永遠など存在しない―― 否、してはいけない
終わりが在るからこそ、今が輝く
終わりが在るからこそ、今を愛せる
終わりが在るからこそ、誕生が存在する
世界も、人も、怪異も、総てに等しく終わりは在る
悠久幻想詩 無垢なる混沌 より抜粋
人妖弾幕幻夜 東方永夜抄 〜 Imperishable Night.
Eternal existence -永遠の存在-

月朗
〜開幕〜
歴史と知識を統べる半獣である私を人として愛してくれた「汝」
この歴史は私にとって掛け替えの無い歴史だった。
ある満月の夜に、私は全てを打ち明けた。
自分の正体、人間ではなく幻想郷が生み出した怪異の一つ。
満月の夜には化け物になる私の姿。
全てを打ち明けた私を「汝」は優しく抱擁してくれた。
何も言わず、私を恐れず、何も聞かずに優しく抱きしめてくれた。
「汝」と出会ってからだ、こんなにも涙脆くなってしまったのは。
暖かい「汝」の胸の中で、私は自分の誓いを言葉にする。
「……もう何があっても「汝」からは離れないからな」
いつもの如く、とても小さい呟くような声で誓いを立てる。
ちゃんと伝えたいのだが、羞恥心が声を小さくしてしまう。
「汝」は応えるように角の生えた私の頭を撫でる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「っっ!! 何を言うか……馬鹿…… 」
「汝」の言葉に私は過剰に反応して思わず心にも無い事を言う
そんな事がいいたいのでは無いのに……
その言葉の嬉しさに、紅潮して緩みきった顔を隠すように「汝」の胸に顔を埋める。
「汝」の鼓動の音が心地良い。
私と同じ、少し速めの高い鼓動。
「ふふ……」
私は微笑みを口に出して「汝」を下から覗き込み、瞳を見据えた。
「私もそうだ、「汝」の事を愛している……」
そう言って瞼を閉じ、少し背伸びをする。
最早二人に言葉はいらない。
とても明るい満月は、広場に重なる二人の影を落としこむ。
女の影は、頭に二本の角、そして大きなふさふさの毛を持つ尾が映っている。
男の影は、影だけを見ても、如何にその女を愛しているかを思わせるほど、熱く女を抱擁していた。
その光は二人を祝福するような、とても暖かい光だった……
〜前之巻〜
「……ふぁぁ〜」
「大きな欠伸だね、慧音。どうしたの?」
最近の慧音はちっとも私にかまってくれない。
家事だのなんだのに追われていて、時間をうまく作れないみたいだ。
「あぁ……すまないな、欠伸などして。昨日少し寝るのが遅かったものでな」
慧音はくしゃっと私の頭を撫でて微笑む。
以前の慧音の数倍も綺麗になったと思う。
悔しいけど……「汝」のせいなんだろうなぁ……
慧音が綺麗になるのはうれしい。でも……
そばに居るのが私じゃないのは……寂しい。とても切ない。
慧音が一番輝いてる綺麗な顔を見せるのは私じゃない。
「汝」と一緒に居る時なんだよね……
もう何百年も一緒にいるし、そのくらいわかる……
「汝」が着てから慧音は……――――
「おい、妹紅。妹紅ってば」
「……っえ? どうしたの慧音?」
「それは私の台詞だぞ。急にうつむいて、ボーっとしてるから」
慧音が心配そうに、私の顔を覗き込む。
「体調が悪いというわけではなさそうだな。悩みがあるなら聞くぞ?」
「そんなんじゃないんだよ、大丈夫」
私は考えていた事を心にしまい込み、慧音に笑顔を向ける。
「それよりも……今日のお弁当は朝早く起きて作ってくれたんだよね」
「まぁ、いつもより1時間ほど早起きしたくらいだけどな」
「今日のお昼、広場で一緒にお弁当食べるのは約束してたんだし、欠伸するほど眠いってことは……
昨夜は相当遅くまでお楽しみだったのかな?」
「なっ……」
慧音の顔がとたんに真っ赤になる。あはは、可愛い。
もっと虐めたくなる。私はためらいもなく、その欲望を慧音にぶつける。
「新婚の夫婦だもんね〜、妬けちゃうわ」
「こ、こら妹紅っ! からかうな!」
慧音は立ち上がると私を小突くつもりか、拳を作って迫ってくる。
「わー、冗談だってばぁ」
私も立ち上がり、あわてて逃げる。
慧音は困ったような、怒った様な、でも楽しそうな笑顔で、私を追いかけてくる。
「こらっ! 待たんか妹紅!」
「やーだよー」
慧音とこんなやり取りをするのも、久しぶりだなぁ……
「あいつ」の所で慧音が住みだす前は、毎日こんな感じだったんだけどなぁ……
暗い考えが、高揚していた気分を落ち着けてしまう。
そしてはしゃいで駆け回っていた足が急に止まる。
「え、妹紅……わぁぁぁぁぁ……」
急に止まった私に、慧音が止まりきれずにぶつかってしまう。
二人して派手に転んでしまうが、冬も明け、春が訪れた広場は青い草がたくさん茂っており、
怪我をすることも無く、そのまま二人で寝転ぶ。
「慧音……腕枕して」
「ん? かまわんぞ」
差し出された腕を枕に空を見る。
慧音の腕はすごく細く、だけどすごく暖かくてやわらかい。
人の身でありながら、永遠に死ねない業を背負ったこの体。
ある種どんな化け物よりも、化け物じみている不死の体。
この数百年、慧音が居なければ私はどうなっていただろうか……
そして今、また独りになろうとしている……
「ねぇ、慧音……」
「ん?」
私は顔を見られないために、慧音の胸に顔をうずめる。
「私……慧音のことが好き……」
「なんだ、いきなり」
「慧音は……?」
「……もちろん好きだぞ、大事な一番の親友じゃないか。好きに決まっている」
胸から熱いものがこみ上げるのがわかる。
でも心のそこの黒い物は、まだ消えてくれそうに無い。
「「汝」の事も……好きなんだよね?」
「……そうだな、かけがえの無い大切な人だ」
「……私と、どっちの方が好き?」
「…………」
慧音の表情をちらりと盗み見る。
すごく困ったような、難しい顔で私を見つめていた。
慧音のあったかい指が私の頭をそっと撫でる。
「どっちもだ、優劣なんかつけれるわけが無いだろう?」
「…………」
なんだろう、胸の中の何かがかみ合わない……
慧音は私の事を好きだって言ってくれてるのに……すごく寂しい。
離れたくなくて、慧音の首に手を回しおもいっきりぎゅーっと抱きしめる。
「……? どうしたんだ妹紅」
「……「あいつ」さえ……居なきゃよかったのに」
「ん? すまん聞こえなかった」
「なんでもないよ……慧音頭撫でて」
「ふふ……今日はいつに無く甘えん坊だな」
優しい笑顔で、ゆっくり私の髪をなでてくれる慧音。
その暖かさを一人で独占したい欲望が心の中を渦巻く……
このまま「あいつ」を愛していると、慧音は不幸になってしまう……
誰よりもそのことを私は知っている。
慧音の泣いてる顔なんて絶対見たくない……
暗い、とても暗い物が、心の中を渦巻いて行くのがわかる。
でも、今はそんなことを忘れてしまおう。
慧音の暖かさを少しでも感じて居たいから。
程なくして私は深い闇に落ちていく……
〜中之幕〜
「……あれ、寝ちゃったのか」
気がつくと、私は布団で寝ていた。
もしかしなくても、ここは「汝」と慧音の家だ。
寝てる私を運んでくれたのかな……
私は起き上がると同時に流れてくる匂いに気がついた。
慧音がご飯の準備してるのかな?
結構な時間を眠っていたらしく、お腹はかなりすいている。
布団を端に片付けて、居間に向かう。
「汝」も帰ってきてるのか……
今顔を合わせて、私はいつもの妹紅で居られるだろうか……
慧音の愛を一身に受け、そして慧音を悲しませる運命を背負っている彼を見て……
ふっと部屋の中から話し声が聞こえる。
「……「汝」は何をしておるのだ?」
「〜〜〜〜〜〜」
「こっ、こら! やめんか! 今日は妹紅が居るんだぞ……!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「だめだ、我慢しろ。「汝」はがっつきすぎなのだ」
「……〜〜〜〜〜〜」
「ん……だからだめだと言っておるだろうに……もう……」
……胸の中の黒いものが這い上がってくる。
新婚なのは、わかる。
だけど私が居る時にこう言うことをする「汝」がどうしても許せなかった。
スパァァァァァァン!
と豪快な音をたてて、私は襖を開ける。
「…………」
「…………」
そのあまりに大きな音に、二人が硬直している。
「何……してるの?」
「いやな、もうすぐ飯が出来るから、妹紅を起こして3人でと思っていたのだが……
「汝」がどうしても腹が減ったとおかずをつまみにきたのだ」
「汝」は恥ずかしそうにあさっての方向を見ている。
……私は何を想像していたんだろ。
恥ずかしさに私の顔も赤くなっていくのが自分でわかる。
胸のうちでは、恥ずかしさと別のものがどんどん渦巻いていく。
苦しい、辛い、切ない、気分が悪い。どれも当てはまりそうで、微妙に違う。
「ごゆっくりどうぞ! 私は帰る!」
「……妹紅?」
気がつくと怒鳴っていた。
慧音と「汝」は呆然と私を見て立ち尽くす。
なんで私、怒鳴ってるんだろう……?
自分に問いかけても答えは返ってこない。
ただ、大好きな、本当に分かり合える大切な人が目の前にいるのに。
この場は自分を締め出さん勢いで、お前の居場所は無いと心に語りかけてくる。
実際に慧音や「汝」がそんな言葉を吐くはずは無い。
わかっているが、二人の目がそう言っている様な気がしてならない……
「私のことなんか気にせずに、人間と妖怪で仲良く夫婦ごっこをしてれば良いんだ!」
「なっ……! 妹紅っ!」
慧音の声色が険しいものに変わった。
次の瞬間私は家を飛び出していた……
「待てっ! 妹紅!!」
慧音の叫び声無視して、ひたすらに走る。
日はとうに暮れて、外に出ている人など全く居ない。
胸が痛い。
なんでこんなに胸が痛いんだろう。
大好きな慧音の家に居たのに、今まで本当に長い間ずっと一緒だった慧音と……
一緒に居るのは、今は私じゃない……
「汝」に慧音を取られちゃったんだ……
そして、慧音もそれを受け入れてる。
今をとても幸せに感じている……
また胸が痛み出した……痛いよ……慧音……
気が付くと、村のはずれの森を越えた、ちょっとした丘まで出てきていた。
かなり走ったなぁ……
月が良く見える、丘の頂上付近にある一本の大きな木の根元に座り込み、息を整える。
「……馬鹿なこと言っちゃったな」
口に出してつぶやいてみる。
馬鹿なことをしたとは思う。
私が波風を立てなければ、ある時まではきっと上手く行く。全員が笑顔で居れる。
そんな確信はあった。
だけど……ある時までしか上手く行かないんだよ……慧音……
あの夜、月の光の下で始めて気持ちを通わす二人。
本当の慧音を知った上で、ワーハクタクを愛する「汝」
あの二人を見たとき……滑稽だと思ってしまった。
親友の幸せを、すごく滑稽だ、可哀想だとまで思ってしまった……
こんな私は、慧音の友達でいる資格は無いのかもしれない。
さっきも大したことじゃない。
冷やかしの材料にこそなれ、本気で怒るような事では絶対に無い……
「慧音……まだ気が付いてないの……?」
虚空を見つめて、ぼそりとつぶやく。
今宵は満月、空には見るものが魅入り、狂い出すほど美しい満月が浮いている。
そしてその下に一人の女性が、
―――否、一匹の美しい半獣が立っている。
「……妹紅」
「…………なに?」
慧音は明らかに怒っている。
怒ってはいるけど、視線に冷たいものは感じられない。
心配してくれてるんだ……
それに気が付いて、胸の痛みが更に強くなる。
けれど、慧音は今しか見ていない。
この先に起こる、自分に降りかかる不幸に気が付いていない。
こんな事……言ったら嫌われるだろうな……
傷つけるんだろうな……
でも、憎しみで付いた傷は簡単に治るの……
愛で付いた傷は……一生治らないんだよ……慧音……
「飛び出す前に言った言葉……あれは本気か?」
「……思ったとおりのことを言っただけだよ。物の怪と人間の恋愛なんて成立するわけが無いよ……今は見えて無いだけ」
「妹紅は……「汝」が嫌いか……?」
とても寂しそうな、悲しい慧音の声。
まともに彼女の顔が見れない……でも私は続きの言葉を紡ぐ。
「嫌いだよ、私から慧音を奪って、最後には慧音も置いて行くんだから……」
「「汝」はそんな男ではない!」
「関係ないよ! 相手は人間なんだから……」
「人間の何が悪いのだ……妹紅だって人間だろう?」
やっぱり……気が付いて無いんだね慧音……
「絶対に「汝」は慧音を置いて行っちゃうよ。その日は必ず来る……慧音の一番は私じゃないと……
慧音はすごく傷ついちゃう……」
「昼間の話か……確かに私は「汝」を愛している。夫婦にもなった。でもだからといって妹紅のことを嫌
いになったわけじゃない」
「違うの慧音……人間は……「汝」は……私たちと同じ時間を生きれないんだよ……」
「…………」
「どんなに頑張ったって、愛が深くたって、人間は先に逝ってしまうんだよ……私たちは残されちゃうんだよ!」
涙が出てきた。
嫌いなわけが無いのだ。嫌いになれるわけが無い。
慧音の正体を知った上で、あそこまでの愛を注げる「汝」の事を。
私の体のことも知っている。しかし「汝」は変わらずに慧音の親友というその事実だけを見てくれる。
こんな人間今まで居なかった……私の正体を知った人間なんて恐れ忌み嫌うか、本当かどうかもわからない
伝説を信じて私を殺そうとするかのどちらかだった。
親友の好きな人なら……私だって好きになりたいけど……
「一番好きな人を失った時の悲しみにまみれる慧音なんか、私見たくない! でも私が一番なら、そんな事は
絶対に起こらないんだよ……」
「……妹紅」
後はひたすら泣いた、声に出さないように、嗚咽すらも我慢しながら。
拭っても、拭っても、拭いきれない。
ひたすらに涙を流し続けた……
「やだよ……そんなの絶対やだ……悲しむ慧音なんか……絶対見たく無い……」
慧音がそばにやって来るのがわかる。
泣きじゃくる私を優しく抱いて、包み込んでくれる。
「妹紅の気持ちはわかった……それでも、私にはどちらかを一番にする事なんかできないよ」
「…………っ!」
「私は妹紅の事が好きだ、「汝」の事も愛している。大切な親友として、そして生涯のパートナーとしてな。その気持ちに優劣など無い」
優しく慧音は私の頭を撫でてくれる。
その姿は、もう覚えても居ない母親を連想させる……
「「汝」は確かに人間だ、私達よりもその生の時間はかなり短いな……そう言う意味では妹紅の言う事は正しいと思う。
私は「汝」が逝った時、おそらく物凄く悲しむだろうな。今のままだと……」
「慧音……」
「でも、最近思うんだ……人というのは終わりがあるから、今を輝かせるのではないかとな。
終焉なんてものは、来なければいいんだろうが……世界はそう言うふうには出来ていない」
「…………」
「なら、愛した人と精一杯同じ歴史を共有して。その幕が閉じる時にお互いが笑って別れられるような歴史を積み上げたいと私は思う
そしてその歴史の中に妹紅が居ないのは、私は嫌だ。だから、妹紅にも「汝」の事を好きになってほしいと思う……」
「……でも、私、慧音と「汝」にひどいこと言っちゃったし」
「「汝」はそんな事気にする男じゃないぞ、妖怪を嫁に貰って、その親友の不死人の面倒まで見るといっておるしな……本人に聞いてみろ」
慧音の声と同時に「汝」が松明を持ってこちらに向かって走ってくる。
ずいぶん走ったようで、額にはびっしりと汗の粒が浮かび、松明の光を反射している
「〜〜〜〜〜〜」
「あぁ、無事だとも。それよりも、妹紅が「汝」に聞きたい事があるそうだ」
「汝」は目の高さを私に合わせて、私の瞳を覗き込む。
その目には、怒りは全く無く、すごくすごく暖かいものが宿っている気がする。
「……あのね、ひどい事言っちゃって……ごめんなさい……」
大きな「汝」の手が私の頭に置かれて、ゆっくりと撫でてくれる。
「〜〜〜〜〜〜」
「うん、大丈夫……それで、面倒見てくれるってどういう事……?」
「あの家は二人で住むには少々広くてな、もう妹紅の部屋も用意してあるんだ。「汝」が提案してくれてな」
「え……?」
「後は本人の承諾が得られれば……本当は昼間にこの話をするつもりだったのだがな。気持ちよさそうに眠っているので起こすのも忍びなくてな」
「〜〜〜〜〜〜」
「あぁ、とても可愛い寝顔だった」
二人して人の寝顔の事で話が盛り上がってる……
恥ずかしいなぁ……
「あんなひどい事言ったのに……許してくれるの?」
私は恐る恐る、二人に問いを投げかける。
許してもらえればその時は……
「〜〜〜〜〜」
「「汝」の言うとおりだ……」
そう言って慧音は両手を空に向かってあげて、大きな声で叫んだ。
「こんな夜は、無かった事にすればいい!」
帰りの道中、私は右手を慧音と、左手を「汝」と繋いで歩いていた。
そして、思い当たる事にふっと気が付く
「そっか……私、嫉妬してたんだね」
「ん? どうした急に」
慧音が声をかけてくる。
「んとね、なんか慧音を「汝」に取られちゃう気がしてて。今思うと嫉妬であんなひどいこと言っちゃったのかなって」
昼からずっと胸に溜まっていた、どろどろした黒い物の正体はこれだったのか……
「その気持ちはわかるぞ、「汝」が最近妹紅の事ばかり気にしていたのでな。私も感じていたよ」
ふふっと笑って慧音が「汝」を見る。
「事あるごとに妹紅は元気か、食事に呼ばないかとな……
新婚なのに他の女に気を取られてるみたいで、なかなか心穏やかではいられなかったな」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「汝」が焦った様子で必死に弁解している
ここは火に油を注いでみようかな?
「ふふふ、まぁ私の方が見た目若いしね。「汝」いつでも私に乗り換えてもいいよ?」
「なっ……妹紅!」
「わー、慧音が怒ったよ! 「汝」、ほらっ逃げるよ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「汝」の手をとって走り出す。後ろからは角の生えた慧音が拳を振り上げて追いかけてくる。
「汝」は必死に慧音をなだめようとして声をかけてるけど……無駄みたい
「あはははは」
「ふふ」
「〜〜〜」
三者三様に笑い声をもらし、新たに家族がひとり増えた家へと追いかけっこをしながら帰る、帰り道。
いつか来るであろう終わりまで、必死に歴史を紡ごうと思う。
この想いを綴り、「汝」との別れが来ても、誰も悲しまないように。
大好きな親友、大好きな人間と3人の家族の歴史を…………
〜終幕〜

終りとは、即ち始まりである
別れとは、即ち出会いである
世界は全てのものに、等しく終りを与える
それは即ち、全てのものを新たな始まりを導く儀式なのである
故に我は終りを嘆かない
故に我は別れを嘆かない
全ての始まりにして、全ての終りたる混沌よ
無垢なる汝のその存在
全てのものは混沌から始まり、混沌に帰す
決して同じものは生まれないが、一度生まれたものの歴史は決して消えない
覚えるものが居る限り、その存在は永遠なのだ……
悠久幻想詩 無垢なる混沌 終
「ふぅ……」
筆を置いて私は一息つく。
あれから幾年の月日が流れただろう。
あの夜……「無かった事になった夜」などと二人とは話すいい歴史。
あれから、私は新婚夫婦の家に居候になった。
居候……と言うよりもそのまま娘のようなものだ。
二人して常に子ども扱い。
慧音はわからないけど、「汝」よりは長く生きてるのになぁ……
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
それどころか、それがすごく心地よかった。
長く生き過ぎたからかな……両親の記憶なんかは私には無い。
でも、ここでの生活はどこと無く懐かしい気がする。
「妹紅、朝飯が出来たので食卓で食器の準備を頼む」
「ん、わかった。慧音は?」
「日課だ……何年たってもこれだけは治らないらしい……」
なるほど。私は台所から人数分の茶碗や箸を並べてゆく
「さっさと起きんかこの与太郎がっ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ふぅ……毎日毎日飽きないなぁ。
もちろん、そういいながら私も飽きているわけではない。
この雰囲気、この空気、そしてこの家庭が何よりも大事な宝物だから――――

