国王という職業は、思った以上にいろいろと忙しい。
なんといっても国の『顔』――国内では地方遠征や謁見・内政の調査に、国を挙げての行事の参加。
国外では外交交渉の際に――とはいえ、主には記念式典や会食だが――に、自ら赴くこととなる。
現バロン国王たるセシル・ハーヴィもまた、自分の想像以上の忙しさに忙殺されつつあった。
「……ふぅ……」
国政の合間の僅かばかりの自由時間――昔のように窓枠に座って景色を眺め、目頭を押さえる。
兵時代には陸兵団・暗黒騎士団・飛空艇団と、休む暇も無い任務の嵐だったが――ここまでは疲れなかったと思う。
それはやはり――忙しかったが、それを分かち合う友や仲間・部下が大勢いたからだろう。
今の仕事は――流石に、国王としての立場上、そんなことを愚痴るわけにもいかない。
仕方ないのだ。あの戦いから5年――魔物の数も減少しだし、今や世界中が繁栄の時期を迎えている。
今が一番の頑張り時なのだから。もう少しだけ頑張れば――いつかは、落ち着いた日も送れるはずだ。
だからそれまでは――国王として、必死に頑張るしかない――
「……やっぱり、ここにいたのね……」
「……ローザ……」
と――振り返ったそこにいたのは、現バロン国王妃ローザ――自分の、妻である。
そして、今の立場では唯一――自分の真の感情を吐露できる人でもある。
「……セシルは昔から、疲れたりするといつもここにいたものね……」
「……かなわないな、ローザには」
セシルは苦笑する。本当、彼女には頭が上がらない。彼女が支えてくれるからこそ、今の自分は国王が出来るのだから。
「この窓の外から見えるバロン――好きなんでしょう?」
「ああ。……この手で守るべき街だからね」
セシルはそのまま、窓の外を眺めやる。そこに存在するのは、白い煉瓦の美しいバロンの街並み――
しかし――その一角に目をやったとき。セシルの顔によぎったのは、苦い感情。
「だけど……僕は、まだこの守るべき街にすべきことを……終わらせていない」
「セシル……」
――セシルが目をやった一角――それはバロンの東方。そこには街はなく、建物もなく、人も無い。
しかし――彼らの記憶の中には確かにそこに、街が存在していた。
苦い記憶と共に、そこにあったはずの街が――
全ては、五年前――あの戦いの半年前に収束する。
Final Fantasy 4
before story
Episode T
Rady Ortinier
〜Chapter 1〜
バロンは二つの顔を持つといわれている。
そのうちの一つの顔が、バロンの西側――一概に西街と呼ばれる。
この街に住んでいるものは基本的にバロンでも上流階級――金持ちのものが多く、
白いレンガが日に美しく輝き、水と光の調和した美しい町並みが広がっている。
その景観はトロイアにも匹敵する名所であり、観光客にとってのオススメのスポットとなっていた。
そして――もう一つ。
東側の、街――こちらは西街とは違い、庶民と呼ばれる者が住む街。
ややひしめくような形で建てられた家々に、所狭しと並んだ出店。
決して美しいとはいえないのだが、しかし西街には無い独特の親近感や活気があって、
こちらはこちらでなかなかにやっていた。
しかし――決して、治安がいいとも言えずに――
「誰か! 引ったくりよ! 止めてぇぇっ!!」
ヒステリックな女性の悲鳴を背に、混雑した人の海をすいすいと泳ぐ小柄な男。
そしてそれを追いかけるのは、バロン陸兵団の兵士。
小柄な男のその手には、明らかに彼の外見に似つかわしく無い女性もののバッグ――そう。
この男こそ、ひったくりそのものである。
慣れた動きですいすいと人をかわし、わき道小道を潜り抜けていくその様は、彼が常習犯であることの証明だ。
女性の悲鳴や、兵士の足音が遠ざかっていき――どうやら、撒いたらしい。ちょろいものである。
わずかに緊張を緩め、しかしその歩は緩めずに今日の収穫物をあさるため、家への帰途についた――その時だった。
突如横合いから突き出された足に引っかかり、盛大にすっころぶ引ったくり。
「ってて……チッ、テメェ何しやがるっ!」
瞬間的に怒鳴ってみせる。大抵のものならすくみあがらせる自信のあった恐喝は――しかし。
「何って……カイン、何かしたのかい?」
「いや……? 別に俺は、何も」
――それは二人の、若い男だった。
シャツにスラックスという地味な格好の彼らは、両方ともジャンクフードを片手に、不思議そうに男を見下ろしている。
どちらともかなりの長身だが――珍しい色合いである銀の髪を伸ばした青年の方が若干、背が低い。
そして銀髪の青年の問いに、大仰に方をすくめて見せたのは、カインと呼ばれた金の髪を短く刈った青年。
「何も? ……ふざけんな! テメェがその足を突き出したんじゃねぇか!」
「ああ……そうか。済まない。気をつけていないとすぐ人が引っかかってしまう。お前の様に短くはないのでな」
その流麗な言葉にたっぷりと毒のスパイスを振りかけてみせる金髪。
対し、男は自分の気にしていた点を突かれ、その顔色がみるみる赤くなっていく。
それを見て、金髪は軽く目を見開き、
「見ろ……セシル。どうやらこいつは人ではなくタコらしいな。
よく茹っているじゃないか。それならばまあ、足をもつれさせても仕方ないか?」
「テ……テメェ…………ッ!!」
いよいよ肩をぶるぶると震わせ、顔が赤から黒へと変わって行ったその様に、セシルと呼ばれた銀髪の方は慌てて口を挟む。
「だ、駄目じゃないかカイン。本当のことを言っちゃ。きっと気にしているんだろうし」
「……お前、それはこの男をフォローしているつもりなのか?」
「え? ……何か、間違ったことを言ったかい?」
「……参考程度に言っておけば、お前の方がよほどきついぞ」
「えっ? ……ええっ?」
「……テメェら、テメェらはぁぁぁぁぁっ!!」
銀髪のとどめに近い一言が、男の怒りを完全に爆発させた。
バッグを放り捨てると、そのまま懐にしまってあったナイフを取り出し、腰だめに構えて突き出す――
人血に曇るその刀身が物語るように、彼はこの獲物でかれこれ10人以上の同業者を『仕留めて』いた。
そして実際、そのつきこまれた刃はかなりの速度で金髪へと迫っていく。
――だが。彼がもう少し世の事情に明るかったなら、彼ら二人の顔を見て、そんな愚行には出なかっただろう。
そして彼がもし基礎でも戦闘訓練を受けたことがあれば、
彼らの長身に納まった筋肉を見て、その圧倒的な実力差に気付くことが出来たかもしれない。
――悲しむべきは、彼がいかにナイフの扱いに慣れていても、所詮戦いの『素人』だったことか。
ナイフは金髪を捕らえることは出来なかった。
何故なら――突きこんだ瞬間、彼の姿はどこにもなかったからだ。
突然、まるでテレポでも唱えたかのように消え去ったことに、男は完全に困惑していた。
「ど……どこに行きやがったっ!?」
「慌てるな――お前の、上だ」
その声は――彼の遥か上から聞こえてきた。そのことに愕然となり、彼は素直に上を見上げてしまう。
そしてそこで見た光景に――それ以上の驚愕を受け、思わずぽかんと口を開けてしまっていた。
金髪が自分で言ったとおり――彼は確かに、男の上にいた。そう――上空、数メートルというところだろうか?
あの瞬間に地を蹴って、彼はその高みにまで跳躍して見せていたのだ。
人間業とは思えない、異常なまでのその行動に――しかし男の頭の中の記憶の引き出しが、彼の正体を引き出した。
「なっ……こ、この跳躍、まさか……竜騎士!?」
「ご名答」
緩やかな跳躍は終わり――稲妻の速度で降下した金髪が視界に迫って、彼は意識を失った――
――丁度、引ったくりを追いかけていた兵士が追いついたのは、その時であった。
まだ若い――というか、幼さがやっと抜けたというぐらいの少年兵だ。
と――兵士は、思わずその顔に驚愕を貼り付けている。
それは引ったくりを一撃で倒した、男の鮮やかな手並みにではない。
そんなことは――驚くまでもなく、当たり前のことだからだ。
二人の正体を知っているものだったなら――
「セシル隊長……それに、カイン隊長まで!?」
そう――二人の名はそれぞれ、セシル・ハーヴィとカイン・ハイウインド。
この二人のことを、軍で――特に彼らのような新兵で、知らぬものなどいないだろう。
何故なら彼らは、ここ最近の軍の出世頭。新兵にとって見れば、まさに憧れの的であったからだ。
セシルは家柄のバックアップもなく、陸兵団から剣一本で虎の子・暗黒騎士団への引き抜き。
さらに現在国を上げて力を注ぐ飛空艇団――その最初の部隊となる『紅い翼』の隊長への大出世。
カインもまた、父であったリチャードの後を継いだ形になったとはいえ、
一人前になるまで15年以上はかかるという精鋭揃いの竜騎士団に最年少で隊を任されるほどの実力者。
彼らが武勲を一つ立てるたびにバロン中の少年達が彼らにあこがれ、
そのために近年の新兵申請の申し込み数は倍々ゲーム的に増大しているという。
……だが――少年兵の彼らに対する感情は、それとはまた少し違い――
「お、お疲れ様です! ……え、えと、お二人とも、何でこちらに……?」
とりあえず敬礼し――その後で面食らう少年兵の態度に、二人は思わず口元に笑みを浮かべている。
そしてそれは、他の兵士達に見せるものとは少し違っていた。
「まあまあ。……そう緊張しなくてもいいよ。それよりラディ君、君こそお仕事ご苦労様」
「そうだ。……俺達は単に、休暇を楽しんでいるだけなんだからな」
そう言って、カインが少年兵――ラディの髪をくしゃっと撫でた。
少年兵の名は、ラディ。しかし――彼はその名前より、苗字の方が有名かもしれない。
彼の苗字はオルティニア。そしてオルティニアの名を――この国の騎士で、知らぬものは無い。
レオン・オルティニア―― 一暗黒騎士であり、その名はセシルやカインほど世間に知れ渡っているわけではない。
しかし、剣を持つもの―― 一般に剣客・剣豪と呼ばれる類の人間や軍に身を置くものならば、
その名はセシルやカインの比では比べ物にならない有名人だろう。
彼は軍隊としての戦闘指揮は中の上といったものだったが、
剣を携えた一人の剣客としての暗黒剣の腕は歴代暗黒騎士の中でも一番の冴えを持つといわれ、
暗黒騎士団団長『混沌』ガーランドや、『魔王』オルステッドですらも一目置いていたという。
ラディが生まれた年、当時バロン最強と謳われた竜騎士リチャード・ハイウインドと御前試合の一騎打ちで、
一対一のプロフェッショナルである竜騎士相手に全く互角の戦いをしてみせたのは今でも語り草となっているほどだ。
そして、ラディとこの二人との接点は――
「ラディ君。……陸兵団としての仕事は地味なものばかりだと思うけど……頑張って」
「はっ……はいっ!! が、頑張りますですっ!!」
「だから、そうかしこまらなくてもいいよ。ここは別に、公の場じゃないんだから……」
「はっ……はい。わ、判りました……」
――セシルは暗黒騎士となったときから彼に世話になっており、ラディとも何度か面識があった。
当時、暗黒騎士となったばかりの自分に、驚くほど素直に質問の嵐をぶつけてきたのが懐かしい。
「しかし……ラディ。お前は本当、変わってないな。いい加減下の毛くらい生えたんだろうな?」
「カ、カインさんっ!」
「フッ。……おちょくられやすいのも、相変わらずのようだな」
一方カインの方は、半年程度ではあったがラディとは寮にてルームメイトとなったことがあり、
新兵の頃から面倒を見てきたという、歳の離れた弟にも似た認識があった。
「けど……お二人とも、休暇って……なんで、わざわざ東街に?」
ラディは不思議そうに、二人に問う。
このバロン東街は、言ってみれば下町のようなもので、
自分みたいな新兵達にとってはよく休暇に利用しているものだが――
これほどの立場にある二人が、何故こんなところにいるのか?
「何でも何も……僕とカインは新兵の頃からお世話になっている街だからね」
「え……ええええっ!?」
「フッ……まさか、お前は俺達が最初から今の地位にあったとでも? 俺達にだって、新兵時代はあったさ」
「そうそう。……カインも今こそ竜騎士団でもジャンプの冴えが凄いけど、昔は落下地点がコントロールできなくて――」
「なっ……そういうお前だって、昔『暗黒』の狙いを外して建物一つ潰しただろうが!」
カインに首を抱えられ、何とかそれを振りほどこうとするセシル――
じゃれあう二人の姿は、とても軍部でも上部に上りつめようとする『雲の上の人』には見えない。
……と――
「……うああああああああっ!!」
「!?」
いつの間に意識を取り戻していたのか?
引ったくりは突如叫ぶなり、ナイフをラディへと構えて突貫していた。
バロンでは、犯罪に対する刑罰は非常に重い。被害者の人権より加害者の人権を尊重するような愚は無いのだ。
特にこの男は、殺人の前科もある。ならば『目には目を』――このままでは、極刑は免れないだろう。
ならばここでつかまるわけには――もちろんいかない
だが相手があの男たちでは、恐らくこのまま戦っても勝ち目は無いだろう。
だが、この兵士ならば――この青二才の少年兵ならば、あるいは――
そんな淡い期待にすべてを委ね、一気に少年の喉下へとナイフを突き出し――
しかし、貫いたのはその残影にすぎなかった。手ごたえ無く、少年の姿が消えている。
「う、上か!?」
先刻の一件で学習した引ったくりは、空へと少年の姿を求めた。
だがしかし、そこに広がるのは真っ青な青の天蓋だけ――
そして、衝撃。
下から顎を貫き通す衝撃に、男は放物線を描いて宙を舞い――再び意識を失った。
あとには、しゃがみこんでナイフを避けていたラディがアッパーを放った姿で一人、立っているのみ。
「……それじゃ、オレはこの引ったくりを詰め所に送りますので。お二人ともよい休日を。では!」
言うなり、ラディは気絶している引ったくりを肩に抱え、しっかりとした足取りで去っていった。
その背をただ、じっと二人の若者は見ていたが――やがて。
「なるほど。カインがお気に入りって言うのも……何となく判るよ」
「俺はそんなことは一言も言っていないが?」
「言ってるじゃないか。……その顔が、さ」
「……適わないな、お前には」
セシルの言葉に、カインは苦笑するしかなかった。
確かにラディに対して、自分は何度も竜騎士にならないか、と尋ねていたことを思い出す。
ラディ・オルティニア。バロン王国軍陸兵団所属、15歳。
軍に入隊できる13歳になったと同時に陸兵団に転がり込むように入隊した新兵。
そして――年に一度行なわれる、新兵同士のトーナメント戦において抜群の成績で勝利を収めた。
しかし、優勝というそれよりも凄いのは――
このトーナメントは、特別参戦という形で一人ベテランの騎士を混ぜて競わせるのであるが、
ラディは一回戦でこれと当たり――なんと、その騎士を退けて勝利を勝ち取ったのだ。
入りたての新人が、ベテランの騎士を打ち負かした――
これは軍の内部でもなかなかの噂になり、この一件で上層部の彼を見る目が変わったのは言うまでもない。
「……しっかし、本当、凄いよ。流石は――」
「『流石はレオン・オルティニアの息子』……そう言いたいのか、セシル?」
親友のその言葉に、若干の棘があったのを感じて――セシルはハッと気がつく。
しかしカインは若干の苦さを隠した微笑を返すと、
「フッ……済まんな。そういうつもりじゃなかったんだが……どうも、重ねるところもあるのかもしれん」
ラディの母親は彼が幼い頃に他界し、今はいない。
そしてラディの父であるレオン・オルティニアも――3年前、任務中に受けた怪我が元でこの世を去っている。
……カインもまた、幼い頃に母を無くし、次に父を失っていた。
互いに、『名を持つ父』を持ち――しかしそれを失っていた。
「ラディの剣の腕はたしかに光るものがある。
だが彼の父――暗黒騎士レオンは、それを上回る剣の使い手だった。
そうなれば自然と、彼のその実力は『彼自身の』ものではなく――『レオンから受け継いだもの』と人の目には映る。
自分の父が、有名であればあるほど。実力者であったならあっただけ――その子供には、父の影が付きまとう。
――その父が死んだというなら、なおさらのことだろう。
……俺の父は俺が7つの頃に亡くなったが――それでも俺が新兵になりたてのころはやっかみも多かったからな。
死後、それほどたっていないラディならなおさらだ」
「……ごめん、カイン。僕は、考えもなしにあんなことを口走って……」
「フッ……気にするな。所詮、そんな中傷は卑屈な嫉妬から出た戯言に過ぎん。
……それにお前が、そんなことを考えて口にするほど複雑な思考を持っているとは思えないしな」
「なっ……! カイン、それはどういう意味だよ!?」
「どういう意味も何も。言ったとおりだ。なんなら、懇々と説明してやろうか?」
二人は互いににらみ合い――そして思わず吹き出した。
「……でもラディ君なら、きっとレオンさんの名前も重荷にならないと思うよ。そうだろ、カイン?」
「フッ……そういうことだ……さて、と。それじゃ俺達も、そろそろ『やる』か」
「……ああ、そうだね」
二人の視線が向かう先――それは、とあるメインストリートへの道だった。
だだっ広い道の左右に、ぎっしりと店が並んでいる。それは他のストリートとは変わらない。
だが――しかしよく見れば、そのストリートに並ぶ店が、どれもある目的のためのものだと気付くだろう。
そう、それは――酒場。このストリートすべての店が――すべて酒場なのだ。
ここはバロン東街第三メインストリート・通称『呑み倒しの道』――
「もう3年にもなるのか……カインと本格的な呑み比べの勝負してから」
「そうだな。……そしてあの3年前の呑み比べが、俺達の呑み勝負最大規模の戦いだった。
かつ勝者への特典もまた、最高のものだったな」
「『勝った方が、ローザに告白できる』……」
「……そして、俺はあの時の戦いに敗れた。今でも昨日の事のように覚えているぞ」
しかし――そこでカインは両の掌をパン、と打ち合わせた。その青金石の瞳が不敵に煌く。
「だが――俺はもう、3年前のあの頃とは違う。
竜騎士団の強豪たちと毎日毎日死闘を繰り広げた俺は、父を超え、竜を超えた神の酒飲み。
今の俺の二つ名は――そう『天駆ける酒瓶』……ッ!!」
カインの不敵なまでの笑みと、その体から放射される圧倒的な覇気と自信に――
しかしセシルは真正面からそれに立ち向かい、笑みさえ湛えている。
「……そうか。だけど僕も、あのときから別に頂点で胡坐をかいていたわけじゃない。暗黒騎士団・秘伝の飲酒術……
『酒の試練』を乗り越えて、今の僕はバロン特殊飲酒団第一隊『赤い徳利』隊長だ。
あのときの恐怖……もう一度、その身でしっかりと味わうといい!」
「フッ……もはや、語ることは互いにない、か……。いいだろう。
竜の肝臓と、暗黒の白斑。……どちらが最高の酒飲みか、ここで白黒はっきりしてやろう!」
「ああ……望むところだ、カイン!」
『竜虎相打つ』とは、このことか?
バロン軍竜騎士団酒豪第一隊隊長――『天駆ける酒瓶』カイン・ハイウインド。
バロン軍特殊飲酒団第部隊――『紅い徳利』隊長セシル・ハーヴィ。
紛れなくバロン王国最高の騎士であり――
紛れなくバロン王国最悪の大酒豪である二人の男。
3年前、バロン王国の酒の貯蔵量がたった一晩で三分の一に激減した『新月の悪夢』。
それを上回るであろう、酒で酒を洗う壮絶かつ最悪な死闘の火蓋が、今切って落とされた――
恐らくたった一度っきりの、作品前書き。
はい、どうも作者のアルでございます。
このシリーズ開始に伴い、少々説明をば。
まずこのビフォアストーリーというのは、題名から示されるとおり「Before」――
アフターストーリーよりも過去の話です。
アフターストーリーの中には、その過去に何らかの秘密を持つ人間が何人かいますが……
それはあくまでアフターストーリーではそう詳しく記載する気はありません。
本人の口から言われたことでも、多大に改変されている可能性もあります。
その「過去」を、このビフォアストーリーでは正確にお届けするというのが目的です。
今回はラディ君です。時間は5年と半年前――つまり、ミシディアにクリスタル強奪にいく半年前です。
ちなみにバロン西街というのは本編中に実際に登場するバロンの町のことであり、
この東街というのはゲームの時間軸にはすでに「存在しない」ことになっています。
一体、これはどういうことなのか?
そしてラディとの過去との関係はなんなのか?
それをこれからじっくりと掘り下げていきたいと思うので、どうぞよろしく。
……しっかし『天駆ける酒瓶』『赤い徳利』……。
これらはそう――よくコロコロコミックとかに、凄い設定の漫画がたまにあったりするじゃないですか。
「全世界の人口の半分がサッカーに熱狂的になっている世界で戦うサッカー戦士」とか、そういうの(?)。
あれと同じノリです。バロンの兵士にとって飲酒とは切って切れぬものであり、酒豪というだけで身分が高いです。
まあ大概、酒豪の人間は戦闘能力も高かったりするのですが……。
したがってその方面でも、この二人は信じがたいほどの生え抜きの実力者というわけです。
きっとただ酒を飲むわけではなく
「我が飲酒の鳴動を聞き……消えろ! 秘儀・無双連破翡翠呑み!!」
「甘いぞ! この星在る限り、僕は負けない! 奥義! 蒼閃蘭花・徳利返し!!」
とかいう酒を呑むための必殺技(必ず相手を殺すのみ方です)をやってのけるんですよ。
ええ、こんなバカ設定を真面目に書くの大好きです(爆)。
セシルがここまで最悪な酒豪なんて書いている小説、他にないだろうなぁ……。
ちなみにこの『赤い徳利』の称号はアフターストーリーでちょろっと書きましたが、ラディ君が引き継いでいます。
そしてローザとの告白云々も……すごいロマンスもへったくれもない設定ですな(苦笑)。
アルの書くラブにシリアスを期待してはいけません。結構、ぶちこわしです(爆)。