……」
エドワードは彼女のためだと思ってここへ連れてきてしまったことを悔いた。
涙ながらの無事を祈った。
は身構えながら、おそらくやってくるであろう悪魔を待っていた。
隠れても無駄だ。
第一隠れていた場合、見つかった際に逃げられなくなる可能性がある。
だったら見つかった瞬間に逃げ出すほうが逃げ切れる確率は高い。
やがて、見覚えのある赤い髪がちらついた。
向こうも気づいたようで、に一瞬で寄ってきた。
「何の用件かしら?変態宮廷魔術師」
露骨に嫌そうな口調と表情。
「、今日が何の日だか知っているね?」
満面の笑顔のルーングロム。
ファンの女の子たちは見ただけで卒倒するだろう。
だが、は違った。
「言っとくけど、貴様にあげるものなんぞ何も持ってないわよ?」
「それは残念だね……しかし、私は君が欲しいんだよ」
瞬間、は片手に握っていた紐を手放す。
「うお?!」
ルーングロムの頭上に水の入ったタライが振ってきた。
「い、いや違う!これは水ではなく塩酸だ!!」
さすがというべきか……。
その隙には逃げ出していた。
もちろん、その後を追うルーングロム。
果たしてはグロムの間の手から逃げ切れるのか……。
――逃げ切ってやる!
――捕まってたまるか!!
は城内を疾風のごとく駆け抜けた。
後ろを見てみると、距離を開かずに、また縮めずにルーングロムが追ってきている。
そのたびにはスピードを上げた。
今回捕まるわけには行かない。
なにしろ、つかまったら身体の危険を感じる。
「これでもくらええッッ!」
私は目の前に見えたおそらく100万ガルドはするだろう絵画を剥ぎ取り、投げつけた。
しかし、ルーングロムはそれを炎で焼いて突破する。
だったら……。
「これならどうだーーッッ!!」
階段を一気に駆け上がり、集まっている女子の集団に叫ぶ。
「ルーングロム様が来るわよ!!」
それを聞いたとたん、女子の集団は黄色い声を上げてルーングロムに突進していった。
そう、ルーグロムのファンクラブだ。
これなら突破するのに時間がかかるだろう。
だが、が甘かった。
見てみると、ファンクラブの乙女達に向かってストームを放っているルーングロムが見えた。
「この愛のためなら犠牲もいとなわん!!」
――うっわー、スバラシイほどにヒトデナシー……罪もないファンの娘に魔法撃ちやがった……。
さすがに手加減して下級の風魔法だが。
だが、その間には姿を消していた。
「やれやれ……相変わらず困ったやつだ……」
それはむしろアンタだアンタ。
いいかげん自覚しろ……。
そのころは……。
「これならいくら変態でストーキングが趣味の宮廷魔術師でも見つかるはずないわ……」
中性的な顔立ちを利用して男装をしていた。
――これでしばらくは何とかなりそうね……。
「ふっ腐符賦不不不不…………」
どこかで聞いたような独特な笑いが口から零れる。
さらにほくそえむの周りにはどす黒いオーラが漂っているので、
町の雑踏の中でも彼女の半径1m以内に近づこうというものはいなかった。
……かえって目立ってしまっている。
と、前方に敵の姿が見えた。
――男装しているとはいえ、念には念を押すに越したことはないわね……。
は不自然にならないように角を曲がろうとした。
が、肩に手が置かれる。
振り返ると……。
「やぁv」
不適に笑うルーングロム。
つられても笑う。
「………………」
「………………」
さらに笑顔のルーンフロム。
も同じように笑顔。
………………(30秒ほどお待ちください)
「とぉ!!」
一瞬の隙を突いて腹に蹴りを入れる……(ルーングロムがすかさず防御体制をとる)……フリをした。
「食らえ、必殺対変態用凶器少年漫画雑誌!!」
いかにも殺傷能力のありそうな、
「月刊少年ガ○●ン」と書かれた分厚い雑誌の角でルーングロムの頭を強打する。
ルーングロムが怯んだ隙に全力疾走する。
が、ルーングロムがこれでへこたれるわけがない。
たいして距離をとらずにを追っている。
町を疾走する2人を人々は驚いた目で見ていた。
方や男か女だかわからない顔立ちの一般市民。
追っているほうは彼の有名な宮廷魔術師。
ファンの女子たちがルーングロムを見て黄色い声をあげる。
そして、に投げられる言葉はやっかみやら怒声やら。
「何アイツ、ムカツクー!!」
「グロム様と追いかけっこできるなんて〜っっ!」
「いい気にならないでよね!!」
――喜んで替わってやるわよ!!
ってゆうかむしろ替わってくれっていうくらいよ!!
大体なんで私がこんな変態に付きまとわれなきゃなんないわけぇ!?
鬼のような形相のに誰もが道を退いていく。
おかげで人が多いところでも楽に逃げられるが、
足にも自信があるのはのほうだったが不利なのは彼女のほうだった。
何しろ、ルーングロムは信頼されている宮廷魔術師。
国民で名前を知らないものはいない。
「誰か、その少女を捕らえるんだ!!捕らえたものには高額の賞金を出そう!!」
は舌打ちする。
ルーングロムの頼みで、さらに高額の賞金とくれば従わない者はいない。
大勢の人がを捕らえようと四方八方から迫ってきた。
「……うざい」
はポツリとつぶやく。
そしてどこからか取り出したものは……。
「喰らえぇぇ!!禁鞭!!」
あれほどの人壁が一気に吹き飛ぶ。
「ほーっほっほっほ!あれくらいの敵なんてOUTOF眼チューよ!!」
誇らしげに高笑いをしながらそのまま走る。
「くっ……罪もない善良な市民を……!」
苦々しげに呟くルーングロム。
この場合両方とも人の事言えたものではないだろう。
「ったく……いつまでついてくるつもりよ変態魔術師!!」
町にある投げられそうなものを目に付いたものから勝手に拝借してルーングロムに投げつけながら叫ぶ。
「君がいいかげん諦めてくれたら止まるけど」
ルーングロムは恐ろしい笑顔を浮かべながら返事をする。
「諦めるかボケ!!……って言うかなんであたしなのよ?」
本当に女かと思うほどの悪態をつきながら、疾走する。
「フフフ……初めて会ったときから君と結ばれる運命だと感じていたよv」
ルーングロムも本当に宮廷魔術師かと思うほどの変態さながらの台詞を吐きながら、疾走する。
「テメェと結ばれてたまるか!!
貴様には行き過ぎのギャグ飛ばしまくる変態女装野球部員がお似合いじゃ!!」
なおもスピードを落とさない。
「照れなくてもいいじゃないかv」
「照れとらんわ!!」
「ところで、式はいつにしようか?」
「フザケンナー!!誰が結婚するって言った?!」
「心配は要らない。私が必ず幸せにしてやるさ」
「テメェと結婚すること自体が不幸中の不幸だ!!」
よく舌噛まないな、お前ら……。
通行人や障害物をかまわず撃破してアルヴァニスタの街を駆け巡る。
「あらあら〜♪楽しそうねぇ♪」
白のバルコニーから、の親友マリーアはマイペースに
2人の追いかけっこを楽しく見学していたりする。
2人の追いかけっこはさらに白熱(?)していた。
ルーングロムはを止めるために街中だろうとかまわず走りながら魔術を放ち、
一方はルーングロムを離そうと武器やら岩やら凶器と思えるものを片っ端から走りながら投げつける。
「じゃあ、どうすれば好きになってくれるのかな?」
……ファイアーボールが通行人を焦がしたような気もするが、見なかったことにしておこう……。
「絶対好きになるわけない!!好かれたいんならその変態的思考と行動をどうにかしろ!!」
……投げた包丁が通行人に当たったけど……見なかったことにしましょ♪
どういう手段を使ってでも、相手を仕留める気だ。
2人の行く先に、見知った人物がいた。
「・・・まだやってたのか?!」
エドワード・D・モリスン。
は天の助けに感謝した。
「モリスンさん!」
喜びに満ち溢れた最高の笑顔を浮かべて、
「くらえええ!必殺対変態用人間ミサイル!!」
モリスンの腕を掴み、軽々と持ち上げてルーングロム目掛けて投げつける。
さらにその際、エドワードに核爆弾(ミニサイズ)をもたせていたりした。
の後方で爆発が起きる。
ルーングロムもろとも罪もない通行人が犠牲になったが、まずは自分の身体だ。
は振り返らずにそのまま疾走する………………が。
「う、うっそぉ……」
ルーングロムが追ってきていた。
爆弾を喰らってもなおに執着する宮廷魔術師に拍手しておこう。
「愛の力さえあればあれしきなんてことはない!」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
さすがに焦り始める。
まだ余裕そうなルーングロム。
追いかけっこはまだ続きそうだ。
……気がつけば、は狭い袋路地に追い詰められてしまった。
「しまっ……!」
は思わず足を止める。
振り返ると、ルーングロムが歩み寄ってきた。
「もう、これ以上は逃げられないぞ、?」
不敵な笑み。
は冷や汗を流しながら、何とかこの状況を切り抜ける策を考えた。
が、その余裕はなかった。
「そろそろ観念してもらおうか……」
ギリっと歯を噛み締める。
「いいかげん私のものになってほしいな……?」
ぷっつん
の中で何かが音を立てて切れた。
「今こそ汝が右手に――」
の口から詠唱が漏れる。
だが、は人間……魔術は使えないはず。
しかし、詠唱は続く。
「その呪わしき命運尽き果てるまで高き銀河より下りたもうアスクレピオスを宿すものなり」
の右腕に蛇のような影が浮かび上がる。
「されば我は求め訴えたり」
右腕だけだった蛇の影が、はっきりと見えるようになりの前身を取り巻く。
「喰らえその毒蛇の牙を以って―!!」
次の瞬間、恐るべき速さでルーングロムに肉薄し、右腕を突き出す。
「蛇咬ォォォ!!!」
ルーングロムはもろに受けてしまい、そのまま地面に倒れる。
「……やったか?」
は恐る恐るルーングロムを見下ろす。
もう永遠に起き上がらないでくれ、と願いながら。
が
「ふふふふふふふ…………」
生きていた。
しかも、起き上がった。
「諦めんぞ!!今日だけは・……!」
スネークバイトをもろくらい、血まみれで服もボロボロなままゆらり、と立ち上がった。
「ば……」
「バケモノぉぉぉぉぉぉ!!!」
は涙を流しながら、全力疾走。
ルーングロムも血を流しながら全力疾走。
街を行き交う人々は、そこがどんな雑踏であれ、2人を見て恐れをなし道を大幅に開けた。
「はやッッ!」
アルヴァニスタ一の俊足を誇る少年も、とルーングロムの疾さには圧倒された。
「来るな!来るんじゃない!!来ないでぇぇぇぇ!!!」
本日の2人の追いかけっこは日が沈むまで延々と続いた。
本日の被害総額5千万6千2百ガルド………………。
「…………これはルーングロムとの給料から差し引きじゃな……」
そう、恨みがましそうに呟くアルヴァニスタ王だった。
